3年近く書いてるのにまだ体育祭かよって感じですが、引き続きマイペースに続けていきたい。
『さァ、2回戦も残り一分を切ったァ──!!どっかの大魔王が上でも下でも大暴れしたせいで非常にシヴィ〜な激戦になっちまったが、残ったヤツらは果たして生き延びることができるのかァ〜〜!!?』
プレゼント・マイクのシャウトの通り、騎馬戦はいよいよ佳境を迎えていた。
残る数チームは生き残りをかけて必死に戦い続けている。──彼の言うところの"どっかの大魔王"もまた、そのひとりには違いなかった。
『誰ダ今イナゴッテ言ッタノハ!!?』
「誰も言ってねえ──!!?」
主に彼の相棒は、狩人気取りでひたすら興奮しているのだが。
「ッ、尾白!砂藤!もっと速く走れねえか!?このままじゃ……」
「追いつかれるって!わかってるけど……!」
「ヒィ、ヒィ……もうぶっちゃけ、エネルギーが……!」
尾白はまだしも、糖分を吸収することで身体能力を強化している砂藤はもう限界に近いようだった。仮面ライダーを相手取った激戦の矢面に立ってきたのだ、無理もない。
対して、騎手である自分にはまだ"肉体的には"余裕がある。ふたりにばかり負担を強いている状況に切島は歯噛みしたが、まずは生き残ることを考えなければ。
──無論、彼らはただ逃げているだけではない。
「ヤオモモ、そろそろアイツらも限界だ。それに、これ以上緑谷に近づかれると……」
チームメイトのひとりである耳郎響香の進言に、リーダー・八百万百はこくんと頷いた。
「ええ。一撃で、吹っ飛ばしてご覧に入れますわ……!」
彼女は自らの個性を最大限に活用し──なんと、その場に迫撃砲を生み出していた。
"創造"──非生物であれば、なんでも己の身から生成できる。ただしデメリットもある。体内の脂質を変換しなければならないこと……そして、皮膚を介する都合上大きなものを創ると衣服が破れてしまうこと。
それゆえ緊急時のフォローを除き、個性の使用は極力控えてきた──本領発揮のチャンスを伺って。
切島チームが標的を引きつけている今こそ、そのときだ。
「いきます!3・2・1──」
──
砲弾が空中めがけて撃ち出され、青空に融けるまでに上昇していく。かと思えば、ある地点から綺麗なアーチを描くように落下を開始し、
今にも切島チームへ迫ろうとしている、騎馬の異形の傍で爆裂した。
「ッ!?」
思わぬ衝撃に、吹き飛ばされそうになる仮面ライダー。実際、彼が常人の身であればその通りになっていたことだろう。耳を劈くような轟音、そして世界を白一色に染める閃光──五感の限界を容易く超えるあらゆる責めによって、意識を奪いとるというおまけ付きで。
だが、そこは核にも耐えるボディの英雄とその相棒である。吹き飛ばされるどころかぎりぎり倒れることもなく踏みとどまる。ただ姿勢制御と引き換えに、転進を余儀なくされたのだが。
『アト少シトイウトコロデ……!』
「……遠慮がなくなってきたね。あと四十五秒、それで時間稼ぎをするつもりかな?」
またワン・フォー・オールで飛翔して、一気に距離を詰めてもいいが……そうなると、活躍の場をなくしたアクロバッターが拗ねるだろう。
少し考えて、出久はこのまま騎上の人であることを選んだ。自分を狙って襲いくる砲弾を巧みにかわしつつ、八百万チームに迫っていく。
「ヤバイ、来る……!」
これ以上接近されたら、砲撃もできない。
「──任せて!」
体格に見合わない甲高い声を発した口田甲司が、己の個性を発動させる。大量の羽虫を呼び寄せ、その群集を迫る強敵に差し向けたのだ。
「ッ!」
視界を塞がれ、スピードが鈍る。尤も騎手より、騎馬であるアクロバッターのほうが甚大なダメージ?を受けていた。
『ウワァ、マタコレ……虫ハ苦手ダァ!?』
「ええっ……」
じゃあきみは一体なんなんだ。喉もとまで出かかった言葉を、出久はかろうじて飲み下した。バッタを象った姿をしてはいるが、彼は世紀王のために創られた生体マシンである。人語を解することからわかるように、その精神は人間のそれと変わりない。
ともあれ、時間稼ぎは奏功した。八百万チームが後退し、両者の間に切島チームが割り込む。当初は呉越同舟の立場だった彼らも、今となっては完全に一心同体となって絶大なる脅威に立ち向かっていた。
『さあッ残り十五秒だァ!いよいよカウントダウン開始といくかァ〜〜!?』
「ッ、やっとか……!」
「まだ油断はできないぞ!切島、砂藤」
「おうよ!八百万たちには、指一本触れさせねえぜ……!」
本当の勝負はここから。ひとケタ秒の中でも自分たちが突破され、八百万チームまでもが蹂躙される可能性はまだ十分にある。そうなればここまでの努力は水の泡。──なんとしてでも、全員で生き残ってみせる。
そんな彼らの熱意を汲み取りながら、仮面ライダーも手を緩めるつもりはなかった。
「時間がない、アクロバッター!一気に突破するんだ!!」
『ヨ〜シ……!』
ライダーがアクセルを捻り、覚悟を決めたアクロバッターが一気に加速する。
「ワン・フォー・オール……!フルカウル!」
光を纏う英雄。迎え撃つ少年もまた、己の全力をもって肉体を硬化させていく。
「敗けねえ……!絶対に!!」
「その情熱ごと、ブチ砕く!!」
カウントダウンの声が響く中で──彼らは、己の掌を突き出しあった。最後の最後、得点を獲りに行くために。
──そして、
『ゼロ──!試合、終〜了ォォォ!!』
プレゼント・マイクのシャウト、ミッドナイトのホイッスル──そして、観客の歓声。
二回戦の終焉が、告げられた。
「……よく頑張ったね、みんな」
心の底から発せられた、若き英雄の労いの言葉。彼の指先は──あと数ミリメートルのところで、切島のハチマキを捉え損ねていた。逆もまた然り、であるが。
「……た、」
「耐え、たぁ……」
極度の緊張状態から解放された切島の身体が、ぐらりと騎上から揺れ落ちる。彼を乗せているのが本物の馬であればそのまま地面に叩きつけられるところだが、実際のところは幸いにして気脈の通じた仲間たちである。
「!」
すかさず尾白が尻尾で受け止め、砂藤が掬い上げる。切島はぐったりしていたが、意識はあるようだった。
そんな切島チームの背後で、八百万チームの面々もまた精魂尽き果てたようなありさまであったことは、言うまでもなかった。
──そして、もう一方の戦場。
「……痛み分け、か」
「クソが……!」
心底悔しげに顔をゆがめる爆豪勝己。その手には敵から奪ったハチマキが握られていたが──彼もまた、鉄哲の手によりハチマキを奪われていたのだった。
「くっ……!あと少しというところだったのに……!」
「でも、それなりの点数は確保できたし!突破は、できたんちゃう?」
お茶子の言葉もいちおうは的を射たものだった。仮面ライダーによる蹂躙によって、既に過半数超のチームが脱落させられている。鉄哲チームが元々保有していたポイントも大きいから、決勝へ駒を進めることはできたのではないか。
「そういう問題じゃねえッ、つかもう降ろせやクソども!!」
「痛ッ!?ほんとうにきみは口も手も酷いな!?」
もぐら叩きのように頭に拳をぶつけられ、飯田たちは勝己を地面に降ろさざるをえなかった。──彼の緋色の瞳が睨みつけるのは、今の今まで争っていた鉄哲チームではなくて。
「半分野郎、てめェ……!」
「………」
半分野郎──そうあだ名された轟焦凍は、チームメイトの憤怒を黙殺するかのようにあらぬ方向を見つめていた。
*
第二回戦の結果が出揃った。
1,000万ポイントを保持し続けた仮面ライダー……もとい緑谷チームが首位であることに揺るぎはないとして、鉄哲チーム、爆豪チーム、切島チームが続く。本来ならこの4チームのみが決勝戦進出の有資格者となるところなのだが、
「12人じゃ盛り上がりに欠けるわねぇ……。よし、1チーム増やしちゃいましょう!」
主審であるミッドナイトの鶴のひと声によって、5位のチームも決勝へ駒を進めることとなった。となると、鉄哲たちと交代するまで爆豪チームと骨肉の?争いを繰り広げていた物間チーム、誰もがそう思っていたのだが──
「え……?」
電光掲示板に表示された名前は──心操チーム。
「悪いね。──ご苦労さん」
「……ッ!」
心操人使の嘲りを多分に含んだ笑みに、物間たちはただぎりりと歯を食いしばることしかできない。
いったい、何が起きたのか。ニ大合戦が場を占めている中にあって、それを知る者は当事者以外に殆ど存在しなかった。
ただ、偶々その光景を目撃していた者たちは、燃えるような声援ではなく怪訝な声音ばかりを洩らしていた。
なぜなら、そこに力のぶつけあいはなかったからだ。心操チームが後ろから近づき、不意打ちをするでもなく声をかけ……振り向いた物間は次の瞬間、自ら心操にハチマキを手渡していた。何かとんでもない弱みでも握られているのでは?──そんなふうに邪推する者が現れるのも、むべなるかな、である。
無論、そうではない。すべては、心操人使の個性によるものであった。
*
第二回戦が終了したところで、ちょうど正午である。決勝戦は午後を待つこととして、参加者も観客もみな昼休憩という名の小休止に入った。決勝進出者計16名にとっては、嵐の前の静けさがごとき時間である。
──決勝進出者といえば、こんなひと幕もあって。
「僕は……決勝トーナメントを、辞退したい」
後ろめたい表情でそう宣言したのは、心操チームのメンバー・庄田二連撃であった。
当然、その申し出を受けたミッドナイト及びB組担任のブラドキングに事情を訊かれる。それに対し、彼は思ってもみないようなことを口にした。
「実は……騎馬戦の記憶が、ほぼ無いんだ。心操人使くん、彼に声をかけられて振り向いた途端、突然頭に靄がかかったようになって……」
──気づけば、心操チームの一員として戦っていた。
そんな自分が何をしたのかもよくわかっていないような状態で、決勝トーナメントに進出する資格はない。手法は様々あれ、"プルス・ウルトラ"……さらに向こうへ行くために、死力を尽くした者こそ進むべき道。
庄田少年の主張は信念に基づいたもので、多少の説得はあったものの結局は容れられることとなった。
彼の抜けた穴を埋めるために次点の八百万チーム内でくじ引きが行われ、上鳴電気が決勝への切符を手に入れた。
「……ほんとに良いのか?俺で……?」
選ばれた上鳴だったが、自信満々というわけにはいかなかった。何も貢献していないわけではないが、終盤は反動でアッパラパーになってしまっていた。庄田ではないが、気づいたら試合が終わっていたというような状態だ。
それに対して、チームメイトたちはというと。
「くじ引きだもん、しょうがないっしょ」
「僕は、上鳴くんなら良いと思うよ……!」
耳郎、口田──そして、八百万も。
「皆さんに功績があり、同時に至らない点がありました……無論、わたくしも含めて。ですから、どなたが進出しても恨みっこはなしですわ。わたくしたちのぶんまで頑張ってくださいね、上鳴さん」
仲間たちの後押しを受けて、彼は庄田とは異なる道を選んだのだった。
──改めて、ランチタイムである。
戦い終わって早々に合流したお茶子・飯田両名を引き連れ、出久はアクロバッターを押しながら歩いていた。観客たちのひしめく敷地内だが、ひと目で生徒とわかる濃紺の体操服に似たような色のバッタ型マシンの組み合わせは非常に目立つ。すれ違う人々から声援を受け、出久は面映い思いを抑えて笑顔で応じた。
「やはり凄まじいな……緑谷くんの人気は」
「そりゃ大活躍やもん、いつも。はあ、あやかりたいなぁ……私なんか、騎馬戦でも全然やったし」
「そんなことはないぞ!確かに麗日くんの個性は真っ向勝負向きでないかもしれないが、そのぶん的確にアシストしてもらった!ありがとう!!」
人並みに負けない大声にお茶子が苦笑していると、
「出久く〜ん!こっちこっち〜!」
「!」
聴く者の心を和らげるような声だった。見れば、少女と呼ぶには成熟した女性がこちらに手を振っている。
「あ、いたいた。玲子さん」
「ム、彼女が噂に聞く……」
「うん、白鳥玲子さん。クライシス帝国と一緒に戦った仲間だよ」
プロヒーローですら正攻法では歯が立たなかった、あのクライシス帝国の怪魔怪人と──もちろんサシでの勝負をしていたわけではなかろうが、だとしても一般市民にあるまじき偉業である。
「やっほー出久くん、アクロバッター!」
『ヤッホー』
「や、やっほー。来てると思わなかったよ」
「うん、こういうイベントは生で見てこそだもん。それにしても案の定大活躍……っていうか、やりたい放題だったわねぇ。大丈夫?周りから恨み買ってない?」
「あはは……」
出久がブラックジョークに鼻白んでいると、
「そんなことはありません!緑谷くんは尊敬すべき先達であると同時に、信頼できる友人です!!」
「!」
思わず声をあげてしまった飯田は、慌てて「失敬」と頭を下げた。
「はは……ありがとう天哉くん。──紹介するよ玲子さん、飯田天哉くんと麗日お茶子さん。あ、もう知ってるかな?」
「ウン、さっき活躍してたモン」
「恐縮ですッ!!」
背筋を限界まで真っ直ぐに声を張り上げる飯田。恐"縮"という言葉とは矛盾しているようだが、むろん実際にはしていない。
一方のお茶子は、じいっと玲子の顔を凝視していた。睨みつけている……わけではないようだが。
「……何か、私の顔についてる?」
「う、麗日さん?どうしたの?」
心配した出久が恐る恐る訊いた瞬間、お茶子はその場に崩れ落ちた。
「め、めちゃくちゃ美人や……」
「!?」
「あらありがとう。でもお茶子ちゃんもキュートよ、とっても!」
「……性格まで美人や……勝てへん」
『休憩マデ勝負スルノカ?』
「容姿も性格も勝ち負けではないぞ麗日くん!!」
個性豊かにも程があるやりとりに、思わず苦笑する出久。──しかし次の瞬間彼は、人波の向こうに見知った姿を認めた。
(あれは……かっちゃんと、轟くん?)
爆豪勝己と轟焦凍、同級生の中でも印象深いふたりが連れ立って歩いていく。昼食をともにするつもりなのだろうか、同じチームで共闘した関係なのだ、そうであっても不思議ではない。
だが、それにしては……一瞬見えたふたりの表情はあまりに険しく、冷えきっているように感じた。
「……皆、ごめん。僕、ちょっと」
「えっ?」
「ちょっとって出久くん、お昼は?引子さんたちとお弁当作ってきたのに!」
「先食べててっ、あとで絶対食べるから!」
そう声をあげて、人だかりの向こうへ消えていってしまう。
残された高校生二名、カメラマン一名、バイク一機はといえば。
「……とりあえず、食べよっか。皆のぶんもあるから」
「ほんとですか!?是非!」
「少しは遠慮しよう麗日くん!……せっかく作ってくださったのであれば、恐縮ながらご相伴にあずかってもよろしいでしょうか!?」
『マドロッコシイナ。トコロデ、私ノブンハアルノカ?』
*
出久の睨んだとおり、勝己と轟は一触即発の状態にあった。
観客はもちろん生徒らの姿もないスタジアム裏で、前者が後者を吊し上げていたのだ。
「てめェどういうつもりだ、ア゛ァ!!?ンで全力を出さねえ!?てめェが氷しか使わねーワンパターンなせいで、ムダに手こずったじゃねえか!!」
「……れ……」
「ア゛ァ!?聞こえねえんだよ!!」
「黙れ、っつってんだ……!」
睨みつけるオッドアイ。触れたものを凍りつかせるような、冷たい、酷薄な目をしていた。
それでも勝己は怯まない。怯んでなるものか、と思った。あの瞬間の勝ち負けが本旨ではない──自分がライバルと認めた男が、全力を出すこともせずに敗北へと転げ落ちそうになった。遠くない未来に立つべき戦場において、敗北すなわち死を意味するというのに。
「おまえに何がわかる……。俺は絶対、"左"は……あいつの力は、使わねえ……!」
「……あいつ、だァ?」
思わぬ言葉に、込めていた力が緩む。その隙に轟は胸ぐらを掴む手を振り払ったが、立ち去りはしなかった。勝己に背を向ける形で立ち尽くしたまま、言葉を紡ぐ。
「フレイムヒーロー、"エンデヴァー"……俺の父親だ。知ってんだろ」
知らないはずがない。エンデヴァーといえばオールマイトに次ぐNo.2ヒーローであり、事件解決数だけならそれに匹敵する実績をもつ。
尊く誇りうる地位と名誉を備えた父親──しかし轟焦凍にとって、"それ"は憎悪の対象でしかなかった。
「あの男の、歪んだ野望の成れの果て──それが俺だ」
「何、言って……」
「──母は俺に、煮え湯を浴びせた」
醜く爛れた顔の左半分──火傷痕を撫ぜる轟の姿に、勝己は言葉を失った。
つづく
「母は俺に、煮え湯を浴びせた」ーー明かされた轟の過去は、あまりに凄惨なものだった。その独白を受け止める勝己、そして出久は何を思うのか?それぞれの意志が介在する中、いよいよ決勝戦がはじまる。
次回 超・世紀王デク
「ブラックアウト」
「ーー俺の勝ちだ、仮面ライダー」
ぶっちぎるぜぇ!!