超・世紀王デク   作:たあたん

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リカバリーガール&"デクくん"(呼び方)「…出番は?」

デクがRXになってしまった反動なのだ……。
まあそのうち出てくる、きっと(適当)


クラスメイトは仮面ライダー!?見せつけろ体力測定(後)

 体力測定がはじまった。

 

 まずは50m走。オーソドックスすぎると言っても差し支えないが、一応はこの体力測定、文部科学省の定めたとおりの種目を網羅しているのだ――ただ、個性の使用が許可されたというだけで。

 

 一同、己の個性を活用することで文字どおり常人離れしたタイムを叩き出していく……と、思いきや。

 

「……やっぱり、個人差はあるなぁ」

 

 独りぽつんとつぶやく出久。ここにいる面々は皆、程度の差はあれ強力な個性をもっている。しかし"走る"という限定されたアクションに対して役に立つかはまた別の話。たとえば爆豪勝己が爆破の勢いでスピードを上げることができる一方で、先ほど真っ先に同調してくれた赤髪の少年――切島と言うらしい――などは、「"硬化"とは相性が悪い」と言って忸怩たる表情でふつうに走っていた。

 

 さて、自分はどうすべきか。ただ首位を確保するだけなら、もともとの身体能力にワン・フォー・オール"フルカウル"だけでも事足りるだろうが。

 

(いや……入試のときとはわけが違うんだ。ここはちゃんと示しておくべきだよな、"僕が来た"ってことを)

 

 それは自分自身にとっても、クラスメイトたちにも必要なことであると思った。彼らと竹馬の友たることを望むのならば。

 

「緑谷くん」

「!」

 

 決意を固めている出久に声をかけてきたのは、同じグループで走ることになった飯田だった。

 

「きみの規格外っぷりは存じているつもりだ。……悔しいが、全体の順位できみの上に立とうとは、()()()()()思わない」

 

 「だが!」と、わずかに声のトーンが上がる。

 

「俺の個性は"エンジン"、走力なら誰にも負けない自信がある!この勝負、勝ってみせるぞ!!」

「天哉くん……」

 

 なるほど飯田は、本気で自分と渡り合うつもりのようだ。それはいい。正体を知ってなお、気後れせず対等に競争を申し込む。そういう友人が初日以前からできたことは、これ以上ない幸運だと思った。

 

 「次」――担任の指示で、いよいよ出久を含んだグループがスタートラインに並び立つ。皆の視線が、いつの間にか自分に集中していくのがわかる。首席というだけで十分注目には値するのだろう。逆の立場なら、自分だってそうしている。

 

(僕はこの中でNo.1でいればいいわけじゃない。仮面ライダーとして、世界を変える)

 

(そのためにいま、僕のすべきことを)

 

 すう、とひと呼吸した出久は――変身の構えをとった。右腕をまっすぐ天めがけて伸ばし、太陽を掴むように手に力を込め……おもむろに、振り下ろしていく。

 

「変……――」

 

 ざわめきが、耳を撫ぜる。

 

 

「――……身ッ!!」

 

 出久の翠の瞳が赤く染まり、同時に、宿ったキングストーンが体表にベルト状の"サンライザー"を顕現させる。煌めきと火花とが激しく飛び散りながら、出久の身体を世紀王……それすらも超越した、"超・世紀王"へと変身させていく。

 

 

 そうして変身前の少年の面影など微塵ももたない、緑と黒に彩られた異形の英雄がヒーロー養成校のグラウンドに顕現した。ボディの暗い色合いに反して、バッタを模した複眼だけは爛々と赤い輝きを放っている。

 

 声を置き去りにした空間を切り裂くように、彼は勇ましく名乗りをあげた。

 

「僕は太陽の子――仮面ライダーBLACK……RXッ!!」

 

「は……」

 

「はぁああああああッ!?」

 

 呆気にとられていた生徒たちが、ようやく人生最大級の驚愕の声をあげたのだった。

 

「かっ、仮面ライダァァァァ!!?」

「な、なんで仮面ライダーがここに……」

「そういえば入試のときにもいたよね!?」

「いや本物じゃないんじゃね……?姿をコピーするとかそういう個性だろ常識的に考えて」

「あ、そっか!」

「いやでもあの子、マジモンの首席だし……」

 

 本物かただの模倣なのか――生徒たちの不毛な議論に終止符を打ったのは、ひとりの少年だった。

 

「ウダウダうるせぇんだよ。……あいつは、本物だ」

 

 その確信のこもったことばに、一同は波を打ったように静まり返った。開幕から飯田と言い争っていた――口汚く罵っていた――ヒーロー志望とは思えない態度の少年の何かを押し殺したような声音に、彼らは何もいえない。この少年が何を思っているのかなんて、まだ一時間にもならない付き合いの同級生たちにわかるはずがなかった。

 ただひとり、例外となった少女がいた。

 

「えっと……爆豪くん、だったよね?」

「……ンだ丸顔」

「初会話でそんなあだ名!?キミマジで性格ヤバいな……」

「ア゛ァ!!?テメェ喧嘩売っとんのか!?上等だわ、テメェもあのクソメガネもろともブッ潰したらぁ」

「う、うわー……」

 

 ヴィラン顔負けの態度に引きつつも、お茶子はこの少年とのコミュニケーションをあきらめるつもりはなかった。出久が仮面ライダーだと予め知っていた、幼なじみの少年。

 

「キミ、緑谷くんの幼なじみやって聞いたけど……あの子が仮面ライダーなんも、やっぱり昔から知ってたん?」

 

 幼なじみだというなら、彼が繰り広げてきた死闘の一部始終も見届けているのだろうか?そう思って訊いたのだが、勝己は一瞬瞳を歪めたあと、静かにかぶりを振った。

 

「知ったンは……俺も、最近だ」

「あ……そうなんや」

「………」

 

 それきり勝己は口をつぐんだ。何か他人には、およそ語りえぬ思いを抱いている――それだけはわかったけれど、流石に口に出して問い詰めることはできなかった。自分たちはまだ成り行きでなったクラスメイトというだけで、仲間とも友人とも言いがたい。思いやることすら、許されまい。

 

 

 そうこうしているうちに、いよいよ仮面ライダーを含む一団にスタートの時が迫っていた。

 

「はい、じゃあ位置について」

 

 おもむろに姿勢を低くしていく面々。仮面ライダーもまた例外ではない。異形型もいるとはいえ皆が体操服姿である中で、その姿は否が応にも目立つ。目立つに決まっている――

 

「用意――」

 

 

 ピ、と笛が吹かれる。さあいよいよスタートだと彼らが駆け出そうとしたとき、

 

 

 RXはもう、ゴール地点にいた。

 

「……は?」

「え?」

 

 皆、呆気にとられていた。だってそうだろう、目を離してもいない隙に、気づけば彼の姿がそっくりスライドしていたのだ。ただその間のルートに、大量の砂塵が舞い上がっている。

 

「……小数点第三位まで表示されるやつにしといて正解だったな」

 

 ぼそっとつぶやく相澤。"0秒001"――それが仮面ライダーこと緑谷出久の記録だった。

 

 「おい」と相澤が声をかけると、他の走者たちも慌てて走り出す。彼らのタイムは総じて遅いものとなってしまったが、この担任教師はまったく温情をかけてくれなかった。2メートル近い巨漢のRXはというと、申し訳なさそうに身を縮こまらせていたのだが。

 

 

 

 

 

 その後。

 

 RXこと緑谷出久は、すべての種目で信じられないような記録を叩き出した。握力測定では測定器をぶっ壊し、長座体前屈ではバイオライダーに変身して腰だけ液体化させ、無限に伸びていくという離れ業を見せつけ、挙げ句の果てにソフトボール投げでは大気圏でボールを燃え尽きさせた。これらの記録は――"∞"。ソフトボール投げで唯一"無重力"の個性をもつ麗日お茶子が同率に並んだ以外、ぶっちぎりの一位に決まっている。他は回数を競うものが主だったため明確な記録が出たが、それも二位以下を大きく引き離すものであった。

 

「す、すげぇ……」

「俺たち、あんなバケモノと一緒にやってくのかよ……?」

 

 もはや「仮面ライダーがなぜ雄英に?」という疑問すら吹っ飛んでしまうほど、新入生一同はこの同級生を畏怖し、戦慄していた。ライダーがもとの少年の姿に戻っても反応は変わらない。出久は苦笑した。ただ彼らの瞳には世界を二度救った仮面ライダーへの憧憬も少なからず含まれていて、今後彼らと良好な関係を築ける余地はあるのだとも思えた。

 

 

――そして、測定終了。

 

「終わった……オイラの青春は終わった……」

 

 最下位になってしまった葡萄頭の少年――峰田実というらしい――が崩れ落ちている。彼単体でみればさほど悪くない記録を出していたのだが、この面々の中ではどうにも凡庸なのだった。

 

 そんな彼に一瞥もくれず、担任ヒーローは冷たく引導を渡す――

 

 

「ちなみに除籍は嘘だ」

「!!?」

 

 峰田を筆頭に、ほとんどの面々が目を剥く。

 

「う、嘘って……」

「きみらの最大限を引き出すための合理的虚偽」

 

 いけしゃあしゃあと言ってのけるものだと出久は思った。合理的虚偽ということばこそ虚偽なのだと、彼は知っていた。なにせこの教師は昨年、ひとつのクラス全員を除籍にしている。それを知らないらしい女子生徒――八百万百などは、「あんなのウソに決まってますわ」と断言しているが。

 

 終了宣言を出して、相澤はそそくさと帰っていった。時間的に、あとはもうホームルームだけだろう。入学式はもう終わってしまったんだろうな……ふとそのことを思い返して、ちょっぴり切なくなる出久であった。

 

 と、

 

「な、なぁ……仮面ライダー?」

「!」

 

 おずおずと話しかけてきたのは、かの赤髪の少年。彼だけではない、他のクラスメイトの大多数も、出久のもとに集まりつつある。

 

「お、俺……ずっとあんたの戦い見ててっ、すげぇ、漢らしいって思ってたんだ!入試んときも!」

「え、あ、ありがとう……」

 

 "カッコいい"や"すごい"は少し言われ慣れてきたが――照れないとは言っていない――、"漢らしい"は初めてだった。なんとか笑顔をつくるが、ひとりでに頬に熱が集まってしまう。

 

「昔の戦いのこと、色々聞かせてくれよ!」

「ってか、なんで雄英通うことにしたの!?」

「やべぇよやべぇよ……」

「ア、ハハ……みんながよかったら放課後に話すからさ、いったん教室に戻らない?ホームルーム遅れたら、また除籍なんて話が出てくるかもよ?」

 

 ふつうなら大袈裟にも程があることばだが、クラスメイトたちには実感をもって響いたようだった。「彼の言うとおりだ、速やかに着替えを済ませて教室へ戻ろう!」という飯田の適切極まりない指示もあって、皆がばらばらと帰りだす。ひとまずほっとしつつ、出久は考えた。

 

(さすがに信彦くんのこととか、世紀王がどうとかは話せないよな……まだ)

 

 彼らにそれを話せる日が来るかは、まだわからない。これから重ねていく日々が決めることだろう。――ただ、すべてを打ち明けて、それでも仲間だと言ってもらえる自分でありたいと思った。

 

 

「――おい」

「!」

 

 皆に続いて教室へ戻ろうとした出久の前に立ち塞がったのは、この中では唯一、既にすべてを知る少年だった。

 

「……かっちゃん」

 

 「ツラ貸せや」――瞳に烈しい感情をにじませて、勝己はそう言った。もはや彼に対し、幼少期のような恐怖は感じない。ただそれでも、どうしてか拒否はできないと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 人気のない校舎の陰へ、ずんずんと独りよがりに歩き続ける勝己。色々思うところはあったけれど、出久は黙ってそのあとをついていく。

 ただ、限界はあるわけで。

 

「あの……かっちゃん、」

「………」

「早く戻らないと、先生が……」

 

 返答はない。心中でため息をつきたい気持ちになっていると、不意に勝己が立ち止まった。

 

 そして――いきなり、胸ぐらを掴んできたのだ。

 

「ッ、ちょっ……いきなりどうしたんだよ、かっちゃん……?」

 

 漠然と予期はしていた出久だったが、あえてかわすことはしなかった。それが余計に、勝己の眉間の皺を色濃くしているらしかったが。

 

「……テメェ、どういうことだ」

 

 唸るような声。シンプルすぎるがゆえに複雑で、さすがの出久も瞬時には理解できなかった。

 

「どういうことって、何が……?」

「トボけんじゃねえッ、さっきのアレは一体なんなんだよ!?アレが本気だっつーなら、入試で俺と敵Pが同点だったのはどういうことなんだ、ア゛ァ!?」

「!」

 

 そういうことか。――勝己は出久が規格外の力を見せつけたことに怒っているのではない。強大すぎる力が、入試での成績に伴っていない――つまり出久が手加減をしたのだと、既に看破しているのだ。

 

 敵Pが同点、しかしながら救助Pで大きく水を開けられる。そんな結果に何も言わなかった勝己が、手加減の事実を知った途端に久しく見たことのない強烈な憤懣を露にしている。正直出久は困惑したが、捨て置くこともできなかった。

 

「……確かに、入試ではある程度手心を加えたのは事実だよ。けど、試験の形態がポイントの奪い合いであった以上、ああするしかなかったんだ」

「何、言ってやがる……!」

「聞いて。もしも僕があの会場の仮想敵を全滅させたとするよね。同じ会場で受験していた麗日さんや天哉くんたちはポイントをとれず、当然脱落する……本来なら、雄英で学ぶだけの素養がある人たちなのに」

 

 彼女らが不合格になり雄英で学ぶ道を閉ざされる代わりに、本来不合格になるべき者たちが試験をパスしてしまう。その者たちにヒーローたる資格がないなどとは思わないが――そもそも雄英は最高峰であって、他にもヒーロー科のある学校はたくさんある――、果たして相澤先生のお眼鏡にかなったかどうか。

 

「一番嫌なのは、さっきのテストで除籍になる人が出ることだった。……僕は、ひとりでも多く仲間が欲しいんだ。僕の、夢のために」

 

 出久の夢――ヒーローの、必要(いら)ない世界。果てしなく遠いその夢のために、まずはともに歩める仲間たちを求める。孤独ほど重くのしかかる荷物はないと、この少年はよく知っているから。

 

「だから、かっちゃん――」

 

 出久が何か言いかけた瞬間、胸ぐらを掴む手が唐突に離れた。そのために、続くことばは呑み込まれてしまった。

 

「かっちゃん……?」

「………」

 

 踵を返し、

 

 

「……もういいわ」

「え……」

 

 そのまますたすたと歩き去っていく勝己。ずっと見つめ続けてきたはずの背中。それがまるで、知らないもののように出久には思われた。

 

 

――もう一度ちゃんと話をしたい。ホームルームの際もそう思って彼の背中に視線をぶつけていたが、結局声をかけることすらかなわなかった。放課の途端に出久はクラスメイトたちに囲まれてしまったのだ。出久のことばどおりに。

 

 向けられる剥き出しの憧憬は、ひどくこそばゆくもあり、同時に胸を熱くさせた。自分の戦いは間違いなく未来につながるものだったと、そう思えた。

 

 

 だから考えもしなかった。独り去る勝己の真っ赤な瞳が、淀んだ深淵のように沈んでいたことを。――この傲慢で横暴な天才少年も、こんな表情が浮かべるのだということを。

 

 

つづく

 

 

 





初日の試練を乗り越え、無事に二日目を迎えた出久たち雄英一年生。そんな彼らの前に、ついに教師となったオールマイトが現れる。彼が教えるヒーロー基礎学戦闘訓練、出久が対決する相手は――爆豪勝己!?

デク「僕は……本気で勝ちに行く!」
麗日「ところで、変身前はコスチュームあるの?」
デク「もちろんあるよ!できればオールマイトのコスチュームそのまま着たいくらいだったけど変身前の僕の体格じゃ似合うわけないし仲間と相談するなかで変身後との適合とか諸々を総合的に勘案した結果選ばれたのはブツブツブツ」
麗日「楽しそうやねぇ……」ホワホワ


次回 超・世紀王デク


超・世紀王vsかっちゃん


麗日「ぶっちぎりすぎだぜ~!!」

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