超・世紀王デク   作:たあたん

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flashback-光の車ライドロン-(後)

 

 ガンガディンの破壊したライドロンは、同じ材料を使用することで外見を似せたレプリカでしかなかった。

 アクロバッターとレプリカによる二重の時間稼ぎによって、出久は本物のライドロンとともにまんまと逃げおおせることができたのだ。クライシスの面々は当然、この聖なる海の洞窟のことは知らない。

 

──ライドロンに魂を吹き込むために、少年はここを選んだ。

 

「……久しぶりだね。あなたのおかげで、僕は今またここに来ることができた」

 

 しみじみと声をかける先には、がらんどうの空間が広がっている。しかしその奥深くに眠っているモノの存在が、少年の大きな翠眼には映っていたのだった。

 

──それは、ゴルゴムの一員でありながら出久とともに戦い、散っていったクジラ怪人の魂だ。

 

 肉体を失った精神は、そういう目に見えないものとなって永遠に滞留するほかない。触れあうことも、言葉をかわすこともできない。しかし今、ここにこうしてライドロンという容れ物が存在する。

 

「──聖なる海の洞窟よ!」目をかっと見開いて、出久が叫ぶ。「僕に命を与え、甦らせたその力でどうか!……魂なき肉体(ライドロン)と、肉体なき魂(クジラ怪人)を結びつけてくれ!」

 

 わかっている。想像を絶する巨悪に打ち勝つためには、人智を越えた奇跡に安易に頼ってはいけないのだと。

 だから、

 

「僕がここに来るのはこれが最後だ!だからもう一度……もう一度だけ、僕を救けてほしい……!」

 

 その場に跪き、祈るように両手を組む。どれほどの時間、そうしていただろうか。

 

『英雄よ。おまえの願い、確かに聞き届けた』

 

 そんな声が、聞こえた気がした──

 

 

 *

 

 

 

 ライドロンを破壊したものと信じきっているガンガディンは、余勢を駆って人々に対する攻撃を再開した。

 街は破壊され、逃げまどう人々。ゴルゴムのときのような枷はないプロヒーローや警察が連携しながら立ち向かうが、RXさえ苦戦させる怪魔怪人を相手にはとても太刀打ちできない。幾つもの防衛ラインを突破され、やがてその魔の手は住宅街にまで及ぶ──佐原一家の住む旧秋月邸や、母の待つ団地の付近にまで。

 

「──させるかぁッ!!」

 

 こんな奴に、帰る場所を奪わせてたまるか。そんな強い意志のもと、出久はひとり戦場へ戻ってきた。

 ガンガディンの砲撃をかわしつつ、再び──変身。

 

「僕は太陽の子……!仮面ライダーBLACK──RXッ!!」

 

 飛蝗の王と、戦車怪人が街中で激突する。──隙のないガンガディンに対し、RXは逆転の術をもたない。決定的なダメージを受けないよう注意しつつ、その進軍をせき止めるよりほかにない。

 それでも。

 

(大丈夫……。僕は、勝てる!)

 

 今度のRXには、その確信があった。理由など、今さら説明するまでもなかろう。

 

──聖なる海の洞窟に、残してきたライドロン。

 

『……ライ、ダー……』

「ライドロン……」

 

「ライドロン……クジラ怪人──僕を、助けて!!」

 

 その叫びはついに、ライドロンを"光の車"たらしめた。

 

 聖なる海の洞窟から、海中をも自らの力で走り抜け、戦場に姿を現したライドロン。彼はその体当たりでもってガンガディンを撥ね飛ばし、鮮烈なデビューを飾った。

 

「ライドロン……!きみは、クジラ怪人なんだね……?」

『……ああ』それは確かにクジラ怪人の声だった。『ライダー、オレは正義の戦士として生まれ変わった。この地球の美しい海を守るため、あなたの矛となり盾となろう』

「……ありがとう!」

 

 並び立つ勇姿。一方で騙されていたと知り動揺するガンガディン。

 RXの乗り込んだライドロンは、そんな怪魔ロボットの攻撃をものともせず大地を駆け抜ける。そしてその体当たりはガンガディンのキャタピラ部分を破壊し、彼の身体を横転させることに成功した。

 

『ぐぉ……う、動けん……!』

 

 脚部の形状ゆえに、一度倒れれば自力では起き上がれない──意外だが自明の理ともいえる、致命的な弱点。

 その隙を、RXは逃さない。

 

「リボルケインっ!!」

 

 サンライザーから引き抜いた唯一絶対の"それ"が、遂にガンガディンを貫く。

 

『!!!!!』

 

 注ぎ込まれる太陽エネルギー。ガンガディンは断末魔の叫びをあげる間もなく爆散する。仮面ライダー、そして第二の相棒となったライドロンの勝利だ──

 

 

 *

 

 

 

「……あのときは、本当に嬉しかったなぁ。もう一度、チャンスをもらったような気がして」

『チャンス?』

「もう一度、ちゃんと仲間としてやり直すチャンス。きみもそうだったけど……ゴルゴムと戦ってた頃は、なんにも気遣ってあげられなかったから」

 

 あの頃はただ、目の前のことに必死だった。たった12歳の子供が、ほとんど誰の助けもなく独りぼっちで戦っていたのだから無理もない。しかしせっかくできた仲間を大切にできていなかったという事実は、未だに大きな後悔として残っていた。

 

「……でも結局、そういうところはあまり成長してないんだ。いつまでこんな、子供みたいに未熟なんだろう……僕」

『仕方ナイダロウ、マダ子供ナンダカラ』

「いや、そりゃそうなんだけど」

『……心配スルナ。不足ガアルナラ、我々ガ補ウ。ソレガ、仲間トイウモノダロウ』

「アクロバッター……」

 

 そう──心だけでも人間であろうとする限り、決して完璧になどなれない。出久だってそれは身に沁みて理解っている。だからもっともっと、仲間が欲しいのだ。

 

──何より。一度できた仲間を失うつもりは、毛頭なかった。

 

 

 *

 

 

 

 水平線に、夕日が沈みゆく。

 

 すっかり綺麗に片付けられた多古場海浜公園に、ふたりはたどり着いた。

 

「……やっぱり、ここにいた」

 

 アクロバッターを停止させた出久が、砂浜を見遣りながらつぶやいた。果たしてそこにはライドロンと、その傍らに座る鋼のジョーの姿があった。

 

『イズク、行ッテヤレ。私ハココデ待ッテイルカラ』

「うん。……ありがとう、アクロバッター」

 

 相棒の気遣いに感謝しつつ、出久は道路からひらりと飛び降りた。砂浜を踏みしめる音が、ライドロンたちのもとにまで届く。

 

「お、」

『──!』

 

『イズ、ク……』

「………」

 

 夕日を浴びながらゆっくりと歩み寄ってくる主の姿を目の当たりにして、ライドロンのエンジンがぶるぶると音をたてて震える。それに気づきつつも、ジョーはそっと歩きだした。

 

『おい、ジョー……』

 

 心細くなって呼び止めるライドロン。一瞬立ち止まるジョーだったが、結局のところはひらひらと右手を振って去っていく。アニキと呼び慕うだけあって、彼は出久の心根をよく理解していた。

 

 入れ替わりに、出久が隣にやってくる。そのまま砂上に座り込んだ彼の表情は、ライドロンの予想に反して静かなものだった。目の前の、夕凪のように。

 

「……心配したよ、ライドロン」

『……!』

 

 表情に違わぬやさしい声に、ライドロンはとまどう。だが自分にはもう、そんな言葉をかけてもらう資格などないのだ。

 

「帰ろう、一緒に」

『……駄目だ……!』

「どうして?」

『ッ、そんなこと……!』

 

『俺は……あなたの守ろうとしている人間を、殺そうとしたんだぞ……!』

 

 たとえ自分に害をなす者であったとしても、同じ人間を殺めるなどヒーローとしてあってはならないこと。怒りに我を忘れて、ライドロンはそんな主の信念に逆らってしまった。

 

『俺は結局ゴルゴム怪人なんだ、人間を愛してはいないんだ!……だから、平然とあんなことができる……!』

「ライドロン……」

『……わかるんだ。あれは、気が触れての一時の過ちなどではない』

 

 もしもまた同じことがあったなら、自分はまた同じことを繰り返すだろう。ライドロンは断言する。優しい主の情けを、断ち切ろうとするかのように。

 沈黙が降り、波の打ち寄せる音ばかりが響く。今度こそ出久は自分に失望しただろうと、そう思った。やがて彼は立ち上がり、自分を置き去りにして去っていくのだと。

 

 ややあって、出久が口を開く──

 

「もし、そんなことがあったら……」

『………』

 

 

「また僕が、きみを止めるよ」

『え……』

 

 ライドロンは思わず主を見遣った。子供の面影を色濃く残した童顔が、柔らかな笑みに染まっている。それは慈しみの中に、ほんの少しの寂しさを内包したかのようないろを孕んでいた。

 

「何度でも、何度でも。必ず、僕が止めるから」

『イズク……』

 

 出久の瞳は、それがハッタリでもなんでもないことを雄弁に語っていた。心が揺れ動く。でも、それでも……。

 

『万が一……止められなかったら?』

 

 事に及ぶのが、今回のように出久の眼前であるとは限らない。その可能性にまで言及せねばいられない──もう、あとには退けなかった。

 しかしそれは、出久とて同じことだったのだ。

 

「そのときは……一緒にどこか、誰もいないところへ逃げようか」

『な……!?』

 

 これにはライドロンも面食らった。流石に予想だにしない返答だった。

 

「山奥……いや、きみの故郷の海がいいかな。海の底でふたり、静かに生きていくんだ。呼吸の問題はあるけど、キングストーンがまたなんとかしてくれるだろうし」

『そんな……そんなことありえない!だってあなたは、優しい世界を創るために戦うんじゃないのか!?それを、俺ひとりのために……』

「……そうだね」

 

「でも──仲間だから」

『あ……』

 

──………。

 

──……あぁ、そうだ。そうだった。

 

 出久がこうまで自分を見放さないことに、理屈なんてない。彼の心の中には、ふたつの孤独が深い傷痕となって残っている。これ以上何も失いたくないし、失わせたくない──ただ、それだけなのだ。

 

 そして自分も、出久を傷つけたくなどない──それが、答だった。

 

『……すまない、』

「………」

『すまなかった……イズク。俺も、あなたの仲間でいたい……これからもずっと……』

「ライドロン……」

 

 想いのこもった微笑を浮かべた出久が、す、と身を寄せてくる。その体温を感じて人工の身体ゆえの冷たさを申し訳なく思ったが、ライドロンはそんな己を戒めた。この身体は、他ならぬ出久がくれたものなのだ。

 

 

 夕日が水平線の果てに沈みきるその瞬間まで、彼らは静かに身を寄せ合っていた──

 

 

 つづく

 

 

 






雄英高校での日々が過ぎてゆく。
ヒーロー基礎学の一環として今度は救助訓練に臨むことになった出久たち1年A組に、蠢動を続けていた悪意が遂に牙を剥く――!

「さぁ、ゲームスタートだ……!」

次回 超・世紀王デク

甦る悪夢

???「お久しぶりですね……ブラックサン」
デク「どうして、おまえが……!?」

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