遊☆戯☆王アズールレーン~记忆的幻觉~   作:ハンバート二世

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 グローウォームの声を担当されている五十嵐裕美さんは、遊☆戯☆王5D’sにて『クラッシュタウン編』に登場する「さすがチームサティスファクションのリーダーだ!」で有名なウェストの声を担当されていました。


ターン8――その希望は欺瞞

 空には雲一つない。

 あるのは真っ青な空と、最高の笑顔を咲かせた太陽だけだ。

 暑苦しい光が生命を感じさせない瓦礫の山を照らす様は異様の一言に尽きる。こうして空を見上げているだけだと、子どもが元気に草原を駆け回る声と、小鳥のさえずりさえ聞こえてきてもおかしくはない。

 だが、私達の周りのこの世界には今、何もない。

 

 あるのは剥き出しになった脅威だけだ。

 

「食糧は少し残して行こう。私達のようにここに誰かが来るかもしれない」

「忘れ物もないし、これで出発できるね」

 

 夕張とクリーブランドが最後の確認をしている。

 私は昨日来たばかりだが、フォックスハウンド達は半年と少し過ごしたこの搭から今日でおさらば。

 別の仲間と指揮官を探しながら、状況の解明の為に新しい地へと向かう。

 

 私も、もしもの事がないように決闘盤(デュエルディスク)とデッキを入念に確認だ。

 連戦もあり得るのだから、如何なる相手とも相対できるようにデッキを組まなくては。厄介なカードの除去をブレイクソード便りにするのは流石に危険かな……激流葬の採用も考えるべきか。

 

「ハーミーズ、準備できた? デッキ組んでたんだ。同じ(トラップ)主体デッキだし、ぼくも混ぜてよ」

「ちょっと違うと思うが……」

「オレの『(デッキ)』がこう言っている、『銀河眼』の参考にさせてくれ。エクシーズを使うのだから同じだろ、と」

 

 二人に挟まれて逃げ場がない。

 こんな風に、誰かとデッキの相談をするのは、指揮官以外あり得なかったから新鮮だ。

 こう考えると、私はあまり人と関わっていなかったもしれないと思った。

 好きな事で話せる事が、ほとんどなかったからな。

 

 指揮官以外で触れ合う時間が多いのは、アークロイヤルくらいだったか。

 

「暑苦しいから離れてくれ。歩きながら話そ――ごふっ」

 

 油断しているとグローウォームのヘッドスマッシュが無防備な腹に直撃した。

 

「なんの話? デッキ?」

「グローウォームはもう少し周りを見ようね~」

 

 胃の中が出るかと思った……

 

「ぐ、グローウォームはどんなデッキなんだ……?」

「グローウォーム様のデッキは――見てからのお楽しみだよ! 絶対びっくりするから!」

 

 フォックスハウンド達に目配せしても誤魔化すばかりで答える気はないようだ。

 びっくりするデッキとはなんだ……? 【大逆転クイズ】?

 

「はいそこ、遊んでないで早く行くよ。今日から数日は野宿になるんだから無駄な体力は使わないようにね」

「は~い」

 

 クリーブランドの言う通りだ。

 いつ敵が現れるかも分からない。何しろ決闘(デュエル)は体力を消耗する。その時の為に温存しておかなくては。

 

「じゃあ、出発だね」

 

 やはり一番しっかりしているクリーブランドを先頭に私達は廃墟を歩き出した。

 どれだけ歩いても同じ景色なのは退屈だったが、誰かと話しているとそんなものは気にならない。

 

「なぁ、今更なんだが、何か当てはあるのか? なんの考えもなしに出た訳ではないはずだ」

「勿論あるよ。夕張」

 

 クリーブランドが言うと、夕張が何か書類を取り出した。

 綺麗にファイリングされたソレはかなりの分厚さだ。

 受け取ったクリーブランドが話始めた。

 

「これは夕張と私で二ヵ月くらい前から毎日つけ続てる『|決闘者因子(デュエリストファクター)』の記録なんだ。あの塔に残ってた機能を利用して、周囲数十キロの範囲に渡って感知していたんだけど、その結果、ここ二ヵ月で24種類の因子が確認できた。その内、消えたのは5。残った19の因子の基を探そうって訳なんだ」

「そう、か……」

 

 とりあえず、少なくともそれだけの生存者がこの周囲にいると分かった事は大きな進歩だ。

 

「それが味方だとは限らないけどね。今だ姿を見せないレッドアクシズの連中が待ち構えているかもしれないから、気を引き締めて」

 

 赤城も伊勢も強かった。

 赤城の発言から、『偽物』であればあるほど強さの純度は落ちるようだが、それでも気を抜いて勝てる相手ではない事は確かだ。

 目の前で誰かが死ぬ事をもう二度と見ない為にも、負ける事は許されない。

 

「伊勢のデッキは【炎王】だった」

「炎王か……ぼくの【バージェストマ】なら相性いいね。モンスター効果受けないし」

 

 逆に私は相性が悪いか。

 破壊に対応しているとは言え、毎ターン全体破壊を連発されてはいつか弾が切れる。『幻影霧剣』もほぼ意味を成さない。

 あの時は頭に血が上っていたのは確かだが……もう少し、自分の感情をコントロールしなければ。

 貪欲を入れておけばエクシーズモンスターが切れた時に使いまわせるしいいかもしれないな。

 

「みんな止まれ――!」

 

 夕張の緊迫した声色に、全員身を強張らせて立ち止まる。

 私にはよく分からない小型の機械、その液晶に移る波紋が危機を煽る赤色で表示されていた。

 

「これは……?」

「決闘者因子の反応を現すものだ。この近くに誰かがいる。今まで、私が確認していない新たな因子パターンだ。反応があるという事は少なくとも、『偽物』ではないが……むむむ、どうする」

 

 波紋の中心。地図上に示された赤い点は、真っすぐに私達の所へ向かっているようにも見える。

 これだけでは敵かどうかは分からない。

 

「とりあえず会ってみる?」

 

 シムスがそう言ったが、クリーブランドは首を横に振った。

 

「いや……無暗に相対するのは危険だ。『闇のゲーム』がどういった条件で発動するかも分かっていない。もし、求められた決闘(デュエル)を拒否できないとなると、最悪無駄な死人が出る。それだけは避けたい。幸いこの辺りは原型を保った建造物が多い。路地裏なりに隠れよう」

「だがクリーブランド、相手は真っすぐこちらに向かっている。相手からも場所で分かっているんじゃないか?」

 

 私の言葉に、クリーブランドが一瞬だけ微笑んだような表情を見せた。

 

「そうだね、その可能性もある。だから何人かは相対しよう」

「ならオレが行く。運命がオレに求めるモノは戦いだ。それに答えなければならない……それに、まだ鎮魂の歌を奏でていない」

「なら私も行く――

「グローウォームも行っていい? 最近決闘(デュエル)してなかったから!」

 

 グローウォームのヘッドスマッシュが背中を直撃した。

 

「グローウォーム……気を付けてくれ……」

「じゃあぼく達が残ろう。相手は一人じゃないかもだから、気を付けてね」

 

 食い気味でグローウォームが来たのでもしかしたら聞かれていないかと思ったが杞憂だった。

 とにかく、私とジャマイカ、そしてグローウォームなら戦力としては十分だ。グローウォームは未知数だが、ただならない何かを感じる。

 私の決闘者(デュエリスト)としての勘が、只者ではないと告げている。

 

「因子探知機の予備を渡しておく。これで私達の居場所も分かる。健闘を祈るぞ」

「ああ」

 

 夕張に小型の液晶機械を渡されて、私達は赤い点が示す場所へ向かった。

 味方であるならそれで問題ないが、敵だった場合の決闘は避けられないはずだ。そうなった時、私は本当に勝てるのだろうか?

 私の中の弱気が、無意味な質問を何度も投げかける。

 それへの返答はない。

 負けは許されない。だから勝つしかない。勝利以外の選択肢はない。負ければ死。終わり。無。虚無。後は何も残らない。

 いったいどんな意思が働いたのか私は知る由もない。

 だが、せっかく掴んだ二度目の生を、みすみす逃すような事は絶対にしたくない。

 だから、私は負けない。

 もう一度、もう一度指揮官に会って、話して……そして、楽しい決闘がしたい。

 

「『視えた』――奴だ」

 

 ジャマイカの黄金の瞳が捉えたのは――待て、あれはクリーブランドではないか!?

 

「クリーブランドの『偽物(フェイク)』と来たか。どうやら一人のようだが、どうする。オレが相手をしようか」

「決闘だ! クリーブランドの偽物!!」

「あ」

 

 グローウォーム自身の帽子と似た模様の決闘盤(デュエルディスク)を構えたグローウォームが突貫してしまった。

 クリーブランドの偽物は何も語る事無く静かにディスクを構えた。

 意識がないのだろうか?

 

「偽物は大体あんな感じだ。必要な事以外は喋らない人形のような存在だな」

 

 だが、私が最初に見た赤城の偽物はちゃんと意思疎通ができていたはず――考える間もなくj、グローウォームの決闘が始まった。

 さあ、いったいどんな戦いを見せてくれるのか――

 

 

・グローウォーム

LP4000/手札5枚/デッキ35枚

 

・クリーブランド(偽)

LP4000/手札5枚/デッキ35枚

 

 

「さて、久しぶりに満足させてもらおうかな! という訳でグローウォーム様の先行!」

 

 

 

「ふぅ……満足できた」

「インフェルニティか! いい満足だったぞグローウォーム!」

「とりあえず倒したけど、どうするの? 他に誰もいないみたいだし」

「確かに妙だな。誘き出したつもりだったのか? どうするジャマイカ。戻るか……ジャマイカ?」

 

 ずっと黙っていたジャマイカは少し、強張った表情をしているように見えた。

 

「どうしたジャマイカ!」

「何かあったの?」

「……いや、なんでもない。有り得ない事だ。もしあり得てしまえば、全てが――くっ、とにかく戻ろう。『扉』が閉じきってしまう前に」

 

 ジャマイカの言葉の真意は分からなかったが、戻るという事に反論はない。

 妙に急ぎ足のジャマイカに置いて行かれないように、私達はクリーブランド達のいる場所へ戻った。

 

「ジャマイカ、話してくれ。どんな少ない可能性でも、気が付いた事があったなら」

「まだ……まだ完璧な答えは出ていない。ただ、嫌な予感がするだけだ。本当にただの予感だ。杞憂で済む事が当たり前のような、馬鹿馬鹿しい話なんだ」

「それでもいい! 話してくれ!」

「アイツは――」

 

 その言葉が後に続く事は永遠になかった。

 

 見えてしまったからだ。

 見たくないものが。

 見えてはいけないものが。

 あり得てはいけないものが。

 

 それが、ジャマイカのほんの少しの不安から生み出された、ただの杞憂であったなら、どれだけよかっただろう。

 そこには血を流して這いつくばるフォックスハウンドの姿があった。

 力なく、体を引きずってまでどこかへ行こうとしている。

 私達はすぐに駆け寄った。

 

「フォックスハウンド! 何があった!? 誰にやられた!」

「あ……ハーミーズ。そこに、いるんだね……」

「なんて酷い火傷……」

 

 服は焦げ落ち、右半身の肌は焼け爛れていた。

 この反応から、恐らく目も見えていない。

 

「『闇のゲーム』は痛みや傷をソリッドビジョンから直接決闘者に与える。それによるものか……」

「ははは……ぼく、負けちゃった。ごめんね、ハーミーズ……ぼく、約束守れなかった……」

 

 腕に抱く命は今にも消えかかっている。

 マーブル模様を描く怒りと悲しみをぶちまけたような私の感情は、正しい言葉を紡ぐ事ができない。

 

「急いで……クリーブランドが――」

 

 消えていく。

 カケラも残さずに消えていく。

 泡となって溶けていく。

 

 この手に残るものは、戦った証(デッキとディスク)だけだった。

 

「ハーミーズ、フォックスハウンドの言葉が気になる。急ごう」

「ああ……!!」

 

 涙はまだ流さない。

 私は振るってもいいはずだ。この怒りをぶつけていいはずだ。

 指揮官に会いたいという願いさえも踏みにじった何者かを――この手で倒しても、神は私に罰を与えるだろうか? この世界の神がそうであるなら、今すぐにでも私はソイツをデュエルで殺してやる。

 

 クリーブランド達の居場所はこの機械で分かっている。

 そして気になったのは、クリーブランドだけシムスと夕張の二人から離れている事。そして留まっている事だ。まさかクリーブランドまでもが……?

 怒りと焦燥に駆られる心を押さえつけながら路地裏を駆ける。

 

「グローウォームはシムス達の所に行くよ! あの二人だけだと不安だし」

「分かった。気を付けてくれ!」

 

 グローウォームと別れ、私とジャマイカは引き続きクリーブランドの下へ急いだ。

 そして――

 

「クリーブランド! 大丈夫か!?」

「クリーブランド!」

 

 路地裏を進んだ先、袋小路になっている少し広い空き地に倒れたクリーブランドの姿があった。

 ジャマイカが倒れるクリーブランドの体を支えて起こす。

 目立った傷はない。気絶しているだけのようだ。

 

「ぐっ……うぅ、二人とも……は、無事だったみたいだね。私も大丈夫……でも、フォックスハウンドが……」

「ああ。さっき見送った」

「そう、か――そうなんだ」

 

 ジャマイカの言葉に、クリーブランドは落胆するような素振りを見せた。

 だが、何か様子がおかしい……?

 

「――!!」

「ガッ――!? クリーブランド、貴様――」

 

 クリーブランドがジャマイカの腹を殴り上げた。

 およそ本物のクリーブランドがするとは思えない、凶悪な形相だった。

 

「くっ、はははは! 面白いよねぇ……ホントに私の事をさぁ。なら教えてあげるよ! もっと面白い事を!!」

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