超・世紀王デク   作:たあたん

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活動報告へのご回答ありがとうございます。傾向を見ていると、時間はかかってもやはりある程度ボリュームは必要なのかな~と感じた次第。

今回のように5,000文字超えてきてなおかつ区切りがいい場合は前後編に分ける方針でひとまずは行こうかと思います。他にもご意見いただけばまた変わるかもしれません。

P.S.リボルケイン届きましたが忙しくてまだ開けてない……。振り回したいけど「振り回さないでください」って注意書きがあるとかないとか。一欠だけやれってか!?


クラスメイトは仮面ライダー!?見せつけろ体力測定(前)

 

 午前八時前、雄英高校付近の国道。

 

 通勤ラッシュのために渋滞する車両の群れを、巧みにすり抜けていく一騎のマシンの姿があった。それだけならさして変哲のある光景とはいえないが、行き交うドライバーや通行人たちは揃って目を奪われてしまっていた。

 

 その理由はふたつ。第一に、マシンを操るライダーが雄英高校の制服に身を包んでいること。自由な校風が売りのかの高校は、事前に申請を出してさえいればバイク通学だろうが自家用ジェットだろうがなんでもありだが、といっても高校生の身でそれを実践する者は多くはない。

 そして第二に、マシンの特徴的な様相だ。メタリックブルーを基調とした車体に、鮮やかなイエローのラインが走っている。何よりフロントカウルでは、本来あるはずのない一対の真っ赤な複眼と触覚がその存在を主張していた。そんな外見の珍妙さもさることながら、それは仮面ライダーの駆っていたマシン"アクロバッター"に酷似しているのだった。

 

 ただ注目する人々のほとんどは、それを単なる模造品であると判断した。仮面ライダーに憧れる雄英生が、親の金で買い付けたのだろうと。

 

 

『ミンナ我々ヲ見テイル……ヤハリ気分ノ良イモノジャナイナ』

「まあ、しょうがないよ。それにプロヒーローになればこれまでの比じゃなく注目を集めることになる、いまのうちから慣れておこう」

『……ワカッタ』

 

 騎手のことばに明確に応えるそのマシン――それはまぎれもない本物のアクロバッターだった。つまりは騎手である少年こそ、本物の仮面ライダーであるということ。

 

 

 世界を二度も救った伝説の英雄はいま、その雄英高校への初登校の真っ最中なのだった。

 

 

 

 

 

 仮面ライダーこと緑谷出久が雄英高校にたどり着いたのは、それからおよそ十分後。

 アクロバッターを駐輪場に置き――ついてきたがったのは言うまでもあるまい――、校舎内に入る。入試のときにも思ったのだが、

 

「広い……」

 

 入学案内の校内図がなければ、ほぼ間違いなく迷子になっていた。そうなれば遅刻確定である。いっそ本当にアクロバッターで校内疾走しても――いつの時代の不良だと言われそうだが。

 

「えーと、A組A組……あ、あった」

 

 教室の扉を見上げる。これも、やたら大きい。

 さて、このまま入室してもいいものだろうか。いっそここで変身して入っていって同級生となる面々を驚かせても面白い――芽生えた悪戯心でそんなしょうもない思案をしていると、

 

「あっ、やっぱ緑谷くんだ。おーい、緑谷く~ん!」

「!」

 

 振り返った出久が見たのは、こちらに駆け寄ってくる見知った少女の姿。自分と同じく雄英の制服に身を包んでいる。

 

「麗日さん!おはよう」

「うん、おはよー!制服カッコいいね!!」

「はは、ありがとう。麗日さんもよく似合ってるよ」

「へ!?そ、そそそそれほどでも……」

 

 褒められたから褒め返した――もちろん本心から出たことばである――だけなのだが、目の前の少女は顔を真っ赤にしている。そこまで歯の浮くような台詞を言ったつもりはないのだが。

 

「そ、それよりっ!ここにいるってことは、緑谷くんもA組?」

「うん。これからよろしくね」

「よろしくっ!にしてもアレやね、どんな人たちがクラスメイトになるんだろーねぇ……」

 

 期待に胸を膨らませつつ、ドアを引く――

 

 

「机に足をかけるな!!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

「思わねえよ!テメェどこ中だ?端役が!!」

「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!」

「聡明ィ?クソエリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐ありそうだな!」

「ぶっ殺……!?きみ酷いな、本当にヒーロー志望か!?」

 

 

(で、出た……)

 

 開幕のこれにはさすがに呆気にとられる出久なのだった。幼なじみと新たな友人、かち合ったら水と油だとは思っていたがまさか入学式前からとは。

 

「な、なんか怖い人おる……」

「……幼なじみです、彼」

「へー、そうなん……へえぇぇっ!?」

 

 彼女の驚き方はあまりに大げさだった。まあ彼女自身にとってはナチュラルなのだろうが、いずれにせよヤンキーと優等生の相剋に固唾を呑んでいたクラスメイトたちの視線の一部がこちらに集ってくる。

 騒動の中心にいた優等生こと飯田天哉も、その例外ではなかったようだ。

 

「ん?――おぉ、緑谷くんに麗日くんじゃないか、おはよう!きみたちもA組だったんだな!」

「おはよー!」

「おはよう天哉くん、これからもよろしくね」

「うむ、よろしく!」

 

 固い握手をかわす。まだ互いに顔と名前も一致していないような面々の中で、このふたりが既に築きつつある絆は貴重なものだった。出久の正体を知っているだけあって、飯田の表情はどこか誇らしげですらある。

 ふと視線をずらすと、先ほどまで狂暴な表情でこの眼鏡の少年を煽っていた幼なじみは、打って変わって憮然とした表情で机に頬杖をついている。視線は窓の外をさまよっていて、こちらを見てすらいない。

 

(かっちゃん……)

 

 実は入試以来、この幼なじみとはまともに話をしていない。入試で次席だったことがわかった時点で、首席が誰なのかも察しただろうに、絡んでくることすらなかったのは予想外だった。

 ただ、

 

「かっちゃん、おはよう」

「……はよ」

 

 挨拶だけは、きちんと返ってくる。彼らしくない、押し殺したような声でだが。

 

(僕にビビってる……なわけないよな。そういう感じじゃないし、何よりかっちゃんだし)

 

 やはりこの幼なじみの考えていることは読めない。まあ焦ることはない、これから時間はたっぷりある。

 

 そんなことを考えていたら、不意に背後に鋭い気配を感じた。悪意の類でないこともまた瞬時に察したが、反射的に身構えてしまうのはもう癖のようなもので。

 ただ振り向いた先にあったものには、流石に度肝を抜かれたが。

 

 

(ね、寝袋?)

 

 まるで芋虫のようなそれには、よく見るときちんと(?)人がくるまっていた。妙に気だるげな目つき、しかし出久ははっきりその顔を覚えていた。

 

(イレイザーヘッド……)

 

 出久がブラックサン――仮面ライダーBLACKとしてゴルゴムと戦っていた頃、味方してくれていた数少ないヒーローのひとり。彼らの顔と名はすべて覚えている、この男も例外ではなかった。

 ここに現れたということは、この男がクラス担任なのだろうか。教師までプロヒーローとはさすが雄英――出久がそんなことを思うのと、男の瞳が出久を捉えるのがほぼ同時。教師であるならば、出久が仮面ライダーであることも当然知っているはず――

 

 しかし特に言及はなく、彼は機械的ながら威圧感のある口調で生徒らに着席を促したのだった。

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、きみたちは合理性に欠くね」

「………」

 

 いきなりの容赦ない皮肉に、生徒の多くは鼻白むほかなかった。一般的な教師なら最初は生徒に気に入られようと気取ってみるものだが、ことこの男にそんな意志は微塵もないらしい。ぼさぼさに伸びた長髪に無精髭、黒一色の衣装――出久のように事前に面識がなければ、彼がプロヒーローだなどと誰も思うまい。

 

「俺は担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 挨拶もそこそこに、この担任ヒーローから体操着に着替えてグラウンドに集合するよう指示される。これから入学式があるだろうに、何をするつもりなのか?皆疑問に思ったし、世紀王ではあれ神ならぬ身の出久もまた例外ではなかった。

 

 

 

 

 

「――個性把握テストぉ!?」

 

 ひとまず諾々と体操着に着替えて出てきたA組の面々は、担任のことばに揃って驚愕を露にしていた。

 

「いやいやいや!」

「入学式は?ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り」

 

 威圧的な雰囲気のまったくない、落ち着いた台詞。だからこそ、生徒たちは反論を封じられてしまう。ヒーローを目指すなら一分一秒でも惜しむべき――そうまとめてしまえばまったくの正論だからだ。

 他の生徒たちとは一線を画した経験をもつ緑谷出久もまた、頭ではそれが理解できた。

 

 しかし意外にもと言うべきか、諸手を挙げて全面支持とはいかない心情もあって。

 

(今回くらいは出たかった……入学式……)

 

 小学校の入学式こそふつうに出席できた。しかし中学校の入学式はちょうどゴルゴムの攻勢が激化してきた時期だったために、欠席せざるをえなかった。いや、母の要望もあって出席するつもりではあったのだ。真新しい学生服を身につけ自宅を出、いよいよ校舎が見えてきた――というところで事件が起き、出久は新中学一年生から仮面の英雄に変身せざるをえなくなってしまった。

 

 高校を卒業すればそのままプロヒーロー生活に突入するのだ、入学式という行事は長い人生の中で最後になるかもしれない――しっかり噛み締めようと思っていたのに。

 

 肩を落とす出久。見る人が見れば落胆していると一発でわかる。相澤もそれを察したのだろう、「緑谷……」と指名をかけようとしたのを改め、別人に目を向けた。

 

()()()爆豪」

「……!」

 

 指名された勝己は一瞬かっと目を見開いたが、意外にも食ってかかることなく諾々と従った。出久がはっと顔を上げたときにはもう勝己は前に出ていて、その表情を窺い知ることはできなかった。

 

「中学の時、ソフトボール投げ何メートルだった?」

「……67メートル」

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なけりゃ何してもいい」

 

 指示を受けた勝己の行動は素早く、また躊躇がなかった。円の中に入り、ボールを投げる。そこまでは従来の体力テストとなんら変わりなかった。――そこに彼の個性である"爆破"が加わる。「死ねぇ!!」という罵声のおまけつきで。

 

 ただそれだけのことで、ボールは天高く、遥か彼方まで消え去った。相澤の手に握られた測定器には、四桁へ及ぶ数値が表示されている。

 

「1キロ越えてんじゃん!スゲー!!」

「なんだこれスゲー面白そう!」

「個性思いっきり使えるとかさすがヒーロー科!!」

 

 その気持ちはわからないでもない出久だったが、先生の表情がにわかに鋭くなったことに気づいてこれはまずいと思った。嫌な予感がする、直接自分の災難になるかは別としても。

 

「面白そう……か。ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのか?」

 

「よし、こうしよう」

 

 いたずらを思いついた幼児(おさなご)のような表情で、彼は言い放った。

 

「トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し――除籍処分としよう」

 

 一瞬、一同がフリーズし――

 

 

「――はぁああああ!?」

 

 驚愕と抗議の入り交じった声が響き渡る。流石に出久はそこまでの反応は示さなかったものの、苦笑は禁じえなかった。雄英ヒーロー科、初日から容赦がない。その点だけはゴルゴムやクライシス顔負けだ。

 

「雄英の売りは自由な校風、それは教師も例に漏れず。生徒の如何は先生の自由だ」

「だからって、最下位除籍って……!」

「入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても理不尽すぎる!!」

「自然災害、大事故、身勝手な敵達……いつどこから来るか分からない厄災、日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽を覆していくのがヒーローだ。放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける」

 

 

「"Plus Ultra"――全力で乗り越えて来い」

 

 唖然とする生徒たち。ただひとり、彼らめがけて堂々と声を張り上げた少年がいた。

 

「やってやろうよ、みんな!」

「!」

 

 皆の視線が、一様に注がれる。声の主――緑谷出久へ。

 

「僕らはみんな、あの試験を乗り越えて選ばれた20人なんだ。全力投球、いま僕らにできることをする。それでいいんだ」

 

 この、面々の中では比較的小柄で、冴えない風貌の少年。しかしそのことばひとつひとつには、どうしてか計り知れない説得力があった。首席合格者だから?いやそれだけならむしろ、安全圏にいるから余裕ぶっていると、反発する者も現れたかもしれない。

 だから、それだけではないのだ。ほとんどの人間が知るよしもないが、彼には「初日でいきなり除籍」などお話にならない苛酷な運命を乗り越えてきた経験がある。――仮面ライダーとして。

 

「……お、おう。そうだよな!」真っ赤な髪を尖らせた少年が真っ先にうなずく。「やるっきゃねえよな!」

「うむ!頑張ろうじゃないか、みんな!」

 

 飯田が乗り、次いで麗日が。――やがてほとんど全員に、波及していく。

 

 

「………」

 

 ただ出久の過去を一番よく知っているはずの――当人から包み隠さずすべてを打ち明けられた――爆豪勝己だけは、日常の憤懣とも異なる、どこか苦々しげな表情で出久を見つめていたのだけれど。

 

 


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