超・世紀王デク   作:たあたん

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アニメ4期の前座と台風の日の時間つぶしにお楽しみください。

ぶっちゃけるとプロットができてるのは3期の喧嘩までだったりします。そこがまず遠いんですが……マイペースに頑張ります。


flashback-悪魔の実験室-(後)

「身体能力向上、その代償の獣化……恐怖感……」

 

 ベッドに縛りつけられ、獣化がさらに進んでいく少年を見下ろす黒松。手元にある薬品の効果のほどを淡々と唱える唇が、醜くゆがむ。

 

「実験は成功……これをブラックサンに注入すれば、彼の心身は膨れあがった力に耐えきれず自壊する……!」

 

「爆豪勝己くん、きみの実験動物としての役割はこれでおしまいだ。心から感謝しよう……ノミ怪人さま!」

 

 黒松の呼びかけに応じ、再びノミ怪人が姿を現す。今度はかろうじて意識を保っている勝己は、その姿を認めて「ヒッ」と短い悲鳴を漏らした。

 

「この少年の貢献に報いてやるために、どうぞ貴方さまの糧になさってくださいませ」

 

 糧に──つまり、勝己の肉体を骨の一片まで喰らい尽くせと、黒松はそう言っている。

 そして、ノミ怪人は彼の提言を了承したらしかった。グロテスクな口腔を覗かせながら、やおらベッドに迫ってくる。逃げ出そうにも、勝己の身体は鋼鉄のベルトで拘束されていた。

 

「う、ヴゥゥゥ……ッ、ウウウウ──ッ!!」

 

 しかし……本能的な恐怖と向上した身体能力の相乗効果は、黒松の想定を上回っていた。

 

「ガァアアアアア──ッ!!」

 

 両手から爆破が起き、その反動で跳ねた身体が遂に拘束ベルトを弾き飛ばした。ベッドから転がり落ちるようにしてノミ怪人の魔手をかわす。

 

「グ、ヴゥ──ッ!」

 

 そしてそのまま、扉を蹴破るようにして逃走する。彼を既に餌と見定めているノミ怪人は、踵を返してそのあとを追った。

 

 

 *

 

 

 

 空は既に白みはじめていた。

 

 人気のない夜明けの街を、一匹の獣が駆け抜ける。

 

「ウグ……ッ、ウゥゥゥ……!」

 

 狂暴そのものの外見に反して、彼の精神は恐怖に支配されていた。追い来る本当の怪物……否、具体的なかたちをなしえない何かに。

 それはノミ怪人の体液から精製された薬品の副作用によるものであるが、かといってゼロからつくり出されたものではなかった。もとより彼の心に巣食っていたもの、それが破裂寸前にまで膨らみきっていたのだ。

 

──振り返れば、ノミ怪人がすぐそこまで迫っている。勝己の心はもう限界だった。

 

 そのとき、

 

「かっちゃんッ!」

「!?」

 

 聞くだけで古い記憶を呼び起こされるような声とともに、マウンテンバイクで迫ってきた少年。薄暗い世界に、翠の瞳が爛々と煌めいている。

 

──なんで、こんなところにまで。

 

 かあっとはらわたが熱くなる感覚。だが、そんなものはとめどない恐怖感に容易く呑み込まれてしまう。現実の勝己にはもう、逃げ続けることさえ限界だった。

 

 そこに──ノミ怪人が現れる。

 

「~~!」

「…………!」

 

 迫る異形に、同じく異形と化した獣は怯え足がすくんでいる。──このまま、見ていられるはずがない。

 

「うぉおおおおおッ!!」

 

 バトルホッパーから飛び降り、ノミ怪人へ向かっていく出久。横を素通りされた勝己は、その背中を呆然と見送るほかない。

 小さな身体を精一杯躍動させ、拳を振るい、ノミ怪人を幼なじみからできるだけ遠ざけようとする。勝己にとっては不可解なことに、無力な子供であるはずの出久の攻撃は怪人に対して若干ながらもダメージを与えているようだった。

 

──なんで、あいつが?

 

──なんであいつに……デクに、俺が守られている?

 

 恐怖に囚われた心のうちに、ふと湧いた疑問。

 それが別の感情へと変わるより前に、勝己は見た。必死に立ち塞がる出久めがけて、ノミ怪人の触手が密かに伸びようとしているのを。

 

「デク──」

 

 発した声はかすれていた。警告さえも満足に届けることができぬまま、出久の首筋に触手が突き刺さった。

 

「う゛ッ!?」

 

 鋭い痛みが奔る。咄嗟に触手を引き抜いた出久だが、既にノミ怪人の目的は果たされていた。

 

「!?、あ……?」

 

 途端、意識とは無関係に身体が震え出す。思わずその場に膝をつく出久。困惑が、精神を支配する。

 しかし、迫りくるノミ怪人の姿が再び視界に入った途端、激しい恐怖が雪崩のように襲いかかってきた。

 

「ひ、ぃ……っ!?」

 

──なんだ、これは?

 

 かろうじて残された理性の部分が、さらなる困惑の悲鳴を発する。身体のほうはといえば、情けなく尻餅をつき、後ずさりすら始めている。

 それを目の当たりにしたノミ怪人は、獣じみた唸り声にほくそ笑むようないろを混ぜた。臆病ホルモンを含んだ体液は、世紀王たる少年の精神にも作用している。いち怪人にすぎない彼にとって、それは凄まじい快楽だった。そして自らの手で堕ちた世紀王を葬り去ったとき、それは頂点に達する──

 

「~~!」

 

 夢想のままに、鋭い爪を振り下ろさんとするノミ怪人。立ち向かう力と意志を得たはずの出久は、迫りくる死から目を背けることしかできない。

 黒松の……否、ゴルゴムの企みが成就することは、もはや避けられないのか。

 

 刹那、

 

──BOOOOM!!

 

 聞き慣れた爆発音が間近で炸裂し、出久は反射的に目を開けた。

 

 獣が……獣と化した勝己がノミ怪人に飛びかかり、爆発を浴びせていた。

 

「デクに……その汚ェ手で、そいつに触んな……!」

「かっ……ちゃん……?」

 

 着地した勝己の呼吸は荒く、身体には震えが残ったまま。しかしその眼光は、鋭くノミ怪人を睨みつけている。

 

「俺は……強くなきゃなんねえんだ……!俺が……守らなきゃなんねえんだ……ッ!」

「…………!」

 

 かつて憧れ、追いかけ続けてきた背中だった。──何も、変わってなどいない。

 

「うぁあああああッ!!」

 

 雄叫びとともに、再び立ち向かっていく勝己。しかし二度目はなかった。ノミ怪人の触手が、跳躍する勝己の腹を鋭く打ちのめす。

 

「ぐぁ……ッ!」

 

 少年の身体はいとも容易く吹き飛び、傍らの街路樹に叩きつけられた。地上に落下した四肢から、くたりと力が抜ける。

 

「かっちゃんッ!!」

 

 悲鳴のような声をあげて、出久は彼のもとへ走った。その脳裏に、目の前でクモ怪人に殺された信彦の父・総一郎の事切れる瞬間がフラッシュバックする。

 

 倒れた勝己の身体を、這いつくばるようにして見下ろす。──胸が、上下している。息はある、気を失っているだけだ。

 

(かっちゃん……)

 

 一瞬、胸を撫で下ろす。しかしそれは、すぐに別の感情へと変わった。

 

──俺が、デクを。

 

 あれほど自分を嫌って……否、憎んでいたはずの少年。それが「守る」と言って、恐怖を振り払ってノミ怪人に立ち向かった。

 

 信彦の存在で糊塗していた過去の憧憬……そしてこの強さを越えたいという想いが、ふつふつと沸きあがってくる。それは、無理矢理に生み出された恐怖などとは格の違うものだった。

 

「……ッ、」

 

 拳を握りしめ、ゆっくりと立ち上がる出久。勝利を確信していたノミ怪人がようやく異変に気づいたのは、少年が首を傾けたときだった。

 

 覗いた瞳に、もはや怯えはなかった。あるのはただ、滾るような戦意のみ。

 そして、

 

「──うおおおおおおおおッ!!」

 

 雄叫び。それは少年が、世紀王の正体を露にするための銃火だった。

 

 ノミ怪人に向き直り……握った両の拳を、顔の傍らで構える。ギチギチと常人ではありえない音が響き、顳顬の周囲に放射状の皺が広がっていく。

 

 そして見開かれたエメラルドグリーンの双眸が、ピジョンブラッドのごとく染まった──刹那、

 

「変、……身ッ!!」

 

 腕を振り上げ、変身の構えをとる。キングストーンがにわかに活性化し、出久の肉体を構成する細胞の一部をベルト状に顕現させた。

 光の中で変わりゆく肉体。少年のかたちを残した表皮が弾け飛び、ゴルゴムによってつくり出されたバッタ男の姿が露になる。それも一瞬のことで、生々しい緑色の裸身の大部分を漆黒の装甲──"リプラスフォーム"が覆っていく。

 

「……!」

 

 ノミ怪人が息を呑むのがわかる。そこに立つ存在はもはや、緑谷出久であって緑谷出久でない。

 世紀王ブラックサン──のちに市井の人々により、"仮面ライダー"と呼ばれることになる漆黒の戦士。

 剥き出しになった関節部から激しい蒸気が噴出する。周囲に陽炎をばらまきながら、黒の英雄は跳躍した。拳を構え、ノミ怪人に殴りかかろうとする。

 

 しかしノミ怪人は、その容貌とは裏腹に極めてすばしこかった。負けじと跳躍したかと思えば、次の瞬間には背後に回っている。背中に触手を叩きつけられ、ブラックは弾き飛ばされた。

 

「ッ!」

 

 そのまま勝己と同様に木の幹に叩きつけられる……とはならなかった。彼は空中で態勢を立て直して一旦着地、バッタの遺伝子がとりわけ色濃く反映された脚を活用して高く飛び上がったのだ。

 驚愕のあまり呆然とこちらを見上げるノミ怪人。一瞬豆粒ほどにまで縮小したその姿が、一挙に視界の中心を占めていく──迫ってくる。

 

 激情に駆られた出久……ブラックサンに、もはや恐怖などという感情は存在しえない。

 

 本能のままに、彼は拳を振り下ろした。"ライダーパンチ"──のちに仮面ライダーと呼ばれるようになったあとで、そう名付けられた一撃。

 拳が突き刺さった箇所の肉が弾け、ノミ怪人が苦痛に声をあげる。血に濡れた拳を解くブラックだったが、攻撃の手を緩めるつもりは微塵もなかった。

 

「ふ──ッ!」

 

 ノミ怪人の肩を蹴って再び高く飛び上がる。空中で一回転しつつ──キングストーンの発するエネルギーを、足先へ集中させていく。

 そして、

 

「うおおおおオオオオオ──ッ!!」

 

 咆哮とともに放つ……ライダーキック。これもそのように名付けられるのは、いま少し先のこと。

 

 いずれにせよその一撃は、ノミ怪人の肉体に膨大なエネルギーを流し込んだ。不忠を働く臣民に対する、王の鉄槌。この場合の裏切者は後者なのだが、キングストーンにとっては宿主の意志こそがすべてだった。

 

 断末魔の絶叫とともに、ノミ怪人の身体が紙のように吹き飛んでいく。やがて注ぎ込まれたエネルギーに身体が耐えきれず、原子崩壊を引き起こす。傍目には噴き出した赤い霧の中に消えるようにして、ノミ怪人はその命を散らした。

 

 

「…………」

 

 烈しい咆哮と打って変わって、着地したブラックは静謐そのものだった。真っ赤な複眼が、怪人の残骸である白煙をじっと見つめている。

 数秒ののちには、彼の心は倒れ伏す獣人のような姿をした少年に向けられていた。ほどなくその姿が、もとの爆豪勝己のものへと戻っていく。表情は眠っているように安らかだ。発生源の消滅によって、獣化ホルモンが効力を失ったということだろう。

 

「かっちゃん……やっぱり、すごいや……」

 

 世紀王の精悍な姿に似合わぬボーイソプラノが、憧憬の響きを奏でる。

 少年は思うのだ。母と信彦の家族を除いてこの世界にただひとり、爆豪勝己ならこの孤独を分かちあってくれるかもしれないと。そうしてまた、長きに渡って止まったままだった時計の針を動かすことができたら。

 

 

 そう、願っていたのに。

 

 

 *

 

 

 

「結局、かっちゃんには何も話せなかった。……黒松に会ってからのできごと全部、忘れてしまっていたから」

 

 現在──15歳の出久は、勝己の取り巻きと自身の弟分という相反する立場を掛け持つ少年たちにそう告げて話を締めくくった。

 

 沈黙のまま、その余韻を引きずっていたふたり。ややあって、後ろ髪を短く刈り上げた少年がぽつりとつぶやいた。

 

「……なんで忘れちまったんだろうな、カツキ」

「なんでって……」長髪の少年が応じる。「そのホルモンの副作用とかじゃねーの?」

 

 彼はあまりものを考えない性質であったが、的外れな推測ではなかった。ノミ怪人のホルモンは勝己のまだ幼かった肉体に短時間で急激な影響を及ぼしたのだ、後遺症があってもおかしくはない。ホルモン摂取前後の記憶喪失で済んだのは不幸中の幸いとさえいえる。

 

 それに、今さら思い出したとて、勝己の人生においてどれほどの意味があるというのか。思い出してほしいと願うのは、自分のエゴにすぎないのではないか。勝己と上手に付き合ってきた少年たちと相対している今、自問自答せざるをえない。

 二度世界を救った英雄の懊悩を見透かしたかのように、刈り上げの少年が口を開いた。

 

「……きっと、カツキは思い出すよ」

「え……」

「根拠はねーけどさ、多分、アニキが心の底から思い出してほしくなったときに。アイツ、そーいうヤツなんだよ。色んな意味でとっつきにくいヤツなんだけどさ……だから、嫌いになれねーんだよな」

 

 そうして、視線をかわすふたり。自ずと表情に浮かんだ苦笑は、勝己の怒り肩を追っていた中学生の頃と変わらないものだった。

 

 

つづく

 

 






汗と涙の高校生活、イベント第三弾は……学級委員決め!委員長の椅子を勝ち取るのはやはり仮面ライダー・緑谷出久なのか?それとも……!?

一方、最近出久に運転してもらえず欲求不満ぎみなライドロン。出久の役に立ちたい一心のあまり、雄英高校で発生した騒動にとんでもない形での介入を試みる!果たしてその結末やいかに!?


次回 超・世紀王デク


ダメだやめとけライドロン


ライドロン『ぶっちぎるぜぇ!!』
デク「だからダメだって!?」

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