ハーミーズに、遊戯王アークファイブで柊柚子役を担当された稲村優奈さんの声がつきました!
私のターン! の言い方ほんとすこすこEMカレイドスコーピオン
この世界で『闇のゲーム』に敗北すれば、それは死を意味する。
だから、奇襲された場合や奇特な者でもない限りは、できるだけ
だが、クリーブランドが言った言葉は、この殺伐とした世界での僅かな希望さえも踏み躙った。
「決闘しなければ、消える……」
ジャマイカが言うには、夕張はまだ1度も決闘をしていない。
フォックスハウンド達の言い方から察するにここに来てからかなりの時間が経っている事は確かだ。故に、このままでは消えてしまう可能性が高い。早くその事を伝えて対処しなくては。サレンダーではなんの被害も起きない。私達の誰かと
廃墟の摩天楼、その間を走り抜けながら夕張とシムス、グローウォームが待つ場所へ向かう。
その道すがらに敵に出くわす事はなかった。
伽藍洞の街には本当に私達以外はいないようだった。
クリーブランドの話がどこからが本当でどこまでが嘘なのかは分からないが、少なくともまだ私達を除いて19人はこの近くにいる。
それだけ大勢いるのなら、きっとこの状況に対処でき得る技術があるはずだ。それこそ、夕張の腕と環境さえ整えば……
シムスの姿が見えた。
グローウォームもいる。
――だが、
「シムス! グローウォーム!」
「――っ! ハーミーズ、ジャマイカ!」
その
夕張の姿はどこにもなかった。
その代わりに、大量のメロンパンが詰まったカバンが落ちているだけ。出発前に、歩きながら食べると言って詰めていたものだった。
「夕張が……消えて……何もしてないのに……!」
泣きじゃくりながら私に縋り付く。
かつて誰かにそうしていた事を思い出し、自然と手が頭を撫でた。
状況が違う。
いかな戦う為に生まれた私達だからと言って、直接心を抉るようなこの状況は訳が違う。
幾度も誤魔化していた心の傷は、遂に少女の心を瓦解させたのだろう。
「……ねぇ、フォックスハウンドとクリーブランドは?」
「っ、それは……」
なんと答えるべきか考えあぐねた。
だが、嘘なんて簡単に見抜かれてしまう。私だって精神が安定している訳ではない。うまい嘘なんてつけない。
だから正直に言った。
「そんな……クリーブランドが偽物だったの……?」
「じゃああの時私が決闘したのも!?」
グローウォームの驚愕に首肯した。
「どうやら、オレ達の誰かを消して何かをしようと企んでいたらしいが……それが何かまでは分からない」
未だ目的が分からないのが一番の不気味だ。
なんの為にこんな事をしたのか。それを確かめる為にも、
「早く街に向かおう。そこで他の仲間を見つけて情報を集めるんだ。大丈夫だシムス、心配しなくても私達が――
拒絶するように、シムスは私を突き放した。
その眼には警戒心が籠っている。
「嫌……どうせ、あなたも偽物なんでしょ!?」
「何を――
「来ないで! 人殺し!」
ひと、ごろし……?
私が? そうか、そうだよな。確かにそうだ。その言葉自体に間違いはない。嗚呼、ないな……私は確かにこの手で、偽物と言え、クリーブランドを――ころした。
シムスは一人、どこかへ走って行ってしまう。
私の体は動けない。シムスの背が遠くなる。
声が出せない。
「わ、私シムスの事追うから! ごめん!」
グローウォームがそれを追っていく。
残ったのは私とジャマイカ。
「ジャマイカは行かなくていいのか?」
「オレはハーミーズといる。ダメか」
「自分では気が付いていないだけで、私は偽物で、今にもその首を狙っているかもしれないぞ」
「そう言えるのなら、オレの目の前にいるハーミーズは本物だ」
その言葉に少しだけ心が楽になった。
固いアスファルトの上に身を投げ出す。背中は少し痛かったが、眼が焼けるほどの青空は清々しかった。
「それでも、私は何も言い返せなかった。クリーブランドに『自分が生きる為に他者を殺す者は人間ではない』と言った、だがそれは私じゃないか。私は生きる為にクリーブランドを殺した」
「ハーミーズ……だが、それは仕方ない事だ。どうしようもないんだ」
「ああ、そうだな。今やるべきはシムスを説得して、早く街に行く事だ」
地面を蹴って立ち上がる。
深呼吸。
心にはまだ迷いや淀みがあったが、目的ははっきりしているなら些細な事だ。
「シムスが走った方角はちょうどオレ達が向かおうとしていたのと同じだ。征こう」
@
少女にかつての笑顔はなかった。
それはみんな同じ事ではあった。誰もが辛く苦しい事なんて、少女には分かっていた事だ。だが極限状態において一番に守りたいものが自分になってしまう事を誰が責めようか?
心の中を渦巻くものは悲しみと恐怖と謝罪の念。何故あんな風に、ハーミーズに言ってしまったのか。走り疲れてもなお考え続けていたが飛散した思いがまとまる事はない。
鉄骨がむき出しになったビルの森を一人駆ける。
心細い。抑えきれない寂寥感に涙さえ溢れ出す。
体が震える。
何故こんな事になってしまったのか。誰に聞いても教えてくれない疑問を心の中で唱え続ける。無意味に、何度も。
ふと、足を止めた。
もうこれ以上走った所で、無為だと気が付いた。
どこへ行けばいいのかも分からない。
ただ、自分以外の全てが怖くて仕方がなかっただけだった。こんな思いをし続けるのなら、いっそ夕張と同じように消えてしまった方がいい。
そう、思うだけ。思うだけで本当は怖い。怖いから逃げたいけど、逃げる場所などどこにもない。肌に触れる空気も、世界を包む陽ざしさえも、何もかもが敵に見える。どうする事もできない。
「シムス!」
「……グローウォーム」
「大丈夫?」
「いっ、嫌!」
差し伸べられた手を払いのけてしまう。
本当はそんなつもりはなかった。
心が軋む。そんな風に他者を無碍にしてしまう自分自身が嫌いになっていく。
それでも、グローウォームはその優しい微笑みを崩さなかった。いつもと変わらない、屈託とした笑みだ。
「大丈夫。私は偽物じゃないから! ほら、そんなところに座ってたら服が汚れちゃうよ」
「でも……みんなに酷い事言って……」
「それなら謝ればいいんだよ! 私が一緒にいるから、ね?」
グローウォームは再びシムスに手を伸ばす。
たとえグローウォームが偽物であろうと本物であろうと、もう自分にはどうする事もできない。シムスは
そんな惰性で、差し伸べられた手を握る事を憚った――だが、同時に死にたくもないと願った。
「……ごめん、グローウォーム」
グローウォームの手の温かさが広がるのを感じた。
「いいよ! 一緒に謝ろ!」
「うん……!」
ただ、二人の少女の勇気を手放しで祝福してくれるほど、変質したこの世界は甘くはない。
コップの底に溜まった絶望こそは、今ここにあった。
空間が歪む――捻じ曲がるようにして形を変えていく。まるでブラックホールのように、シムスとグローウォームを吸いこもうとする。
「なにこれー!? 吸い込まれる!?」
「……っ!」
「手放したらダメだからね!」
凄まじい引力に逆らえず、二人は歪んだ空間に吸い込まれていく。
ああ……どうしてあの時、ハーミーズ達を信用できなかったのだろうか。自分がもっと強ければ、離れ離れになる事なんてなかったはずなのに。
渦巻く後悔の念も全て巻き込んで、シムスとグローウォームはいなくなった。