超・世紀王デク   作:たあたん

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魔王邀撃(前)

 

──騎馬戦、スタート。

 

 手に汗握るような静寂に包まれていたスタジアムは、途端に歓声と雄叫びの坩堝と化した。

 

「おらァいくぜ半分野郎、クソ眼鏡、丸顔ォ!!」

「誰ひとりとして名前で呼ばないんだなキミは!!?」

 

 初っ端から漫才のようなやりとりを披露しながらも、スタートダッシュを極めたのは爆豪チームだった。彼らが狙うのはやはり最大の標的、仮面ライダー……ではなく。

 

『おおっと爆豪チームっ、いちばん近くにいた鱗チームに襲いかかったァ!手当たり次第ポイントをぶんどる作戦かぁぁ!!?』

「図星だわクソが!!」

「先生に向かってクソがはないだろう!?」

「聞こえなきゃ関係ねーんだよ!!」

「もー、耳がキンキンする!」

「………」

 

 まとまりがないのはこの際仕方がない。ただ、彼らの目指すところは一致している。――"次"へ行く。そのためにこのステージにおいて必要なのは、点を獲ること。

 

 言い方を変えれば、仮面ライダーに()()()()()()()()()

 

「ハチマキよこせやボケコラクソカス!!」

「ヒッ!?」

 

 仮面ライダーを除いたA組の――常識的な範囲での――実力者が組んだ爆豪チームに対し、鱗チームは少数精鋭……と言えば聞こえはいいがB組のクラス内事情により通常の最少人数である二名編成となってしまった。個々の実力差も鑑みれば、蛇に睨まれた蛙も同然である。

 

「ッ!」

 

 正面衝突を避け、躊躇なく逃げの態勢をとった鱗チーム――鱗と宍戸は決して愚かではない。

 ただ、狩猟者(ハンター)はそれ以上に上手だった。

 

「逃がさねえ」

 

 騎馬の一翼を担う轟が、己の個性を発動する。右手を振りかざすと同時に空気中の水分が一気に冷却され、巨大な氷の塊となってステージを奔る。その瞬間、獲物たちの運命は決していた。

 

「あ、足が……!?」

 

 馬である宍戸の足を氷結が包囲し、彼らは一歩たりとも身動きがとれなくなる。鱗は無事だがそういう問題ではない、自由になるために騎馬を降りたりしたらその時点で失格なのだ。言うまでもないことだが。

 

 だから彼らには、その場にとどまり邀撃するほかにとりうる道はなかった。ただそのための覚悟や用意を整える猶予すら、A組準最強の布陣は与えない。

 

「行くぞ……!振り落とされないでくれよ!」

 

 今度は飯田が己の個性を発動させた。脹脛のエンジンが獣の咆哮のごときけたたましい音を立て、持主の筋骨逞しい肉体を加速させる。十代半ばとは思えないほど完成した身体はそのスピードに慣熟しているが、彼とスクラムを組んでいる者たちはそうではない。

 

「……ッ!」

 

 飯田の身体にしがみつき、耐える轟とお茶子。ただそうなると、陣形を維持する余裕はなくなってしまう。

 

「ンなこと、わーっとるわカス!!」

 

 誰ぞに吼えつつ、勝己は地上めがけて爆破を放った。その衝撃に圧されて身体がぶわりと浮かび上がる。――彼の編み出した、あらたな戦法。

 

「ブッ殺死ねぇぇぇぇ!!!」

 

 今度は重力に従って急降下し、獲物めがけて爆破――

 

 

「うぎゃああああああ!!?」

 

 哀れな草食獣たちの悲鳴が、響き渡った。

 

 

 *

 

 

 

 爆豪チームが素早いスタートダッシュを切る一方で、文字通り一騎当千の緑谷チーム?もまた走り出していた。

 

「さあ、全員まとめて――」

『――カカッテコイ!』

 

 ほかの生徒たちがせいぜい二ヶ月弱の交流であるのに対して、出久――仮面ライダーとアクロバッターは濃密な三年の苦楽をともにしている。その連携を突き崩すには彼らを上回るだけの実力が必要になるのだが、現時点でその条件を満たしている生徒がいるかどうかは……言うまでもあるまい。

 

「う、うわぁあああああ!!?」

「こ、来ないでぇえええええ!!」

「ママーーーーーー!!」

 

 ……阿鼻叫喚。観客席から見ると大袈裟ではないかとも思えるのだが、少年少女たちがこうまで恐れを露にするのはひとえに仮面ライダーの放つ強烈極まりない威圧感によるものだった。

 だが、ビビって作戦もなく逃げ出したところで仮面ライダーとアクロバッターから逃げきれるわけがない。彼らは早々に追いつかれ、ハチマキを奪われる末路を迎えた。

 

『情ケナイゾ、オマエタチ!』

 

 さらに、アクロバッターがひと言。ここまで追い打ちを食らっては、彼らの戦意は完全に萎えてしまう。そうなれば騎馬が崩れなくとも、もはや敗北は決定づけられたようなものである。決勝トーナメントに残ることができるのは、この中でも半数ほどにすぎないのだから。

 一方で、

 

「……やっぱり、凄いや。緑谷のやつ」

 

 その光景を遠巻きに見ながら、尾白猿夫がぽつりとつぶやく。彼は切島鋭児郎をはじめとする腕っぷしに自信のある面々とチームを組んでいた。

 

「だよな、漢らしいよな!」切島が同調?する。「さて……どうする、尾白?」

「え?」

「緑谷と戦うか、それとも他とるか。この中じゃいちばん頭いいのおめェだし、判断はまかせるぜ!」

 

 「俺は戦いてぇけどな!」といちおう自分の意見を表明するのも忘れない切島。リーダーは彼なのだが、チームの中では最も知力に長けた――あくまで比較的ではあるが――尾白に参謀役を委ねるつもりらしかった。

 

(荷が重い、なんて言えないよなぁ……)

 

 自信があるわけではないが、ヒーローにはオールマイティーが求められる。これも将来のためだと思い直し、彼は思考を凝らした。

 

「……俺たち三人だけで真正面からぶつかっても、返り討ちに遭う確率が高い」

「う……ま、まあな」

 

 戦いたい切島としても、そこは同意せざるをえない。相手は"あの"仮面ライダーなのだ。

 

「もし、戦うなら――」

 

 参謀の献策に、リーダーは「その手があったか!」と手を打った。

 

 

 *

 

 

 

 その身を陽光に煌めかせた漆黒の異形が、蒼天を貫くように勇躍する。

 

(ワン・フォー・オール、フルカウル!!)

 

 翅をもつでもないのに、異形は滞空したまま急加速を遂げる。あ、接近してくる。呑気にそんなふうに捉えていたチームの連中は、次の瞬間騎馬を突き崩され、あえなく脱落させられていた。

 

「はっ!」

 

 意を遂げた仮面ライダーは、そのまま空中でぐるりと一回転、自走していたアクロバッターに着地した。

 

『順調ダナ、ライダー。ダガ、モウ1,000万ポイントモアルノニコレ以上点数ヲ稼グ必要ガアルノカ?』

「逃げてるだけじゃ、みんなのためにならないからね」

 

 小さい点数のハチマキが、RXの身体のあちこちにぶら下がっている。既に高得点を確保しているチームを除けば、決勝に進むためには否が応でも自分と戦わざるをえない。結果は見えている……などと言って尻込みしているようでは、それまでということだ。

 とはいえ、このまま自分が点数を集める一方では決勝トーナメントが成り立たないかもしれない。まあそうなったらなったで教師たちが対応を考えるだろう、そんなことを考えていたらば、いよいよ目の前に立派な体躯の騎馬が立ち塞がった。

 

「快進撃もここまでだぜ、仮面ライダーさんよ!」

「!」

 

 逃げるどころか、真正面から仕掛けてくる者たち。彼らがクラスメイトであることを、仮面ライダーは内心喜んだ。どんなに実力差があろうと、背中に守るものがある限り立ち向かわねばならない。ヒーローとは、そういうもの。

 

「アクロバッター、行くよ!」

『了解ダ!』

 

 RXの腰を取り巻くベルト状の意匠――サンライザーが光を放ち、アクロバッターもろともその身を包み込んでいく。

 一瞬の遮蔽、そののち光が消散し、さらなる変化を遂げた異形の戦士たちの姿が露になった。

 

「RX――ロボライダー!」

『アクロバッター改メ、ロボイザー!』

 

 漆黒とバーミリオンに覆われた、鋼鉄の身体。真っ赤な複眼から垂れた、血涙のような意匠。"悲しみの王子"の別名をもつ、RXの別形態である。

 その姿に変身したこと自体は、驚きをもって受け止められることでもなかった。仮面ライダーが複数の形態を使いこなすことは既に周知の事実なので。ただ、アクロバッターもロボイザーに姿を変えることはあまり知られていなかったが。

 

 一方対峙する者たちは、戦闘態勢をとりつつ分析を張り巡らせていた。

 

「ッ、また変身した……。あの姿、確か――」

「ロボライダー。パワーと頑丈さ、あと銃をもっていて遠距離戦闘ができることがウリの形態だね」

 

 尾白の言葉に、切島は考える。飛び道具があるとなると不利は覆しがたいが、今のところ相手はまっすぐ突進してきている。

 

「パワー勝負か……なら負けるわけにゃいかねえ」

 

「――そうだろ、砂藤!」

「おうよ!」

 

 切島チームの戦闘の要−−砂藤力道が力強く頷く。A組生徒の中でもとりわけ体格の良い彼は、その外見に違わず腕力増幅の個性をもっている。そう、切島チームはとかくパワーを重視して編成されているのだ。出久も当然それを読んで、ロボライダーとなったのだった。

 

『ライダー。奴ラ、逃ゲルツモリハナイヨウダゾ』

「だろうね。――このまま突っ込むわけにもいかないから、ここで待ってて」

『折角変身シタノニ……』

 

 アクロバッター改めロボイザーは不満そうだったが、実際轢いて怪我でもさせたら一発退場である。彼をパートナーとすることは認められたが、なんでもありの無法地帯ではないのだ、ここは。

 

 再びワン・フォー・オールを発動し、ロボイザーから跳躍する。RXの姿より若干スピードは落ちているが、それでも弾丸のような肉薄だ。狙うは当然、リーダーの切島がもつハチマキ。

 

(獲る!)

(獲らせるかってんだ!)

 

──そして、激突。

 

「……ッ!」

 

 尾白の尻尾がロボライダーの行く手を阻まんとする。当然それは払いのけられ、あっさりと突破される。しかしほんのわずかでも勢いを削ぐことが彼の目的だった。同時に切島、砂藤が己の個性を発動させ、弾丸と化したロボライダーを真正面から受け止める。

 

「ぐ、おお……!」

「なんつー、パワーだ……!」

 

 どうにか一瞬でハチマキを奪われることは防げたが、ロボライダーのパワーを前に三人がかりでずりずりと後退させられる。馬となっているふたりの屈強な身体が揺らぐ。ハチマキを奪われただけなら挽回の可能性はあるが、騎馬を崩されればその時点で勝利への道は閉ざされる。ゆえに彼らは、堪えに堪えた。無論、それだけで展望は開けない。

 

──彼らには、策があった。

 

『ウワアアアア!?』

「!?」

 

 背後から響く悲鳴が、ライダーの心を激しくかき乱した。慌てて振り向く。と、そこには悶え苦しむロボイザーの姿。

 

「アクロバッター!?」

 

 彼は、攻撃を受けていた。──もうひとつのチーム。

 

「悪ィな緑谷、おまえの馬は潰させてもらうぜ!」

 

 得意げな笑みを浮かべ、電撃を放つ金髪の少年。

 

「ッ、上鳴くんか……!」

 

 上鳴電気、電撃を操るクラス一のお調子者。軽薄なところはあるが、仮面ライダーである出久に対しても遠慮のない明るい性格はA組の清涼剤でもある。

 そんな彼の属するチームを牽引するのは、八百万百。彼女の優秀な頭脳のもと、さらにメンバーである耳郎響香と口田甲司が動く。A組の中では、どちらかといえば目立つほうではない生徒たち。その個性も、たとえば爆破や半冷半燃のように華やかなものとは言い難い。

 

 しかし単に破壊力があるわけではないからこそ、仮面ライダーの蟻のひと穴にもならないような隙を突くことができる。

 

『シビレル……!耳ガッ、──ウワアアアッ、虫ガ、虫ガァァ!!?』

 

 ロボイザーは電撃を浴び、轟音に揺さぶられ、挙げ句の果てに大量の蟲に集られていた。それぞれ単体の攻撃だけならさほどの脅威ではなかったが、相乗効果によって彼はパニックを起こしていた。車体がオーバーヒートし、一ミリたりとも走ることができなくなる。

 

「なるほど……!将を射んとすれば、ってことか!」

 

 むろん、馬が動けずともRXの圧倒的なパワーは揺らがない。しかしこれは試合だ、将が自らの足で大地に立つことの許されないというルールもある。

 

「やってくれるね……──それならっ!」

 

 切島たちとのぶつかりあいを中断して、ロボライダーはワン・フォー・オールによって空へ飛び上がった。とはいえこの個性はあくまで身体能力の強化である、跳躍力は上昇しても飛翔を続けられるわけではない。壁か何かを蹴りつけて跳ばねば、やがては重力に捕らわれる時がくる。

 

──尤も、そう容易く勝利を掴ませるつもりはない。

 

「悪いけど、僕は飛ぶよ。どんな姿になってでも!」

 

 言うが早いか、RXは再びその身を光に包んだ。鋼鉄のロボから、生物のバイオへ。

 怒りの王子の別名をもつ彼の、代表的な能力といえば。

 

「うおッ、スライムみてーになった……!」

 

 その能力はむろん知っているが、眼前で変身されると衝撃は大きい。しかも液状化することで質量を分散し、滞空時間を伸ばしている。

 

(待っててアクロバッター、今救ける!)

 

 相棒を救出すべく標的を変え、液体の塊のまま上鳴チームへ向かっていくバイオライダー。彼らさえ抑えれば、再び正しい"騎馬戦"に戻ることができる。

 

──それに、

 

「アクロバッターにこれ以上……手出しはさせないっ!」

 

 彼を一度は喪った記憶が、出久を突き動かす。むろん、ルールの範疇で全力を出しているだけの同級生たちに罪はない。だからこちらもルールの範囲で、全力で止めるだけだ。

 

「はあああああ──ッ!!」

 

 液体からバイオライダーの姿に戻り、上鳴チームの頭上から急降下する。ロボイザーからマックジャバーに姿を変えたアクロバッターに攻撃を続けている彼らは、すぐには動けない。だいたい攻撃をやめればマックジャバーが即座に動き出すかもしれず、迂闊にその手を弛めることもできないのだ。

 

 ゆえにいっときの優勢は、まもなく終わる──誰もがそう思った、次の瞬間。

 

 

 バイオライダーは、飛来した光の束に呑み込まれた。

 

 

 

 

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