超・世紀王デク   作:たあたん

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やっぱりこうなるよね(魔王並感)


緑谷:ブレイジング(前)

 

 USJを襲撃した、ヴィランの群れ。

 

 その司令塔たる死柄木弔は、ただ今暇をもて余していた。

 

 生徒20名の相手には連れてきたチンピラヴィランたちをぶつけている。2名のプロヒーロー教師のうち13号には黒霧が当たっているし、イレイザーヘッドこと相澤消太は自分の首を獲る気満々でいたようだがシャドームーンが完膚なきまでに叩き潰している。そういうわけで、彼は実質突っ立っているだけになってしまっていた。

 

「ハァ……司令官って、案外つまんないんだな」

「何を呑気なことを言っているんです、死柄木弔」

 

 独り言のつもりが、咎めるような応答があった。同時に、目の前にぼうっと現れる黒い靄のかたまり。

 

「あなたは司令塔なのですから、全体の状況をみてこまめに指示を出していただかないと」

「……指示も何も、連中暴れるしか脳がないだろ。あのビシュムとかいう女は好きにやらせとけって、先生が」

 

 ゴルゴムの高級幹部だったというあの女。弔からすれば得体の知れない存在だったが、己が大願を成就させるために必要な存在ではあった。

 

「彼女は仮面ライダーを追い詰めているようです」

「へー、そう。で、おまえは?」

「13号は倒しました。……生徒の邪魔があって、殺害には至りませんでしたが」

「いやそこは生徒ごと殺しとけよ……余裕ぶっこいて何やってんだ」

 

 唯一意の通ずる仲間の不甲斐なさを嘆きつつ、弔はこの暇から解放される名目を得たと思った。

 

「もういいよ、俺がやる」

「……そう言うと思っていました」

 

 ため息をつく黒霧。

 周囲を覆う靄がふわりと揺れる中で、死柄木弔は一歩を踏み出した。

 

 

 *

 

 

 

 それは、幾度となく繰り返された悪夢の再現だと思った。

 

 シャドームーンの掌から放たれた緑の稲妻が、少年の腹部を貫く。飛び散る真紅の血潮が、宝石のようにきらきらと輝いている。緑谷出久には、その光景がスローモーションにさえ見えた。

 

 仰け反り、ゆっくりと墜落していく身体。しかし元々血のいろをしていた瞳だけはかっと見開かれ、掌からはよりいっそう烈しい劫火が迸っていた。

 その紅蓮にシャドームーンが呑み込まれると同時に、爆豪勝己は地面に叩きつけられる。

 

 その瞬間、出久は走り出していた。

 

「かっちゃん──ッ!!」

 

 悲鳴のような声が、耳の奥で響く。それが自分の発したものであることさえ、すぐには認識できなかった。

 力なく投げ出された四肢を、縋りつくように抱きかかえる。背中に回した手に、どろりと広がる濡れた感触。寒くもないのに、身体の震えが止まらない。

 

 完全に我を忘れてしまった出久ほどでなくとも、一部始終を目の当たりにした峰田たちも少なからずショックを受けていた。

 

「ばく、ごう……」

「……ッ、」

 

「……ちくしょう……ッ!」

 

 とりわけ切島鋭児郎は、血が滲み出るほどに強く拳を握りしめていた。漢らしいと、尊敬の念さえ抱いた同級生……否、友達(ダチ)が、目の前で。こんなことになるなら、彼の拒絶に耳を貸さず強引に助力をしていればよかった。後悔──あぁ自分は、()()()()()()()()()()()。出久と異なるのは、絆と呼べるもののない自分には、縋りつく資格さえないと思い込んでいることだった。

 

「かっちゃん……かっちゃん……ッ!」

 

 そして出久はもう、勝己の姿以外なにも見えてはいなかった。──彼をこんな姿にした敵はまだ、すぐ目の前にいるというのに。

 

「ふふ……どれだけ英雄ぶっても、ひと皮剥けば所詮は子供。──貴方には何も救えないのよ、ブラックサン?」

 

 如何に強大な力をもっていようとも……それを発揮することもできぬまま、この少年は今度こそ葬られる。やはり所詮は、世紀王の器ではなかったということだ。

 

「シャドームーン。ふたり仲良く、死出の旅へ送り出してさしあげなさい」

 

 ビシュムの命令に従い、シャドームーンが動き出す。出久にはもう、彼の姿は見えてはいない──

 

──刹那、

 

「うおおおおおおおッ!!」

 

 鬼気迫る勢いで突撃してきたのは、切島鋭児郎だった。異形型とみまごうほどに全身を硬化させ、シャドームーンに飛びかかる。

 

「もうこれ以上、ダチはやらせねえ……!オレは……なるんだ、ヒーローに……!」

「!、……切島、くん……」

 

 切島の言葉に、わずかながら我を取り戻す出久。いや、切島だけではなかった。

 蛙吹梅雨の舌がシャドームーンの胴体に巻きつき、足下は峰田実のもぎもぎで接着される。

 

 やれやれと、ビシュムは首を振った。

 

「……本当に、無駄なことばかり……」

 

 刹那、シャドームーンの身体が光り輝き──

 

 何が起きたのかもわからないまま、切島たちはひとり残らず吹き飛ばされていた。

 

「ぐ、うぅ……ッ」

「……ッ、」

 

 指、一本たりとも動かせない。切島たちは思い知った──このシャドームーンは、化け物だ。自分たち普通の人間とは、まったく別次元にいる存在。

 

「言ったでしょう、無駄なことだと。貴方がたヒトは、我らゴルゴムの前に這いつくばることしかできない存在」

 

「──ブラックサン……貴方も、その先へは行けないということです」

 

 脳改造の前に逃げ出したことで、ブラックサンは緑谷出久の心を捨てることができなかった。いかにキングストーンの作用で肉体が進化しようとも、ヒトの、それも少年の弱い心を捨て去れない限り彼に世紀王を名乗る資格はない。他の連中と変わらない──所詮、ただのヒト。

 

 であれば、今ここにいるシャドームーンに敵はいない。いるはずがない──ビシュムが確信を深めた、刹那。

 

「──もう大丈夫、」

 

 一陣の疾風が吹きつけ、

 

 

「私が、来た!!」

 

 平和の象徴と呼ばれる英雄が、戦場に姿を現した。

 

「オール……マイト……!」

 

 生徒たちの表情にかすかな光明が差し、対照的にビシュムが初めて忌々しげに眉をひそめる。ただのヒトというには、彼だけは規格外の存在であると彼女も理解していた。

 

「皆、遅くなってすまなかった……!ここに来る途中で飯田少年と出会ったんだ、事情はもう彼から──」

「お、オールマイト!」切島が声をあげる。「バクゴーが……!」

「何?──!」

 

 振り返って、彼はようやく気がついた。──出久が抱きかかえた勝己の身体から、どくどくと血だまりが広がっていくことに。

 

「今さら出てきたところで……。貴方が子供を救えなかったという事実は変わらないのですよ、オールマイト?」

「……貴様ら……!」

 

 オールマイトの拳が怒りに震える。ただ、彼はあくまでもヒーローだった。生徒たちに対し、勝己を連れて逃げるよう促すことも忘れない。

 

「緑谷ちゃん、今のうちに爆豪ちゃんを……!」

「ッ、……うん!」

 

 ライドロンは今頃相澤を連れて校舎に戻っているかどうか、というところだから、勝己を外に連れ出すことはできない。それでもこの戦場のど真ん中に置いておくわけにはいかないというのは、当然の判断だった──彼らにとっては。

 

 出久と切島で肩を貸そうとした途端、もう意識もないと思われていた勝己が、かっと目を見開いたのだ。

 

「は、なせやッ」

「!?」

 

 ふたりを突き飛ばし、反動で倒れ込みかかる。しかし驚くべきは、ぐっと足に力を込めてその場に踏みとどまったことだった。貫かれた腹からの出血は、とどまることを知らないというのに。

 

「テメェらで勝手に逃げろや……!俺は、まだ……戦えんだよ……!」

「な……何言ってんだよ!?」

「爆豪ちゃん落ち着いて、あなた混乱しているのよ。オールマイトが私たちを救けに来てくれたの、わかる?今は彼に任せておけば──」

 

 意識が朦朧としていると思って梅雨が懇切丁寧に説明してくれたが、勝己にだってそんなことはわかっていた。

 

──奴らは仮面ライダーだけでなく、オールマイトも殺すつもりでここに来たのだ。そして現在確認できている最高戦力は、シャドームーン。

 

 であれば、オールマイトを単独で戦わせておくわけにはいかない。それ自体は合理的とは言わないまでも、的外れではない思考である。切島たちにとって解せないのは、そこで一番重傷である自分だけが前に出ていこうとすること。既に多量の血液を失って、頬を青白くしてまで。

 

「ッ、かっちゃん!!」

 

 たまらず出久は声をあげた。

 

「もうきみは戦っちゃダメだッ!あいつは……シャドームーンは僕がなんとかするから……もう……!」

「………」

 

 

「そうやってテメェは、また自分独り辛けりゃいいんだな」

「え……?」

 

 それは普段の彼とも、今の息も絶え絶えの様相ともまったく似つかぬ、ひどく静かな声だった。誰が発したものなのか、一瞬認識できなくなるほどに。

 だが憤懣でも侮蔑でもない、ただ凪いだ赤い瞳に射抜かれて、出久はすべてを悟った。かっちゃん、きみは──

 

 刹那、強張っていた勝己の身体がぐらりと崩れ落ちた。

 

「ばくご……」

 

 慌てて駆け寄ろうとした切島だったが……それより寸分早く、出久の小さな身体が勝己を受け止めていた。

 

「……かっちゃん」

 

 

「──ありがとう」

「……!」

 

 見下ろす形になってしまうことをすまなく思いながら、少年は幼なじみに微笑みかけた。

 

「きみの気持ちは、ちゃんとわかったから……。今は……今だけは、僕に任せて。きみまで、失いたくないんだ……ッ」

「……で、く……」

 

 何度も閉じかけては無理やり開こうとしていた瞼が、その言葉を聞いてゆっくりと降りていく。そしてそれきりもう、開かれることはなかった。

 くたりと力の抜けた肢体をその場に寝かせると、出久は再び立ち上がった。

 

「切島くん、梅雨ちゃん、峰田くん。……かっちゃんを、お願い」

「緑谷……?」

 

 彼の視線の先では、シャドームーンとオールマイトが死闘を繰り広げている。──木立のような深い翠の瞳には、紅蓮の戦意が漲っていた。

 

「変、──」

 

 握りしめた拳。光り輝くエナジーリアクター。──否、輝きは光流となって、全身へと広がっていく。

 

「──身……!」

 

 少年が世紀王と呼ばれる姿へと"変身"を遂げてもなお、光流はよりいっそうその輝きを増すばかりだった。

 

 

 *

 

 

 

 オールマイトとシャドームーンは、双方一歩も引かぬ戦いを繰り広げていた。

 しかし、傍目にはそう見えるというだけで──その実、焦燥を抱えているのは前者ばかり。

 

「いかがなさったのかしら、"平和の象徴"さま?No.1ヒーローというには、少し動きが鈍いのではなくて?」

「HAHA……ッ、なんのことかな……!」

 

 オールマイトは内心ぎくりとしたが、それを表に出すほど初心ではなかった。

 ここに来るのが遅れたのも、元はといえば通勤途中に活動限界ぎりぎりまでヴィラン退治に勤しんでしまったことが原因なのだ。彼が満身創痍を誤魔化して戦っているような状態であるのに対して、シャドームーンは連戦に次ぐ連戦にもいっさい疲労を感じていない。彼はもはや、人間とは呼べぬほどに改造され尽くしたゴルゴム怪人であり、その頂点に立つ世紀王の片割れなのだ。下等な人間たちの社会で"平和の象徴"などと言われていようが、それがなんだというのか──ビシュムは嗤った。

 

 一刻も早く決着をつけねばと、オールマイトは全身にグッと力を込めた。

 

「DETROIT──」

「シャドー……」

 

「──SMAAAAASH!!」

「……パンチ……!」

 

 拳と拳が──激突。辺り一面に、颶風が巻き起こる。

 

「く……ッ!」

「………」

 

 弾き飛ばされながらも、オールマイトは即座に態勢を立て直した。尤もそれはシャドームーンも同じことだったが。

 そしてオールマイトは、自らの身体から蒸気がたち始めていることに気づいた。少しでも気を抜けば、このマッスルフォームを維持できなくなりかねない。

 

(ここで倒れるわけには……いかないんだぞ、オールマイト……!)

 

 今は仮面ライダーである出久も含め、背後にいる全員が守るべき存在なのだ。なんとしても……たとえ命を削ってでも、目の前の敵を倒さなければ。そして皆を、救わねば。

 

「シャドームーン、今度こそ引導を渡してさしあげなさい」

 

 かつて配下であった女から指図を受け──シャドームーンは、跳躍していた。踵のレッグトリガーが、足が光を放ち、激しく明滅する。

 

「……ッ、」

 

 おそらくこれは、相手の最大の一撃。どんな形であれ次の瞬間には趨勢が決すると悟り、覚悟を決めたオールマイトはその場で構えをとった。

 

──刹那、

 

 

 弾丸のごとく飛来した漆黒の影が、シャドームーンの横っ面を張り飛ばした。

 

「……!」

 

 予想だにしない事態に、思わず構えを解いてしまうオールマイト。唐突に脅威が去ったのだから無理もない。

 そして地表に降り立ったのは、本来シャドームーンと並び立つ、もうひとりの世紀王──

 

「緑谷、少年……!?」

 

 仮面ライダーBLACKの姿。それ自体は、飯田天哉から事態の経緯を聞いてから驚きはなかった。12歳の……おそらく改造されたその日にまで身体が退行してしまった出久。

 

──しかし、彼が纏っている光の束は……間違いなく。

 

(ワン・フォー・オールの光……!?)

 

「……下がっていてください、オールマイト」

「!」

 

 紅蓮の複眼に射止められ、オールマイトは自身の身体が燃えさかるような錯覚さえ覚えた。

 

「シャドームーンは、僕が倒す。ヒーローとして……仮面ライダーとして……!」

「……倒す?」片眉を上げて嘲うビシュム。「一度敗けた貴方に、何ができるというのかしら?」

「僕はもう、敗けない……!」

 

──どんなにピンチでも、最後には。

 

「絶対に、勝つんだ──!!」

 

 そしてヒーローは、雄叫びをあげた。全身を覆う輝きが、よりいっそう眩さを増していく。ワン・フォー・オールの鼓動を、同じものを共有するオールマイトは強く感じていた。

 

「……ッ、シャドームーン!」

 

 掌から放たれた緑の閃光が、光り輝くBLACKへと襲いかかろうとして、

 

──弾かれた。

 

「……!」

 

 ビシュムは……否、オールマイトもまた、驚愕に目を見開いていた。BLACKの前に広がった光が、何かを形作っていく。2メートルはある屈強な四肢、バッタに似た頭部。

 

「な……!?」

「どういうことだ、これは……?」

 

 そんな、そんなことはありえない。仮面ライダーBLACKが、確かに今ここに存在しているというのに。

 

「僕は、太陽の子──」

 

 

「──仮面ライダーBLACK……RXッ!!」

 

 失われたはずの"超・世紀王"の勇姿が、そこにはあった。

 

 

 

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