十一月二日
大通り沿いに立ち並ぶビルやショッピングモールの間に、際立って自己主張の激しい建物があった。四階建ての巨大なそれは全体が黒色で、その上から会社のロゴマークやイメージキャラクター、電飾などが、にぎやかに取り付けられている。
『極彩色! チェ・ゲバラ』と銘打たれた店舗は、なにがどう極彩色なのかはよくわからないが、平日の昼間だというのに客足が耐える様子はなかった。敷地面積の半分ほどを使った二階まである駐車場も、半分以上が埋まっている。
道路に面した店舗の入り口付近では、目玉の商品が特徴的なフォントのポップ付きで大々的に紹介されていた。店内の品数の豊富さを誇示するように、食品や化粧品、電化製品にパーティーグッズなど、様々な商品が陳列されている。そんな中、
「これは……なんというか、秩序に反した広告のような気がするんだが、取り締まらなくていいんだろうか……」
ギザギザに切り
悩むような声を漏らしたのは、高校生くらいの少女だった。黒い髪を腰まで伸ばし、黒のスウェットに黒のチノパンと、全身を黒
整った顔立ちと固い表情のせいで大人びて見えるが、彼女の後ろを通ったスーツの男性と比べると、意外に身長は低いようだ。
『考えすぎじゃないかなあ』
苦笑するような声があった。
黒髪の少女とは対照的に穏やかな、あるいは朗らかな声色だったが、声の主は見当たらない。
「しかし、これは……個人的には悪意を感じてならないというか」
煮え切らない様子の少女は、穴が空くのではないかと思うほど、まじまじとポップを見つめる。よく見ると、『記』という字は後から貼り付けられたもののようだった。下からわずかに透けて見える『祈』の文字のほうが、おそらく元々書いてあったものだろう。
『祈念』ということは、つまりこのポップは第三次世界大戦が終結するまえに作られたもの、ということになる。
「不謹慎だろう」
『たしかに、そうかもしれないけど』
困ったような声は一度区切って、
『最近は全然関係ないイベントにかこつけてセールスとか当たり前だし、どこもこんなものなんじゃないかな。悪気はなかったと思うよ、うん』
「そんなものか」
なだめられて、黒髪の少女はフン、と小さく鼻を鳴らした。
「それにしても、たった十二日間の戦争だったというのに、よくこんな商売を思いつくものだ」
『すごい商売根性だね』
その言葉には応えず、黒髪の少女はようやくポップから目を離した。一度辺りを見回して、ポケットから取り出したスマートフォンで時間を確認する。
空はもう夕焼けに染まっていた。季節が変わり、日が落ちるのが早くなったことを如実に感じるようになった。少女の影も、いつの間にか長く伸びている。
「まあ、もう部隊も抜けた身だ。たとえ秩序を乱していても、私にはどうすることもできないさ。……ん、もうこんな時間か」
少女は呟きながら、手首に巻いた腕時計に目を落とした。
「そろそろ、行くとしようか。特売は何時からだった?」
『五時からだよ。まだ時間はあるけど、早く行かないとお魚が売り切れちゃうかも』
「そうか。それなら、もう行こう」
長い黒髪を
誰かと通話中かと思ったが、端末と無線接続したイヤフォンの類いは見当たらなかった。下校途中であろう制服に身を包んだ女子学生も、軽く視線を向けた程度でそれ以上は詮索せず、少女とは反対の方向へ消えていく。
ちらほらと人の増え始めた雑踏の中、
「なにか、食べたいものはあるか?」
周りの誰に言うでもなく、少女はそう尋ねた。相変わらず姿の見えない誰かの弾んだ声が、それに答える。
『そうだなー、私はお魚がいいかな。シャットアウラちゃんは?』
「私も、今日は魚の気分だ。アリサ」
顔を少しだけほころばせた少女は、鼻歌交じりにスニーカーでタイルの上を踏みしめた。