コーヒーカップの憂鬱
「・・・・・・・・・・クッソ暇」
窓の下のアンティークな椅子に座り、窓枠に頬杖をつく少女、ヴェラ・ハッドマンは実に退屈であった。
何故なら何も起こらないからである。
ここ最近のロンディニウムはあくびをすることさえ事件なほど何も起こらない。平和は望まれることなのかもしれないが、ヴェラにとって今の平和は退屈に過ぎない。退屈どころか、むしろ癪だった。
「本当の平和は人外と人間が平等に暮らせるようになってからだ。人種差別に平和も何もあるもんか」
誰に言うともなく呟く。どこか遠くで鳩が鳴いた。
ここはロンディニウムの中でも取り分け大きな通り、ニューストリートの路地を深く深く進んだ先だ。外装が所々剥がれ落ちたボロい建物にヴェラは住んでいる。どうしてこんな所に住んでいるのかと言えば、元々ヴェラ自身派手で賑やかな所が嫌いなたちだったのもあるが、それ以上に人外行使者だからという理由で追いやられたのが大きい。人外はまともな家に住むことさえ拒まれる。人外行使者がボロ家にいれば、そこに人外を住まわせることができる。ヴェラはおそらくロンディニウムにいる人外行使者のなかでは一番若い。
「まぁ仕方ないけど」
たとえボロかろうが、ヴェラは気にしない。本音を言えばもっと日当たりのよいところに住みたかったが、彼女の夢である「正義の味方」は、決して自分の意見をやたらと押し付けたりはしないのだ。
このボロ家でいいと言ったときの不動産屋のホッとした顔と言ったら!今でもたまに夢に出る。腹が立つったらない。
「・・・・・・・・・。」
暇だ。とても暇だ。
あまりに暇で、ヴェラはコーヒーカップをくるくると指で回し始めた。特に何も意図はない。ふと窓の外を見ると、一羽の鳩が向かいのアパートに止まっている。気を取られて、指がカップの持ち手から離れた。白くシンプルなカップも彼女の指を離れ、窓に向かって回転しながら飛んでいく。
「わ、やべ」
カップはきれいな弧を描き、外へ飛び出した。
下の方からガチャンと高い音がした。
「あちゃー、やらかした」
窓から地面を除けば、カップは粉々に割れている。我が家にはただでさえ食器が少ないのに、とヴェラは頭を抱える。
「買いに行くかー・・・・。暇だし」
ヴェラは頭を引っ込めて、小さなテーブルの上にある小袋を服の胸ポケットにしまい込む。そして腰に細い体躯に似合わぬサーベルをくくりつけ、部屋を飛び出した。
この割れたコーヒーカップが彼女を運命に導くとは、その頃の当人は知るよしもない。
ヴェラがこの話の主人公になる女の子です。次回彼女の運命を変える出会いが・・・・!?
こんな感じで続いていくのでよろしくお願いします!