不思議なことが起こってくれたようです!皆応援ありがとう、トゥアッ!!
ってわけで本格登場RX!
本作のメインヒロインちゃん(?)も出ます!
「仮面、ライダー……!」
約2mの屈強な体躯を誇る、緑と黒の異形なる戦士。ほとんどのヒーローが手出しできなかったふたつの巨悪とたった独りで戦い、世界を守り抜いた生ける伝説。
彼は落下してきたノートをその手に掴み取ると、そのままヘドロヴィランに向かって投げつけた。
(25ページ……!)
《相手の面前に素早くウデ(ツル)を伸ばしてひるませ、その隙に拘束》
そんな戦法が綴られたノート自身も、まさか自分が気円斬のごとく扱われるとは思ってもみなかったろうが。
「グギャアァッ!!?」
凶器と化した角が眼球に突き刺さり、ヘドロは絶叫する。その身から力が抜け、勝己の拘束がわずかに緩んだ。
その隙を、仮面ライダーは逃さない。
「――リボルケインッ!」
サンライザーに手をかざせば、光輝たる杖"リボルケイン"が出現する。
突き刺し、光のエネルギーを送り込むことで幾多の人ならざる怪物を葬り去ってきた伝説の武器。しかし彼はいま、それを"救ける"ためだけに使おうとしていた。
「はッ!」
棒状部分が鞭のように軟らかくしなったかと思えば、勝己目がけて一瞬の間に伸長する。思わず目を背けかける勝己だったが、
「掴まれ――かっちゃんッ!」
「……!」
我に返る。巨大な赤い複眼は、本来の幼なじみとは対照的な色。だが、その輝きは――
「ク、ソォ……!」
何かを呪うことばを吐きながら、それでも勝己は鞭の先端を強く掴んだ。刹那、仮面ライダーがリボルケインを力いっぱい引いたことで、その身体は宙へと放り出される。
意識が朦朧としていた勝己は、受け身をとることもできない。
でも、大丈夫。
「――ッ」
仮面ライダーが、その身をがっちりと受け止めてみせたのだ。
「かっちゃん、しっかりしてっ、かっちゃん!」
「デ、ク……」
なんで、
「……ン、で。テメェ、が………」
「………」わずかな沈黙のあと、「きみが、救けを求める顔してたから」
「……ッ」
違う、そうじゃない。訊きたいのは、そんなことじゃない。
でも、まだすべてが終わったわけではなかった。ヘドロヴィランは、彼らの目前で蠢き続けていたのだから。
「………」
勝己を抱えたまま戦って、これ以上危険に晒すわけにはいかない。ライダーは一計を案じ……再び、叫んだ。
「アクロバッター!!」
刹那、固唾を呑んで見守る群衆たちの頭上を、一台のバイクが飛び越した。
青に黄のラインが入ったボディ。バッタに似たフォルムとカウル部の赤い複眼は、仮面ライダーと共通している。――アクロバッター、仮面ライダーがその名を民衆によって与えられた所以たる存在だった。
駆けつけた"彼"に、ライダーは命じる。
「アクロバッター、かっちゃんをヒーローたちのところまで避難させるんだ」
『任セロ、ライダー』
人語まで使いこなして応じると、アクロバッターはライダーによって乗せられた勝己を振り落とさぬように離脱していった。
あとは、決着をつけるだけ。
「……ヴィラン。僕の友達を傷つけたこと、後悔させてやる」
「ふざ、ケンナ……!こんな、こんなコトが……!」
ヘドロはもはや正常な判断力を失っていた。恐怖でおかしくなっていたと言ってもいい。抱えきれない恐怖を恐怖と認識しきれず、ゆえに降伏ではなく特攻を選ぶ。
しかしその腕が振り下ろされた先に、ライダーの姿はなかった。
「へ……?」
頭上に、影が差す。つられて、見上げる。視界の動きが、異常なスローモーション――
――そこには、太陽を背に跳ぶバッタに似た異形の姿。
それは、こちら目がけて両足を突き出し、
「――RX……キィック!!」
彼が意識を刈り取られる前に見た、聞いた、それが最後だった。
*
仮面ライダーの活躍により、すっかりノびてしまったヘドロヴィランは無事に逮捕された。
「………」
野次馬や事後処理に動き回るヒーロー&警察官たちで相変わらず騒がしいなかで、勝己は悄然と座り込んでいる。「すごいタフネス」「すごい個性」「ヒーローになったら是非ウチに来てくれ」――ヒーローたちからかけられる称賛のことばは、彼の耳には入りはしない。
それに。ほどなくして、彼らは波を打ったように静まりかえった。未だ燻る炎の中から、かの異形の英雄がゆっくりと歩いてくるからだ。
「仮面、ライダー……」
「まさか、あんな子供が……」
ヒーローたちの関心は、もはやそちらに移ってしまう。変身したというだけなら、なんらかの個性で外見をコピーしただけという解釈もできただろう。しかしまったく手こずることなく人質を救出し、ヴィランを鎮圧したそのパワー……本物と、認めざるをえない。
そんな彼らを一瞥することもなく、ライダーはアクロバッターに手をかける。デステゴロが慌てて呼び止めた。
「ま、待つんだ!きみには訊かなきゃならんことが――」
「………」
刹那、ヒーローたちは尽くその身を震わせた。向けられた巨大な赤い瞳――表情のないそれが、しかし凄まじい気迫を宿している。視線だけで命を奪われると錯覚してしまうほどに。
「――あなたたちは何者だ?」
思わぬ、問い。ヒーローたちはただ、呆けることしかできない。
「あなたたちは、何者だ?」
もう一度、繰り返される。意図の読めないそれに苛立ったデステゴロが「わからないのか?ヒーローだ」と返すと、ライダーの拳に力がこもった。ひとりでに、足が一歩後ろへと下がる。
「なら、どうして救けようとしなかった?」
「そ、れは……」
「た、救けようとしたさ!だが我々の個性が通用する相手じゃなかった、だから応援を待っていて――」
「そうやって自分に言い訳をしてッ、彼の味わった苦しみや恐怖から目を逸らすのか!?」
空気を震わせるような怒声に、いよいよヒーローたちは口がきけなくなった。
「力が足りないのは仕方のないことかもしれない。合理的に判断するのは正しいことかもしれない。――でもッ、目の前で救けを求める人に手を伸ばすこともできないで、何がヒーローだ!!」
「……!」
ヒーローたちは、息を呑んだ。仮面ライダー――中学生の少年。彼は二年以上も前から、そうしてたった独りで世界を守ってきた。恐らくは、同級生が皆まだランドセルを背負っていた、そのときから……。
反論などできようはずもなかった。それどころか口が縫いつけられたかのように開かない。身体も動かない。
そんなとき、ヒーローたちの間を縫って、ライダー以上の巨躯が進み出てきた。
「!、オールマイト……」
――オールマイト、どうして?ライダーは……出久は内心驚愕した。世に知られた筋骨隆々の姿で現れた彼。でも、時間制限のためにその姿は保っていられないのではなかったか。
いや、実際そうなのだろう。その息は荒く、明らかに何かに耐えていた。必死に力を振り絞っている。
そんな彼が、ライダーに向かって深々と頭を下げた。
「……すまなかった。きみの言うとおりだ、ライダー」
「……!」
「私にも気の弛みがあった、そのせいでこんなことになってしまった。我々職業ヒーローの不手際、不心得、どうか許してほしい――少年も」
勝己に向かっても、頭を下げる。No.1ヒーローがそうしている以上、ほかのヒーローたちがそれに倣わないはずがない。
ライダーはまだ何か言おうとしたものの、結局口を噤み……アクロバッターを駆って、風のように去っていった――
*
人気のないところで変身を解いた出久は、アクロバッターと別れて帰路についていた。その表情はまったく曇りきってしまっている。
(やっちゃった……)
ヘドロヴィランを鎮圧して、勝己を救けられたことはよしとするにしても。その前後が問題だった。まず群衆の前で変身してしまったこと。雄英に入ればその時点で緑谷出久=仮面ライダーだと世間に明らかになるし、かつての戦いで得た伝手を使えば拡散はある程度抑えられる。ゆえにそちらは致命的な問題ではないにしても、
「オールマイトに……謝らせちゃった……」
もとはといえば、自分があそこでオールマイトにしがみついたりしていなければ。あのヘドロヴィランを逃がすこともなかったかもしれない。だから謝罪すべきは自分のほうだったのに、彼の秘密のこともあって何も言えず、結局無言で立ち去ってしまった。"恩人"に対して、とても失礼なことをしてしまったのだ。
「……帰ったら、ホームページからでもメッセしてみよう。そうしたらどこかで会って、改めて……」
後悔しても、過ぎたことは変えようがないのだから。そう決心して気持ちを入れ替えようとした出久の背中に向かって、「デクっ!」と呼び止める声が響いた。
「!、かっちゃん……?」
「ッ、………」
肩で息をする幼なじみの姿。その赤い瞳がひどく揺れている。
「もう帰されたの?あ、怪我、だいじょう――」
最後まで言いきらないうちに、勝己は爆破で勢いをつけ、出久に飛びかかっていた。
「クソ、デク……!」
「ッ、」
躱そうと思えば、できた。しかしあえてそうしなかった。勝己の激情の理由は、考えるまでもなかったから。
「……痛いよ、かっちゃん」
「テメェどういうことだッ、ア゛ァ!?あんな力ァずっと隠してやがったんか!?いままで俺を騙してたんか!!?ずっとずっとッ、俺を影で嘲ってやがったんか!!?」
「そうじゃない。放して」
「っざっけんな!!俺は……俺は――!」
胸ぐらを掴みながら、震える勝己の手を……自らの手で、出久は包み込んだ。
「放して、かっちゃん。じゃなきゃ、僕も話せない」
「……ッ!」
わずかな逡巡のあと、勝己の手が離れた。出久の手を振り払うようにして。
そのことに一抹の寂しさを覚えつつ、
「騙してたわけじゃない。でも、そうとられても仕方がないと思う……謝るよ、ごめん」
「……ざ、けんな」
今さら謝られたところで――それはそうだろう。
「わかってる、知られた以上、きみにはちゃんと話すよ。たぶん長い話になるから……移動しない?」
「………」
勝己が小さくうなずくのを認めて、出久は歩き出した。出久のほうが先を行く、そのことに勝己が何も言わないのは、おそらく初めてのことだった。
――ほどなくして彼らは、自宅近所の公園にたどり着いた。夕陽に照らされたそこは、記憶よりずいぶんと遊具が減らされている。子供たちの姿もなく、ひどく寂れてしまった印象を受けた。
「昔はここ、こんなじゃなかったのにね。僕らが一緒に遊んでた頃は、もっと……」
「……ンな話、聞きに来たんじゃねえわ」
「そっか。そうだよね」
苦笑しつつ、やや錆の入ったブランコへ腰を下ろす。昔は足がつかなかったけれど、いまはもう膝を曲げておかないと苦しいくらいだ。
勝己にも隣を勧めたが、拒否された。目の前に立ち尽くす彼の表情は、夕陽を背にしているためによく見えない。わずかに俯きながら、出久は過去をたぐり寄せはじめた。
「きみはもう覚えてないと思うけど……4歳の頃だったかな、きみと取り巻きの子たちが男の子を泣かせてて、僕が割って入ったことがあったんだ」
「……覚えとるわ」
――こっこれいじょうはっ、ぼくがゆるしゃなへぞっ!
忘れるわけがなかった。思えばあれが、燻り続ける己が憤怒のはじまりだったのだから。
「……クソ胸糞悪ィ」吐き捨てる。
「そっか」力なく笑い、「結局、僕もボコボコにされちゃってさ……。僕ってホントに何もできないムコセーのデクなんだなぁって思ったよ、あのときは。それに、きみとももう、もとの仲良しには戻れないような気がした」
「………」
その予感は、現実のものとなっていた。
「だからね、――あそこで信彦くんに出会えたことだけが、僕の救いだった」
「……信、彦?」
「たったひとりの……親友って呼べる人。ずっと、僕を励ましてくれた……」
「………」
知らなかった。出久に友達、まして親友と呼べる人間なんて誰もいないと思っていたのに。
変身を目の当たりにした瞬間に芽生えた胸のつかえが、ますます大きく鮮明になるような気がした。
同時に、その口ぶりが引っかかった。励ましてくれた――とは。
「そいつはいま、どこで何してんだ?」
「………」
一瞬の沈黙。そして、
「――もう……いないよ」
「……!」
目を見開き、ことばを失う勝己。そんな彼に追い打ちをかけるように、出久は語りはじめた。忘れもしない、12歳の誕生日……その蒸し暑い夜のこと。
あの夜、長きに渡る辛く哀しい戦いの日々が始まったのだ。
つづく
【登場人物】
緑谷出久/仮面ライダーBLACK RX
折寺中学校三年生。"デク"。
その正体はなんと、暗黒結社ゴルゴム、そしてクライシス帝国と独り戦い、壊滅に追い込んだ伝説の"仮面ライダー"!
その強さは健在で、ヒーローたちの物理攻撃をまったく寄せつけなかったヘドロヴィランをキック一発で昏倒させたのだった。
オールマイト
現在のNo.1ヒーロー。別名"平和の象徴"。チョーカッコイイヒーロー……でありながらその身に爆弾を抱えていることが明かされた。
ヘドロヴィラン入りペットボトルを落としたうえ"時間切れ"のために勝己を救けることもできないという失態を犯してしまい、ヒーローたちを代表してライダー(出久)や勝己に謝罪した。
爆豪勝己
折寺中学校三年生。"かっちゃん"。
個性を見込まれ、運悪くヘドロヴィランに人質にされてしまう。
仮面ライダーの正体が出久だったと知り騙されていたと憤慨するが、出久がライダーとなった経緯について聞かされることとなる。その過酷な運命を知ったとき、彼は何を思うのか――
アクロバッター
バイク兼相棒兼ヒロイン。ヒロイン。
ライダーの呼びかけに応じいつでもどこでも駆けつける。自我がありことばも話せる!出久が構ってくれないとスネることもあるらしいぞ!
ヘドロヴィラン
犯罪者。初っぱなから中学生男子相手に粘液プレイかました変態。報いとして気円斬ノートが目に突き刺さり、さらにRXキックを喰らってノックアウトされた。やっぱり踏んだり蹴ったりであった。更生してね!バイオライダーに弟子入り志願すればレギュラー入りできるよ!
デステゴロその他ヒーローズ
"ヘドロ事件"に居合わせたヒーローズ。ヘドロヴィランに攻撃が通用せず、応援待ちという傍観状態に甘んじていた。事件解決後、そのことをライダーに糾弾され、オールマイトに倣って謝罪した。彼らにもリベンジの機会が待たれる!
次回 変身――BLACK――
ぶっちぎるぜ!!