超・世紀王デク   作:たあたん

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1期を見返して思うのは、デクがまだひょろいこと。
単に作画の問題かもしれませんが、3期あたりから急激に等身が上がって体格もよくなってる気がします。

回想の高校生オールマイトもまだ細かったし、将来的にはデクもマッスルフォームと化すんだろうか…あの童顔で…。


甦る悪夢(後)

 

「あれは、ヴィランだ……!」

 

 相澤消太の言葉に、生徒たちの緊張は最高潮に達していた。

 一方で、

 

『13号にイレイザーヘッドですか……。先日いただいた教師側のカリキュラムでは、オールマイトもここにいるはずなのですが』

 

 全身あちこちに手の意匠を身に纏った痩身の青年……ではなく。彼や彼に率いられたヴィランが現れた黒い靄から、声が響く。

 それに応えるでもなく、青年は独りごちた。

 

「どこだよ……せっかく大衆引き連れてきたってのにさ。オールマイト……平和の象徴、いないなんて……」

 

「──子供を殺せば、来るのかな?」

「……!」

 

 この男だ!出久はそう確信した。少なくとも怪人の類いとは異なる、生身の人間であるように感じる。しかしこの、異様な気配。

 

「先生!!」

 

 13号の庇護から半ば強引に抜け出して、独り矢面に立つ相澤のもとへ走る。

 

「な、緑谷……!?」

「あの兵隊はお願いします。僕があの司令塔らしき男を無力化して、可能なら靄の向こうに……!」

 

 あの靄はワープゲートか何かだと、出久は早くも当たりをつけていた。ならば、その向こうは敵の本拠である可能性が高い。こいつらの全貌をすぐにでも掴み、可能ならば壊滅させる。遭遇から数分でもないうちに彼がそこまで逸るのは、このヴィランがただの悪人集団ではないという直感によるものだった。

 

 当然、まだ付き合いの浅い相澤にはそこまで察しがつかない。得体の知れないのは、出久の思考も同じだった。

 

「……おまえはまだ仮免も持っていないんだぞ。以前のことはお目こぼししてもらっただけだということを忘れるな!」

「ッ、……わかってます!でもあいつら、ただのヴィランじゃない気がするんだ!」

「何……?」

 

 相澤は訊き返したが、出久の目はもう尋常なものではなかった。

 

「ここで奴らを止めなきゃ……また、大勢の命が……!」

「緑谷……」

 

 しかし、相澤が是非を述べる機会は与えられなかった。

 出久が"兵隊"と呼んだ無数のヴィランたちが、一斉に襲いかかってきたのだ。

 

「ッ!」

 

 応戦しようとする相澤。しかし出久の行動はそれより速かった。周囲にバチバチと閃光を振り撒いたかと思えば、

 

 一瞬にして、直線上のヴィランが吹き飛んでいた。

 

「!?」

 

 そのときばかりは、ヒーローもヴィランも、生徒たちも思いはひとつ。ただただ、驚愕。

 

「変身、してねえよな……?」

「それでもあいつ、あんなスピードで……」

「……いや、彼は入試のときからそうだった」

「確かにNE☆」

 

 あのときの不敵な──今にして思えばやや照れも含んだ──笑みを、同じ会場にいた面々は思い起こしていた。

 

──そして、常人には目視できない速さで飛ぶ出久。変身せずそれができるのは、強化された肉体にワン・フォー・オールが完璧に馴染んでいるおかげだった。

 道を塞ぐヴィランを一瞬一瞬でぶちのめしながら、一心不乱に彼が目指すは漆黒のゲート。そして、その前に立つ死に神のような青年。

 

(まずはあいつを……確保する!)

 

 司令塔を潰せば、残るは烏合の衆。イレイザーヘッドと13号がいればどうにでもなると出久は判断したし、それは事実だった。

 そしてかの青年、外見こそ不気味だがいち人間でしかないことに違いはない。

 

「そりゃオレを狙うよなぁ……仮面ライダー?」

 

──だからこそ……なんの対策もないわけがなかった。

 

「ほら、さっさとやれよ」

 

 刹那……青年の肩越し、ブラックホールから何かが突き出す。それは──手だった。

 

「ッ!?」

 

 危機を察知した出久は停止──いや間に合わないと、変身しようとする。しかしその手に放たれた光に呑み込まれるほうが、寸分早かった。

 

「緑谷!?」

 

 相澤が声をあげる。勢いを完全に失い、光の中から墜落する出久の姿。

 

「……ッ、何、した……!?」

「すぐにわかるよ」

 

 くつくつと嘲う青年。対する出久は、身を焦がすような灼熱に襲われていた。細胞すべてが、ぐつぐつと煮えたぎるような錯覚。

 

「ッ、こんな……もの……!」

 

 その苦痛を押して、立ち上がる。刹那、背後から当惑の声が……ヴィランからは、歓声があがった。

 

「緑谷、おまえ……その姿……」

「え……?」

 

 熱が引いていく。同時に、それに糊塗されていただろう違和感が襲ってきた。身体のラインがわずかに出るくらいにはフィットしていた体操服が、やけに弛くなっている。それに……目線が低い。

 

「どうなって……──ッ!?」

 

──声も、甲高い。元々男としては高めの声だと自認してはいるが、それにしたってこんな、変声期を迎える前のような……。

 

(まさか……!?)

 

 そう──出久は"縮んで"いた。正確には、年齢を退行させられたというべきか。

 おそらくは、ヴィランの個性によって。

 

「へへッ、やったぜ!ざまーみろ仮面ライダー!」

 

 ブラックホールから意気揚々と飛び出してきて、そう下卑た声を発するヴィラン。罠(トラップ)としての役割を彼は成し遂げた……と、思いきや。

 

「……なに頑張った気になってんの、おまえ?」

「ヒッ!?」

 

 青年は相手を射殺さんばかりの眼で彼を睨みつけていた。

 

「赤ん坊にまで退行させろって言ったろ……使えないなぁ、おまえ」

「い、いや、オレだってそのつもりで……」

 

「──仕方がありませんわ、死柄木弔」

 

 刹那響く、少女の声。それは場に不釣り合いなほど優美で、柔らかなものだった。

 同時に、ブラックホールの中から声の主であろう純白のドレスの少女が現れる──タキシード姿の、無機質な仮面を被った少年とともに。

 

「相手は"世紀王"ですもの、不完全であれ効き目があったというだけでもよしとしなくては」

「……あぁ、そう」

 

 気だるげにそっぽを向く青年──死柄木弔を一瞥すると、少女の視線は出久を見据えた。吸い込まれそうな漆黒の瞳。その容貌に見覚えはないが……死柄木のそれとも異なる、尋常でない気配を感じるのはなぜか。隣の、茫洋と立ち尽くしている仮面の少年からも。

 

「ふふ……その可愛らしいお姿。お久しぶりですね、──ブラックサン?」

「……!?」

 

 ブラックサン──仮面ライダーの、本当の名前。ゴルゴムの絶対神たる創世王に至る過渡期の存在、世紀王としての。

 それは出久がとうに捨てたはずの名前だった。ゆえに知るのは、ゴルゴムに連なる者だけのはず。

 

「おまえ……誰なんだ……?」

 

 唸るような声で訊く。──本当は、予感があった。ただ、それが的中することなどあってはならないと思いたかったのだ。

 しかし現実は、どこまでもままならないものだった。

 

「誰とはあまりに情けないお言葉。ただひとり生き残った世紀王様が、忠実なるしもべの顔をお忘れになるなんて」

「何……?」

「……いえ、ご無礼をいたしました。あなたがご存知の顔は……こうでしたわね」

 

 す、と己の顔に手をかざす少女。そして、花嫁のようなベールがゆっくりと脱ぎ捨てられる──

 

 そして出久は、息を呑んだ。出久ばかりではない、その顔を見た面々すべてが、本能的な畏怖を身に刻んでいた。

 あやしく光る、純白の皮膚。左目の周囲を覆う痣のような紺碧は、彼女がヒトを超越する者である証に他ならない。

 

 その変化はほとんど一瞬のことで、数秒のうちに彼女の顔はもとの少女のそれへと戻っていた。しかし出久の脳裏には、おぞましい記憶が走馬灯のようによみがえる。

 

「そんな、まさか……。どうしておまえが……!?」

「………」

 

 

「ビシュム……!」

 

 

──大神官ビシュム。暗黒結社ゴルゴムの大幹部たる三神官のひとりとして、幾度となく仮面ライダーを……緑谷出久を苦しめてきた存在。しかし最期は出久を道連れにしようとして果たせず、シャドームーンの名を叫びながら壮絶な死を遂げた……はずだった。その瞬間を、他ならぬ出久自身目撃している。

 

 にもかかわらず、彼女がなぜ生きてここにいる?姿かたちが変わっているとはいえ──

 

「緑谷ッ!!」

「!」

 

 相澤の呼び声で出久は我に返った。ビシュムを名乗る少女に気を取られているうちに、気づけば木っ端のヴィラン集団に囲まれつつある。彼らの目は一様に、あの仮面ライダーをいたぶることができるという嗜虐心に満ちあふれていた。

 

「チッ……13号、避難開始!学校に連絡を。センサーの対策も頭にあるヴィランだ、電波系の奴が妨害してる可能性もある……上鳴、おまえも個性で連絡試せ」一通り指示を飛ばしつつ、「緑谷は、俺が救出する──ッ!」

 

 言うが早いか、相澤は跳躍していた──ヴィランの集団めがけて。

 当然、ヴィランの面々はご自慢の個性でもって攻撃を仕掛けようとする。しかし、

 

「な……!?」

「個性が……出ねえ!?」

 

 相澤が"抹消"の個性を発動させたことで、彼らはことごとく無力化されてしまった。オールマイトや13号とは異なり、並みのヴィランは抹消ヒーロー・イレイザーヘッドを知らない者も多い。ゆえに、狼狽するのも無理からぬことで。

 そうこうしているうちに、彼らはマフラー代わりにしている捕縛布により絡めとられていた。

 

 個性が消される──それを知ったヴィランのうち、異形型の者が殴りかかる。発動させるまでもなくもとより肉体が変質している場合、そもそも"消す"ことができるか……答は否だ。

 

 だが、相澤の戦い方は個性一辺倒ではなかった。巨大な拳をぎりぎりまでひきつけてからかわし、その顔面にカウンターを喰らわす。細身から繰り出されるとは思えない信じられない威力が、異形型ヴィランを吹っ飛ばした。

 その戦いぶりに、数年ぶん幼い姿にされた出久は舌を巻いていた。

 

(流石イレイザーヘッド……多対一こそ得意分野だったのか)

 

「緑谷!」

「!」

 

 再び名が呼ばれる。──そうだ、今のうちに逃げなければ。

 

 ワン・フォー・オールは発動しないようなので、ずり落ちそうになる服を押さえながら彼は懸命に走った。そのようなハンデはあるが、不思議と身体は軽い。

 13号や同級生たちのもとへ駆けつけつつ、背後を見遣る。──ビシュムを名乗る少女と、視線がかち合う。ただ、気にかかったのは彼女と行動をともにしている仮面の少年だった。

 

(あいつがビシュムだとするなら……まさか、ダロムかバラオム?)

 

 この手で滅ぼした、残るふたりの大神官を思い返す。ビシュムが生き返っているのだからそうであっても不思議はないが、それとは異なる気配を感じる。どこか、懐かしいような──

 

『緑谷くん、こちらです!』

「急ぐんだ緑谷くん!」

「ッ、うん……!」

 

 随分大きくなってしまった友人に手を引かれ、さらに走る。これで仲間とは合流できた。相澤を殿に残していくことは気がかりだったが、こんな姿にされてしまった以上、いったんは皆と一緒に行動するほかない。孤独な戦いを経ているからこそ、出久にはそういう辨えがあった。

 

 走る20人の生徒と、ひとりの教師。出入口はもうすぐそこだ。

 

 

──ほっと胸を撫で下ろしかけたのもつかの間……暗黒の"ワープゲート"が、彼らを地獄へと陥れた。

 

 

 *

 

 

 

 苦しい。

 

 息を吐き出すたびに、無数のあぶくが浮き上がっていく。

 

(水の、中……!)

 

 意識をはっきりさせた出久は、あのブラックホールのような暗黒によって水中に転移させられたのだと思い至った。水中といっても外部ではなく、USJ内の──おそらくは水難救助を想定した──エリアのひとつだろう。しかしかなりの水深があるようだ。

 こんなところで襲われたらひとたまりもないと、出久はまっすぐ上を目指した。敵に囲まれるリスクを考えても、文字通り地に足がつくフィールドであったほうがいい。

 

 しかし、さながら人喰い鮫のごとく。鼻のきくヴィランのひとりが、既に出久を捕捉していた。水中活動に適応した異形型の肉体を武器に、一気呵成に迫りくる。

 

「……!」

 

 ワン・フォー・オールも使えない身体である今、逃げるすべはない。危機感に支配されかかったとき、腹の奥でなにかがどくりと疼く。

 これはと思った瞬間、ヴィランは横っ面を叩かれるように吹き飛ばされていた。同時に出久の身体は絡めとられ、地上へと運ばれる。少なくとも敵でないことは理解し、身を任せることにした彼を最終的に迎えたのは水上に浮かぶ一艘の船だった。

 同時に水面から顔を出したのは──蛙吹梅雨と、峰田実。

 

「ふぅ……間一髪だったわ」

「あぁ、カエルのわりになかなかどうしていいおっぱい……」

「!、………」

 

 刹那、峰田は甲板に勢いよく叩きつけられていた。

 

「うわぁ……」

「緑谷ちゃん、大丈夫?」

「!、う、うん、なんとか……。ありがとう、梅雨ちゃん」

「どういたしまして」

 

 自らも船に上がってきつつ、はにかむ梅雨。出久もつられて笑い返した。一瞬の安息、しかしすぐに表情を引き締めた。

 

「大変なことになってしまったわね……」

「……うん。あの黒い影のヴィランが言ってたことからして、標的はオールマイト……でも……」

 

 あの少女が本当にビシュムなら、襲撃者たちはゴルゴムの傘下ないし同盟を結んだ勢力ということになる。狙いは本当にオールマイトだけなのか?自分もそうなのではないか。

 考えることはまだある。あの黒い影のヴィランは、「オールマイトがいるはず」と言った──つまり、事前に雄英のカリキュラムを知っていたということ。

 

「この前のマスコミ、チンピラ……全部、周到に用意された計画だったってことか……!くそっ……」

「……そういえば緑谷ちゃん、あちらにいた女の子のこと、知っている様子だったわね」

「!」

 

 梅雨の言葉に意識を引き戻される。──そうだ、話しておかねばなるまい。

 

「……あいつは、とうに死んだはずのゴルゴムの大幹部の名前を名乗ったんだ。それが本当かはわからないけど……」

「もし本当だとしたら、ゴルゴムの残党がこの襲撃に関与しているということね」

「うん……ごめん、僕のせいで」

「どうして緑谷ちゃんが謝るの?あなたにはなんの罪もないわ」

「それは……」

 

 自分がゴルゴムの世紀王だからです、と言えたら少しは心も軽くなるのだろうか。現実には、口をつぐむほかなかった──今は、まだ。

 

「でもよでもよ!」峰田が口を挟む。「こっちにはオールマイトに仮面ライダーまでいるんだぜ?いくらゴルゴムが協力してるったって、あんなチンピラヴィラン集めたところで……」

「峰田ちゃん、その仮面ライダーは子供にされてしまったのよ」

「!!」

 

 口を開けたまま言葉を失う峰田。その表情がさっと青ざめていく。

 

「オールマイトにしても、殺せる算段が整っていると考えるほうが自然だわ」

「……そうだね。それにあのヴィラン、僕ら生徒をなぶり殺しにするとも言った」

「あ……あ……」

 

 ともあれ、今できることはそれほど多くはない。多くはないが、あるいは──

 

 その"可能性"を考えていると、梅雨が何かを察知した。──水中型ヴィランたちが、迫りつつある。

 

「かっ……囲まれたァ!!?」

 

 悲鳴のような声をあげる峰田。対する梅雨は……どこまでも冷静だった。

 

「水中に下りるわ。峰田ちゃん、できれば援護してちょうだい」

「下りるって……ひとりで戦うつもりかよ!?無茶だ、相手はひとりふたりじゃないんだぞ!?」

「わかってるわ、でもこの状況じゃやるしかないもの」

 

 戦って勝つ──助かるすべは、他にない。梅雨にはそれがわかっていた。

 怖くないのかと、峰田は問う。そんなの、怖いに決まっているじゃないか。そう心のうちでは思ったが、決して口には出さない。形にしてしまえば、今にも身体が震え出しそうだったから。

 

 そのとき、

 

「ひとりじゃないよ」

 

 そう告げたのは他でもない、緑谷出久だった。

 

「僕も、一緒に戦うから」

「ハァ!?」

「何を言っているの緑谷ちゃん、あなたは今、子供の身体なのよ!?」

 

 あの絶対的な力は、今この瞬間発揮できない──梅雨も峰田も、そう考えている。確かにそれは真実だったが……完全に無力化されてしまったことと同義ではなかった。

 

「知らないかな、ふたりとも」あえて挑戦的な笑みを浮かべ、「僕が初めて"変身"したのは、12歳のときだよ?」

「……!」

 

 目を見開くふたりの前で、出久は己が拳に力を込めた。親友の形見のグローブが、ギリギリと軋んだ音をたてる。

 

「だから見ていて、僕の──変身!」

 

 少年の翠眼が、赤い輝きを放とうとしていた──

 

 

 つづく

 

 

 





生き延びるため襲撃者たちと死闘を繰り広げる、バラバラに引き離された雄英高校1-Aの生徒たち。一方で12歳の肉体に戻された緑谷出久もまた仮面ライダーBLACKに変身、仲間と力を合わせて難局に立ち向かうが……!?

デク「誰だ……誰なんだ……!?」

襲いくる仮面の少年。その素顔が露になったとき、出久の心は揺れ動く!


次回 超・世紀王デク

ボーイ・ミーツ……

ぶっちぎるぜぇ!!

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