コツコツコツ、と洞窟の中に響く足音が一つ。その足音は、洞窟の奥へと吸い込まれて行くと帰ってくることはない。光のかけらもない洞窟の中をただただ黙々と歩き続けている人物は、ある程度進んだところで急に立ち止まった。そして地面を見下ろすと、持っていたものをその場にポトリと落とす。そしてそのまま
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
魔法陣が光り、人影の姿があらわになる。現れた人影は、赤黒い髪色の女性だった。
「
なにも感じず、なんの感情も持たず
「繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
ただただ詠唱を唱え続ける。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に」
自分の願いを追い続け、でも願いが叶うことはなくて
「我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
だから聖杯に願いを授ける。
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
魔力が周囲に吹き渡る。どこにも発信源のないはずの風が吹いてくる。
ほのかに鼻腔をくすぐるのは、懐かしい空気の匂い。ああ、いつぶりの
僕の記憶としてはヴェネツィア以来だけど、どうやら前に冬木で呼ばれたことがあるらしい。まあ、ここは違う場所なのだが。
さて、そろそろ口上をいいあげようか。召喚に応じたと。
「サーヴァント、ライダー。召喚したのは貴方だね?これからよろしく、マスター」
と言いながら自分のマスターとなる人物を
赤黒い髪を肩あたりまで伸ばし、僕のことを道具としてしか見ていない瞳。
また、英雄目線から見ても美人と思うほどの美貌にマントがわりに羽織っている聖骸布。
見る人が見なくても異常人物だろう。こんな不思議なマスターを持ったことを我が主に感謝しながら、
「・・・・・・それではライダー。これより拠点に向かいます。至急準備を」
マスターの願いも気になるし、過去も気になる。
だけどこの場はマスターの意思に従っておいてあげよう。
その方が、あとあと面白そうだし。
僕はナイフといくつかの薬をポケットに忍び込ませた後、マスターに付いて行き気になったことを聞いた。
やっぱり気になったことはすぐに聞かなきゃね。
「ねえ、マスター。マスターの名前と願いを聞かせてよ。あとできれば過去も。君が知っている通り、僕はそういう話が大好きだからね」
マスターは先ほどと変わらない目でこう続けた。
「必要ありますか?貴方は
「いーや、いるよ。だってそっちの方がやる気が出てくるしね」
マスターは、ハァ、と溜息をつき、感情を全く含まずにこう言った。普通は多少イラついたりするもんなんだけどね。
「私の名前はアンリ・ユークリウス。願いはこの身についたとある神の加護を消し去ること。過去は別に良いでしょう」
僕は無言でマスターの顔を見る。
見続ける。だいたい10分くらいした後、マスターはもう一度ハァ、と溜息をつき
「私は一般家庭で生まれました。魔術回路を持って。それで時計塔からの誘いを受けていたのですが、10歳になるまでは断り続けていました」
「10歳まで、って事はその時何かあったんだね。魔力でも暴走した?」
「いえ、10歳の時、先ほど言ったとある神の加護が発動したのです。その加護のせいで、私が水を飲んだ川の下流では疫病が流行り、歩いた道には今後一切草木が生えてくる事はなく、息を吐けば鳥は落ち、街に入ればその街は滅びる。そんな加護を受けたんです」
「それで、時計塔の援助を受けた、と」
「いえ、違います。時計塔は私を封印指定にし、捕まえに来ました。もっとも、捕まえに来た代行者のほとんどは死んでしまったのですが」
「ところで、今はその加護が弱まったのかい?」
「なんでですか?」
「いや、今そういう禍々しいものが感じられないからさ」
マスターは、どこまでも無表情で
「今はこの聖骸布で抑えてるんです。そのおかげで外にこの
「へー。で、その加護を授けた神っていうのは誰なんだい」
マスターは、一度息を大きく吸い込み瞬きをして答える。
「ゾロアスター教の悪神。アンリ・マユです」
なるほどね、と僕は呟く。
そんな災厄そのものみたいな神様に気に入られるなんて、それこそ世界最高の呪いだ。
「こちらが言ったのです。次は貴方がいうべきでしょう。最初は拠点に着いた後でいいと思っていたのですが、今で良いでしょう」
まあ、普通はそうだよね。
まあ、きっとマスターは僕が誰なのかを知っていて、これは確認のようなものなんだろうけど。良いだろう。僕も自己紹介といこうじゃないか。面白い話を聞かせてもらったお礼だ。
「僕はーーーーーーー
今回は、オリキャラしか出ていません。このキャラクター達が読者様方に気に入って頂けたら幸いです。