超・世紀王デク   作:たあたん

7 / 48
二重の意味で長らくお待たせした回想篇完結でございます。シャドームーン決着~最終回まで駆け足でお送り。ゴルゴムより幹部が多いゆえに必然的に文字数が増えてますが意地で分割しませんでした。

登場人物紹介は縮減の方向で行こうと思ったので何人かひとまとめにしたりざっくり気味です。次回以降は特筆事項のみでいこうかと……。


明日―KAMEN RIDER―

 新たな仲間たちとの絆を深めながら、クライシス帝国への勝利を積み重ねていく緑谷出久――仮面ライダーBLACK RX。

 

 そんな彼の前に過去の亡霊が姿を現したのは、ある日突然のことだった。

 

『緑谷出久……仮面ライダーBLACK RX。貴様はこの俺の手で討つ……!』

「シャドームーン……どうして……」

 

 ホログラフとして出久の前に姿を現したシャドームーン。彼は洗脳にかけたデスガロン――鋼のジョーの命と引き換えに、勝負を要求してきた。本物なのか、生きていたのか……そうした出久の悲痛なる疑問には、いっさい答えることなく。

 

 

 仲間の命を救うために、出久には戦いに赴く以外の選択肢はなかった。

 対峙するシャドームーン。彼はさらなる力を得た代償に、信彦として、世紀王として、それらすべての記憶を失ってしまっていた。残されたのは、仮面ライダーとの決着をつけるという執着心ただひとつ。

 

「信彦くん……ッ、ゴルゴムはもう滅びたんだ……。もう、僕らが戦う必要なんてどこにもないんだ!!」

「戦え……RX!」

「……ッ」

 

 どんな説得にも反応すらしない、ただ戦いを求めるだけのシャドームーン。結局出久は変身し、彼に立ち向かうほかなかった。

 

(信彦くん……それでも、僕は……!)

 

 戦いたくない。防戦を強いられつつ、RXはロボライダーに変身した。しかしシャドームーンのパワーは、ロボライダーのそれと互角。ならばとバイオライダーへと変身すれば、苦手とする灼熱を浴びせられる。

 ライダーは、その場に膝を折るほかなかった。――その後、功を焦ったゲドリアンと怪魔異生獣・アントロントの乱入がなければ、二度目の敗北を喫していたかもしれない。

 

「あいつにはもう、人間の心なんて残ってない……。あいつは、シャドームーンは敵だ!クライシスと同じ、どんなことがあっても倒さなきゃならない敵なんだ……!」

 

 戦いのあと、無事に洗脳を解かれたジョーに対して、出久はそう告げた。まるで自分に言い聞かせるかのように。その瞳は、溢れだすものを押さえつけるかのようにひどく歪んでいて。

 

 

――そしてほどなく、決戦の時は訪れた。

 

 暗躍していた怪魔異生獣・マットボットを力ずくで従え、RXを戦場へと誘い込んだシャドームーン。もはやRXにも迷いはなく、互角の死闘が続く。

 しかしそんな折、RXとシャドームーン双方の抹殺という使命を帯び、マットボットが幼い兄妹を人質に再出現して。

 

「ッ、あの子たちを救けないと……!シャドームーン、おまえとの決着は――」

 

 そのあとでつける――そんなRXのことばを、シャドームーンは一蹴した。

 

「知ったことか!一分一秒でも早く、俺は貴様を倒したいのだ!!」

「おまえ……っ!そんなことのために、苦しんでる子供を見殺しにできるってのか……!そうだって言うなら、僕は――」

 

 

「――僕は、おまえを許さないッ!!」

 

 RXは跳んだ。どんな攻撃にも怯むことなく。そしてRXキックを浴びせ、シャドームーンをよろけさせる。

 そして、

 

「リボルケインッ!!」

 

 サンライザーから出でしリボルケインが、シャドームーンの新たな武器であるシャドーセイバーと凄絶な剣闘を演じる。

 

「終わりだ――ッ!!」

 

 シャドーセイバーの切っ先が、RXの左肩を切り裂く。しかしそのために、シャドームーンは腹部ががら空きになった。

 

 刹那、リボルケインがそこを貫いていた。

 

「………」

「……ッ、見事、だ、RX……俺の負けだ」

「シャドームーン……」

 

 「一緒に逃げよう」――そう手を差し伸べる宿敵に対し、拒否した彼が語ったのは、クライシスの真の目的だった。爆弾を使って大噴火を起こし、街を火の海にする……。マットボットは既に、その作戦のために動いていた。

 

「行け、RX」

「でも……」

 

 子供を見捨てては行けない。縛りつけられた彼らは、周囲を巻く炎でいまにも火炙りに処されようとしているのだ。

 

「心配するな、俺にはまだ力が残っている……。あの子たちは……俺が、救ける……」

「――!」

 

 その声音には、間違いなく信彦の面影があった。――取り戻されていた。

 

「信彦、くん……」

「……俺は、シャドームーンだ。仮面ライダー、おまえの、永遠の宿敵……。俺は何度でも甦る……そしていつか、おまえを倒す……」

「………」

「ぐずぐずするな……行けッ!」

「ッ、……シャドームーン、頼んだぞ!」

 

 溢れる想いをすべて呑み込んで、RXはシャドームーンに背を向けた。アクロバッターとともに遠ざかっていく。

 

「元気でな……出久……」

 

 だからそのつぶやきを、親友が知ることは永遠になかった。

 

 

 マットボットを打倒してクライシスの陰謀を阻止し、兄妹の住む麓の牧場に急行した出久が見たのは、花々に包まれて横たわるシャドームーンの姿。

 不安そうにこちらを見つめる幼い兄妹に、出久は精一杯笑いかけた。

 

「大丈夫だよ。ちょっと疲れて、眠ってるだけだから」

 

 「お父さんのところに帰るんだ」――そう諭すと、ふたりは父のもとへ駆けていった。

 彼らの背中を見送って……出久はそっと、親友の前にしゃがみ込んだ。

 

「信彦くん……」

 

 親友としてともに過ごした日々、ふたりの世紀王として死闘を演じた日々――あらゆる記憶が、雫となって瞳から溢れてくる。

 

「僕は、生きるよ……きみのぶんまで……。きみのぶんまで、戦い続けるから……だから……」

 

 

「おやすみ……信彦くん……ッ」

 

 二度目の別れ。しかしあのときとは違う。

 出久は誓った。クライシス帝国を――この世界のあらゆる悪を、この手で。その先に、信彦と自分が思い描いた夢があるはずだから。

 

 親友の決意を聞き届けて……もとの心優しい少年の姿を取り戻した信彦は、かすかに微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 親友への誓いを胸に、緑谷出久――仮面ライダーBLACK RXは戦い続ける。

 

 シャドームーン事件の直後、クライシスには新たな動きがあった。クライシス皇帝直属、査察官ダスマダーの登場。不穏な気配を漂わせながらも、彼らの陰謀は各地に張り巡らされる。出久と仲間たちは、時には遥か四国にまで出向き、敵の作戦を叩き潰したこともあった。

 

 そして、クライシスの民第一陣の移住作戦をも失敗に追い込んだことで――遂に皇帝がしびれを切らし、戦いは佳境へと転がっていく。

 

 皇帝より派遣された最強の怪魔異生獣・ゲドルリドル。あらゆるエネルギーを吸収するその力は、RXに対してもいかんなく効果を発揮した。絶体絶命に追い込まれるRX。しかし作戦指揮を買って出たゲドリアンをスケープゴートにするダスマダーらの卑劣な企みにより、図らずも命を救われた。

 哀れなる牙隊長ゲドリアン。純粋なクライシス人でなかった彼は、それでも幹部としての意地と矜持を見せ、ゲドルリドルに膨大なエネルギーを託して散っていった。そこまでしてもなお、太陽ある限りエネルギーなど無限に得られるRXを倒すことはできず、ゲドルリドルはエネルギーを吸収する0.1秒の隙を突かれて倒されてしまったのだが――

 

 

 次に立ちはだかるは、機甲隊長ガテゾーン。ダスマダーと手を組み、最強の怪魔ロボット・ヘルガデムとともに、愛馬ネオストームダガーを駆って勝負を挑んできた。

 受けて立つRXはダスマダーの策略によってキングストーンの力を封じられ、変身が解けてしまう。再び、絶体絶命。

 しかし彼はまたも救われた。かつてはガテゾーンの配下だった、鋼のジョー――怪魔ロボット・デスガロンによって。

 

「俺のアニキに、指一本触れさせはせん!!」

 

 出久が戦えぬ間、デスガロンはたった独りその盾となり、ガテゾーン、ヘルガデムの猛攻から守り抜いてくれた。その堅牢なボディを、大破寸前まで傷つけながらも。

 そして玲子・響子の水面下での働きにより、ダスマダーの策略は破られ、出久は再び変身を遂げた。

 

「よくも僕の仲間を傷つけたな……絶対に許さないッ!!」

 

 その怒りのパワーを前に、ヘルガデムはなすすべなくリボルケインでその身を貫かれる。がら空きになった背中にガテゾーンが組み付き、首と切り離したボディを自爆させるが、そんなものは液状化で脱出できるバイオライダーの前には無意味だった。

 

「地獄で待ってるぜ……!RX――ッ!!」

 

 残った頭部はRXキックによって容易く破壊され――そんな断末魔とともに、爆散したのだった。

 

 

 

 

 

 その直後から、クライシス帝国はいよいよ全面攻撃を仕掛けてきた。

 

 日本国政府とクライシス帝国代表――マリバロン――の交渉は決裂。クライシス帝国による日本総攻撃は避けられぬ情勢となった。ゴルゴムの侵略から一年半、人々は再び疎開を始めた。

 出久の恩人というべき、佐原一家も。

 

 当然残る出久は、一家ひとりひとりに自分なりに選んだ餞別を渡した。皆、喜んで受け取ってくれた――俊吉を除いて。

 

「何もいらないよ、出久。俺はな……家族が無事に、笑顔で過ごしてくれりゃそれでいいんだ」

 

 その"家族"の中には、出久や引子も入っている――彼ははっきりと、そう言ってくれた。

 そして、別れのとき。

 

「出久、戻ってこいよ。絶対に戻ってこいよ!……死ぬんじゃ、ないぞ!」

「あなたには茂と一水の勉強、みてもらわなくちゃならないんだから……。ちゃんとここに、帰ってくるのよ……!」

「おじさん、おばさん……」

 

 あふれ出す想いをこらえて、出久もまた笑顔をつくった。

 

「……わかってます。僕、必ずまた帰ってきますから――絶対に。約束、します」

「出久……」

 

 

「――行ってきます!」

 

 こんな自分を、家族だと言ってくれた人たち。彼らとの約束を嘘にしないために。出久は帰るべき場所に背を向けて、戦場へと走り出した。これが今生の別れになるという予感めいたものを、一方では抱えながら。

 

 

 

 

 

「変、身ッ!!」

 

 

 RX、そして仲間たちが相手取ることになったのは、いよいよ自ら出陣したボスガンと兵士チャップ――そして、皇帝より送り込まれた最強怪人・グランザイラス。

 "最強"と銘打っているだけあって、グランザイラスはこれまでの怪人たちとは格が違っていた。RXのあらゆる攻撃が通用しない。必殺のリボルケインすら弾かれてしまった。

 

「ぐ、う……ッ」

「RX……覚悟ッ!!」

 

 遂に膝をついたRXに、ボスガンとグランザイラスがトドメを刺さんと迫った――その瞬間、

 

 

「――S……MAAAAAAASH!!」

 

 気づけばボスガンらは弾き飛ばされ……RXの目前には、筋骨隆々とした巨大な背中が立ちはだかっていた。

 

「あ、あなたは……!」

 

 その背中、知っているなどというものではなかった。緑谷出久の原点(オリジン)、唯一絶対の最高のヒーロー。

 

「待たせたな仮面ライダー、もう大丈夫だ。――何故って?」

 

「私が、来たからさッ!!」

 

 

「オール……マイト……!!」

 

 

 "平和の象徴"――No.1ヒーロー・オールマイトと、彼に賛同するヒーローたち。彼らの救援のおかげで、出久は命を拾うことができた。

 

「オールマイト……まさかあなたが、救けに来てくれるなんて……」

 

 夢のようだ、と思った。世紀王ブラックサンとなって、仮面ライダーBLACKとなって、RXとなって――ヒーロー同様に戦い続けてきた出久だったけれども、やはりオールマイトだけは遥か彼方の存在だと思っていたから。

 そんな少年に対しまずオールマイトがとった行動は、深々と頭を下げることだった。

 

「すまなかった、少年!ここまでずっと、たった独りで戦わせてしまって……!」

「そ、そそそそそんな!!あっ、頭上げてくださいッ、オールマイト……皆さんも……」

 

 オールマイトがゴルゴムやクライシス相手に行動を起こさなかったのは、海外で極秘の重要任務についていたから――そう認識していたために、出久は彼への憧憬までは失わずに済んでいた。……のちに極秘任務というのは、大怪我からのリハビリテーションをそれらしく言い換えたものと知ることにはなるが、いずれにせよやむをえない。

 他のヒーローたちについてもそうだ。ここに集っている彼らは皆、秘密裏に出久の戦いを支援してくれた者たち。職業ヒーローという立場に雁字搦めになりながらも、正義の魂を力強く燃やしている者たちだ。

 

「出久くん」そのひとり、インゲニウムが呼ぶ。「弟と同い年のきみに、とんでもなく重いものを背負わせてしまった。今さらそれをすべて取り上げることはできようもないけれど……これからは一緒に背負わせてほしい。ヒーローとして、大人として!」

「――……はい!」

 

 出久より実力が勝るのは、正直なところオールマイトだけ。でもそんなことは関係ない。

 

――この世界には、ヒーローがいる。

 

 彼らの存在そのものが、少年には心強かった。

 

 

 

 

 

 ほどなくして決戦を挑んできたボスガン。ヒーローたちに兵士チャップを任せ、RXに変身した出久は一騎打ちに臨んだ。

 誇り高き貴族であるボスガン。そのプライドを守るためなら、どんな卑劣な手段も厭わない。

 

 だが小手先の策を弄したところで、もはやRXとの実力差は埋まらなかった。その身は二度もリボルケインに貫かれ、

 

「私は、負けん……。こん、な……地球人の小僧に……わた、しは……――!」

 

 最期の瞬間まで負けを認めることもできぬまま、ボスガンは逝った。

 

 

――その裏で、街を破壊し尽くさんとしていたグランザイラス。

 最強最悪の怪人に、RXひとりでは敵わない。

 

 でも、"彼"となら。

 

「DETROIT――SMAAAAAAASH!!」

 

 オールマイトの最大の一撃が炸裂し、

 

「バイオブレードッ!――スパーク、カッター!!」

 

 バイオライダーの斬擊が、その身を切り裂く。

 そうして皇帝の切り札グランザイラスもまた、英雄たちの前に敗れ去ったのだった。

 

 

 

 

 

 安息は未だ、遠い。

 

 RXとヒーローたちは、各地で人々を襲撃するチャップ部隊を倒してまわった。戦闘員である兵士チャップであれば、オールマイト以外のヒーローたちでも十分に立ち向かえる。インゲニウムらチームメンバーが現地のヒーローたちを糾合、連携し、反クライシスのネットワークは拡大し続けていた。

 依然厳しい状況ながら、確実に差し込みつつある光明。……しかしながら、出久は不可解な胸騒ぎを覚えていた。一水が怪魔界に誘拐されたときのそれを、もっと激しくしたような――

 

 

――その予感は、現実のものとなった。

 

 ヒーローたちが保護した、襲撃を受けた人々。その中に、茂と一水の姿もあったのだ。

 彼らは出久と再会するなり、涙ながらに顛末を告げた。

 

「出久、おにいちゃん……ッ、」

「パパとママが……ッ、僕らを、守ろうとして――!」

 

 あ……一瞬視界がブラックアウトしたけれど、出久はすぐに自分を取り戻した。

 

「茂くん、一水ちゃん……。――ごめん……救けられなくて、ごめん……!」

 

 ふたりはぶんぶんと首を振った。

 

「兄ちゃんのせいじゃない……でも、クライシスは許せない……!僕らも戦うッ、クライシスと!仇を、討つんだ……!」

「茂くん一水ちゃん、私の両親もクライシスに殺されたわ」響子のことば。「でも、憎しみだけに囚われちゃだめ。平和のために、一緒に戦いましょう!」

「……うん!」

 

 幼い兄妹の瞳に、憎しみとは違うまっすぐな何かが宿った。――強い。彼らは。改めて思い知った出久の胸のうちには、夫妻の笑顔が浮上していた。

 

「出久くん……大丈夫?」

 

 玲子が小声で問いかけてくる。

 

「……うん」うなずきつつ、「おかしいんだ……悲しいはずなのに、涙が出ない……。信彦くんのときは、そうじゃなかったのに……」

 

 気づいていないだけで、自分の心は人の生き死にというものに慣れてしまったのだろうか。それとも、思っていたほど佐原夫妻を大切と思っていなかったのか。……いずれにせよ、それは人間ではなく、その原形をとどめぬバッタ男の冷たい心だ。

 けれど玲子は、「そんなことない」と否定してくれた。

 

「出久くんは優しすぎるのよ。いまだって、真っ先に出たのは"救けられなくてごめん"だったでしょう?自分の悲しみより、茂くんと一水ちゃんの悲しみを想って……いまは心のうちに秘めようとしてるんじゃないかな」

「……玲子さん」

「でも……泣きたいと思ったら、いつでも泣いていいんだからね?あたしとか、引子さんとか……出久くんの泣き顔、案外キライじゃないんだから」

 

 仮面ライダーの戦いぶりを間近で見てきてもなお、弟扱い。でもいまはそれが嬉しかった。母や、かつての杏子がそうであったように……戦士でいなくてもいい場所があるというのが、泣いている子供の部分を殺せずにいる出久の救いだった。

 

 

 そしてそういう場所があるからこそ、出久はいつだって悪に立ち向かうことができる。

 自ら出陣し、一対一での勝負を望むジャーク将軍。彼は怪人ジャークミドラに改造されており……佐原夫妻を殺害した張本人でもあった。

 

「貴様に討たれたガテゾーン、ボスガンの無念……晴らしてみせるぞ!」

 

 そう宣言するジャークに対し、

 

「それはこっちの台詞だ!!おじさんとおばさんの……お前らに殺された人たちのぶんまでッ、僕は戦う!!」

 

――そして始まる、RXとジャークミドラの一騎打ち。

 

 ジャークミドラは強かった。凄まじく強かった。RXは防戦一方で、咄嗟に変身したロボライダーのボルテックシューターも容易く見切られてしまう。

 絶体絶命の危機を救ったのは、オールマイトでも他のヒーローたちでもなく――茂と、一水だった。

 ふたりの個性はそれぞれ、砂から植物、水を生成するというもの。一水が水を頭上から浴びせて注意を逸らし、茂が蔓でジャークミドラを拘束する。

 無論、それらは一秒となくして破られるもの。――だが、0.1秒すら隙と捉えるRXに対して、明らかな命取りだった。

 

「リボルケインッ!」

「――!」

 

 ロボライダーから戻ったRXのリボルケインが……ジャークミドラを、貫いた。

 

「わかるかジャーク将軍……。これが、命を命と思わない者の末路だ……!」

「く、ふ、ハハハハ……っ。我が命ごとき……!皇帝陛下こそが、貴様を必ず――!」

 

 不気味な断末魔を残して……ジャークもまた、斃れた。

 

 残るはダスマダー、マリバロン。

 

 

――そして、クライシス皇帝。

 

 

 

 

 

 手駒を失ったクライシス皇帝は、ダスマダーとマリバロンを特使としてなんと出久に対して会談を要請してきた。オールマイトたちと怪魔界突入作戦を検討していた矢先のできごとだった。

 

 罠の可能性を危惧する仲間たちを抑え、出久は虎穴に飛び込む心持ちで会談に臨んだ。――結論から言えば、それは罠ではなかった。自ら出迎えた皇帝は出久を地球上に比類なき勇者と認め、クライシス帝国最高位"(サー)"の称号を与えて地球の支配を任せると提案してきた。地位と権力を与えることで、仮面ライダーを取り込もうと画策したのだ。

 それを不服として皇帝に反抗したマリバロンは、貴族の権威などあってなきがごとく容易く処刑されてしまった。

 

 元々、答えなど決まっていた。だがその光景を前に、出久はおよそ一年半ぶりの怒声を発した。――「ふざけるな」と。

 

「クライシス皇帝……おまえは哀れだ!他人を駒としてしか見ず、その誇りも想いも何ひとつ汲みとれない……。そんな独りぼっちの支配者なんかに、僕は死んでもなりたくない!!」

 

「僕が本当に欲しいのは、誰も傷つくことのない優しい世界だ!そんな世界を、一緒につくっていける仲間だっ!!」

 

 

 交渉は、決裂に終わった。

 すかさずダスマダーとチャップ兵隊が襲いかかってくる。しかし後者は密かに追跡していたオールマイトらが抑えてくれる。出久はRXに変身、クライス要塞にてダスマダーとの決戦に臨む。

 死闘の中で、RXは知ることとなった。怪魔界は地球の影、双子の星。その調和が崩れたために、いま滅び去ろうとしている――人間どもが、地球を汚したために。

 

――そして、ダスマダーもまたクライシス皇帝の影であったことを。

 

「RX……!余が死ねば怪魔界は五十億の民もろとも消滅する!」

「なっ……」

「移民が成らねばどのみちクライシスの民に生きる道はないのだ……。――愚かな人間のひとりである貴様に、それを奪う資格があるというのか!?」

「……ッ」

 

 RXの……出久の心に躊躇が生まれた。クライシス皇帝のことばは頷きたくなる部分もあった。

 この世界は歪んでいる。個性というものが生まれてから文明の歩みは止まり、ヒトは他人を見るのに「どの程度の個性を持っているのか」をまず値踏みする。そればかりに気をとられているから、ヒト以外の動植物、ひいては地球そのものがかえりみられることもない。クライシスの四大隊長のような人間が、この世界にはあふれている。

 

 

 動きを止めたRXに、巨大な顔ひとつの皇帝が襲いかかった。

 

「死ねぇッ、RX――!!」

 

 だが、皇帝の望みは永遠に果たされることはなかった。瞬間的に抜かれたリボルケインが、その中心を貫いていたから。

 

「き、さま……ッ」

「……資格はなくても、覚悟はある。――さよならだ、クライシス!」

「おろ、かな……人間どもが変わらぬ限り、新たな怪魔界が生まれ、地球を襲うであろう……!」

 

「すべてはおまえたち人間どもの罪じゃ――!」

 

 そうしてクライシス皇帝の身体は粉々に吹き飛んだ。その爆炎は凄まじく、RXの姿すら覆い隠すほどで。

 炎に包まれながら……英雄は、もうひとつの地球が滅び去るのを感じとった。

 

 

 

 

 

 出久と仲間たちは勝利を手にした喜びを分かち合い、そして犠牲になった者たちを悼んだ。クライシス五十億の民に、響子の両親――そして、佐原夫妻。子供たちを守って死んだ彼らは間違いなく英雄だと、出久は思った。

 佐原夫妻といえば、引子のもとに密かな遺言を届けていた。「屋敷を譲るかわりに、茂と一水を育ててやってほしい」――夫妻に恩義を感じる引子は喜んでそれを承諾したし、なんなら独りになってしまう響子とも一緒に暮らすことになった。そのうち父と克美・杏子が帰国すればかなりの大所帯になるだろう……その日が楽しみだ。相変わらず屋敷に入り浸るだろう玲子との関係が微妙なものになることまでは想像が及ばない。

 

 

――改めて、出久は思う。自分はこれだけたくさんの仲間に囲まれた。だからこそ転んでも立ち上がり、歩き続けることができたのだ。

 

「僕、決めたよ。――ヒーローになる」

 

「失ったもの、奪ってきたもの……全部、無駄にしないために」

 

 創世王は言った。人間の心に悪がある限り、必ず甦ると。

 

 クライシス皇帝は言った。人間が変わらない限り、第二第三の怪魔界が生まれると。

 

 

 だったら、自分が世界を変える。誰もが悪を抱かずともよい――そんな、ずっと望み続けていた優しい世界を、自分が創ってみせる。世紀王を超えた、この力で。

 あるいはそれは、ゴルゴムやクライシスと変わらぬ傲慢な願いなのかもしれない。――でも、大丈夫。自分だけの世界に囚われなければ。優しさと正しさ、そして友を大切に思う気持ちを忘れない……そんな、オールマイトのようなヒーローであり続けるのならば。

 

(僕の世界は、僕らが変える)

 

 

 世界を変える超・世紀王――その長き伝説の真のはじまり。この瞬間こそがそうなのだと、後世の人々は伝える。

 

 

つづく

 

 

 




【登場人物】

緑谷出久/仮面ライダーBLACK RX
折寺中学校二年生。親友や恩人の死を乗り越え、クライシス帝国を滅ぼした。
英雄となった彼が信奉するのは力ではなく、支えてくれた仲間たちとの絆である。
絆が世界を変えると信じ、彼は輝ける明日へ一歩を踏み出す。

鋼のジョー/デスガロン・白鳥玲子・的場響子・吾郎
通称「チームRX」の面々。陰に陽にと出久を支えた仲間たち。戦い終わってそれぞれの人生を歩み出したが、彼らが出久のかけがえのない仲間であることに変わりはない。というか別に遠くに旅立ったわけでもないので頻繁に会える。響子に至っては同居することになった始末である。

佐原俊吉・唄子
子供たちを逃がすためにジャークミドラの手にかかった出久の恩人。血のつながりはなくとも、出久にとって佐原一家はもうひとつの家族だった。

佐原茂・一水
それぞれ砂を植物・水へと変える個性をもつ小学生の兄妹。彼らもまた幼いながらチームRXの一員を自認し、両親の死にもくじけることなくジャークミドラに立ち向かった。両親の遺言により、出久や引子とともに暮らすこととなる。

ヒーロー義勇軍
オールマイトと彼に賛同するヒーローたち。特にオールマイトは最強怪人グランザイラス打倒に大きく寄与したが、それ以外のヒーローたちのサポートも出久には心強いものだった。

クライシス
帝国の五十億の民を地球に移住させることがその目的だった。ジャーク将軍を指揮官とする地球攻撃兵団はそのために様々な陰謀を巡らせてきたが、幹部陣のチームワークの悪さもあってことごとくRXに阻まれ、最終的に生き残ったのはチームRXの一員となったデスガロンのみだと思われる。50億の民もまた皇帝の死とともに全滅したのだった。
敗れ去る皇帝が遺したことばは、奇しくも創世王のそれと酷似したものだった。

緑谷引子
出久の母。今回も出番がなかったが、息子の戦いの裏で彼女がいかなる役割を果たしていたかはもはや語る必要もないだろう。

秋月信彦/シャドームーン
滅びたゴルゴムの世紀王。
仮面ライダーの宿敵として記憶と引き替えに甦った彼は、緑谷出久の親友として安らかな最期を迎えた。


次回 超・英雄のtruth!?

ぶっちぎるぜ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。