超・世紀王デク   作:たあたん

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アクロバッター:全員揃って留守にしているためガレージから出られず、アクサダイレクトの堤真一状態「誰かー!!」
ロードセクター:ジョーさんと遠方までお出かけ中


Rイドロン『俺にまかせろ~!!』


ボーイ・ミーツ……(後)

 

 仮面ライダーと梅雨・峰田がヴィランを鎮圧したのと同じ頃、13号と行動をともにする数人の生徒たちが、懸命に仲間たちの捜索を行っていた。このときは障子目蔵の個性によってようやく、散り散りになったクラスメイトたちがUSJ内にいることを把握したところだった。

 

 一団の中には、飯田天哉の姿もあった。

 

(……緑谷くん……ッ)

 

 無論、今ここにいないすべての級友のことが心配だった。しかし一番の親友である緑谷出久は、個性によって12歳の少年の身体に戻されてしまった。そしてきっと、オールマイトと並ぶ救世の英雄であるという理由でヴィランの最大の標的とされている。飯田は出久が仮面ライダーBLACKになら変身できるとは知らなかったが、仮に知ったとて気持ちは変わらないだろう。

 

 早く救けなければ──心ばかりが逸る飯田に、13号が『委員長』と呼び掛けた。

 

『キミに託します。学校まで走って、このことを伝えてください!』

「は……!?」

 

 驚く飯田に対し、13号は説明する。イレイザーヘッドがここまで個性を消し回っているにもかかわらず赤外線式の警報装置が作動しないのは、それらを妨害可能な個性の持ち主がどこかに身を隠しているから。それを探し回るより──飯田が"エンジン"の個性で走るほうが、速い。

 得心はいったが、かといって飯田には二つ返事で了承することはできなかった。

 

「ッ、委員長として、クラスの皆を置いていくわけには……!」

「──行けって非常口!」

 

 そう言い放ったのは、巨漢の少年──砂藤力道だった。

 

「外に出りゃ警報がある。だからコイツらはこん中だけでコトを起こしてんだろ!」

「外にさえ出れりゃ追っちゃ来れねえよ」瀬呂範太も追随する。「おまえの脚で、全力で振り切れ!」

「砂藤くん、瀬呂くん……」

 

『お願いします。キミの個性で、皆を救ってください!』

「………!」

 

 13号のその言葉──そして飯田を行かせるために黒い靄のヴィランの目前に立ち塞がる仲間たちの背中を認めて、飯田天哉の肚は決まった。

 

「……すぐに、戻ります!!」

 

 エンジンを噴かし、姿勢を低くする飯田。丸聞こえの会話を受け、彼の行く手を阻もうとするヴィラン。さらにそれを止めようとする13号と生徒たち。

 

──そこに、

 

『うおおおおおおおッ、イズクぅぅぅぅ~~!!』

「!!?」

 

 彼らの傍らを、真紅の颶風が駆け抜けていった。

 

『……なんですか、今のは?』

『いや、我々に訊かれても……』

 

 

──賢明なる読者諸氏におかれてはデジャブを覚えておられるかもしれないが……それは錯覚などではない。

 

(この前のリベンジだ……!今度こそ俺は、誰も傷つけることなくイズクを救けてみせる!)

 

 そう、ライドロンであった。

 この前の騒動もあって、今日は彼が出久とともに登校していた。そして出久の身に何かが起きたことを感じとり、ここUSJに急行してきたのだ。

 

 それはいいが……彼は雄英に救援を呼びかけるという肝心なプロセスを踏んでいなかったため、結局飯田天哉の役割は変わらない。主を救けたいという思いが暴走ぎみなのは、そう容易くは治らないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 ライドロンが来たことなどつゆ知らぬ仮面ライダーBLACKこと緑谷出久と蛙吹梅雨、峰田実の三人は、次なる戦場に向かってひた走っていた。

 

「………」

 

 沈黙のまま、跳ねるように駆ける漆黒の肢体。追う少年と少女もヒーロー志望ゆえ体力はあるほうだが、四歳も退行させられたはずの仮面の英雄は規格外だった。

 

「み、緑谷……!」

「!」

 

 息も絶え絶えの峰田に背後から呼びかけられて、仮面ライダーはその場に立ち止まった。振り返れば峰田ばかりではない、梅雨も肩で息をしている。命がけの戦いのあとにろくに休憩も挟まず走り続ければ、まともな人間は疲れるのだ──出久はようやくその普遍的な事実に思い至った。

 

「あ……ごめん、ふたりとも」

「いえ……こちらこそごめんなさい。私たち、まだまだ鍛え方が足りないわね」

「き、鍛え方の問題かコレ……?」

 

 峰田がじとりとした視線を向けてくるものだから、出久は思わずくすりと笑ってしまった。ぶつくさ言いつつも、以前のような敬遠は感じない。先ほどのやりとりは、間違いなく互いの心のうちに残っていた。

 

「体力使いきっちゃしょうがないもんね。少し休んでいく?」

「ケロ……ごめんなさい」

「ううん。僕もひとりじゃ心細いから」

 

 本音を言えば、一度変身を解きたかった。この異形の姿で長時間いることは、肉体的にというより精神的に疲弊するのだ。感情が顔に出やすい性質であるにもかかわらず、表情を動かすこともできない。それがつらいだなどと、目の前の同級生たちにはまだ言えそうもないけれど。

 

(言える日は……来るのかな)

 

 自嘲とともに、もとの緑谷出久の姿に戻ろうとした──そのときだった。

 

「──!」

 

 背筋をぞわりと怖気が走る。反射的に振り向いたBLACKが目の当たりにしたのは……どさりと投げ落とされる、漆黒の塊だった。

 

「!?、あ……」

「そんな……!?」

「────」

 

「相澤……先生……!?」

 

 

──血みどろで倒れ伏していたのは、生徒を逃がすため孤軍奮闘していた担任だった。意識がないのか、その身はぴくりとも動かない。うめき声ひとつ、発しない。

 すぐにでも駆け寄りたかったが、BLACKはその場にぐっと踏みとどまった。先ほどから感じる異様な気配。呆然としている梅雨と峰田を背後に庇い、大声をあげた。

 

「~~ッ、出てこい!!」

 

 答はない……言葉のうえでは。

 実際には、"彼"は驚くほど素直に姿を現した。タキシードを纏った小柄な身体が、真っ赤な複眼の中心を占める。

 

「おまえは……」

「………」

 

 少年は答えない。敵意すら窺わせない。しかしその小さな身体からあふれ出る威容は、チンピラのような他のヴィランたちの比ではなかった。

 

「相澤先生……まさか、あの子に……?」

「う、ウソだろ……!?だってあんな、オイラたちより小さい子供に……」

 

──やろうと思えばそれができる"子供"がこちら側にもいることは、ふたりの頭から抜け落ちていた。

 

「────」

 

 わずかな声ひとつ発することなく、遂に少年が動いた。鋭く地面を蹴ったかと思えば、一瞬にして距離を詰めてくる。──拳が、振り下ろされる。

 

「──ッ!」

 

 咄嗟のことに手加減もできず、自身も拳を繰り出す仮面ライダーBLACK。ぶつかり合ったふたつが、周囲に旋風を巻き起こす。

 ゴルゴム怪人に致命傷を与えうるライダーパンチ──常人が喰らえば、全身の骨という骨が粉々に砕け散ることは想像に難くない。

 

 にもかかわらず、少年は相変わらず表情ひとつ変えぬまま後方へ飛びのく。対する、BLACKは──

 

「ッ、ぐ……」

 

 拳を襲う痛みに、たまらずうめいていた。少年の一撃が、ライダーパンチと互角……それ以上の威力を発揮している?

 

「な、なんなんだよアイツ……!?」

「緑谷ちゃん……」

 

 見るからに怪物然とした姿をしている相手なら、まだ納得はできた。しかし相手は、異形型ですらない人間の少年で。

 ただ者ではない──見ればわかることだが、出久はそれ以上の"何か"を感じとっていた。他のヴィランや死柄木弔、ビシュムとも異なる気配。自身と相反するものでありながら、同質でもある……かつて、感じたことのあるもの。

 

 再び、少年が仕掛けてくる。やはり武器は使用せず、拳や蹴擊といった己の肉体を駆使した攻撃。12歳の出久とそう変わらない小柄な体躯であることを差し引いても、BLACKを上回る素早さ。ワン・フォー・オールのような増強型の個性の持ち主なのかもしれないが、出久に相手の個性を分析している精神的余裕はなかった。

 

(ッ、誰だ……!)

 

「誰なんだ……おまえは……!?」

 

──ただ、その一点のみ。

 

 やはり、少年が反応を示すことはなかった。機械的に繰り返される攻撃に、BLACKはずりずりと後退させられた。

 

「ッ、は……はぁ……ッ」

「………」

 

「──おわかりにならないのかしら、ブラックサン?」

「……!」

 

 沈黙を保つ少年に代わり、その背後にかの少女──ビシュムが姿を現した。その淑やかな口調といい、妖艶な表情といい……姿かたちは違えようとも、彼女があれほど自分を苦しめた悪魔のひとりなのだと出久は痛感せざるをえない。

 

「彼を、あなたはよくご存知のはず」

「何を……言って……」

「でも……考えている(いとま)もございませんか」

 

 そう、少年は仮面ライダーを打倒することしか頭にないようだった。一気呵成に距離を詰めては、再び重戦車のごとき破壊的な打撃を繰り出してくる。

 もう駄目だと、出久は思った。この少年が人間であろうとそうでなかろうと、生まれたてのブラックサンの身体で手加減できる相手ではない──

 

(殺すわけにはいかない……だけど──!)

 

 刹那、少年の膝蹴りがBLACKの腹部を捉えた。ぐぅ、とうめき声をあげるにはとどまらず、空中に打ち上げられる漆黒のボディ。

 しかしそれは、彼にとって望むところでもあった。高度数メートルでぐるりと身体を回転させ、右足を地上めがけて突き出す──!

 

「ライダー……キィィィック!!」

 

 今度は水中ではないから、勢いそのままの一撃だった。流石に危機感を覚えたのか、視線の先で少年が両腕を構えている。腕の骨を折るくらいに留めなければと思いつつ、本能はもう抑えきれない。

 

──そして、渾身のライダーキックが炸裂した。

 

「……ッ!」

 

 奔る痛みに、少年が初めてうめき声をあげた。その小さな身体は先ほどのBLACKよろしく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。そのまま、ずるずると地面に倒れ伏す。──それきり、ぴくりとも動かない。

 

「お、おい緑谷……あいつ死んじまったんじゃ……」

「………」

 

 怯えた峰田の言葉に、BLACKは答えるすべをもたなかった。ヒトを殺めたとなれば、もはや自分はヒーローではいられない。わかっていたのに、本能には抗えなかった。

 

「!、待って!」梅雨が声をあげる。「あの子……生きているわ」

「……!」

 

 そう、少年は死んでなどいなかった。直接キックを受けた腕の布地が破けて生身を晒しているけれども、傷痕は残っていない。

 そしてもうひとつ。──仮面に、大きなヒビが入っている。

 

 結局かたちを保つことができず、"それ"はぼろりと崩れ落ちた。露になる少年の顔。整ってはいるが、とりたてて特徴があるわけではない。

 

「あ──」

 

 にもかかわらず、仮面ライダーBLACKは……緑谷出久は、言葉を失っていた。同時に、走馬灯のように甦る過去の記憶の数々。

 

──だいじょうぶ、たてる?

 

──出久。俺たち、何があっても友だちだからな!

 

 

──ぐずぐずするな……行けッ!

 

「うそ、だ……」

 

 なんで。

 

 なんで、きみがまた。

 

「なんでだよ、」

 

 ビシュムが、嗤っている。

 

 

「信彦、くん……っ」

 

 

 吸い込まれるような漆黒の瞳が、虚無をたたえて灼熱の複眼を見据えていた。

 

 

 つづく

 

 





死んだはずの信彦が、再びシャドームーンとなって襲いくる。なぜ彼は甦ったのか?なぜまた、殺し合わねばならないのか?迷い、打ちひしがれる小さな英雄。

そのとき、紅蓮の焔が爆ぜ放たれた。

爆豪「テメェの相手はこの俺だァ!!」


次回 超・世紀王デク

月に吼える


切島「バクゴー……!」
梅雨「爆豪ちゃん!」
峰田「爆豪!!」

デク「かっちゃん――!!」


ぶっちぎるぜぇ!!

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