書き溜めをせずに、書きあがってからチェックを入れ次第投稿しているため、投稿間隔にばらつきが出てしまうことをご了承ください。
誤字脱字等あったら指摘していただけると幸いです。
「ぐは!」
人間二人分の体重が体に係り、肺から強制的に空気が漏れる。
下り坂で下に倒れる形になったが両親に教わっていた後方受け身で何とか衝撃を分散させる事ができた。
俺が両親へ淡い感謝をしていると、俺の上で人影二人はなおドタバタとしていた。
「待ってよ~!」
その内一人が悲痛な叫びを上げた。
何だこいつら。状況がわからないが重いし痛いし何かいい匂いするし早くどけてほしい。
「おい!お前ら早くどけてくれ!」
俺が何とか声を振り出す。
「わー!ごめんなさい!」
「すみばせーん!」
と、三者三様な返事で二人とも謝りながら退けてくれた。
俺も立ち上がり、呼吸を整えてからランタンの灯りをつけると、暗闇に二人の姿が浮かび上がった。
よく見ると、来る時トイレのベンチで寝ていたピンクの少女と、御隣キャンパーの少女のようだ。
「いや、こっちこそすまない。月が明るかったからライトをつけてなかったんだ」
俺も謝る、別に怪我もしてないし、俺がライトをつけてればお互いに回避できた事かもしれないしな。
「いえ、こちらこそすみません。必死で前もろくに確認せずに走ってしまいました」
と、御隣キャンパーさんが再び謝ってくる。
ふむ、何歳かわからないが、きっと俺より下だろう、礼儀正しいいい子だな~。
ふと隣を見るとピンクの少女は鼻水を垂らして泣いていた。
何が起きているのか相変わらずよくわからないが、ハンカチを取り出しピンクの少女に渡しながら提案をする。
「あ~、こんな所で立ち話も何だし、テントに移動しようか」
三人で御隣キャンパーさんのテントに集まり、ピンクの少女の話を聞き、
御隣キャンパーさんが要約してくれた。
「つまり、今日山梨に引っ越して来たばかりで」
「うん」
ピンクの少女は泣きながら肯定する。
「自転車で富士山見に来たけど、疲れたから横になったら寝過ごして」
「うんうん」
ピンクの少女は二度肯定する。
「気が付いたら真っ暗だったと」
「へーぶん」
ピンクの少女は変な返事で肯定しながら俺が渡したハンカチで涙を拭いていた。
そこで俺は気が付いた事を口にする。
「あれ?そっちは下り坂だから自転車使えば楽に町まで帰れる筈だが・・・」
そんな俺の疑問にピンクの少女は首をぶんぶんと音が鳴りそうな勢いで横に振って否定した。
「むりむりむり!超怖い!!」
あ~、確かにここら辺街頭少ないから真っ暗なんだよなぁ・・・
俺が納得していると御隣キャンパーさんが一つ提案をした。
「家に連絡して迎えに来てもらうのは?」
その提案にピンクの少女はその考えはなかったと言わんばかりに声を上げた。
「あ!そっか!」
真っ先に思い浮かびそうなもんだが・・・
ピンクの少女はぱっと立ち上がると、自分の体をまさぐりだした。
「スマホスマホスマホ・・・最近買ったスマホスマホスマホ」
何かの呪文かな?と思っているとピンクの少女は懐から―――
「スマホスマホスマホスーマホッス!!」
トランプを取り出した・・・
なん・・・だと・・
辺りが静寂に包まれる。
これから始まる冬を想起させるような寒さが肌を突き刺す。
あまりの衝撃に誰も動くことも、しゃべることもできない。
まるで世界が静止してしまったような湖畔の静けさに、ピンクの少女の腹の音だけが、空しく響き渡っていた・・・
ピンクの少女は万策尽きたと言わんばかりに崩れ落ちる。
「まあ、あれだ・・・腹が減っては何とやらだ。よかったら何か食べるか?」
「え!?いいんですか!?」
この空気を何とかしようとした俺の提案にピンクの少女が飛びつく。
「ああ、ちょっと待ってろ」
俺は一度自分のテントに戻ると、夕飯用に買っておいた材料を持って戻る。
「ちょっと待ってろ、すぐできる」
「何か作るんですか?」
俺が持ってきた材料を見て、御隣キャンパーさんが訪ねてきた。
その疑問に対して、俺は自信満々に返答した。
「ああ、今日の夕飯は即席親子丼だ」
「親子丼!?」
ピンクの少女が親子丼に反応する。
「ああ、だがその前にとりあえずお湯を沸かす」
ガスカートリッジに小型ガスバーナーを取り付けコッヘルでお湯を沸かす。
ピンクの少女はバーナーの火を興味深そうに眺めていたが、何かを疑問に思ったのか、焚火とバーナーを交互に見てこう言った。
「あっちで沸かさないの?」
「ん?ああ、そっちで沸かすと煤がつくし、そもそも五徳がないから焚火に乗せれないからな」
まあこの焚火事態俺のじゃなくて御隣キャンパーさんのものだから勝手に使えないしな・・・
「へーそうなんだ~・・・プロみたいだね!」
なんのだ?キャンパープロ?何?キャンプしてお金もらうの?何それ超なりたい。
俺が密かに未来設計を夢想していると、御隣キャンパーさんが自分のスマホを取り出していた。
「私のスマホ貸すから、家の番号言って」
家電か・・・ん?待てよ確かピンクの少女は引っ越してきたばかり・・・嫌な予感がする。
「引っ越したばかりでわかりません!」
こういう予感はよく当たるもので、やはり知らないようである。
御隣キャンパーさんは負けじと次の提案をする。
「だったら自分のスマホの番号は?」
ピンクの少女は間髪入れずにこう答えた。
「記憶にございません!」
ロッキード事件かな?
そんな問答をしていると、再びピンクの少女の腹の虫が大きく鳴った。
その音を合図にするようにタイミングよくお湯が沸いた。
「あ!沸いた!沸いたよ!」
ピンクの少女がお湯ができたことに喜んでいる。
だが待て、本当に喜ぶのはまだ先だぞピンクの少女よ。
俺はパックのごはんをコッヘルに入れてそのまま火にかけた。
「はっくしゅん!」
ピンクの少女のくしゃみが響き渡る。
そりゃあんな所で寝てたら風邪もひくわな・・・いかん、罪悪感が沸々と沸いてきてしまった。
見かねたのか、御隣キャンパーさんが焚火に薪をくべて火を大きくしてくれた。
「ありがとう!」
ピンクの少女が火に当たりながらお礼を言い、それに対して御隣キャンパーさんは短くうなずきながら、今度はポットからお茶を入れてピンクの少女に渡していた。
「あったまる~」
これでピンクの少女も凍えずにすみそうだ・・・
さて、こっちもちゃちゃっと作りますかな!
※
用意するもの
お米(今回はパックごはん)
焼き鳥の缶詰
卵
フライドオニオン
嵩の浅いコッヘル
先ず、パックごはんをお湯につけ、規定の時間ボイルします。
パックごはんをボイルしている間に、フライドオニオンと焼き鳥の缶詰をコッヘルに入れ、空いた缶詰に水を入れ箸でかき混ぜてからコッヘルに入れて炒めます。
水が沸騰してきたら、溶き卵を入れ素早く混ぜ、半熟になったらボイルしたご飯に乗せ出来上がりです。
材料が安価で、調理時間も短く、少ない道具で作れるうえ、缶詰の味がしっかりついていて美味なためおすすめです。
「へいおまち!早くて美味い即席親子丼だ」
「親子丼だ~♪」
ピンクの少女は嬉しそうに親子丼を手に取った。
「私の分まで、いいんですか?」
そこで気が付く、勢い余ってつい3人分作ってしまったが、そういえば御隣キャンパーさんは普通にここにキャンプに来てるんだよな・・・
しまった!先に聞いておくべきだった!!だが作っちゃったから後にも引けないし・・・
しかたがないので俺は開き直る事にした。
「な~に気にするな、寧ろつい買いすぎて困ってたんだ。遠慮せず食べてくれ」
これは本当である、来る途中にあったスーパーで買ってきたんだが、たまたまセールをしていて調子に乗って買い過ぎてしまったのだ。実際まだ余ってるし、お袋へのお土産にしよう・・・
「いただきます!」
ピンクの少女が元気に挨拶し、食べ始めた。
ピンクの少女は一口食べる度に表情を変え、喜びを体全体で表現していた。
しかし、たかが即席の親子丼を美味そうに食べる少女だ・・・これだけ喜んでもらえると作った甲斐があるというものだ。
「いただきます」
対照的に、御隣キャンパーさんは静かに挨拶をして食べ始める。
俺は固唾を呑んで最初の一口を見守った。
そう、俺にとっての本命はこっちだ。
どう見てもキャンプベテランの御隣キャンパーさんの舌に、果たしてこの即席親子丼は通用するのだろうか。
俺が勝手に戦々恐々としているのを尻目に御隣キャンパーは親子丼を食べ―――ふと、その表情を和らげる。
ふむ、どうやらこちらは味を静かに噛みしめるタイプのようだ。
よかった、即席親子丼は御隣キャンパーさんの舌でも合格点を出すことができたようだ。
まあ味を決めてるのは缶詰のタレだけども、ありがとう!業者の人!
しかし・・・一人でのんびり過ごすキャンプもいいが、こうキャンプ場で誰かと一緒に飯を食べるのも―――悪くない。
俺が一人感激に浸っていると、少女二人の会話が耳に入ってきた。
「ねえ、あなたどこから来たの?」
御隣キャンパーさんの疑問にピンクの少女は答える。
「私?ずーっと下の方。南部町ってとこ」
南部町!?すげーなよくチャリで来れたな・・・
俺が驚いていると御隣キャンパーさんも同じ事を思ったようだ。
「南部町、よくチャリでここまで来たね」
ほんとに同じことを思ったようだ、あらやだ以心伝心。
「本栖湖の富士山は千円札の絵にもなってるって、お姉ちゃんに聞いて長〜い坂登って来たのに。曇ってて全然見えないんだもん」
ピンクの少女が文句を言っている。
その気持ちはわかるぞ、景色を楽しもうと苦労して来たのにその景色が見えない時の絶望感ときたら・・・
幸せな気分が一転、今度は感傷に浸っていると、ふと、景色が明るくなったのを感じた。
どうやら雲に隠れていた月が顔をのぞかせたらしい。
何となく富士の方に視線を向ける。
ほう、これは中々。
御隣キャンパーさんも気づいたようで、聞いてよ奥さん等とふざけているピンクの少女にほほえみながらこう言った。
「見えないって?あれが?」
「ん?」
ピンクの少女はまだ気が付いていない。
しかたがないので指をさして後ろを向くように教えてやる。
「あれだ」
「あれ?」
ピンクの少女は振り返り―――
本栖湖から望む富士の絶景に見惚れていた。
「見えた・・・富士山」
そのまま三人で静かに景気を堪能していると、
「あ!」
ピンクの少女が声を上げた。
「あ~えへへへ。お姉ちゃんの電話番号知ってたよ私」
数十分後、駐車場にピンクの少女の姉が車で迎えに来た。
「家の馬鹿妹がほんっと~にお世話になりました」
車からとびきりの美人が降りてきたと思ったらピンクの少女にげんこつをして謝罪してきた。
こええええ!!
「これ、お詫びです」
と、大きなビニール袋を差し出してくる。
「あいや、別に大したことは」
御隣キャンパーさんも若干引いているのか上ずった声で拒否していたが、若干無理やりビニール袋を渡されていた。
「おおおおお」
ピンクの少女は頭を抱えてうずくまっていた。
「あんた持ち歩かないと携帯電話と言わないのよ!」
ごもっともです!お姉さん!!
「おら!さっさと乗れ豚野郎!」
そう言いながらピンクの少女のお姉さんはピンクの少女を引っ張って無理やり助手席に放り込んで蹴りを入れていた。
二人で完全に引いているとお姉さんはてきぱきと帰り支度を整える。
「お休みなさ~い、風邪ひかないでね」
「「おやすみなさい」」
俺たちはただただ力なく手を振って返事をするのが精一杯だった。
立ち去った車からふとビニール袋に視線を向けると、中身は大量のキウイだった。
「ほう、お茶と親子丼がキウイに化けたか」
俺が冗談を言っていると御隣キャンパーさんがビニール袋を差し出してくる。
「これあなたに上げますよ、私はほんとうに何もしてませんから」
しかし少女の提案を俺は拒否する事にする。
「何言ってんだ、そっちは焚火とお茶を提供していたろ、これは半分こしよう」
またお袋へのお土産が増えてしまった。
二人してテントに戻ろうとした時後ろからピンクの少女が呼び止める声が聞こえる。
「ちょっと待って!」
振り返るとピンクの少女が息を切らせながら走ってくる。
ピンクの少女はそのまま前で立ち止まり息を整えると御隣キャンパーさんの手を取り一枚のメモを渡してきた。
「はいこれ!私の番号!お姉ちゃんに聞いたんだ!あなたも親子丼ありがとう!」
「お、おう」
俺が気の抜けた返事をしていると、ピンクの少女はまた急いで姉の待つ車へと振り返り、走り去り際にとんでもないことを言った。
「今度はちゃんと、キャンプやろうね!」
ピンクの少女は車までたどり着くとこちらに振り返り、大きく手を振りながら車に乗り込んだ。
「嵐のような少女だったな」
「そうですね」
俺と御隣キャンパーさんは残されたメモに目を向ける。
そこにはピンクの少女の名前と、電話番号が書かれていた。
「各務原なでしこか・・・渡されてもなぁ、俺はどうすることもできないんだが」
御隣キャンパーさんはともかくどこの馬の骨とも知らぬ野郎に不用心にも名前と電話番号を渡すとは、あの少女の将来が不安になってくる。
仕方がないのでメモは御隣キャンパーさんに渡してキウイを山分けにしそれぞれのキャンプに戻り、夜は更けた。
時は過ぎ休み明け、憂鬱な気分になりながら学校へと続く長い坂道を登る。
この時の俺は、その学校で運命的な再会をすることになるとは微塵も思っていなかった。