Fate/Lonely Assassin   作:狐神

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少し長めのプロローグです。私の他の作品を読むとさらに面白くなるようにしていきたいです。


プロローグ

 いつもの帰り道の途中で、俺は愛しの小町に『今帰っている』との内容のメールを送る。今日は珍しく一家全員が揃う日だからな。俺も早めに帰ってこい!との命令、もといお願いをされている。

 さて、とりあえずこの後の予定はどうしたものか。春休みに入ったから学校もないし、部活もあるようでないようなものだし、……家で歴代プリキュアでも一気見するか。

 プリキュアについて考えていたら、いつのまにか俺は家の目の前まで来ていた。いや、マジプリキュア神。ほんとプリキュアのこと考えてたら時間はすぐに過ぎていくな。プリキュア、マッ缶、小町。この3つあれば俺は他に何もいらない!

 それはともかく、俺はドアノブに手を掛けた。ん?変だな。鍵が開いている。まあ、たまに掛け忘れることもあるだろう。そう思って何も気にせずに家の中に入っていき、そして……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷は、まだ学校に来ていないのか」

 

 平塚先生は、私の目の前で溜息をつきながら言った。そして再びそれに続けて

 

「まあ、無理もないか。あんなことがあったのだしな。雪ノ下、お前アイツの家にプリント持って行ってくれないか」

 

 言葉が詰まった。本音を言えば、行きたくない。()の彼と話したくない。会いたくない。だけど、そんなワガママを言える訳もなく。私は、自分の意思を心の奥底にしまいこんでうなずいた。

 

「そうか。すまないな。多分あいつもお前が来てくれて嬉しく感じると思うよ」

 

 そんなはずがない。今の状態で嬉しいと感じることなど決して無い。この言葉も、心の奥底にしまいこみ私は職員室を後にした。

 今は4月の後半。春休みが開けて、学校が始まって少しした頃。2年生の時にあった奉仕部のいざこざは、何とか解決。

 今が彼の言う()()なのかどうかは分からないけれど、私は今の状態で満足していた。部室の中で由比ヶ浜さんが楽しそうに話しをしていて、それを私と比企谷くんが何かをしながら聞いている。

 たまに来る依頼をこなして、いつも通りの日常に戻る。

 私が望んだのは、ただそれだけだった。何も特別なことは必要ない。なのに、なぜ?

 

 いつの間にか、私は校門の外に出ていた。

 足も無意識のうちに比企谷くんの家に向かって行っている。脳と体が別々に動いているかのようだ。

 そして、当たり前だけれども私は比企谷くんの家に着いた。心が重い。あれほど渇望していたはずなのに、今は逆に億劫だ。

 決意を固め、インターホンを押す。

 

 ピンポーン

 

 どれくらい待っただろうか。数秒、あるいは数時間だったかもしれない。比企谷家のドアがゆっくりと開いた。

 

「おお、雪ノ下か」

 

 一目見て驚いた。目が腐っているのは前からだけれど、全体的にやつれているし、声にも生気がない。

 私は、自分が衝撃を受けた事を悟られないように、出来るだけいつも通りの返しをした。

 

「ええ、プリントを持って来てあげたわ。比企谷くん」

「おお、お前が俺を罵倒しないなんて珍しいな」

 

 罵倒出来るわけがない。今の彼に罵倒なんて、出来るはずがない。

 比企谷くんはしばらく私を見つめた後、サンキューな、と言って家に入ろうとした。私は反射的に待ってと言ってしまった。

 

「なんだ」

「いえ、あの……少し家に上げてもらっても構わないかしら」

 

 後にわたしは、この時行った事を後悔することになる。この時に私が余計な事をしなければ、彼はあんな風にはならなかっただろう。

 いや、それも自意識過剰なのかもしれない。私が何をしようとも、彼がする事は変わらなかったかもしれない。それでも、私は……

 

「ああ、いいぞ」

 

 思いのほか軽い返事だった。私は彼の後に続いて家の中に入っていく。玄関には、靴が四つ。彼のものと、小町さんのものと、両親の物だろう。

 それだけならどこにでもあるなんの変哲も無い光景だ。ただ一つ異常なのは、それらの上にうっすらと埃が被っていることだけだった。

 私は、小さくお邪魔しますと言うと靴を脱いで彼が向かったリビングへと向かった。リビングにも、うっすらとだが埃が積もっている。

 そんな中、彼だけがソファに座りながら頭を抱えていた。

 

「なあ、雪ノ下。俺は何をしていたんだろうな。1番大切なものは失ってから気付くって言うけど、俺は失う前も知ってた。信じられるか?つい先月まで、帰って来た俺に小町がお帰りって言って、二人でテレビでも見て、たまに早めに帰って来る親父やお袋に奉仕部のこと茶化されて、ご飯食べて、小町の宿題見て、……なのに、なのによ」

 

 

 

 

 

 

 

 千葉県○○市一家強盗惨殺事件。これが比企谷家に起こった悲劇の全てだ。

 あの日、比企谷くんが帰る少し前に、一人、もしくは二人組の強盗が比企谷家に押し入ったそうだ。

 両親は抵抗したから殺され、小町さんは目撃者を消すと言った理由で殺された。その死体のあまりの凄惨さに、第一発見者の比企谷くんは吐いてしまったらしい。

 その時に一家を守れなかった比企谷くんは、文字どうり死ぬほど後悔し、引きこもった。何度も自殺をしようとしていたらしいが、今私の目の前にいると言う事は未遂で終わったらしい。

 そして、その犯人はまだ捕まっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 声を殺しながら泣いている比企谷くんを見ていると、何かを言わなければならないような気がした。放っておくと危なっかしい。そう感じた。

 

「比企谷くん」

 

 比企谷くんは抱えていた頭をあげてこちらを見る。彼の目は、腐りながらも赤く腫れていた。

 

「あなたは、生きていかなければならないわ」

 

 比企谷くんは黙ってこちらをみている。

 

「小町さんやご両親の分まで、生きていかなければならない。これは貴方の義務よ」

 

 比企谷くんは、じっと床をみて、それきり喋らなくなった。私は、明日は学校に来なさい、と言うと玄関へ向かった。

 ドアを開けて外に出るかどうかというところで、比企谷くんが

 

「ありがとな。雪ノ下」

 

 私は一度振り向いたあと微笑んで、彼の家を後にした。

———————

—————

———

 翌日。比企谷くんは行方不明となった。

 携帯電話にいくらかけても『おかけになった電話番号は、現在使われていないか電波の届かない場所にあります』と言った機械音声が聞こえてくるだけで、彼が出る事はない。

 奉仕部や警察、葉山くんのグループまで総出で探したが、結局見つかる事はなかった。それから約一ヶ月後くらいだっただろうか。学校。いや、日本中にとある噂が流れ始めた。

 その噂とは、ジャック・ザ・リッパーの噂。確か元々の逸話は、昔イギリスで起こった惨殺事件だったはずだが、この噂は違う。何でも、日本にナイフを使った殺人鬼がいるとの噂だった。

 根も葉もなければ、被害者もいないので()()()にはただの都市伝説以下の噂となっているが、私にとっては、雪ノ下家に入って来た別の情報も加わりかなり現実的なものとなっていた。

 その情報とは、通称『魔術師殺し』と呼ばれている暗殺者についての情報。魔術師が依頼すると、その暗殺者はその人間と、依頼をした魔術師を殺すらしい。

 家の為に自分を捨て駒にするような者が依頼するのだろう。別段、魔術師の家では何も珍しいことではない。ただ、問題なのがその魔術師殺しだ。

 本名不明。顔も不明。かろうじて分かっているのは、男であるという事だけ。

 世界中の魔術師達がこぞって探しているのに全く情報がつかめないのだが、私はなんとなくこの魔術師殺しとジャック・ザ・リッパーが関係あるのではないかと考えた。

 理由は、同じ時期に噂になり始めたということしかないが、なぜか私はこれが真実だ、と信じた。

 それからさらに数ヶ月後、私は全く予想だにしない形で比企谷くんと再会することになる。彼が路地裏で血を流して倒れていたところを、私が見つけたのだ。

 私は、どこかへ行こうとする比企谷くんを引き止めて言った。

 

「比企……谷くん?貴方、なんで?」

 

 比企谷くんは私を見つけると、路地の奥の方へと進んでいった。

 その姿は、何かから逃げているようだったが、数メートル進んだところでドサっと倒れた。私は比企谷くんに駆け寄り、体を抱きかかえると

 

「すごい怪我。……いま、誰にも見られてないわよね」

 

 私は、比企谷くんに魔術を使って止血する。

 

Behoben(フィクス)

 

 雪ノ下家の魔術系統は固定。それを使って彼の傷口を固定して血を止める。血を止めた後、気絶してしまっていた彼を私の部屋へと運んだ。

 

 

 

 

 

 自分のベットで比企谷君が寝ている。こんな状況でもそれがとても嬉しかった。今の状況がそんなことを感じてはいけないような状況であるのは分かっている。でも、でも…….

 比企谷君が目を覚ました。一応止血はしておいたが、傷が治っているわけではない。なので目覚めたと思ったらどこかへ行こうとする比企谷君を引き止め、半ば無理やり比企谷君をベットに寝かせた。

 なぜこんな状況になっているのか、私が尋ねると比企谷君はポツリ、ポツリと語り出した。

 強盗の犯人が2人だったこと。

 復讐にその2人を殺したこと。

 その現場を偶然人に見られ、それが魔術師だったこと。

 その魔術師に殺しの依頼を受けたこと。

 その依頼を終えたら次々と依頼が来たこと。

 そして、その依頼をこなしていくうちにいつのまにか『魔術師殺し』と呼ばれ始めたこと。

 全ての話を聞き終えた後、比企谷君は安心したのか、それとも諦めから脱力したのか、死んだように眠りに落ちた。私は、そんな比企谷君の傍らに座って居て、いつのまにか寝てしまっていた。

 目を覚ましたら、比企谷君は手紙を残して消えてしまっていた。魔術で追跡しようとしたが、痕跡が何もなかった。

 これが『魔術師殺し』と呼ばれる者の実力か…、と感心しながら手紙を読んで

 

『雪ノ下へ

 今日は感謝する。いつか礼をしに行く』

 

 とだけ書いていた。比企谷君らしい。あくまでも簡潔に、最低限の関わりで終わらせようとする。

 そんな彼の在り方が、寂しくもあり、懐かしくもあった。

 

 それからしばらくした時。姉さんが家を出て、家は私が継ぐように決定した次の日の夜。彼は私の前に現れた。なんの前触れもなく、なんの知らせもなく。

 

「雪ノ下。お前、家を継ぐんだってな」

「ええ、そうよ」

 

 多少驚きながらも、肯定する。私が継ぐと決定したのは昨日、さらに外部には出来るだけ情報が漏れないようにしているはずなのに、一体どこから情報を手に入れたのだろう。

 それにしても、なぜ私の前に現れたのだろうか。私を祝いに来たようには見えないのだけれど……

 

「俺は、次期雪ノ下家当主を殺す依頼を受けてきた」

「っ!!!」

 

 衝撃が走った。殺しにきた?私を?驚いたのと同時に、どこか安心している私がいる。

 私は思っていたよりも家を継ぐことにプレッシャーを感じていたらしい。それに、殺すのが比企谷君なら、私は別に良い。

 

「だからな、雪ノ下。俺はお前に礼をする事にした」

「?」

 

 比企谷君が、色々な武器をその場に落とした。拳銃や、水晶でできたナイフなど、様々な種類の武器が床に広がった。

 

「お前に命を救ってもらった礼をするって言ってるんだ」

 

 また衝撃が走った。比企谷君がそのことを覚えていたことに・・・・・ではなく、たったそれだけの事で比企谷君が私を殺すのをやめた事にだ。

 だが、なぜわざわざここまで来たのかが気になる。礼をする、と言うのならばその仕事を受けない事で出来るのではないか、と思ったのだ。

 

「・・・・・・・・何でここまで来たの?わざわざここに来なくても良かったでしょう」

「答えは簡単だ」

 

 比企谷君は、少しおどけるようにしながら答えた。ただし、目は全く笑わずに。

 

「俺がお前に殺されるためだ」

「っ!!」

 

 と言い、再び様々な武器をその場に落とした。その中でもひときわ目を惹くのが、水晶でできたナイフ。

 それだけが他の殺伐とした武器の中で完成された美術品のような美しさを醸し出していた。

 

「俺は、帰ってもどうせ魔術師に消される。もしくは攫われる。失敗した『魔術師殺し』。そんな存在が野放しにされると思うか?俺は多分地球上で最も魔術師に関する知識を持ってる。情報ってのは下手な金よりも価値がある。知ってるだろ?」

「ええ」

 

 わかっている。仮にも、雪ノ下家を継ぐ身だ。

 たった1人の魔術師についての情報に国一つを差し出すことだってある。この男は、そんな情報をいくつも持っているのだろう。

 そんな者がいたら、魔術で記憶を引き出した後に……殺すだろう。比企谷君は、そんなことになるくらいなら、誰か記憶を引き出すことのない者に殺される方が良いと思った。そして私の元に来た、と言うわけか。

 

Starten(ブレッド)

 

 私は魔術で比企谷君の頭……の横を撃ち抜いた。

 

「これで貴方は死んだわ。今から貴方は比企谷八幡ではなく、ただの死人Aよ」

「っ!!お前!!」

 

 比企谷君は、一度驚いた後怒りを顔に出して来た。

 

「黙りなさい。貴方は変わらないのね。他の人のために自分を犠牲にする。今回は何?世界のために自分を犠牲にする?ふざけないで!!貴方は残された人の気持ちがわかるでしょう!!自分の大切な人が、大好きな人が先に逝ってしまう悲しみを!!!」

「なっ!!」

 

 最早自分でも何を言っているのかわからない。何を口走っているのか。心をそのままさらけ出している、そんな状態だ。

 

「ええ、そうよ。私は貴方が大好きよ!!高校生の頃から、ずっと貴方のことを考えていたわ。小町さんが死んでしまった時も、自分の肉親が死んでしまったように悲しかった!!貴方がいなくなってしまった時、どれほど自分を責めたことか。そんな貴方を私に殺せって?ふざけないで!!貴方は目だけでなく性根まで腐ってしまったというの!?そもそも、誰かの犠牲のお陰で生きのびるなんて嫌よ。この世界が例え誰かの犠牲の上で成り立ってるとしても、私は嫌!綺麗事でもなんでも良い。私は嫌なの!私は貴方と一緒になりたい!死ぬまで一緒にいたい!死んだ後もいっしょにいたいの!!!」

 

 言い終えた。全て言い切った。言い終わった後に思い返してみると、かなり自分勝手だ。

 まるで子供の癇癪。これだけ言っても、比企谷君がどうするか分からない。

 どう答えるのか分からない。

 

「雪ノ下……悪い。俺は」

 

 でも、構わない。だって

 

「黙りなさい死人A。貴方に選択権はないわ。貴方が私と共に暮らす。これは決定事項よ。貴方のことは、……私が守るわ」

「何バカなこと言ってんだ!お前が俺を守る!?雪ノ下家はどうする?俺のことが外にバレたら俺だけじゃなくお前も家も全てダメになる可能性があるんだぞ!?」

「なら、私達2人でどこか遠くに逃げましょう」

「なら、じゃねえ!お前言ってることめちゃくちゃだぞ!?一回冷静になれ」

「冷静になってもきっと同じ結論を出すわ。今まで溜め込んで来た物全て出しきったのだもの」

「百歩譲って遠くに逃げるにしても、一体どうやって隠れる。俺は全然方法とか思いつかねえぞ!」

「それなら大丈夫よ。私はいつも想像してたから。貴方を看病した日から、色々貴方と逃げる方法とか隠れ方とか空想して、下調べもしてたもの。昔の貴方のようにね、死人A」

「流石の俺も下調べとかはしてねえよ!空想で終わりだ」

「そう。なら私の方が上手ね、負け谷君」

「やめろ。俺の名前を一生負け犬みたいな言い方するんじゃない。俺の名前は比企谷だ」

「失礼、噛みました」

「いいや、わざとだ」

「あら、珍しく冴えてるのね」

「誤魔化せや!!!」

———————

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———

 最後の方のテンションはおかしかったが、まあ喋りたいことは喋れた。

 最終的に、比企谷君と私は、今から候補地Qに移動することになった。自分の部屋の中に隠していたスーツケースを比企谷君に渡し、私は部屋の中をデコレーションしていく。

 

「お前……」

 

 部屋の中をにこの時のために保管しておいた私の血を撒き散らす。

 

「それが出来たんなら別にお前が俺を守る必要なくないか?逆に俺が守るべきな気が」

「黙らりなさい。負け谷君」

「お前それ気に入ってんのか?」

「ええ。さっきみたいに言わなきゃ一緒に暮らせないじゃない。貴方が私を守るとしたらきっと貴方が仕事中の時私は1人よ。けど私が貴方を守るのなら私も貴方も死んだことにしてどこかに一緒に逃げれるわ」

 

 私は彼を連れて外に出ようと

 

「お前の荷物は?」

 

 ああ、そうだった。

 

「私の荷物は全ての候補地にあるわ。私の魔術でずっと同じ状態で保管してあるから大丈夫よ」

「そうか」

 

 それから私達は、千葉県から出て候補地Qに向かった。

———————

—————

———

 俺が雪ノ下の家に行って『魔術師殺し』から死人Aになった日から数年後。雪乃が眠っている真夜中に陽乃さんがやってきた。

 

「ひゃっはろー」

「まだそんな世紀末みたいな挨拶してるんですか」

 

 強襲してきた陽乃さんは、一層強化外骨格を硬くしていた。

 

「ところで私が何しにきたと思う?」

 

 何故だろう?と思うほど俺は鈍感ではない。十中八九雪乃のことだろう。

 

「さすが比企谷君だね」

 

 まだ何も言っていないのだが……

 

「じゃあ、細かいことは省くよ」

 

 陽乃さんは柔らかかった雰囲気を一気に凍らせて

 

「雪乃ちゃんに何かあったら、分かってるよね?」

 

 …………

 

「今は私も雪乃ちゃんも雪ノ下家とは関係無いけど、私は雪乃ちゃんを1番に思ってるよ」

「もちろんです。何のために俺がいると思ってるんですか?」

 

 俺がそういうと、陽乃さんは消えた。比喩表現でも何でもなく、急にこの場から消えたのである。

 俺は先程まで陽乃さんがいた場所を見ながら、陽乃さんがきた理由を考えていた。

 きっと、強い魔術師が襲ってきそうだ、と忠告しにきたのだろう。……その情報はありがたく頂いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽乃さん強襲から数十年後、俺は……ベットで死にかけていた。

 怪我でも病気でも無い。寿命だ。ベットの周りには、子供や孫、雪乃がいた。

 

「父さん」「お義父さん」「おじぃ」「じぃじ」「あなた」

 

 全員がそれぞれ俺を呼ぶ。そんな家族たちに俺は

 

「ありがとな。お前ら。愛し「そんなこと言わないでよ!!!!お父さん!!!」

 

 最後まで言わせて貰えなかった。

 

「「…☆〒♪-×…・〒時÷〒☆-¥☆~-,-年〒@&^&_:^(-y@#/」」

 

 この日本語になっていない言葉を発しているのは、二人の孫だ。たくさん泣いて叫んで。まあ、俺のことを想ってくれてるのはわかるが、悲しむにはちょっと早いぞ?

 

「っ!」

 

 義息子よ!!泣くのを堪えるな。悲しい時は泣くといい。俺も今泣きそうだ。

 

「あなた」

 

 雪乃。ああ、最後の最後でお前に頼みたいことがある。

 その旨をこそっと義息子に伝えると、分かってくれたようで、皆を連れ出してくれた。

 

「雪乃。最後に頼みたいことがある」

 

 雪乃は、静かに頷いた。泣き喚くことも、現実から目を背けることもせずに。

 本当に、雪乃はいい嫁だった。だから俺は、こんな事を頼むことができるのだろう。

 俺は、枕に隠していた水晶のナイフを雪乃に手渡した。

 

「これは俺の……『魔術師殺し』の象徴だ」

 

 雪乃は、ハッと息を飲む。

 

「このナイフは、俺が中学生の頃に作った物だが、今まで多くの魔術師を葬ってきた。あまり後世に残したくない」

 

 雪乃は俺の願いを察したようで、水晶のナイフをぎゅっと握りしめた。

 

「そのナイフを破壊してくれ。俺には出来なかったが、お前にならできるだろう」

 

 俺はニヤッと笑いかけ、雪乃はふふっと微笑む。少しばかり懐かしかった。

 かつて俺たちが高校生の時に所属していた奉仕部。今この瞬間だけこの部屋はその部室になったかのような錯覚を覚えた。

 

「じゃあ、頼んだぞ」

 

 あかん。視界が霞んで来た。そろそろ終わりか。

 俺は今まで考えていた最後に言いたい言葉をなんとか記憶の中から引き出し、口に出す。

 

「愛してるぜ、雪乃」

「ええ、私もよ」

 

 俺はそこで息を引き取った。齢86歳。寿命だった。

———————

—————

———

 八幡は、小町さんや彼の家族の元へと向かった。私は、彼の形見とも言える水晶のナイフを握りしめ、今まであった事を思い出していた。

 

(色々なことがあったわね。奉仕部の部室に彼が来たところから始まったわ。1番最初の彼の印象は最悪だったわね。でもいつのまにか彼に好意を抱いていた。ああ、由比ヶ浜さんに一色さんに平塚先生。高校卒業以来会ってないわ。八幡が死んだ事を知って、彼女たちは悲しんでくれるかしら?悲しんでくれるわよね。そして小町さんが死んでしまったあの日。その後彼の家に行って、私が余計な事を言ったばかりに彼を『魔術師殺し』にしてしまった。そこからさらに数ヶ月後、怪我をした彼を看病した。そこから数年後に彼と私は一緒に逃げ出して子供ができて孫もできて、そして今)

 

 目から一筋の涙がこぼれ落ちる。少し、いやかなり寂しい。

 彼の最後の願い、『このナイフを壊してくれ』。出来ない。彼の形見を私が破壊するなど出来ない。

 

 一つ、思いついた。彼はこのナイフを後世に残したくないと言っていた。なら、()()()()()()()()いいんじゃないだろうか。

 このナイフを、()()に送る。それだけでいいのではないだろうか。

 それからは早かった。子供たちがこの部屋に入ってくる前に送らなければいけないと思ったのだ。きっと彼は子供たちに『魔術師殺し』を知って欲しくなかったのだろう。なら今この瞬間に送らなければ。

 私は瞬時に物を過去に送る魔術を組み立て、そして送った。ナイフは時を超え、時代を超え、どこかへと向かった。私はそれを確認すると、子供達を部屋へと呼び、泣いた。




そのナイフは、音もなく現れた。黄金の王が治める国の端の端に。その存在に気づいたものは王へと報告し、王はそのナイフを愚作ながらも人の思いが詰められたものと評し、蔵には入れなかったものの王の住まいに大切に保管した。そしてそのナイフは、王が死んだ後もその場に居続け、国と共に深く沈んだという。
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