超・世紀王デク   作:たあたん

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ハイヤーグラウンドをえぐいほどリピートするのが日課です


涙(前)

 

「「「「「──PENTAGON SMAAAAAAASSSSSHッ!!!!!」」」」」

 

──"平和の象徴"と"超・世紀王"がともに放った、会心の一撃。

 

 それは炸裂すると同時に世界を白く染め上げ、旋風を巻き起こした。

 

「……ッ!」

 

 吹き飛ばされないよう、その場に蹲って耐える少年たち。自分たちと同い年、クラスメイトが伝説の英雄であると、彼らは改めて身につまされていた。

 一方で、つい先ほどまでその英雄を追い詰めつつあったヴィランたち。彼らもまた、閃光の示す絶対的な力を前にしてはどうすることもできなかった。

 

「う゛ううううう~~ッ」

「……潮時ですわね。──黒霧!」

 

 ビシュムの指示を受けるまでもなく、もとより黒霧もそのつもりだった。その肉体からつくり出されたブラックホールが、彼女らを呑み込んでいった。

 

 

 *

 

 

 

 消えない、閃光。

 

 真っ白になったままの世界に、緑谷出久はひとり立ち尽くしていた。

 

「これ、は……?」

 

(僕は……皆はどうなったんだ?シャドームーンは……)

 

 まさか彼岸の地というわけでもなかろう。──あるいは、キングストーンが見せる幻か?

 

 いつもの癖でブツブツと考えはじめた出久だったが、重量感のある足音を聞いて我に返った。光の中から現れる──三つの影。

 

「あ……」

「………」

 

 BLACK RX・ロボライダー・バイオライダー。どこからともなく現れ、助力してくれた──"僕"。

 腑に落ちない部分はありながらも、出久は彼らに頭を下げた。

 

「……ありがとう。きみたちのおかげで、皆を守ることができた」

 

 その代わり、かつて親友だったものを粉々に打ち砕いて。

 しかし、目の前のRXがようやく発した声は厳しいものだった。

 

「皆を?──本当に?」

「……!」

 

 彼がなんのことを言っているのか、出久にはすぐにわかった。守るどころか、守られた。その結果が出久のてのひらを染めた、爆豪勝己の真っ赤な血潮だ。

 

「彼はまた……僕を……」

「僕を、守ろうとした」

「……ッ、」

 

 そうだ。そしてそれは、意外なことでもなんでもない。ヒトは大いなる矛盾の中に生きる存在であって、爆豪勝己も自分も決してそこから外れてなどいないというだけのこと。たったそれだけのことに気づくまでに、自分は十数年の歳月を費やしてしまった。

 

「緑谷出久、──今日のことは、おまえがこれから積まねばならない永い永い遍歴の序章にすぎない」

「え……」

 

 予言者のような口ぶりで、目前の仮面ライダーが告げる。

 

「これから先、おまえには数えきれないほどの試練が待ち受けている。今日のことが、遠い昔に思えるほどの」

「それに、遠くない将来──」

 

 何かを言いかけて、口をつぐんだのはバイオライダーだった。ゆっくりと首を振って、赤い瞳でじっと出久を見据える。変身後の姿の自分と、対峙することがあるなんて。不思議な感覚だった。

 

「だとしても、おまえは理想に向かって走り続けるのか?何万年もの時を……」

「………」

 

 暫し沈黙せざるをえない出久だった。仮面ライダーになってからたった三年で、もとより何も持っていない無個性のデクがあれだけのものを失ったのだ。これより先の艱難辛苦は、想像するに余りある。

 でも……それでも──出久の脳裏に、創世王を、クライシス皇帝を滅ぼしたときのことがよぎる。人間が変わらぬ限り……その心に悪がある限り、何度でも奴らは甦り、無辜の人々を傷つける。

 だから、

 

「僕はもう、決めたんだ。どんなに遠くても……僕はもう、あきらめない」

 

 必ず、世界を変えてみせる──

 

「……なら、戦え」

 

 

「「「夢に向かって、飛べ──」」」

 

 

 三人の仮面ライダーの姿が、空間に透けるようにして消えていく。その一部始終を見届けたあとで、出久の視界は再び光に包まれた──

 

 

 *

 

 

 

「……りや、緑谷出久!」

 

 ヒトとしての名を、しきりに呼ぶ声が聞こえる。

 

 目を開けてみると、西部劇のガンマンのような男の姿があった。特異な恰好だが、彼が何者であるのか出久は知っている。

 

「……スナイプ……?」

「うむ。怪我は……ないようだな」

 

 素早く半身を起こした出久を見て、ガンマンヒーロー"スナイプ"はほっと息をついたようだった。

 一方で、記憶のうえではつい数秒前まで対峙していた光景が脳裏に甦る。

 

(あれは、夢だったのか……?)

 

 それにしては、彼らの姿かたち、声がはっきりと五感に焼きついている。とりわけ、「夢に向かって飛べ」というあの言葉──

 

 それより今は、間違いなく目の前にある現実のことだと思い直した。USJ内は喧騒に覆われているが、戦闘の音はどこからもしない。目に入るのもスナイプのほか、ヒーローの姿ばかりだ。

 出久の疑問に先んじて答えるように、スナイプは口を開いた。

 

「襲撃犯たちの大部分は逮捕、拘束した。しかし肝心の主犯格とおぼしき連中は、我々が駆けつけたときには既に逃げおおせたあとだったようだ」

「そう、ですか。じゃあ……先生たちとかっちゃ……爆豪くんのほかに、怪我人は?」

「軽傷者は数名いるが、皆、無事だ。イレイザーと13号にしても重傷ではあったが、命に別状はないそうだ。イレイザーは治療が遅れていたら危うかったらしいが、ライドロンが迅速に送り届けてくれたからな」

 

 それは、心の底からよかったと思う。ひとりでも犠牲を出してしまったら、絶大なる仮面ライダーの力になどなんの意味もない。

 

──いや、まだわからない。勝己の安否はまだ、決していない。

 

 スナイプに促されて、出久は立ち上がった。つらくとも今は、友人たちとともに雄英に戻るしかない。これからは雄英高校のいち生徒として正しい道筋を歩むのだと、自ら決めてここにいるのだから。

 

 

 *

 

 

 

 命からがらの敗走劇、というほかあるまい。

 

 黒霧の個性によって彼含めたった三人の帰還。かつてゴルゴムの大神官と呼ばれたビシュムは、どこか他人事のようにそう考えていた。

 仮面ライダー……世紀王ブラックサンのもつキングストーンは、宿主の意志に呼応して様々な奇蹟を起こす。仮面ライダーが増えるという今回の事態もそういうことだ。ただ、ビシュムの想像の範疇は超えていたが。

 

(流石は世紀王様。やはり、貴方こそ……)

 

 一方で、現実を受け入れられない青年もここにはいる。

 

「なんだよアレ……なんなんだよ……!増えるとかありえないだろ気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」

 

 痩せた身体をぶるぶると震わせながら、死柄木弔はしきりに首のあたりを掻きむしっている。ビシュムの冷たい視線にもまったく気づいていない。

 

「落ち着いてください、死柄木弔」見かねた黒霧が声をかける。「仮面ライダーは時に我々の予想だにしない能力を発揮するのだと、そちらにいるビシュム殿も仰っていたでしょう」

「あぁ……?だからなんだよ……」

 

 弔の赤い瞳が、初めてぎょろりとビシュムを睨みすえた。

 

「大体、コイツの造ったシャドームーンだって仮面ライダーと同等じゃなかったのかよ……!全ッ然使えない……役立たずのゴミじゃないか」

「──!」

 

 刹那、ビシュムの瞳がかっと見開かれ──弔の身体は、紙のように吹き飛ばされていた。

 

「かは……ッ!」

「死柄木弔!ッ、ビシュム殿、何を……」

 

 慌てて弔に駆け寄った黒霧が抗議の声をあげるが、そんなものはビシュムの耳には届いていなかった。

 

「口のきき方に気をつけなさい。卑しいヒトの分際で」

 

 その整った顔立ちは、死柄木以前に"ヒト"という生物に対する侮蔑に満ちていた。

 かつては仕える相手だったシャドームーンを終始道具扱いしたビシュムだったが、彼と死柄木弔を比べればもちろんどころか比較にならないほど前者に好意的である。それどころか、敵である仮面ライダーでさえも。表向きは対等な協力関係にあっても、彼女たちゴルゴムの構成員にとって人間は家畜同然の存在でしかない。そんなものが敬愛すべき世紀王をゴミ呼ばわりしたのだ、本当なら何万回火刑にしても足りないくらいだ。

 

『そのくらいにしてもらえないかな、大神官様?』

 

 ここにいるふたりのものでない男の声が響くと同時に、真っ暗だったモニターに光が灯る。

 映し出される、壮年の男の姿。しかし彼の居所も暗がりであって、その全貌は見えない。

 

『彼は大切な私の教え子だが、まだ礼儀というものは襲っていなくてね。ご容赦願いたい』

「………」

 

 彼の言葉に縛られる謂れはなかったが、ここで破談とするメリットもない。ビシュムは文字通り矛を収めた。

 

「……せん、せい」

『記念すべき初陣だったが、残念な結果だったね……弔』

「……ッ、」

『仮面ライダーは恐ろしかった?もう、やめにするかい?』

 

 それでもし弔が頷いたらば、十数年かけてきた計画がすべて白紙になるようなことを"彼"は平気で言う。

 

──"彼"はわかっていたのだ。弔の抱く心の闇は、生物としての本能さえ超越するものであるのだと。

 

「……いやだ……!」

 

 子供じみたかすれた声を、弔は絞り出した。

 

「殺す……!ヒーローは……仮面ライダーとオールマイトは、絶対に……!」

 

 その瞳が映し出す、英雄たちの姿。彼らをぐしゃりと握りつぶし、粉々に打ち砕くその日まで、彼の心身が渇きから解放されることはないのだった。

 

 

 *

 

 

 

 その日、緑谷出久の望みが果たされることはなかった。

 

 本音では、下校が許され次第爆豪勝己の搬送された病院に向かいたかった。しかし数時間前に襲撃を受けた生徒たちに道草を許さないという雄英の方針は当然であって、仮面ライダーであっても特別扱いはしないというものだった。

 

──いち生徒として三年間遍歴を積むのだとしつこく自分に言い聞かせてきた出久は、それを甘んじて受け入れるしかないのだった。

 

 

「……ただいま」

 

 玄関の扉を開けるなり、クラブ活動に励んでいて帰りの遅い茂を除く家族・仲間の面々が迎えに飛び出してきた。やはりというか、玲子やジョーの姿もある。

 

「出久お兄ちゃん!」

「出久くんっ、雄英高校が襲撃を受けたってニュースで見て……大丈夫だったのっ?」

「う、うん……僕はこの通り」

 

 傷ひとつない両手をひらひらさせて、出久は応えた。実際は12歳の身体でシャドームーンに痛めつけられたのだが、そのとき負った傷は治療を受けるまでもなく綺麗さっぱりなくなっている。

 

 やはりというか、一番過激に飛びついてきたのはジョーだった。

 

「アニキぃぃぃ!」

 

 鋼鉄でできた身体はずしりと重かったが、あらかじめ身構えていた出久はどうにかそれを受け止めることができた。ガレージにライドロンを戻した時、アクロバッターとロードセクターにも同じことをされていなければ、あるいは押し潰されていたかもしれないが。

 

「くそっ、アニキがそんなことに巻き込まれてるとも知らないで俺は……ッ!いざってときアニキを守れないんじゃ、俺は、なんのために……!」

「ジョーさん……」

 

 縋りつく大きな身体の震えを感じ、出久は背中をぽんぽんと叩いてやった。自分のために仲間に苦い思いをさせるのは、本意ではない。

 

「前と違って、四六時中一緒にいられるわけじゃないんだ。助けに来られないときだってあるよ……」

 

 それはお互い様だと思う。何より今日は、目の前にいるのに助けられない無力感を味わった出久だった。

 

「背中合わせに戦えなくたって、僕らは仲間だ、心は通じあってる。それだけで……心強いよ」

 

 そう、お互い様だ。だからわかる──それだけで、ジョーの無念が晴れるわけがないと。でも、今かけるべき言葉は他に見つからない。いかに知性も経験も人並み外れていても、出久はまだ15歳の子供なのだ。

 

「出久!」

 

 と、いちばん最後に顔を見せたのはエプロン姿の引子だった。元来気が小さく心配性の母である、以前なら真っ先に駆けつけてきて抱きしめられていただろう。独りで仮面ライダーをやっていた頃などは毎日心配どころの騒ぎではなかっただろうし、現在では逆に家族も増えた。家長にふさわしい胆力を身につけたということなのだろう。出久が無個性を診断された日の夜、泣いて謝っていたあのときの母はいない。

 

 それでも彼女は、出久のたったひとりの母親だった。

 

「茂くんが帰ってきたらお夕飯にするから、まずはお風呂に入ってきちゃいなさい」

「あ……うん、ありがとうお母さん」

 

 ゴルゴムが息を吹き返そうとしているのだ。ここにいる仲間たちと、今後のことについて話し合わなければならない。それでも今だけは、30分でいいから独りになる時間が欲しかった。

 

 

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