どうにもキリが悪かったので前後編からさらに分けました。第1期最終回なのでゆるして
「ゴルゴムが、甦った……?」
夕食の席でもたらされたその報告は、出久がBLACKだった頃を知らない仲間たちにとっても衝撃的なものだった。
「でも、どうして……ただの残党ならともかく、倒したはずの大神官が現れるの?」
「それに、シャドームーンだって……。間違いなくアニキが弔ったじゃないか、しかも遺体の埋葬場所は、アニキしか知らないはずだろう?」
「……うん」
それについては、学校に戻ったあと根津校長やオールマイトと話し合って、真相はわからないながらも推測を立てている。
「シャドームーンはおそらく本物じゃない……いや、生物学的には本人だけど本物じゃないって言うべきなんだろうな」
「???」
茂と一水の兄妹が首を傾げている。その手の科学知識に長けたジョーが「まさか」と声をあげた。
「クローン……か?」
「うん。彼は改造されてからずっとゴルゴムにいたんだ、DNAを採られていてもまったく不思議じゃない」
いつかは不明だが、そのDNAから信彦のクローンを生み出し、12歳の身体まで促成栽培したのではないだろうか。そして再び、シャドームーンへの強化改造を施した――
「でも、シャドームーンのキングストーンは遺体に埋め込まれたままなんでしょう?姿だけ似せたって、それがなければ出久くんと同等の力を発揮するなんて不可能じゃない」
それは、出久の中でも結論の出ない疑問だった。ありえないとは思いながらも、やはり連中は信彦の遺体を掘り返したのではないかという不安がちらつく。ただ、慌ててそれを確認しに行けば、逆に敵に信彦の居場所を教えることになるかもしれない。今は、下手に動けない。
「……シャドームーンやビシュムのことは、今後じっくり調べていくしかない。問題は息を吹き返したゴルゴムが、新たにヴィランの組織と手を組んだってことだ。主犯格は逃がしてしまったし、今後どんな手でまた攻撃してくるかわからない」
雄英に、だけではない。社会に対しても――
「ただ、今の僕は雄英のいち生徒だ。先生たちに働きかけることはできるけど、学校を通さずにあまり勝手なことはできない。だから――」
「――私たちに手を貸してほしい、でしょう?」
「言われるまでもないわよ」と玲子。それは、この場にいる皆の総意だった。
「……ありがとう。玲子さんには、目をつけられない程度に旅先で情報を集めてきてもらえると助かるよ」
「お仕事ついでってわけね、りょーかいっ!」
「じゃあ俺は、今度こそアニキの護衛を――」
言い募るジョーだが、これには出久はかぶりを振った。今回は危険もあったが、出久自身は高い戦闘能力をもっているし、雄英にはプロヒーローが何人もいる。
「護衛は護衛でも、ジョーさんには茂くんを、響子さんに一水ちゃんをガードしてほしい。一緒に住んでるってことで、狙われないとも限らないから。茂くんたちは、なるべく人気がない場所に行かないこと、ひとりにならないこと……気をつけてほしいのはそれくらいかな?」
「……確かに、茂たちが通ってるのはフツーの学校だもんな」
「わかったよ出久兄ちゃん、明日からは寄り道しないで帰ってくるから!」
こういう、茂と一水の素直さがありがたい。彼らをこのように育てた佐原夫妻は、やはりすばらしい両親で、出久の恩人だと思う。
「でも……引子おばちゃんはどうするの?」心配そうに訊く一水。
「ふふ、ありがとう一水ちゃん。おばちゃんのことは心配しないで……って言っても、無理よね」くすりと笑いつつ、「どうしてもお買い物とか出かけなくちゃいけないし、せっかくだからバッターちゃんに一緒にいてもらおうかしら。前々から一回乗ってみたかったんだけど、出久ったら危ないからって乗せてくれなかったのよ。母親からすれば、息子がバイク乗り回してるのだって色々と心配なのに」
「ア、ハハ……」
バイクどころではない危険なことを出久はしてきたわけだが、母としてはそういう問題ではないらしい。まあ、これもお互い様だ。中年に至って二輪免許を取得する本気度を思えば。
「じゃあ今日から、VSゴルゴム特別警戒体制、始動ってわけね!」
殊更明るく言う玲子。彼女自身の性格もあるだろうが、自分を気遣ってくれていることは痛いほどわかる。出久は力強く頷いた。
「ようし!」ジョーも追随する。「じゃあアニキ、チームRXリーダーとして音頭をとってくれ!」
「ち、チームRX?いつの間にかそんなことになってるの?」
しかも、まぎれもなく非戦闘員である茂や一水、母まできっちり含まれているらしい。それにしても改めて見ると、賑やかになったものである。ここに信彦はじめ秋月家の面々もいてくれたら……という思いがよぎるが、すぐに振り払った。仄暗い思いに囚われていてはきりがない。
「オホンっ……じゃ、じゃあ僭越ながら」烏龍茶入りのグラスを掲げ、「チームRX、レディー……!」
「ゴー!」と続けようとしたそのとき、
『わーたーしがー、来たー!!』
「!」
どこぞから響く、収録されたオールマイトの音声。皆、拳を掲げかけたままの状態でピシリと固まっている中、出鼻を挫かれた出久は音の出所であるハーフパンツのポケットをまさぐり、携帯を取り出した。
「!、オールマイト……?」
それは繰り返し流れる名台詞に対する言葉ではなかった。――画面に表示された発信者の名。それがわからない者は、この場にはいない。
食卓が静まり返ったところで、受話を押す。
「緑谷です」
『――もしもし、少年。今大丈夫かい?』
「……はい」
心臓が音をたてるのが、自分でもわかった。敵のことは色々と話し合ったし、いきなり進展はないだろう。ゆえに思い至る用件は、ひとつしかなかった。
『爆豪少年が、――――』
「……!」
詰めた吐息が、こぼれた。