超・世紀王デク   作:たあたん

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なんか打ち切り最終回みたいになりました。
実際原作が続いてるものの二次ってどこで終わらせるか難しいですよね。


合格!新たな未来へレディ・ゴー!(後)

 

 合格発表日はあっという間にやってきた。

 

「出久、雄英から何か届いてるわよ」

 

 母がそう言って持ってきたのは、雄英高校の校章が印字された小包。各種書類が入っているにしては妙な形だ。雄英というところは予測不可能なことをしてくる――試験本番で嫌というほど学習させられた以上、出久は特に首をかしげることもなくそれを受け取った。

 

 当人以上にそわそわしている佐原兄妹をなだめ、自室にこもる。

 

「さて、と……」

 

 封筒を開けると、中に入っていたのは丸い装置のようなオブジェクトだった。なんだろう、これは。

 少なくとも危ないものではなさそうだったので、勉強机の上に置き、試しにこれ見よがしなボタンを押してみた。すると、

 

 

『――私がァ~……投影されたァ!!』

「うおッ!?」

 

 いきなり装置から飛び降りてきたのは手のひらサイズのオールマイト――一瞬出久は仰け反ってしまったが、よくよく考えるまでもなくバーチャル映像だ。事実、「投影された」と言っているわけであるし。

 

「流石雄英……こんな凝り方してくるか」

 

 この受験生が苦笑している間に、オールマイトはあれやこれやと忙しくしゃべっている。このお喋り好きはキャラクターを演じている部分もあるだろうが、多くは天性のものなのだろう。個性やヒーローの存在しない世界だったらラジオのパーソナリティーか何かに向いていたかもしれない。

 それはそれで見てみたい、だなどと余計以外の何ものでもないことを考えていると、いよいよ試験結果の発表と相成った。出久はごくりと唾を呑んだ。流石に緊張はするのだ、世紀王だろうと仮面ライダーだろうと、根が小心者であることは変わりないのだから。

 

『まず筆記はなんと、満点!!流石は緑谷少年、勉強もちゃんと欠かしていなかったようだな!』

「ハハ……」

 

 そりゃ多少は受験勉強もしたが……ほとんどはキングストーンの恩恵だ。改良されたのは身体面ばかりではない――精神までは完全に追いつかないから、そのギャップに悩んだ時期もあったが。

 

『そして気になる実技は……敵ポイント、89点!当然、合格だ!!』

 

 それを聞いて、出久の肩から力が抜けた。予想できていた点数、結果。そしてこれだけの高得点ならば――

 

『文句なしのトップ!!……と言いたいところなんだが……実は、同率一位がいてね』

「へっ?」

 

 目が点になった。自分に負けないくらいやりたい放題した者がいるというのか?

 

『ま、まあ個人情報とかの都合上、名前は伏せるんだけどね?キミとまったく無関係な人ではないというか、近しい?人というか……』

「……あっ」

 

 オールマイトのことばで、察するには十分だった。脳裏にあの鋭い血のいろの双眸が浮かび、出久は思わず苦笑する。

 

(……しょうがないか、手ぇ抜いたのが悪い)

 

 他の受験者との点数調整を意識するという余裕ぶった行動の結果、文句なし、首席合格の野望は潰えた――"敵ポイントにおいては"確かにそうだった。しかし、

 

『ただし!見ていたのは敵ポイントだけにあらず!もうひとつの基礎能力、それ即ちレスキュー!人助けした人間を排斥しちまうヒーロー科なんてあってたまるかって話だからね!そちらのポイントは……90点!!』

「……!」

 

 

『合計179点、ぶっちぎりの首席合格だ。おめでとう、緑谷少年!!』

「……ははっ」

 

 思わず、笑みがこぼれた。胸がじわりと温かくなる。――敵を打ち倒す強大なパワー……それ以上に困っている人を救けたいという想いを評価してもらえたという事実が、うれしくて。

 

「――聞いてのとおりだよ、みんな?」

 

 独りごちるようにそうつぶやくと、背後にあった複数の気配が明らかに波立った。ほどなくして、扉がゆっくりと開く。顔を覗かせたのは茂に一水、響子――そして母。家に来ていれば玲子やジョーも当然のように混ざっていただろう。

 

「ご、ごめん出久兄ちゃん……気になっちゃって、待ちきれなくて」

「さっきのってオールマイトの声よね?廊下まで響いてくるものだから、つい……」

「だからって盗み聞きは感心しないなぁ……しかも母さんまで」

「ごめんね出久……フフ、」

 

 謝罪のことばを口にしつつも、不意に笑みをこぼす引子。首を傾げる出久に対し、彼女は――

 

 

「――おめでとう、出久!」

「……!」

 

 母のそれを皮切りに、茂が、一水が、響子が――口々に祝いのことばを投げかけてくる。誕生日という否が応にも訪れるイベント以外に、およそ聞くことはなかったそのことば。ゆえに久しく素直に受け止められていなかった祝福だったけれど。

 

「ありがとう……みんな」

 

 およそ三年半ぶりに、出久は心の底からそう応えられたのであった。

 

 

 なおその後、ジョーと白鳥玲子、そして取り巻きコンビも混ぜた面々によって胴上げまでされてしまったこと、アクロバッターらマシン組もそこに混ざりたがっていたこと、やはり無事合格していた飯田天哉・麗日お茶子と親睦会の名目で遊びに行った際にその件を話したらワンモアやられてしまったことをここに記しておく。

 

 

 

 

 

――そして日々はあっという間に過ぎ、満開の桜が咲き誇る四月。

 

「出久、ティッシュ持った?」

「持ったよ」

「ハンカチは?」

 

 雄英高校の制服に身を包んだ息子に、母は慌ただしく問いかけていく。「大丈夫だって、母さん」と応え、出久は笑った。「相変わらず心配性だなぁ引子ママは」なんて、隣でジョーもけらけら笑っている。彼だけでなく、仲間たちは皆見送りに出てきていた。学ラン二年目の茂とランドセル四年目の一水も一応は見送られる側のはずなのだが。

 

「出久くん、ネクタイなんか変だよ?直したげる!」

「あー……じゃあお願い」

 

 玲子に「不器用は治らないのよね~」なんてからかわれながら、結び直してもらう。以前彼女から預かったサボテンを枯らしてしまった話まで持ち出されると、流石に反論のしようもないのだった。

 

「よーし、これでどうかな?」

「うん、大丈夫。ありがとう玲子さん」

「どーいたしましてっ!」

 

 玲子によってネクタイを整えられた出久。学ランとブレザーの違いもあるのだろうが、少し大人びて見える。ただそれも成長途上の少年の姿でしかない。

 

「――超カッコイイよ、出久!」

 

 だからこそ、引子はそう告げた。憧れに裏切られ、親友と殺しあい、恩人を喪いながら世界を救わねばならなかった幼き英雄――あの頃には決して言ってあげられなかったことばを、ようやく。

 

「これぞ"馬子にも衣装"ってヤツだな!」

「ジョー……それ違う」

「空気読めよジョー!」

「えっ、間違ったか?すまん……」

 

 ともあれ。整った恰好になったところで、出久はアクロバッターに跨がり、ヘルメットを被る。これまで緑谷出久の姿ではマウンテンバイクに擬態させていたが、免許もとり、バイク通学許可をとったいまではその必要もない。これからは大手を振ってこの相棒とともに駆け回ることができる。

 

「よろしくね、アクロバッター」

『安全運転デ行クゾ』

「ハハ、そうだね」

 

 感情そのままに噴かされるエンジン。その獰猛な音に被せるように、仲間たちの「いってらっしゃい!」の声が響く。

 

「うん、――いってきます!!」

 

 

 そして彼は、今度こそ"緑谷出久"として。ヒーローとしての道を、走り出したのだった――

 

 

つづく

 

 





無事に雄英合格を果たした出久。しかし配属されたクラスの担任は、ひと癖ありそうな現役プロヒーロー!?ヒーローの卵となった少年少女たちは、入学を喜ぶ間もなく試練に直面することになる。いよいよ堂々叫ばれる「変身」!伝説の英雄がクラスメイトとなってしまった現実に慄く、彼らの明日はどっちだ!?


次回 超・世紀王デク

クラスメイトは仮面ライダー!?見せつけろ体力測定!


ぶっちぎるぜぇ!!

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