色んな作品見てて「性格改変」タグあったほうがいいかな~と思いつつある今日この頃。今回特に顕著ですが原作の小心者感が非常に薄いです。二年もJACにしごかれてるので(メタ)当たり前っちゃ当たり前なんですけども。
でもタグ埋まっちゃってるんだよなぁ……削りたくないしなぁ……。
――雄英高校 入学試験当日
詰め襟にセーラー服、ブレザー――様々な制服を纏った少年少女らが、揃ってこの名門校の門をくぐっていく。
ひとり、またひとり。そして――
(……いよいよ、か)
平均より少し小柄な背丈に、もさりとした緑がかった頭髪。ごくごく一般的な詰め襟と相俟って明らかに埋没している少年――緑谷出久。
情報統制によって"ヘドロ事件"での彼の行動が"なかったこと"になった以上……彼こそが二度も巨悪の手から世界を救った英雄"仮面ライダーBLACK RX"であることを知る者は、この場にはいない。
「どけッ、邪魔だデク!!」
「うわっ!」
――撤回。
いきなり背後から肩パンをかました紅い瞳の少年は、数少ない例外なのだった。
「ハハ……おはよう、かっちゃん」
「チッ、……はよ」
なんだかんだ、挨拶だけはちゃんと返ってくる――ここ十ヶ月は。出久が仮面ライダーとなったこと……それがゆえに、苛酷な運命に立ち向かい続けてきたことを知って以来、心なしか……本当に心なしか、態度が軟化したような気がする。少なくとも罵倒されることは圧倒的に減った。他愛のない話をしたり、まして合格に向けて励まし合うなどは夢のまた夢だが。
(結局、改善とまではいかなかったなぁ……。僕もそこまで積極的に動いてないんだけど)
まあ、勝己はよほどのアクシデントに見舞われない限り合格できるだろうし……自分もそうだ。互いに本格的にプロヒーローへの道を歩み出したとなれば、関係の変化も見込めるだろう。良くも悪くも。
――とはいえ、勝己との関係と、出久を取り巻く人間関係についてはイコールではないわけで。
「カツキ、――"アニキ"~!!」
「!」
独特の緊張感漂う試験会場前によく響く、場違いな声。
振り向けばそこには、出久のよく知っている三人組の姿があって。
「!、ジョーさん、と……」
鋼のジョー――出久の仲間のひとりである彼が、応援にやってきた。それだけならさほど驚くようなことではない。
問題は、ジョーとともにこちらに手を振る、着崩した詰め襟姿のふたりの少年。それぞれロン毛とサイドを刈り上げた髪型が特徴である。
勝己の、取り巻きくんたちだ。
苦笑とともに歩み寄っていく出久。自身の取り巻きに手招きされたことで渋々勝己もついてくる。やや距離をとってはいるが。
「ようアニキ!試験がんばれよな!!」
「う、うん、ありがとうジョーさん。……ところで、ふたりはなぜここに?学校は?」
「サボった!」
即答である。
「悪ぃなアニキ、こいつらどうしてもついてくるって聞かなくてよ。アニキとかっちゃんにエール送りたかったんだと」
「かっちゃん言うなコラァ!!」
敬愛するアニキを真似てか、なぜかジョーまで勝己のことを"かっちゃん"と呼ぶようになってしまった。当然勝己は掌から爆破を起こして威嚇するわけだが、最強クラスの怪魔ロボットである彼に効き目があるわけもなく、いいように遊ばれてしまっているのだった。
(ハハ……それにしても、だなぁ)
勝己との関係が改善されたわけでもないのに、取り巻きである彼らと親しくなれるとは思わなかった。すっかりジョーに絆され出久を"アニキ"と呼ぶようになってしまった以上、友人と呼べるかは微妙なところだが。
出久が仮面ライダーだと判明してすぐはこうではなかった。いままでの復讐を恐れてかむしろ異様にビクビクしていたくらいだ。――転機となったのは、初夏に執り行われた修学旅行だった。事件に巻き込まれあわや殺されるところだった彼らを出久が救い出したことで、こんなことになってしまった……。
出久がそのときの経緯を思い返している間にも、ふたりが肩をバシバシ叩いてくる。
「アニキもカツキもがんばれよ、マジで!」
「合格は間違いねえとして、どっちが一位とるか楽しみにしてっからな」
「テメェら……コイツと一緒くたにすんなゴラァ!!ンな応援ねぇほうがマシだわカス!!」
喰ってかかる勝己。自分の取り巻きが嫌っている幼なじみの舎弟に成り下がって?しまったことは、やはり面白くはないのだろう。そこは彼らもわかっていて、それなりに気も遣っているようだが。
(なんでもいいけど、とりあえず"アニキ"呼びはやめてほしいなぁ……)
ジョーにそう呼ばれるだけでも、未だにこそばゆくて仕方がないというのに。
そんなことを考えていると、不意打ちかつ二度目の肩パンをかまされた。色々と限界を迎えた勝己が出久を突き飛ばし、立ち去りにかかったのだ。
「わわっ」
「あ、アニキ――」
二度目は予想していなかった――油断していたために、あっさりつんのめる出久。
(うーん……情けない)
仮面ライダーとは思えないポカ。二度、計二年にわたる死闘から解放されて久しいせいか、ぬくぬくとしすぎてしまったのかもしれない。
他人事のように冷静に分析しながら地面に倒れかかっていく出久だったが、
(あれ?)
ふわりと、全身を包む浮遊感。それ以上は迫ってこない地面。
それもそのはず――出久の身体は、倒れかかった姿勢のまま宙に浮いていたのだ。
「大丈夫?」
横から少女の声がかかり、出久の身体はやおら直立姿勢に引き戻される。視線を向ければそこには、出久よりやや背の低い丸顔の少女の姿があって。
「私の個性!ごめんね勝手に。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね?」
「あ、あぁうん……ありがとう」
心優しい少女だ――出久に限らず、傍らで見ているジョーたちだってそう感じた。
その性情を露わにしたかのような麗らかな微笑を浮かべる少女に対し、出久も仮面ライダーとして戦うなかで培った穏やかな、それでいて芯の強い笑みを浮かべて応じてみせた。
「いい個性だね。おかげで助かったよ」
「!、う、うん」
「お互いベストを尽くせるといいね。――がんばろう!」
出久がそう励ましのことばを贈ると――なぜか少女の顔が急速に赤くなっていく。「う、うんがんばろう!」と裏返った声で応じたかと思うと、そそくさと会場へ走っていってしまった。まだ集合時間まで余裕はあるのだが。
(……子供扱いしすぎたかな?)
少女が同い年としては幼めな風貌だったことも手伝い――出久も他人のことは言えないのだが――、ゴルゴムやクライシスと戦うなかで触れあった子供たちに対するように接してしまったかもしれない。外見が幼かろうが同い年なのだし、救けてもらった身で失礼だっただろうか?
「だとしたら、悪いことしたな……」
「いや違う違う違う」
「へぁっ!?」
思考のつもりがひとりでに漏れていたらしい。取り巻き'sがにやにや笑いながら否定してくる。
「違うって、何さ?」
「……アニキおまえ、まさか本気でわかんねーの?」
「……スミマセン。ご教授くださったらうれしいです」
ふたりは顔を見合わせたあと、
「やだ、教えねえ」
「えぇっ」
「このタラシめ!」
「えぇっ!?ど、どういうこと?――ジョーさんわかる?」
「知ってるけど教えな~い。つーか怪魔ロボットである俺よりニブイって相当ヤバイぞ」
「???」
キングストーン効果で世紀王にふさわしい知力を得ているにもかかわらず、出久には結局舎弟たちのことばの意味が理解できないままだった。
無理もない。――かつて、たった一度だけ触れた柔らかなぬくもり。その主を閉じ込めた深窓を、彼は心の奥深くに沈めたままなのだった。
*
「プレゼントマイク!」
試験説明会会場で待っていたヒーローの名を、緑谷出久は素っ頓狂な声で呼んでしまった。
一線級の人気プロヒーローでありながら話術とテンションの高さを活かしてラジオのパーソナリティも務めている――それが"ボイスヒーロー"プレゼントマイクである。
彼は出久にとって思い出深いヒーローだった。出久が仮面ライダーBLACKとしてゴルゴムと戦っていた頃、彼は毎回――コーナーまでつくって――仮面ライダーの戦いぶりを紹介し、リスナーからの応援のメールをたくさん読んでくれていた、自分自身のことばも添えて。
それだけ聞くと大したことには思えないかもしれない。だがゴルゴムが政財界とつながっていた以上、露骨にライダー支持を公言し広めようとする者が睨まれないはずがない。番組、ひいてはマイク自身にも圧力がかかり、身の危険が迫ったこともあった。にもかかわらず、彼は萎縮するそぶりも見せずライダーを……出久を応援し続けてくれたのだ。当時12歳でたった独り、明確に仲間と呼べる者もなくゴルゴムに立ち向かっていた出久の心に、どれほどの救いを与えてくれたことか。
直接ゴルゴムやクライシスと戦ったわけでなくとも、様々な形で出久を助けてくれたヒーローは大勢いる――"ヒーロー"そのものに手放しの理想を抱けなくなったとて、そんな彼らへの憧憬までは失っていない。ゆえに鼻息荒く独り言をまくしたてていたら、隣に座っていた勝己に「ウルセェ」と一喝されてしまったが。
そうこうしているうちに、
「僕ら、別々みたいだね」
「見んな張り倒すぞ。……ダチ同士で協力させねえっつー腹だろ」
「うん、まあ当然だよね」
「チッ……テメェツブせねえじゃねえかクソが」
「ブレないね……」
まあ、自分に限らず誰かと協力して……なんて勝己が考えるはずがないか。出久は密かにフッと笑った。見咎められると厄介なので一瞬にとどめたが。
彼が狙うのは恐らく成績一位――首席の座だろう。だが、その座は自分が獲る。それにしたって自分の力は過分すぎるのだが。だから――
思索の間にも、プレゼントマイクによる説明は続いていく。
「演習場には仮想ヴィランを三種、多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!各々なりの個性でそいつらを攻略し、ポイントを稼ぐのがリスナーの目的だ!もちろん、他人への攻撃などアンチヒーローな行為は御法度だぜ!」
(……だってよ、かっちゃん)
心のうちでそう唱えつつちらりと隣を見ると、何か察したのか勝己が凄まじい形相でこちらを睨んでいた。これはまずいと慌てて目を逸らす。
と、いかにも優等生っぽい眼鏡の体格の良い少年が挙手をし、質問の許可を求めた。何やらしおりに記された仮想ヴィランと、説明の数が合致していないことを指摘している。それはいい、出久も気になっていたことだ。だが、言葉遣いにせよ内容にせよやたら四角四面なのがやたら気になる。
(生真面目くんだなぁ……。ん?あの子ってもしかして……?)
その少年の背中に見覚えのあった出久。――彼が唐突にこちらを振り返ったために、その既視感は確定的なものとなった。
「それからそこのきみっ、さっきからブツブツうるさ「やっぱり天哉くんだ!」――!?」
恐らく出久の独り言を咎めようとしたのだろう少年だったが、見ず知らずの出久に名前を呼ばれたことに驚き、気勢を削がれてしまったようだった。
「……どこかで顔を合わせたことがあったか?」
「!、あ、いや、きみとは初対面なんだけど……インゲニウム――お兄さんにお世話になったことがあって。きみの写ってる写真、見せてもらったことがあったから」
「な、なるほど、兄の知人だったのか……」
「お兄さん、素晴らしいヒーローだよね」――そう称賛して微笑むと、振る舞い同様硬かった少年の表情がみるみる弛緩していくのがわかる。「あいつ俺のこと大好きなんだよ~」という嬉しそうなインゲニウムの言はまったく事実だったらしい。
「……そこのおふたりさん、そろそろいいかい?」
ちょっぴり遠慮がちなマイクのことばで、ようやくふたりだけの世界から我に返った。言うまでもなくここは受験会場である。
そして天哉少年の疑問は無事解決された。説明になかった四種類目は0Pの妨害敵……避けて通るべきステージギミックとのことだった。納得した少年は「失礼いたしました!」と一礼して着席した。
「――俺からは以上だ。最後にリスナーへ、我が校校訓をプレゼントしよう!」
それはかの英雄、ナポレオン・ボナパルトが述べたことば。
「さらに向こうへ――"プルス・ウルトラ"!!」
プルス・ウルトラ――あらゆる苦難を乗り越え進む、不屈の闘志。英雄の、英雄たるべき絶対条件。
(僕はもう、それを知っている)
出久は幾度となく傷つきながら、それでも乗り越えてきた。その経験と自負だけは、ここにいる誰にも決して負けはしない――隣に座る幼なじみにも。
今日この日が、自分の三つ目のスタートライン――"サードライン"になるのだという確信とともに、出久はいの一番に席を立ったのだった。