紅魔館にて。
その住人が全員ある一室に集合していた。こじんまりとした部屋、内装や家具など初期からほとんど変わらずに置いてある物ばかり。
しかし、その部屋は劣化どころか一切汚れなど見当たらない。その部屋の主人の性格がよく見受けられる。
一見、淋しくみえる部屋ではあるが、棚には妖精などから貰った輝く石や花。彼の仕える主人からの贈り物などよく見れば見るほど彼がいかに慕われていたかが分かる。
そして、彼。
長年、この紅魔館の主──スカーレット家に仕えて来た彼がまさに今、人生を終わらせようとしていた。
「──気分はいいかしら?」
レミリアはそっとベットの縁に腰掛ける。自身に絶対の忠誠を誓い、ずっと仕えてきた彼の頬を壊れ物を扱うように触れる。
昔に比べて皺も増えた。
歳を重ねるたびに彼はどんどん衰えていった。
あの
──ああ、何と人はこんなにも早いのだろうか。
レミリアはそう人に興味があるわけでは無い。どちらかと言えば脆く弱く、集団を作らなければ生きていけない種族で我々、吸血鬼の餌かまたは家畜に過ぎない.......という考えを今でも持っている。
しかし、それは多くの人間であって、レミリアの知っている人間には全く違う観点から見ている。その能力故にレミリアは色んなものを見て来た。
そして、レミリアはいずれは訪れるであろう最悪の運命を受け入れようとしている。
「本当に貴方は吸血鬼になるつもりはないのね?」
ベットに横たわる彼はゆっくりと首を横に振る。もう視力も聴力も殆ど衰えいているというのに彼は分かっているのだ。それほど、長い時間一緒に歩んで来たのだから。
「そう......人は永遠の命を欲すると良く聞くわ。吸血鬼は決して永遠の命なんてものではないけど、人なんかよりも長くて、若くて、力を持って......そう、人が望むものは大抵のものは手に入るハズよ」
だが、彼は決して吸血鬼にはなろうとしなかった。
レミリアは衰えていく度に再三『吸血鬼にはならないか』と彼に提案してきたが、彼は肯定しなかった。
──人とは老いすらも楽しんでいるのです、お嬢様。
人が人であるが故に。
だからこそ、彼女は命令はしなかった。人として生まれたのだから人として終わるのが理想だと。彼女なりの考えもありこの日までずっと命令で吸血鬼になれと、人を捨てろと言わなかった。
そう、
「なら、人としてでは無く。私──私達の為に生きろ!! もう十分、人として生きたでしょう!? もう一度、私達に尽くしなさい! もう一度、あの
涙を流し彼女は言う。しかし、彼は首を縦に振らなかった。仕えて初めて彼は主人に逆らったのだ。そして、ただ、一言。
──私の
その顔はとても安らいでいて昔から変わらない極めて穏やかな笑みを浮かべていた。
それに堪らず彼女は牙を剝き出しにして、その首に噛みつこうとする......が。
「──ダメです! それだけは絶対にッ!」
その牙は首に届かない所で閉じられる。後ろからレミリアを門番である美鈴が羽交い絞めして止めたのだ。そして、その前には彼の後継者である咲夜が両手を広げて立ち塞がる。
「お願いします、お嬢様......どうか、どうかそれだけは」
彼の最初で最後の願いだけは。
「っ、うっ、くぅっ......」
「ウォルター......」
「......お疲れ様。ウォルター」
「後はお任せください......」
皆、涙を流す。
そして、ついにその時がやって来たように彼はニヤリと笑みを溢した。
「えっ」
それは、誰の声だったのだろうか。しかし、全員が悲しみから驚愕や混乱に変わる。先ほどまで白髪であった髪はあの日のように黒髪に戻り、顔も皺が無くなっていく。
それは正に若返っている、という現象が彼の身体には起こっていた。
そして、ベットから起き上がるのはかつての姿。
彼にとって全盛期とも言える姿であり、彼女たちにとっては久しく見る姿。
咲夜にとっては父、または兄のような思っていた彼が昔の姿を取り戻していく姿は口を開けて唖然する他無い。
みんなが一様に唖然とする中、彼は髪をかき上げ後ろに結う。黒のカッターシャツにネクタイを締め片眼鏡を掛ければ何時もの彼があった。
ただただ、言えることは今目の前にいるのはあのウォルターであること。しかし、こうして若返ったことに驚きもすれば喜ばしいことであることは変わらないはずであるのに、誰も近づこうとはしなかった。
否、誰も近づけなかった。
黒。服装も合間ってその全容は
「ウォ、ウォルター? 貴方一体......?」
困惑としながらも喜色を孕んだ声で声をかける。しかし、ウォルターはそんなことを無視するかのように、今まで吸った所など見たこの無い煙草を慣れた仕草で口に咥えた。
「ゴミです。人は死ねばゴミとなる。そして、そのゴミに忠誠など一切ない。つまりこういうことだ
煙草に火を付け全員を見据える。
「私は誰の命を受けずここに立っている。私は私として立っている。ウォルター・
初めて知ったフルネーム。いや、そんなことはどうだっていい。
「な、何故!? ウォルター、一体なにを言っているの!?」
すると彼はクツクツ、と押し殺すように笑う。
「反逆だ、反逆だよ。私はスカーレット家に仕える前には化物狩りを生業としていた。しかし、誰も私を止めることなどできはしなかった。全盛期を迎える前にこのざまでは話にならない。故に、私は待った。全力で戦える相手を待った。吸血鬼として十分な力を持っているスカーレット家であればきっといずれか現れるだろうと私は待っていた」
──そして、その日がついに来たと。
「この地、この場所で、私は宣戦布告しよう。夜明けとともに切断しようかと思ったが如何せん、情が移りすぎた故に今のままでは十分に力が振るえないだろうお前たちは? 何、別に吸血鬼と言わずこの地に存在する全員を相手に私は戦う」
待っていたのだから。
「私にこの力をくれたヤツの言葉を借りるなら──
──さぁ、戦争をしよう。
息抜きプラスふと思い出した感じで書いたイコール勢いで書いてしまった。今となってはOVAを見返してから書くべきだったと後悔している。
故に、いずれ書き直すつもり。殆ど変える予定。