とある奇蹟の断律歌姫(ディーヴァ)   作:柳雫あもる

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序章 A・B

A:真夏の(そら)の夢

 

 

 一つの奇蹟があった。

 

 

 儚くて、温かくて、それでいて力強い奇蹟があった。

 たくさんの思惑が交差し、絡み合って、その果てに引き起こされそうになった『北半球の破壊』という途轍(とてつ)もない災禍を前に、それはもたらされた。

 

 それは、他の誰にもなし得なかった奇蹟だった。

 ──あるいは、あらゆる異能を打ち消す力を右手に宿す少年にも。

 ──あるいは、すべての物理量のベクトルを操作する学園都市最強の超能力者にも。

 ──あるいは、何の能力も持たず、守るべきもののために戦う元スキルアウトにも。

 

 あるいは、どんな科学者にも、魔術師にも。

 あるいは、超能力者(レベル5)にも、『神の右席』にも。

 あるいは、『木原』にも、魔神にも。

 全てを裏で操っているかのような黒幕どもにさえなし得なかった、圧倒的な奇蹟。

 

 

 それは、ある夏の日の出来事だった。

 

 その奇蹟は、地球と宇宙とを繋ぐ宇宙エレベーター『エンデュミオン』の最上部で起こった。

 その奇蹟は、たくさんの人々を救った。

 その奇蹟は、代償として一人の少女を失った。

 その代わり、二人の少女を、再び一つに還した。

 

 

 やがて長かった夏は終わり、三度目の大戦を乗り越えた世界は、ようやく秋を迎えた。

 

 レディリー=タングルロードの企みが潰えたいま、『彼女』の行方は誰にも分からない。

 けれど、人々を魅了するその歌声だけは、街のどこからか聞こえてくる。

 

 ──これは、奇蹟を起こした歌姫を巡る『奇蹟の後』の物語。

 

 

 

 

 

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B:奇蹟の術

 

 

 私は例外的な原因による自然な結果として、奇蹟を定義している。

 

 人間の意志の即座の活動、あるいは少なくとも目に見える方法によらずに行われる活動は、物質の面における奇蹟を構成する。

 意志や知性に、突然にせよ、時間をかけてにせよ、影響は働きかけ、思考を服従させられ、最も堅固な決意を変え、最も暴力的な情熱を麻痺させる──これは倫理の面での奇蹟を構成する。

 

 

 奇蹟に対する一般的な誤解は、これらを原因なき結果、自然の法則と反するもの、神の心の突然の気まぐれ──この類のとある奇蹟が宇宙の調和を破壊し、世界を混沌へと貶める存在だと見()すことである。

 

 

 たとえ神すらも不可能な奇蹟は、ある。

 

 

 すなわち、不条理が含まれたものである。

 神が瞬時でも不条理な存在になれるとしたら、神自身も世界そのものも、その後には存在しなくなるだろう。

 

 

 

 ──エリファス゠レヴィ著

高等魔術の教理と祭儀(ドグマ・エ・リチュエル)』祭儀編 第二十章より




 序章Bは、「魔術とオカルトの図書館」様の翻訳文から、少し表現を変えつつ引用させていただきました。
(https://occultlibrary.wiki.fc2.com/m/wiki/トップページ)
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