超・世紀王デク   作:たあたん

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開幕…まで行けたのだろうか、これは?


開幕!体育祭(後)

 

 ヒーローの卵のひとりとして、ゴルゴムの世紀王より"脱皮"して誕生した英雄・仮面ライダーとして。

 

 緑谷出久が新たなる決意を固めた数時間後、1年A組の教室前は異様な雰囲気に包まれていた。

 教室の出入り口が、大勢の生徒たちによって塞がれているのだ。普通科の生徒の姿まである……というか人口比の関係で大部分がそうである。

 

 こうしたことは今までもないではなかった。何せあの仮面ライダーを擁するクラスなのだ。あの救世の英雄がいったいどんな男なのか、興味津々で覗き込みに来る者はいくらでもいる。まあ素の出久はどうにも地味なので、大抵の覗き魔どもは拍子抜けした様子で退散していくのだが。

 

 しかしそうした事態も、入学後ひと月以上が過ぎて沈静化したはずだった。ましてや、この大人数が一度に押し掛けるとは。

 

「か、帰れねえじゃねえかよ。なんなんだよ~……」

 

 ぼやく峰田にジトリと睨みつけられ、出久は苦笑いを浮かべた。確かにまずもって心当たりとなるのは自分自身のことである。

 しかし、

 

「自惚れてんじゃねーよ」

「!」

 

 突き放したような言葉に、峰田は殆ど条件反射的に「ヒッ」と声をあげる。──人当たりの良い人間が多数を占めるこの教室において、そんな物言いをする人間は限られている。

 

「敵情視察だろ、雑魚の」

「かっちゃん……」

「ど、どういうこったよ?」

「ヴィランの襲撃を生き残った連中だ、体育祭の前に改めて見ときてーんだろ。今までどこぞのクソナード以外は眼中に無かったんだろうからなァ」

 

 相変わらず容赦のない爆豪勝己だが、その優れた洞察力は出久も知るところである。ヴィラン襲撃をきっかけに、注目の対象が仮面ライダー単体からそれを擁するA組全体に広がった──そういうことだろう。

 

「そんなことしたって意味ねーから……どけやモブども」

「!?」

 

 A組の面々からすれば「あぁまたか」という程度の振る舞いだが、殆ど初対面の客人たちにしてみればそうではない。空気がひりついたところで、生徒のひとりが声をあげた。

 

「……へえ、それが仮面ライダー率いる噂のA組の姿勢ってわけ」

「!」

 

 勝己の神経を逆撫でするような言葉とともに群衆から抜け出してきたのは、逆立った紫髪をもつ長身の生徒だった。

 

「こういうの見ちゃうと、幻滅するなあ……。普通科とか他の科ってさ、ヒーロー科落ちたから入ったってヤツ結構いるんだ、知ってた?」

「はっ……だから何だってンだ」

 

 「わかんないかなぁ」と、少年は首筋を掻いた。

 

「学校は俺たちみたいなのにもチャンスを与えてくれたんだ。体育祭で好成績を残せば、ヒーロー科への転籍が認められる。……逆もまた然り、ってね」

「………」

 

 その言葉に、A組の何人かがごくりと唾を呑み込む。

 

「敵情視察?少なくとも俺は、いくらヒーロー科とはいえ調子に乗ってっと足下掬っちゃうぞって宣戦布告しに来たつもり」

 

 唇の端を吊り上げ、挑戦的な笑みを浮かべる少年。余程自信があるとみえる。それはこの御時世において大したものだが、それだけで英雄を標榜できはしない。

 と、今度はB組の鉄哲を名乗る少年──心なしか容貌・言動ともども切島に似ている──がA組の傲慢ぶりに怒りの挑戦状を叩きつけてきた。むろんそれを招いた責任は爆豪勝己ただひとりにあるのだが、彼自身はもう挑戦者たちに一切の関心がないようであった。

 

「待てこら爆豪!」切島が抗議する。「どーしてくれんだ、おめェのせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか!?」

「関係ねェよ」

「はあ!?」

 

「ウエに上がりゃ、関係ねえ」

「……!」

 

 それは己に言い聞かせるがごとき響きをもっていた。いずれにせよ彼はそれ以上どんな言葉も聞き入れず、人混みを突っ切って去っていく。

 勝己の傲岸不遜な態度を、歓迎はしないまでも受容しつつあったA組だが……他のクラスとの対立を招いたことには当然、賛否が分かれた。ヒーローを目指す以上、上昇志向を強くもつことは正しい。だが、彼のような言動は──

 

「確かに、言葉は悪かったと思う」

「!」

 

 このように空気が"揺らいだ"とき、前へ出ていくのはやはり彼の役目だった。委員長の座は他人に譲り渡したといえど、平和の象徴と並び称される英雄の言葉が重くないはずがない。

 

「でも僕は謝らない。彼の言った"ウエに上がる"がどういう意味か、わかる?」

「……?」

 

 「……優勝?」と、隣で峰田がつぶやく。無論、目の前のことに限定するならばその通りだが。

 

「ヒーローとしてトップに立つってことは、この社会の平和とか安寧とか……そういうモノすべてに、責任を負うってことだ」

 

 責任と、簡単に言う。しかし今の御時世、それがどんなに困難なことか。

 

「ゴルゴムのように社会を裏から牛耳る連中、クライシス帝国のようになんの前触れもなく異世界から侵攻してくる連中……そういう、生半可な信念では到底太刀打ちできない悪が、いつまた現れてもおかしくない。──そんな奴らと戦う、矢面に立つ覚悟が……きみたちにあるの?」

 

 まぎれもない、自身の経験に裏打ちされた言葉だった。彼に与えられた英雄の称号は栄誉などではない、彼が味わってきた苦難の烙印にほかならない。

 それゆえに発せられる凄みに、生徒たちは言葉を失う──ただ、ひとりを除いて。

 

「……あいつには、それがあるって言うのかよ?」

 

 勝己にも臆せず喰ってかかっていた、紫髪の少年だった。仮面ライダー相手でも態度を変えない点は、むしろ見るべきものがある。

 

「あるよ」

 

 ゆえに出久も、まっすぐ彼の目を見て即答する。

 

「かっちゃん……彼にはもう、覚悟も矜持もある」

 

 それゆえ彼は、口だけではない。──彼らを最後まで相手にせずいの一番に下校したのは、一分一秒でも時間をムダにしたくないというのもあるだろう。ならば最初から徹底的に無視するのが最も合理的かつ穏便な方法なのだが、そうできないのが良くも悪くも彼の性であった。

 いずれにせよ、

 

「悪いけど、僕も帰るよ。……優勝の為に、手を抜くつもりはないからね」

「!」

 

 にこりと人の良さそうな笑みを浮かべて、出久もまた帰宅の途につく。最後のひと言がクラス内外に与えたであろう衝撃に、思いを致しながら。

 

 

 *

 

 

 

 波乱を予期させる放課後から、体育祭までのわずかな期間。頂を目指す者たちは皆、個性を磨き、身体能力を磨き、来るべき日に備えていた。

 無論、仮面ライダー・緑谷出久とてそのひとりである。優勝の為に手を抜くつもりはない──その言葉は心からのもの。しかし人間では歯が立たない怪魔怪人たちをことごとく粉砕してきたRXの力に、天候さえ変えると言われているワン・フォー・オールが掛け合わさっている今、"全力を出して戦う"ことはありえない。矛盾するようだが、出久のやらねばならないことはつまり。

 

「はぁああ──ッ!」

 

 がらんとした採石場にて、RXに変身した出久は白銀の怪魔ロボットと激闘を繰り広げていた。クライシス帝国の生き残りであり、かつての強敵との対決。のめり込めばのめり込むほど、その拳には力がこもる。──討ち果たすべき仇敵を相手取るなら、それでまったく問題はないのだが。

 

「どうしたアニキ……いや仮面ライダー!そんな戦い方じゃ、俺が()()()()()ぞ!」

「ッ!」

 

 対戦相手であるデスガロンの言葉に、慌てて構えを整えなおす。──倒して……殺してはいけない。

 

「強すぎるってのも考えものだよなぁ」

 

 少し離れたところで見学していた茂が、のんびりした口調でつぶやく。敵を殺さず、戦意を折り無力化する──そのための戦い方を、出久は習熟させようとしている。ヒーローとして同じ人間を相手取るなら、一度たりとも間違いがあってはならないのだ。

 

 そうこうしているうち、RXはバイオライダーに変身を遂げた。

 

「お、出番みたいだぞ。一水、響子姉ちゃん!」

 

 出番の来た少女ふたりが、嬉々として立ち上がる。

 

「出久兄ちゃん!」

「!」

 

 振り向いたバイオライダーが目の当たりにしたのは、某妖怪よろしく一握の砂を手にした一水の姿だった。

 

「いっくよー、それっ!」

 

 その砂を投げつける。嫌がらせのような行為だが、戦術的な意味はある。彼女の個性は、砂を水に変えるものなのだ。

 無論、水をかけるだけでは仮面ライダーどころか一般市民にさえも脅威とはならない。ただ風邪をひく心配が増すだけである。

 しかし彼女には、自身の個性を有用な攻撃手段へと変える相方がいる。それが、的場響子なのだ。

 

「はっ!」

 

 ぶちまけられた水を、念波を送って操る。水を操る"超能力"──それは個性とイコールではない。人類が太古より持ちえながら、選ばれた一部にしか開花することのなかった力だ。

 その後押しを得た無数の水分子は、生命を得たかのように動き出した。高速で回転しながら渦を作り出し、バイオライダーを取り囲む。

 

「!」

 

 咄嗟に液状化で離脱しようとするライダーだったが、水の竜巻に閉じ込められてはそうはいかない。その能力によりあらゆる物理攻撃を無効化できる……一見無敵とも思えるバイオライダーだが、高熱ともうひとつ、同じ液体についても使いようによっては弱点となりうるのだ。

 

「ッ、ぐ……!」

 

 液状化が災いし、身体の自由がきかず苦しむバイオライダー。──初めて攻撃が通用したと喜ぶ一水たちだったが、彼にはまだまだ奥の手があった。

 

(ワン・フォー・オール……!!)

 

──刹那、水の束は四方八方に弾き飛ばされていた。

 

「きゃあっ!?」

「おわっ!?一水、響子姉ちゃん!」

 

 驚き尻餅をついてしまったふたりを、茂が咄嗟に助けに入る。まだ中学生の身ながら、よくできた少年であった。

 

「ふぅ……」

 

 一方のバイオライダーは、RXの姿に戻ってひと息ついていた。

 

「やるねふたりとも。ちょっと焦ったよ」

「ちょっとって……もー!出久お兄ちゃんずるい!チートっ!」

 

 一水の可愛らしい罵声が飛んできて、思わず苦笑する。確かに多少の弱点はワン・フォー・オールによるごり押しで克服できてしまうのは、そのように言われても致し方ないことかもしれない。

 

(でもこの調子で、数少ない弱点も潰していけたら)

 

 無敵になればこそ、人間相手に不殺の戦いを貫くことができる。心新たに、出久……RXは日が暮れるまで仲間たちとの修行に明け暮れるのだった。

 

 

 *

 

 

 

──そして、体育祭当日が訪れる。

 

 

 つづく

 

 





夢と希望に燃える少年少女たちの闘いが始まった。第一種目、障害物競走!第二種目、騎馬戦!宣誓の言葉をたがえず、仮面ライダー・緑谷出久はトップを走りきることができるのか!?

次回 超・世紀王デク

「独走!!」


ぶっちぎるぜぇ!!

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