超・世紀王デク   作:たあたん

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筆が乗ったときにドガガガガガ~~と書く。これ大事。


爆豪勝己:ロストオリジン(後)

 昨日から渦を巻いていた嫌な予感が、現実のものとなってしまった。

 そう確信せざるをえない姿を晒した幼なじみが、いま目の前にいる。

 

「もういいって、なんだよ……?」

「………」

「まさか……雄英、辞める気なの?」

 

 無言。それは肯定と捉えるほかないもので。

 

「ッ、なんでだよ!?」堪えきれず、詰め寄る。「僕に敗けたからか?そんなことで折れるような奴じゃないだろッ、きみは!!」

「……ッ」

 

 勝己は密かに歯を噛み締めた。やはりこいつは、何もわかっていない。

 

「……テメェ、一年前に言ってたな。"いつかヒーローの必要(いら)ない世界を創りたい"ってよ」

「!」

 

 確かにそう言った。過去を吐露したあと、立ち去ろうとする彼に対して──死闘の果てに得た、結論として。

 

「そのためにテメェは雄英(ここ)に来た……そうだよな?」

「……そうだよ。それがなんだって言うんだ?」

 

 は、と勝己は笑った。ため息を吐き出すように。

 

 

「テメェの目指す世界に、俺はいるんか?必要なんか?──なぁ、仮面ライダー」

「……!」

「要らねえクセに……安っぽい正義感で引き留めようとしてんじゃねえッ!!」

 

 勝己の怒声が、廊下に反響する。それでも向けられたままの背中。──まっすぐ睨みつけてくれたなら、まだ、受け入れられた。

 

「せめて──」

 

 

「こっち見ろよッ、この──臆病者!!」

「ッ!」

 

 思わぬ罵倒に、勝己が反射的に首を傾けた──その瞬間、

 

 出久の拳が、その頬にめり込んでいた。

 

「ぐ……!」

 

 予想だにしない一撃に、勝己はその場に尻餅をついた。

 立ち上がるか、俯いたままでいるか──その選択の猶予すら与えられないうちに、胸ぐらを掴まれる。瞳に映る、昔から変わらない童顔は……凄まじい激情に染まっていて。

 

「僕が……僕がどんな気持ちで、きみにすべてを話したと思ってんだ!!どうでもいい奴にッ、あんなこと話すと本気で思ってるのか!?」

「ッ、テメェの気持ちなんざ……知るわけねえだろ……!」

 

 どうして自分にあんなことを告白したのか、ただ「言いふらしたりはしない」という程度の信用があるというだけではないのは当然だろう。では一体、"それ以上"がなんなのか……この一年間ずっと考えてきたけれど、考えるほどにわからなくなった。

 昔からそうだ、デクが何を考えているのかわからない。──気持ち悪い。

 

「だったら……ッ、だったらはっきり言うよ……」

 

「きみがッ、僕の憧れだからに決まってるだろ!!」

「……!?」

「僕の憧れを、否定するなッ!!」

 

 爆発する咆哮は、それを向けられた勝己に殴打以上の衝撃を与えた。"憧れ"?──俺が?

 

──すごいなぁ……かっちゃんは!

 

──だいじょうぶ?たてる?

 

──これいじょうはっ、ぼくがゆるさなへぞ……!

 

 

──ごめんかっちゃん、僕、用事があるから……。

 

 

「──ざけんな!!」

 

 激昂した勝己は、負けじと出久の胸ぐらを掴み返した。

 

「俺がテメェの憧れだったのなんて、ガキんときだけだろうが!!信彦がいる間、ずっと寄りつきもしなかったクセに……ムシのいいこと言ってんじゃねえ!!」

 

 今度は一瞬、出久もことばに詰まった。すごいけれど、乱暴者で見下してくる勝己。すごくて、優しくて明るい信彦。後者に靡いていたのは、まぎれもない事実だった。

 けれど、

 

「……ただひとつ、信彦くんとは違うきみだけの強さがあるじゃないか!()()()()()きみが、それを僕に思い出させてくれた。仮面ライダーになったばかりだった僕を、励ましてくれたんだ……!」

「は……?」

 

 憤懣が薄れるのと入れ替わりに、勝己の心中には困惑が広がった。出久が仮面ライダーになったばかりの頃、自分との間に何かがあったかのような口ぶり──だが、そんな記憶はない。その頃の出久は学校にも登校しなくなり、顔を合わせる機会もまったくなかったというのに。

 

 ワケわかんねえこと言うなとがなりたてると、不意に出久は唇を歪めた。

 

「……やっぱり、思い出せないんだ」

「ッ、だから、何を──」

 

 勝己から手を放し、やおら立ち上がる。寂しげな笑みをそのままに。

 

「記憶にないことを"あったんだ"って言い張ったって、信じられないだろう。自分で思い出さなきゃ、意味ないよ」

「……デク、」

「僕は言いたいことを言った、これ以上は引き留めない。──じゃあ……できれば、また明日」

 

 踵を返して独り去っていく出久。その背中を呆然と見送る勝己の脳裏に、彼のことばが反響していた。

 

(思い出せない……?俺が、何を?)

 

 出久が仮面ライダーになったばかりの頃──つまり、4年前の夏。ただでさえもはや風化しかかっている記憶を手繰り寄せようとしたそのとき、

 

「ッ、ぐ……!?」

 

 突き刺すような頭痛に襲われ、勝己はたまらずその場にうずくまった。朧気な日々の中に、ほんの僅かに存在している空白。勝己は確かに、それを知覚してしまった。

 

「ンだ、これ……」

 

(俺は一体、何を忘れてんだ……?)

 

 わからない。

 

 ただ、

 

──BOOOM!

 

 掌中で小さな爆発が起き、退学届が黒焦げになる。追い打ちのようにそれを握りつぶしながら……勝己は、立ち上がった。

 

 

 忘却という名の呪縛が解けるまで、自分には折れることすら許されない。ならば意味などなくとも、戦い続ける以外に道はないのだ。

 

 

 *

 

 

 

「いきなり呼び出してごめんね、ふたりとも。来てくれてありがとう」

 

 放課後。ファミリーレストランの片隅にて、そう言って微笑む出久。童顔で地味な風貌の彼に対し、向かい合うふたりは対照的にやや愚連の雰囲気を醸し出している。何も知らない者が見れば、前者の身を案じるところかもしれないが。

 

「いーっていーって。どうせオレら、放課後はヒマしてっし」

「ヒマだとロクなことしねーしな」

「アハハ……自分でそれ言うんだ」

 

 確かに、相変わらず煙草の臭いが漂ってくる。勝己の"ツレ"だった頃から吸っているというから、15歳にして既に習慣として定着してしまっているのだろう。

 

 そう──彼らは折寺中学の同級生だった不良少年たちであり、いまでは出久を"アニキ"と呼ぶ舎弟……もといよき友人なのだ。

 

「で、オレらに訊きたいことって何よ?」

「あぁ……うん」

 

 訊きたいこと──当然それは定まっているのだが、どう切り出したものか。

 出久が逡巡していると、

 

「カツキのこと?」

「!」

 

 刈り上げの少年が、訳知り顔で煙草に火をつけようとする。しかしここが全席禁煙と思い出してか、すぐポケットにケースを戻した。

 

「……流石だね、どうしてわかったの?」

「アニキがそんなカオすんの、カツキと……あと信彦ってダチの話してるときくらいだし」

「そっか……」

 

 わかっているならと、出久は口を開いた。

 

「普段のかっちゃんがどんなだったか、教えてほしいんだ」

「普段の……カツキ?」

「僕が学校へ行けてなかった間……ううん、そのあとも。何を話してたかとか、何して遊んでたかとか……どういうとき笑って、どういうとき怒ってたかとか。要するに、色々」

「マジで色々だなァ……」

「別に教えんのはいーけど……」

 

 相変わらずロン毛の少年が、頬杖をつきながら出久を見据え──訊く。

 

「アニキはさぁ、なんでそんなカツキに拘んの?」

「え……」

「だってカツキ、アニキに対してはずっと当たりキツいし、ワンチャンダイブしろとまで言うし……いや、オレらも一緒ンなって嘲ってたけどさ」

「けど、オレらから見ても言い過ぎじゃねーかって思うこともあったよ、正直」刈り上げも同調する。

 

「………」

 

 出久はそっと拳を握りしめた。自分を見るときの、嫌悪と苛立ちを滲ませた勝己の瞳。信彦と出会ってから遠ざけてきたそれに、再び向き合おうと思ったのは──

 

「──そうだね。きみたちにもまだ、話してなかったね……」

 

 質問に答えてもらう前に、少し昔話をしよう。

 そう告げて、出久は語りはじめた。

 

 

──彼が仮面ライダー……いや、世紀王ブラックサンとなって間もない、あの夏の日のできごとを。

 

 

つづく

 

 

 





出久が語る、4年前の夏のできごと。ゴルゴムに魂を売った悪魔の科学者、黒松教授の甘言に誘われ、幼き日の爆豪勝己は闇へと呑み込まれていく。

デク「かっちゃん……なんで……?」
爆豪「俺は……もっと強くならなきゃいけないんだ……!」

迷いを断ち切り、漆黒の太陽が怒りの鉄槌を下す――!


次回 超・世紀王デク


flashback――悪魔の実験室――


ぶっちぎるぜぇ!!


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