超・世紀王デク   作:たあたん

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長らくお待たせしました。1クール分かかってしまった……でも文字数は倍なので実質的には半月程度の遅れってことでご勘弁ください。

そう、これでも倍なんですよ。
色々カットしたり次回の宿題にしてます。麗日vs飯田の模様とか皆の反応とか…多分、次回!


超・世紀王vsかっちゃん(後)

 いよいよ始まる戦闘訓練。入試の時と同じ市街演習を行うという大方の予想を裏切って、オールマイトが告げたのは屋内での対人戦闘訓練だった。

 

「ヴィラン退治は屋外で見られる事が多いが……統計で言えば、屋内のほうが凶悪ヴィラン出現率は高いんだ!」

 

「真に賢しいやつは室内…闇に潜む!」そこでオールマイトは声を低め、「きみたちも知っているだろう……あの暗黒結社ゴルゴムも、まさしくそんな存在だった」

「!!」

 

 皆がはっとする。中には非常に苦々しい表情を浮かべる者も。ゴルゴムが表裏の権力者たちを支配下に置き、多くのヒーローたちまでもが見て見ぬふりをしていたことは既に世間の知るところとなっている。極めつけは出久――仮面ライダーBLACKが一度死に追いやられたあとの日本侵略。自分が助かるためにゴルゴムに取り入り、平気で他人を踏みにじる人々。それらの光景は、子供たちの心に大きな楔を打ち込んだのだ。

 

 その裏切りに最も傷つけられた少年が、口を開く。

 

「だからこそ僕らは戦わなくちゃならないんだ。ゴルゴムのような奴らを、もう二度と生み出さないために。そしてそんな奴らに、いまもなお苦しめられている人々を救けるために」

「!」

「……ですよね、オールマイト?」

 

 傷つきながらも英雄として戦い抜いた少年の問いかけに、オールマイトは力強くうなずいた。

 

「緑谷少年の言うとおりだ。だがその途は果てしなく遠く、険しい」低めた声をここで元に戻し、「千里の道も一歩から、だ!というわけできみたちにはこれからヒーロー組とヴィラン組に分かれ、2vs2の屋内戦を行ってもらう!」

 

 2vs2――デスガロンと組んで、怪魔怪人・幹部のペアと戦うことなどはしばしばあったなあ。……などと、出久はまた昔のことを回想してしまった。あの頃は若かったなどの台詞も付け加えればもう、歴戦を通り越してただの老人だなどと言ってはいけない。心は正真正銘の15歳である。

 

――閑話休題。

 

 その頃オールマイトは生徒たちからの質問攻めに聖徳太子の苦労を思っていたのだが、どうにか軌道修正を図っているところだった。

 

「で、では状況設定の説明だ!――ヴィランがアジトに核兵器を保有し、ヒーローはそれを処理しようとしている!」

 

 ヒーロー側の勝利条件は、制限時間以内にヴィランを捕獲するか核兵器を確保すること。ヴィラン側はその逆で、核兵器を守りきるかヒーローを捕らえて無力化すること。実にシンプルでわかりやすい――初回であることを鑑みれば、そんなものなのだろうか。

 

 そして、コンビ及び対戦相手の選定方法はというと――

 

「くじだッ!!」

「適当なのですか!?」

 

 オールマイトがくじの入った箱を取り出す。入学早々でまだ人間関係も出来上がっていない以上、順当ではあるのだが……よくも悪くも四角四面な飯田には受け入れがたいものがあるらしかった。

 そこで、クラス一地味な風貌ながらクラス一の存在感を誇る出久が口出しする。

 

「実際の現場では状況によって、人間関係・個性の相性にかかわらず即席でチームアップしなきゃならないことも多々ある。そういう意味では、一見適当っぽいくじ引きも訓練としては合理的じゃないかな?」

「!、なるほどそういうことか……。実戦経験のあるきみが言うと説得力があるな!」

 

 飯田を代表として、クラスメイトの過半数がきらきらした視線を向けてくる。出久はたまらず口をムズムズさせた。実戦経験が嫌というほどあるのは事実だが、ヒーローと組んで戦ったことはさほど多くはない。いまの発言はどちらかというと、幼なじみの言うところの"クソナード"の部分によるものである。

 

 またしても出久にしてやられてしまったオールマイトのテンションはこのとき下降の一途を辿っていたのだが、ともあれ一同を納得させるには至った。

 

 皆が順々にクジを引いていく。出久はあえて最後を選んだ。"残りものには福がある"という諺を信じたわけではなく……そうすべきではないかという気がしたのだ。あるいは、キングストーンのお告げかもしれない――

 

――そして、チームメイトとなったのは。

 

 

「一緒だね、よろしく!」

「こちらこそ、――麗日さん」

 

 本当はがっちり握手でもかわしたいところだったが、相手はまだ親しくなりはじめたばかりの異性である。周囲に囃したてられでもしたら申し訳ないと思って、力強い笑みを浮かべてみせるだけにとどめた。それでも顔を真っ赤にしたお茶子にぱっと顔を逸らされてしまったのは流石に解せなかったが――弟分たちが見ていたらまた囃したてられそうである――。

 

(そういえば……かっちゃんは誰と組んだんだろう?)

 

 ふとそんなことが気になって、幼なじみの姿を探す。自分含めて20名しかいないクラス、しかも制服や体操服でなくひとりひとりが別々のコスチュームを纏っているから、その姿はすぐ発見できた。

 

 黒を基調とした袖のない衣装に、手榴弾をモチーフとしたのだろう巨大な籠手。目元を覆う覆面から飛び出したトサカのようなパーツが彼の自己顕示欲を象徴しているかのようだ。――ただその瞳は、相変わらず伏せられたままで。

 

 それを目の当たりにしてしまった出久の気持ちはほんの少しだけ沈みかけたのだが、そんな勝己にずんずん歩み寄っていく大柄な少年の姿を認めて、思わず「へぁ、」と素っ頓狂な声を漏らしてしまった。

 

(ま、まさか、かっちゃんと組んだのって……)

 

 と、そのときだった。

 

「では第一回戦のカードを発表しよう!――ヒーローチーム緑谷少年&麗日少女!」

「!」

「……vsヴィランチーム、飯田少年&爆豪少年だァ!!」

「!?」

 

 ぎょっとする出久。周囲もざわつき出すけれど、それはファーストバトルでよりによって"仮面ライダー"が選出されたこと及び自分たちが当たらずに済んだことに対する安堵から来るものだろう、出久とはまったく異なる所感である。

 

(ま、マジでかオールマイト……)

 

 対話の前に、よもや拳を交えることになろうとは。

 

 自分たちの関係の歪みがより深刻なものになりつつあることを、あるいはこの昼休みの間にでも聞きつけたのだろうか。だとしたらとんだ地獄耳だと、憧れのNo.1ヒーローに対しやや失敬な思いを抱く出久だった。

 

 

 

 

 

 飯田天哉の心は昂りの極みにあった。雄英高校二日目にしていきなりの実践訓練――組まされた相手はよりにもよってヴィラン並みに敵視している男で、そんな彼とともに対決することになった相手が、入学して初めてできた友人ふたり……それはまあ結構であるにしても、片割れはかの仮面ライダーである。いまの自分の実力で良い勝負ができるだなどと、驕った考えをもてるはずもない。

 

 だとしてもだ。ヒーローを志す者として、それが敗北をよしとする理由とはならない。自分自身を納得させられるだけの戦いをする、そのためには――

 

「爆豪……くん」

 

 嫌悪をこらえて、彼は勝己にずい、と歩み寄った。

 

「先ほどはぼ、俺も言い過ぎた。すまなかった」

「………」

「きみにも色々と思うところがあるのは理解する。しかし現実、彼は強敵だ。少しでも肉薄するためには俺たちがバラバラではいけない。まずは作戦を練って、協力して――」

 

「……黙れやクソメガネ」

「な……!?」

 

 吐き捨てるようなそのひと言は、飯田の歩み寄りを完全に拒絶するものだった。

 

「小手先の作戦なんざくだらねえ、俺があのクソデクをブッ潰す……!」

「ッ、この期に及んでそんなことを……!その意地のほうがよほどくだらないぞ!!」

「アア゛!?黙れっつってんのがわかんねえのかクソメガネが!!」

 

 信頼関係のしの字もない、険悪にもほどがある状態のふたり。――もはや彼らは、"敵"にすら心配されるようなありさまだった。

 

「大丈夫なんかなぁ、あのふたり……」

 

 思わずそんなつぶやきを漏らしてしまうお茶子。二日目にして息の合った連携をというのもなかなか難しい話ではあるが、ここまで険悪になるのはもっと珍しい。敵同士になったとはいえ……これではまともに戦いなんてできやしないのではないかと、余計な心配をしてしまう。

 

 つられて一瞬、出久も気遣わしげな表情を浮かべたのだが、

 

「でも、だからこそかえって厄介な面もあるかもしれない」

「?、どういうこと?」

「そもそも連携をとろうなんて考えなければ、それはそれでやりようはある。一方が核の護衛に徹して、もう一方がヒーローチームに仕掛ける……とかね」

 

 無論それだって、話し合って作戦を練るに越したことはないのだが。

 

「……予想だけど、突っ込んでくるのは十中八九かっちゃんのほうになると思う。彼は意地でも僕を倒したいだろうし、天哉くんもそこは譲るだろうから」

「そうだね、私も同感だけど……緑谷くんなら、軽くあしらって強行突破できちゃいそうじゃない?」

 

 軽い冗談のつもりで言ったお茶子だったが、対する出久は深刻な表情で遠慮がちにうなずいた。経験に裏打ちされた自信があるからこその反応だが、そこに慢心は微塵もない。

 

「できないとは言わないよ。伊達にゴルゴムやクライシスと戦ってきたわけじゃないんだ」

「お、おぉ……」

「ただ、それと今回の勝利条件がイコールとはならない。ヴィラン側が自棄になって核兵器を爆発でもさせたら、大変なことになる。僕ひとりでどうにでもなるわけじゃないよ」

 

 そうなる前に鎮圧する方法もないではなかったが、あえてそこまでは口にしなかった。なんにせよ、確実ではないのだ。

 

「だから僕がかっちゃんを抑えてる間に、麗日さんには核兵器を確保してほしい。こっちも分担になるけど……大丈夫?」

「あ……」

 

 一瞬ことばに詰まりそうになったお茶子だったが、

 

「が、頑張る……ううん、絶対やり遂げてみせる!」

 

 自分自身を鼓舞するように、そう言い切った。出久を一方的に恃むような気持ちに、危うく支配されるところだった。

 それではいけないのだ。人々の自由と平和を守れるようなヒーローに……まさしくそれを体現した"仮面ライダー"に、憧れたればこそ。彼に並ぶことは容易いことでないけれども、せめてその背中を追うくらいの気概がなければ嘘だろう。

 

 それを聞いた出久は、嬉しそうに頬を弛めてうなずいてくれた。

 

「ありがとう、そう言ってくれて。――じゃあ、行こうか」

「――うん!」

 

 ガツンと拳をぶつけ合うのと、オールマイトの「スタート!」の声が朗々と響き渡るのが同時。ふたりは即座にビル内へと突入した。当たり前のことだが、爆豪・飯田の両名が既にヴィランとしてどこかに潜伏している。ここはもう完全に敵のフィールドだ……ゴルゴムやクライシスの本拠地で戦った経験のある出久にとって、その事実はさしたる重圧ではないが。

 

(そろそろ、来るかな)

 

 出久がかすかに息を詰めたのと、

 

――BOOOOOM!!

 

 爆炎とともに、鮮烈なシルエットが飛び出してくるのが同時だった。

 

「クソデクゥウウウウッ!!」

「ッ、やっぱり来たか……!」

 

「かっちゃん……!」

 

 "かっちゃん"なんてかわいらしいあだ名とはかけ離れた悪鬼羅刹がやってきたと、出久に庇われたお茶子は思った。

 

 一方、軽やかに着地を遂げたかっちゃんこと爆豪勝己は、憤懣に塗れた瞳を出久のみに向けている。両手から絶えず放たれる爆破も、彼の感情を発散するまで至らないようだった。

 

 そして、

 

「爆ぜろクソがぁああああッ!!」

 

 威嚇とは比にならない威力の爆破とともに跳躍、出久に襲いかかる。これも予想どおりだ。相手が純然たる敵でしかないのなら、あるいはほくそ笑む気にもなれたかもしれないが。

 

 いずれにせよ出久は、その猛攻を全身で受け止めた。一見ふつうのライダースーツに見える衣装は、頑丈な素材で作られていることはもちろん耐火性・耐寒性においても非常に優れている。

 それになんといっても、彼自身の肉体だ。ゴルゴムの……大神官ダロムの施術によって体内隅々までヒトならざるものと変わり果てたことによって、勝己の最大火力で灼かれたとてその影響は微々たるものだ。少なくとも改造手術のときに味わった痛みに比べれば、蚊に刺されたようなものだと出久は思った。

 

 その余裕が表に漏れてしまうのが、目敏くプライドの高い勝己の神経をこれ以上なく逆撫でするのだが。

 

「麗日さん、行って!」

「!」

「勝利はきみが掴むんだ。大丈夫、きみならできるよ!」

 

 心からの期待がこもったことばに、お茶子は奮起した。勝己が出久に対して二度目の爆破を放ったのと同時に、傍らを一気呵成に駆け抜ける。

 

 緑谷・麗日チームの狙いどおりに事が運んでしまったわけだが、勝己にとってそれはどうでもいいことだった。いや、目の前の幼なじみの目論みどおりというのはこのうえなく腹立たしいに違いないが。

 コンビを組むことになった飯田天哉に対して、信頼なんてものはまったくない。ただ曲がりなりにもインゲニウムの弟だというなら、それに見合った働きはしてほしいものだ。でなければ――

 

「………」

 

 姿勢を低くし、猛獣のように構える勝己。対して、

 

「……こうなる前に、ちゃんと話をしておきたかったんだけどね」

 

 いかに役割のうえではヒーローとヴィランに分かたれているといえど、ここまで敵意を剥き出しにするというのは尋常ではない。昼休みの折、この少年が言い放ったことばから察するならば……やはり、"何もできないムコセーのデク"が強大な力を得て先駆者として振る舞っていることが認めがたいのだろうか。――ならば、すべてを告白したあの日、彼が見せた涙は?その後ぶっきらぼうながらも、挨拶を返してくれるようになったのは?

 

 考えてもわからない、すべては推測にすぎない。

 

 だからいまは、拳を構えるほか、ない。

 

「どこからでも、かかってこい!!」

「ッ、舐めんなァっ!!」

 

 挑発が効いて、勝己は怒声とともに飛びかかってきた。右腕が、大きく振りかぶられる。

 やはりそう来るかと出久は思った。右の大振りは彼の十八番だ。さて、もう一発喰らってやってもいいが……あまり舐めプめいたことを続けるのは、ヒーローたるものふさわしくはない。

 

(ワン・フォー・オール――フルカウル!!)

 

 オールマイトより受け継いだ個性によって、元から高い身体能力をさらに向上させる。まずは、これで。

 

「オラァアアアアアッ!!」

 

 ほとんど殴打するような勢いで、爆炎が発せられる。しかしその劫火が喰らいついた先に、出久の姿は既になかった。

 

「ッ!?」

「こっちだよ、かっちゃん」

「!!」

 

 呼びかけに振り向いたときにはもう、その姿が目の前に迫っていて。

 

「ふ――ッ、」

「ぐぶっ!!?」

 

 出久は、その頬を力いっぱい殴り飛ばしていた。

 

 無論、本気のパンチではない。そんなことをしようものなら、勝己は今頃原型をとどめない肉塊と化していただろう。ただそれでも、生半可な鍛え方しかしていない相手なら昏倒させられるだけの威力はあったつもりだ。

 それが、

 

「~~ッ、クソ、がぁ……ッ!」

 

 気絶するどころか怯むことすらなく、勝己はその場に踏ん張った。爛々とした双眸が、出久を睨みつける。

 

「………」

 

 出久は一瞬目を伏せたが、無論それは畏怖からくるものではない。ただこの戦いが実戦を想定したものである以上、いかなる理由があれ感傷に囚われてはいられないのだと心する。

 

「オラァッ!」

 

 再び迫る、勝己。その爆破を引き付けたうえでかわしつつ、

 

「きみが何を思っていようと構わない、けどいまは私情を捨てるんだ。でなきゃ、為せるものも為せない!」

「ア゛ァ!?」

 

 そのことばは、かえって勝己を煽っただけだった。

 

「偉そうにッ、上から目線で説教してんじゃねえクソデクがぁぁぁぁぁ!!」

 

 こちらが余裕をもってかわしていることがわからないではないだろうに、執拗かつ直線的に攻撃を仕掛けてくる。その瞳はもはや、憤怒に我を忘れているようだった。

 

「……ッ、」

 

 常人離れした敏捷さで身を躍らせながらも、出久は思わず唇を噛んでいた。――失望。言いたくはないが、そんな気持ちが芽生えつつあるのを自覚せざるをえない。

 だって、彼はわかってくれたと思っていたのだ。自分の苦しみを……それでもなお捨てられない希望を。だからこそ、彼なりに理解を示そうとしてくれていたのだと信じていたのに、入学してからはまるで過去に逆戻りしてしまったかのようだった。対話を呼びかけても取りつくしまもない。

 

「なら、僕は……」

 

 

「――僕は、きみを討つ……!」

 

 相手は幼なじみではなく、ヴィラン。有言実行とばかりに出久は私情を捨て、着地と同時に変身の構えをとった。右手を、高らかに脳天へ掲げる。

 

「変、――身ッ!!」

 

 構えた手を振り下ろし、流麗に横に薙ぐ。その動作がトリガーとなり、腹部から"サンライザー"が出現――火花がスパークし、出久の肉体に対し電気信号を発する。

 その信号に応える形で、改造を施された身体が"変身"を遂げる。一瞬バッタ男の姿が現れたかと思えば、皮膚の上を黒と緑の鎧"ネオ・リプラスフォーム"が覆い――

 

「僕は、太陽の子――」

 

 

「――仮面ライダーBLACK……RXッ!!」

 

 

「うおおっ、ついに来た仮面ライダー!!」

 

 モニタールームに移動して戦況を見守る生徒たち。彼らを代表して切島鋭児郎が鼻息荒く声をあげる。昨日の体力測定でも生で見たとはいえ、実際に戦う姿をこうしてつぶさに見ることができるのだ。表に出すか出さないかに差異はあれ、生徒のほとんどが目を輝かせている。

 

「……フン」

 

 ただひとり――左半身を氷のような意匠で覆った少年、轟焦凍だけはモニターに冷たい視線を送っているのだが、それに気づく者はない。

 

「あの爆豪って奴の個性もなかなかだけど、仮面ライダー相手じゃ分が悪いってレベルじゃないな……」

「変身前でも翻弄しまくってたもんな……」

 

 生徒たちの認識は正しい。爆豪勝己はそれを認めていないのか、ライダーを倒そうとがんばっているようだが。

 その姿勢は評価しつつ……オールマイトの関心は、弟子であり同志である緑谷出久=仮面ライダーBLACK RXの挙動に移った。

 

(さて、どこまでやるつもりだ?緑谷少年……)

 

 

 圧倒的なパワーを誇るクライシスの怪魔怪人たちを、次々に撃破してきた仮面ライダー。その――緑谷出久の面影のない――巨駆と対峙して、流石の勝己もこれまでの勢いがわずかに衰えたようだった。その白い頬を、冷たい汗がつう、と流れる。

 それを知ってか知らずか……RXは、人差し指で招くようなしぐさを見せつけた。

 

「もう僕は、きみの知ってる木偶の坊のデクじゃない。――断言するよ、いまのきみでは僕には勝てない」

「ッ、――!!」

 

 明らかな挑発とわかっていながら、勝己は堪えることができなかった。憤懣に塗れた絶叫とともに、RXめがけて飛びかかる。

 しかし感覚の研ぎ澄まされたRXの動体視力を前に、その"常人としては"俊敏な動作はあまりにも緩慢だった。その指先がぴくりと動き、

 

 勝己の額に、でこぴんを炸裂させた。

 

「が――ッ!!?」

 

 脳を激しく揺さぶられ、併せて身体からも力が抜ける。一瞬視界がホワイトアウトしたが、彼は強靭な意思をもってかろうじて気を保った。壁に背を押しつけ、強引に姿勢を保持する。

 

「ふ、ぅッ……ふ、――ッ!」

「………」

 

 そのタフネスになんの感動も伺わせず、ゆっくりと迫るRX。かつてよくころころと表情の変わった幼なじみの童顔の面影はなく、いかなる出来事を前にしても微塵もかたちを変えることなきバッタの面があるだけ。その事実が勝己の心を蝕み、不随意に四肢の震えを引き起こす。

 

「クソ……」

 

「クソ、クソクソクソクソクソぉぉぉぉッ!!」

 

 現実を受け入れられない……受け入れるわけにはいかない少年は、もはや自棄になったように叫びながら、仮面ライダーへ襲いかかった。先ほどまでと打って変わって微動だにしない巨体めがけ、爆炎を浴びせる……それが相手にダメージを与え、逆転の一手となるという一縷の望みにかけて。

 あれほど驚異的なスピードを発揮できるにもかかわらず、RXは避けようとすることもなく爆破を受けた。その巨体が炎に呑み込まれる。衝撃で打ちっぱなしの壁面にヒビが入り、破片が周囲に飛び散る。

 

 そもそも爆豪勝己の個性は、単純ながら高火力かつ汎用性に富んでいる点で"すぐれた個性"と評されてきた。そのポテンシャルを存分に引き出すことのできる才能が、勝己に備わっていることも事実だ。

 

――それでもなお、RXの身体には火傷ひとつ負わせることができなかった。

 

「………」

「あ……」

 

 つるりとした緑と黒のボディを保ったまま、悠然とその場に佇むRXを目の当たりにして、勝己は呆然としてしまった。その隙を、歴戦の戦士は逃さない。

 

 音ひとつ立てずに距離を詰め、

 

「か――ッ」

 

 少年の腹部に、情け容赦なく拳を叩き込む。

 それはこれまでのように弾き飛ばすことを意図した殴打ではなく、衝撃を相手の体内にとどめるものだった。内臓が波立つような衝撃。都合が悪いことに、今は昼食のあとだった。

 

「う゛ッ、え、うえ゛ぇぇぇぇ……ッ!」

 

 思わずその場にうずくまり、吐瀉物を撒き散らす勝己。それは見るに堪えないような光景だった――少なくとも、彼のまぶしい姿を間近で目の当たりにし続けてきた出久にとっては。

 

「………」

 

 しかしRXは……出久は、その姿を焼きつけるように、真っ赤な複眼で直視していた。わずかに上げられた勝己の、生理的な涙の浮かんだ双眸と、視線がかち合う。

 それらは一瞬怯懦のいろを浮かべながら、負けてたまるかとばかりに敵を睨みつけた。そして身体を引きずるようにして立ち上がる。――執念。もはや彼は、その感情にのみ突き動かされる幽鬼だった。

 そんな姿に成り果てた幼なじみを相手に、仮面ライダーは容赦しない。腰を落とし、握り拳を固め……引く。

 

 一瞬の静寂を経て――爆音が、響いた。

 

「ウォアァァァァァァッ!!」

「………」

 

 翔ぶ勝己、BLACK RX。その激突がいかなる結果をもたらすのか、誰もが固唾を呑んで見守っていた。

 

 そして、

 

 勝己がRXのバッタに似た頭部に爆炎を浴びせる。ほぼ同時にRXが拳を勝己に――

 

 

――ぶつけなかった。その拳が向けられたのは、頭上――天井だったのだ。

 

「……!?」

 

 何が起きたのかわからず、勝己は魚のように口をはくはく動かすほかなかった。ただその掌だけは、しっかりと爆破をRXの顔面に浴びせていた。

 けれども、やはり。

 

「悪いけど、僕の目的はきみとの真剣勝負じゃない」

 

 凪いだ声。――劫火に包まれていたはずのRXの顔には、またしても傷ひとつついていなかった。

 

「核兵器を確保して、みんなを守ることだ」

 

 引導の声は、もはや勝己の耳には届いていなかった。気力のとぎれた彼は意識を失い、その場に倒れ込んでいたのだ。

 

「………」

 

 RXがふ、と息を吐くと同時に……朗々としたオールマイトの声が響き渡る。それはまぎれもなく、出久とお茶子の勝利を告げるもの。

 

 そう――最後に天井を破壊したパンチは……上階で核兵器の確保に臨んでいた、お茶子への援護として放ったもの。飯田天哉の個性と腕力、そして知力を考えると、お茶子ひとりではかなり厳しい戦いになるだろう。しかし同時に、彼女とならばこの"顔の見えない連携"もうまくいくと確信していた。

 

(ありがとう、麗日さん)

 

 望まぬ形で遥か先へたどり着いてしまった自分だけれど、そう遠くない未来、友人たちもまた追いついてきてくれる。そう信じさせてくれたお茶子に、出久は心中で感謝の辞を述べた。

 そして、

 

(かっちゃん……きみも)

 

 倒れ伏す幼なじみもまた、そうであってほしいと願う。

 

 

――出久はまさか、想像もしていなかった。

 "勝つ"ことを誰よりもあきらめないはずの幼なじみの心は、案外誰よりも脆いものなのだと。

 

 

つづく

 

 




戦いは終わった。仮面ライダーの圧倒的な力、その容赦のない戦いぶりに畏怖の念を抱くクラスメイトたち。
その一方で、心身ともに傷つき果てた爆豪勝己は……独り雄英を去ろうとする!?彼の背中を追い、出久は――

爆豪「もう……いいわ」
デク「僕の憧れを、否定するなッ!!」


次回 超・世紀王デク


爆豪勝己:ロストオリジン


爆豪「俺は一体、何を忘れてんだ……?」

彼の失われた記憶とは?


ぶっちぎるぜぇ!!


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