超・世紀王デク   作:たあたん

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緑谷:ブレイジング(後)

 

 上鳴電気と耳郎響香は、絶体絶命の危機を迎えていた。

 

「うぇ、ウェイ……」

「……ッ、」

 

 目の前には──かの、白髪の男。

 

「残念だったなァ……せっかくここまで生き延びたってのにさ」

 

 ひび割れた唇を薄気味悪くゆがめ、嘲う死柄木弔。その五本の指が弄んだオブジェクトは、ことごとく跡形もなく崩れ落ちていく。──"崩壊"。それが彼の個性だった。

 

 当然、人間である自分たちに対してもその効力は発揮されるのだろう。こちらは上鳴が放電のしすぎで大幅に知力を低下させている──おそらく状況も把握できていない──し、耳郎も疲弊しきっていた。

 

(殺されるのか、このまま……?)

 

 入学して未だ一ヶ月足らず、こんなことになるとは思ってもみなかった。同時に、もっと幼いときからこれ以上の脅威と悪意に独り直面してきた仮面ライダー・緑谷出久。彼がいかに正義であろうと、それは大いなる苦しみだったのだろうと彼女は思い至った。その彼に今さら片務的に救けを求めようだなどとは思わない。彼もまた、シャドームーンという甦った仇敵に苦しめられている真っ最中なのだから。

 

「……これで、ゲームオーバーだ……!」

 

 昂った弔が両腕を広げる──刹那、

 

 

 エリアを覆う岩壁が粉砕され、金色と漆黒に彩られた影が姿を現した。

 そして、

 

「ボルティック、シューター!!」

「がッ!?」

 

 眩い光線に右肩を貫かれ、たまらずよろめく弔。一体何が起こったのか、即座に理解できるはずがない。それは耳郎たちも同じことだった。

 

「ッ、痛、ってェ……。なんだよ……誰だよ!?」

 

 肩を抱えながら癇癪を起こす弔を、真紅の複眼が鋭く射抜く。血の涙を流しているかのような意匠。ぎらりと輝く、鋼鉄の身体。

 

「は……?なんだよ、おまえ……有り得ないだろ……」

 

 こいつがこんなところにいるわけがない。まして、この姿で──

 

「僕は、悲しみの王子──」

 

 

「──RXッ、ロボライダー!!」

 

 それはまぎれもなく、シャドームーンに打ちのめされているはずの仮面ライダーだった。

 

 

 *

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 そう述べるしかない"異常事態"は、別の場所でも発生していた。

 当初、強力な氷結の個性によって襲いくるヴィランを完封していた轟焦凍。しかし彼には致命的な弱点があった。個性を使用するたびに自身の肉体も凍りついていき、身動きがとれなくなるという弱点が。

 

「ッ、くそ……」

 

 たまらず毒づく右半身が冷えきった轟に対し、彼と対峙するヴィランの群れはようやく難敵を攻略できたとばかりに鬨の声をあげていた。他の生徒への対処を疎かにしてまで、彼らは人海戦術をとった。その結果、強力な轟の個性の弱点を明らかにするに至ったのだ。

 

「やぁっと終わりだなァ……クソガキ」

「……ッ、」

 

 歯噛みする轟は、思わず己の左手を見下ろした。

 彼の個性は、右半身と左半身でまったく逆の事象を起こす。つまり"左"からは、灼熱を。

 

 しかし命の危機が迫っているにもかかわらず、轟はその使用を躊躇った。美しいオッドアイ──しかしながら左目の周囲は痛々しい火傷痕に覆われている──に滲む憎悪。それは目の前のヴィランたちではなく、彼方へと向けられていて。

 

 そんな彼の意識を引き戻したのは、自身がつくり出した氷結が、粉々に砕け散る音だった。

 

「!」

 

 反射的に身構える轟。しかし舞い散る氷の粒をかき分けるように現れた"それ"は、彼に対する脅威ではなかった。

 

「な、なんだこれは……うわぁああ!!?」

 

 ヴィランたちに襲いかかったのは──光り輝く、液体の塊。それは見かけによらず目にも止まらぬ速さで動き回り彼らを昏倒させていくので、轟には何が起きているのかさえ把握できなかった。

 

 結局、呆然としていた彼が液体の塊の正体を認識したのは、あれほど大勢いたヴィランが瞬く間に鎮圧されたあとだった。

 

 海原のような紺碧のボディ。無機質な白銀の仮面に鼻や口らしき意匠はなく、やや垂れた赤い複眼だけが煌めいている。

 

「おまえは……」

 

 思わずつぶやくと、感情の表れない瞳がこちらへ向けられた。ぞくりと背筋が冷たくなったのは、個性の過剰使用によるものだと思いたかった。

 

「──怒りの王子、バイオライダー」

 

 そんなことは知っている。轟がバイオライダーの存在を受け入れがたいのは、

 

「緑谷……おまえ、もとに戻ったのか?」

 

 ヴィランの個性で、12歳の身体に退化させられていたはずなのに──出久の身に起こった"不思議なこと"など、彼に知るよしもない。

 バイオライダーは口を開いた……が、その問いに答えはしなかった。

 

「どうして、"左"を使わなかったの?」

「……!」

「両方をバランスよく扱えばデメリットは無いに等しい、きみ自身が一番よくわかってる筈だ」

 

 それなのに彼は頑なに右の力だけで戦った。結果があの絶体絶命の危機だ。バイオライダーが現れなければ、彼は間もなく物量に押しつぶされていた──

 

「……黙れよ……!」

 

 それでも轟は、殺意さえこもった目で眼前の英雄を睨みつけた。

 

「仮面ライダーだかなんだか知らねえが偉そうに。おまえに説教される謂れはねえ」

「………」

 

 対峙するふたりは、知らぬ者が見れば敵同士としか思われないほどに緊迫していた。ふたりには大いなる共通点があるなどと、このときはまだ知るよしもない。彼らの世界への呪わしき思いと希望は、15歳の少年としては双方甚だ深いところにあった。

 

 

 *

 

 

 

 その戦い()、あまりに一方的と言うほかなかった。

 

 ワン・フォー・オールの輝きを纏い、空間を飛び回るRX。相手取るシャドームーンもまた、本来の彼にはありえない挙動を見せていたが……RXのスピードは、彼を遥かに凌いでいた。

 

「ふ──ッ!」

「ッ!?」

 

 空中高くでキックが炸裂し、大きく吹き飛ばされるシャドームーン。その身が岩場に直撃し、砕けた岩石の欠片が膨大な砂塵となって舞い上がる。しかし煌めく白銀は即座に飛び上がってきて、黒いボディのヒーローに襲いかかった。

 

 そのとき、より濃密な漆黒の塊が、傍らからシャドームーンを弾き飛ばした。

 

「ッ、ぐ……!」

 

 うめき声をあげて、墜落する漆黒。その彼を再び救けたのは、やはりRXだった。幾分も細いその身を抱きかかえ、着陸を遂げる。

 

「ッ、ありがとう……えっと……僕?」

「………」

 

 RXはなんとも答えなかった。──彼らは、単なる分身なのか。しかし出久にはそうは思えなかった。その行動には、自分からは分離した明確な意志を感じるのだ。

 そして、その言葉も。

 

「無理にワン・フォー・オールを使わないほうがいい。改造されているとはいえ、おまえはまだ子供の身体なんだから」

「!、………」

 

 間違いなく、自分の声。しかし若干トーンが低い気がする。このRXは、一体──

 

 無論、出久自身を除くすべての者たちは、何が起きたのかさえ理解できてはいなかった。それで劣勢に追い込まれたビシュムなどは、ある程度理由を察してはいたが。

 

「このようなことが……。これがキングストーンの奇蹟だとでもいうの?」

 

 かつてゴルゴムの大神官と呼ばれていた頃、今は出久の体内にあるキングストーンを管理していたビシュムだったが。それがこの世界の唯一神たるべき力を与えるモノであるとは理解していたが、少々甘くみていたということか。

 

──と、彼女の背後にブラックホールが現れ、中からかの痩身の白髪男がよろよろと這い出てきた。

 

「ッ、クソ……なんだよ……なんなんだよ……」

「……死柄木弔」

 

 仮面代わりの手から覗く真っ赤な瞳、見ると焦点が合っていない。余程の目に遭わされたのだろう。

 

「残念ですが、我々にとっての悪夢は未だ終わっていないのですよ」

「……は……?」

 

 困惑する弔はしょせん未熟も未熟な青年だった。撤退に気持ちが傾いていたビシュムだが、"彼"からは弔のことも託されている。悪夢のクライマックスを見届けさせなければ。そこで潰れてしまうなら、それまでの男だったということだ。

 

──ふらつきながらも立ち上がったシャドームーンには、さらなる脅威が待ち受けていた。

 

「ボルティックシューター!!」

 

 光弾を全身に撃ち込まれ、

 

「バイオブレード──スパーク、カッター!!」

 

 液体化して目の前に飛び出したバイオライダーの剣が、一閃する。

 

──そう。戦友たちを救い出したロボとバイオもまた、この戦場に現れたのだ。

 つまりは、仮面ライダーの四大形態が揃ったということ。

 

「す、スゲェ……仮面ライダーがあんなに」

「………」

 

 壮観。状況も忘れて、見入ってしまう切島たち。それに、彼らも──

 

「……やっぱり、全部揃ってたんだね」

「!」

 

 振り向くと、そこには耳郎響香と、彼女に肩を貸してもらった上鳴電気の姿。数歩ぶん遅れて、轟焦凍もやって来る。

 

「お前ら……!よかった、無事だったんだな!」

「危ないとこだったけどね……正直」

「ッ、思わずウェイがさめるくらいビビッたぜ……」

「………」

 

 轟だけは四大ライダーの揃い踏みを冷たく睨めつけていたのだが、このときの同級生たちは興奮でそれに気づくどころではなかった。

 

 

「……ッ!……ッ、」

 

 身体のあちこちを破損させたシャドームーンは、壊れたブリキ人形のようなぎこちない動きで立ち上がった。もはや満身創痍の身でありながら、その戦意は衰えていない。

 

 否、そもそも"戦意"なるものを彼は持っていないのだ。ビシュムに命令をインプットされ、その通りにしか行動できないマリオネットでしかない、今の彼は。

 

(あれは……信彦くんじゃない)

 

 そうだ──信彦はもう、死んだのだ。

 

「彼をこれ以上辱しめることは、許さない!!」

 

 次の瞬間、RX、ロボライダー、バイオライダーがその場から姿を消した。正確には、瞬間移動めいた素早い動きでシャドームーンを取り囲むような配置についたというべきか。

 

「緑谷少年!」

 

──そして、彼も。

 

「私にも協力させてくれ」

「オールマイト……。でも、あなたは──」

「大丈夫、キミに手を貸す程度の余力は残っているさ!平和の象徴、No.1ヒーローとして、このまま傍観しているわけにはいかないからな……!」

 

 それはもちろん偽らざる気持ちだったが、より深いところにある本音はこれ以上この少年の心に深傷を負わせたくないというものだった。ゴルゴムとの戦いのすべて、クライシス帝国との戦いにおいても終盤に至るまで自分は何もできなかった。今は同志として、少しでも辛苦を分かちあわせてもらわなければ。

 

 オールマイトの本当の想いを知ってか否か、仮面ライダーは深々と頷いた。

 

「……ありがとう、ございます!」

 

 オールマイトをその場に残し、BLACKもまた跳躍する。五人(ふたり)でシャドームーンを取り囲む──奇しくもその陣形は、五芒星を描いていた。

 

「ワン・フォー・オール……!」

「フル──」

「──カウル!」

「100パーセント……!」

 

 BLACKが、RXが、ロボがバイオが……そして、オールマイトが。同時にワン・フォー・オールを発動させる。この世にふたつとない"平和の象徴"たる個性が今、五つも存在している。すべては呪われた世紀王に、今度こそ安らな眠りの旅を捧げるため。そして──友を、救けるために。

 

「──はぁッ!」

 

 彼らは、まったく同時に跳躍した。そのままキックの態勢をとり、

 

「「「「「──PENTAGON SMAAAAAAASSSSSHッ!!!!!」」」」」

 

 

 世界は、光に包まれた。

 

 

 つづく

 

 





戦いは終わった。プロヒーローたちも駆けつけ、続々と救出されていく生徒たち。
しかし仮面ライダー・緑谷出久は、生死の境を彷徨う幼なじみの傍を離れられずにいた。

次回 超・世紀王デク

「涙」


デク「きみだけは、僕を"デク"でいさせてくれるんだろ……?」



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