漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話   作:erif tellab

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ズ・メビオ・ダとは、豹のフレンズである。(違う)


漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話

 グロンギとは超古代に生きる戦闘民族だ。物理法則を無視したかのような方法でお腹の中に埋め込まれた霊石、ゲブロンとかいうものの力によって怪人に変身できる。その時の姿のモチーフはクモ、バッタ、コウモリと人それぞれだ。みんな違ってみんな良い。

  だが悲しいかな。グロンギの戦闘民族たる所以は、人間を獲物として捉えている事だった。グロンギだって生物学上はヒトの遺伝子を持っているのにも関わらずにだ。ぶっちゃけるとグロンギと人間の対立の原因は、根底の価値観と認識の差である。

  その上、ゲゲルとかいうイカれた伝統文化があるのだ。端的に言うとそれは、制限時間内に決められた人数を仕留める殺人ゲームである。ゲゲルに失敗すると、ゲブロンが自爆装置と化して爆死する模様。普通の人からすれば、カルチャーショックを通り越して酷く驚くに違いない。

 

  どうして殺す。どうして仲良くしようとしない。そんな疑問はごもっとも。しかし、根っから戦闘民族のグロンギにその手の話題はほとんど通用しない。頭の中が完全に闘争へと凝り固まっているから。

 

  また、善悪の境界線が機能していない事も一因だろう。オカマのキノコ君とか、透明になるカメレオン君とか、サイコパスな針使い君とか、殺人を楽しんだりする最悪な部類だ。カメレオン君は随分と話が通じるからマシだけど。

  そんなこんなで、グロンギは大半が理解できない奴として人間たちに認識される。自明の理だ。しかも、ゲゲルは一応グロンギにとっての神聖な儀式である。

  もちろん、あらゆる生命は生まれを選ぶなんてできないし、この世は原則的に不平等であるから、戦えないタイプや病弱なタイプ、そもそも戦うのが嫌なグロンギも出てくる。そんな彼らにゲゲルが強要されるなんてあれば、実に酷な話だろう。ゲゲル欠席の権利ぐらいは用意されていいはず。

  しかし、現実は非情である。そんな弱者たちは族長から直々に粛正されてゆくのだった。

  抜け穴として、武器や道具の職人が属する“ヌ”集団に逃げ込む方法が残されているが、グロンギの気質的にそちらへ行く者がほとんどいない。ゲゲル上等な奴らばかりだ。

  そもそも、ヌ集団はラ集団と同じくゲゲルを管理する者たちなので、基本的には狭き門だ。つまり、下位集団の弱者たちは大人しく殺されるしかない。出世方法が原始的な古代らしく、力を示す事なので。

 

  そして、かくいう俺もれっきとしたグロンギである。日本人としての意識や人格がそのままになっているおかげで、もう生まれの不幸を呪うしかない。

 

  戦わなければ生き残れない。だが、最近の人間たちがようやくクウガ――一人だけでなくたくさん――を出してきたので、戦っても生き残れない。封印されるし、現代に蘇ってもクウガに殺される。

  それが嫌なら逃げろって? 粛正してくる人がアレだもん、無理だよ。生物の細胞一つ一つを遠距離からプラズマ粒子に変換して焼き殺すなんて、本当にダグバはおかしいと思う。

  それに、どういう訳か俺の名はガミオである。歴史とか設定とか歪みに歪んで、全てをディケイドやゴルゴムのせいにしたい。本来なら俺は登場するはずがなかった。

  だから今日も今日とて、ラ階級昇進目指してダグバとのタイマンを回避するため、ひたすら鍛えまくる。電気を浴びたいけど、なかなか自分のところに雷が落ちてこないから辛い。

  現在、ご丁寧にベ集団たちからのゲゲル参加権利取得の選抜試験が開催されているので、俺のゲゲルの番まで結構な時間の猶予がある。ただし、一人でもくもくと鍛えるのにも限界があるので、模擬戦してくれる相手が必要だった。

  そういう訳で――

 

「ッ、チョボバラヨゲスバ!!」

 

「ゾンバボオギワレデモ……」

 

  彼女が怒涛の勢いで繰り出す殴打や蹴りを、俺は最小限の動きだけで避ける。お互いに人間態で戦っていた。イライラとした表情で吐き捨てる彼女の言葉をスルーする。

  ガラスのように曇った瞳と、乱雑に揃えられた短髪。幼げな体格とは裏腹に、少女とは思えない身のこなしを披露する。

  そんな彼女の名前はメビオ。俺の知らない方のズ・メビオ・ダである。この娘、何か可愛くなっている。

 

「グガー!!」

 

  攻撃が当たらなすぎて遂に癇癪を起こしてしまったのか、メビオは豹の怪人態へと変身する。発揮できる一挙一投足の速さも格段に上昇し、間髪入れずに俺へと突き出す右拳の危険度が跳ね上がる。

  だが、まだ目で捉えられる。俺の動体視力と反射神経をもってして、余裕でその一撃を見切った。

  まっすぐメビオの右腕を掴み、時計回りで強引に動かしながら彼女の背後へ立つ。そのまま右腕の関節を極めて、ぐいっと押し込める。メビオは悲鳴を上げながら、地に膝を着けた。

  以下、俺たちの会話をグロンギ語から和訳してお送りします。

 

「ぐぎぎぎ、はなせぇえー!!」

 

「変身するのは禁止だって言っただろ! あと無理に抵抗するな! 肩抜けるぞ!」

 

「うがー!!」

 

  そうしてジタバタと暴れるメビオを一心不乱に抑える。それでもパワー負けしそうになるので、こちらも怪人態に変身して対抗し、どうにか模擬戦の幕を引かせる。怪人態を解除させるのが大変だった。

  ようやく右腕を解放されたメビオはぐったりと仰向けに倒れて、気だるげな雰囲気を醸し出しながらも俺をギロット睨む。こちらも怪人態を解いても、反撃してくる素振りは見せなかった。

 

「……負けた。負けた負けた負けた!!」

 

  そう言ってメビオは駄々っ子のように手足をバタバタさせる。目尻にはすっかり涙を溜めていた。

 

「あぁー……泣くな泣くな。最初に会った頃よりもずっと強くなってるから」

 

「うるさい!」

 

  いざ慰めてみるも、メビオは反抗心剥き出しにして素直に受け取らない。負けに堪えているのが一目瞭然だ。

  そんな時だった。メビオの腹の虫が鳴いたのは。

 

  キュルルルゥ……。

 

  辺りが静まり返る。当のメビオは唖然とした様子のまま固まり、一切の身動ぎをしない。ひたすら虚空を見つめていた。

 

「……ご飯にするか」

 

  何気なく出した俺の提案に、ゆっくり起き上がってコクリと頷くメビオ。頬が赤くなっている彼女の姿を眺めていると、不意に顔を背けられる。

  今日のお昼の献立は、川で捕った魚の塩焼きだ。細い木の枝から作った簡素な串に魚をぶっ刺し、焚き火にかざす。質素な料理しか作れないのは仕方ない。グロンギもいい加減に米作とかを導入するべきだと思うんだ。

 

「塩は?」

 

「すくなめ」

 

「はいよ」

 

  念のため、メビオから要望を聞くのも欠かさない。彼女はしょっぱすぎるのが苦手なのだ。初めて塩焼きを口にした時とか、掛ける量を俺の舌基準にしていたせいで「ぺっぺっ!」と吐いていた。俺の舌が異様に肥えているから気をつけなければと反省したものだ。

  魚を十分に焼くと、二人でそれらをいただく。ここで「いただきます」と言うのは俺だけだ。メビオはガツガツと焼き魚に食らい付く。気品の欠片もなかった。

 

  俺たちが知り合ったきっかけは、ある日の森での狩猟だった。

  たまたまウサギを見つけた俺は弓矢で狙い射ち、ものの見事に仕留めてみせる。だが、そのウサギは最初からメビオが追い掛けていたものらしく、不本意にも横取りとなってしまったので彼女に因縁付けられた。

  最高時速二百七十キロ出せるんだから全力で追い掛けろよ、とは言わなかった。例えメビオがウサギ相手にニャンニャン遊んでいたのが事実だとしても、この時はなるべく穏便に済ませたかったのだ。なので、横取りしてしまったウサギを彼女に渡して解決しようと図った。

  しかし、それはメビオ自身のプライドが許さなかったのか、頑なに拒否されてしまう。その時は彼女は他の動物を探しにさっさと立ち去ってしまったが、次回以降の狩りに度々出会っては、彼女が一方的に狩り競争を仕掛けては獲物を横取りしてくる事が頻発した。

  これは当初、「じゃあ、他の動物探すからいいや」と俺はなるべく寛大な心で許していたが、我慢の限界が訪れるのはそう遅くはなかった。

  獲物の横取りだけでなく、数々の繰り返される狩りの妨害行為やストーキング、解体の邪魔。それでもって、俺が迷惑だと感じる度に見せてくる、達成感溢れるドヤ顔。

  特に調理させる暇を与えてこないのが、俺にとっては極めて残忍で冷酷な行為に等しかった。なんというイタズラ娘だろうか。これはもう、ぶちギレると同時に叱るしかなかった。グロンギらしい方法で。

 

 

  結果、メビオをボコボコに打ち負かした俺はこうして暮らしている。模擬戦は彼女からすれば俺へのリベンジの機会だ。ただ、餌付けされた猫のように多少はなつかれている気がしなくもない。

 

 

  調理法が洗練されていないこの古代では、塩を降る一つにしてもどうすればダントツに美味しくできるのかは誰も知らないし、わかっていない。俺は思い出しながら試行錯誤で頑張ったら、ようやく美味しくなる魚の塩の振り方に辿り着いた。掛けてしばらく放置とか、全然思いつかないし。

  メビオのなつき度が変に上がっているのは、塩が関わっているに違いないだろう。現に彼女は猛スピードで二本も三本も食らい尽くす。俺は一本で事足りるので問題なかった。

  かくして俺たちは完食し、腹が満たされているので急に運動したりなどしない。その場でのびのびと日向ぼっこを楽しむ。ついでに近くにあった雑草をむしりとって、それを素材にモーフィングパワーで紙に再構成する練習をする。

  紙の作り方は簡単にいうと、木を叩いて砕いて水に浸けながら固める、である。こんな感じだと覚えているので、イメージも湧いたから分解・再構成は可能なはず。細かい事はスルーだ。

  過去の練習でも成功はしているので、今は熟練度を鍛えている事になる。損自体はないだろう。

 

「……ん、できた」

 

  そしてご覧の通り、葉っぱが一瞬にしてA4の白いツヤツヤの用紙に生まれ変わる。この力はいいものだ。科学技術が発展しなさそうなのがキズだけど。

  ふと視線を横にずらせば、俺と同じように葉っぱをモーフィングパワーで再構成しようとするメビオの姿が目に入る。しかし、成功する気配は一切なかった。

 

「……」

 

「あ、やっぱりできないか」

 

「おまえの力は借りない!」

 

  声を掛けてみれば、ぐわっと怒鳴ってくる。こちらはおずおずと引き下がるしかなかった。

  それでもメビオの様子が気になるので、時々チラ見しながら俺は一枚の紙から鶴を折る。

  折り紙はいいぞ、心を豊かにしてくれる。そんな折り紙たちを無残に潰したザインは絶対許さねぇ。いつかクウガにボコボコにされてしまえ。

  こうして折り鶴を完成させた次の瞬間、メビオは急にバタンと前のめりに崩れ落ちる。ペガサスフォームの時間制限を越えたクウガみたいに、ゲブロンがエネルギー切れを起こしたのだろう。モーフィングパワーに力を注ぎすぎたか。

 

「ガス欠? 無理すんな」

 

「うぅ……」

 

「ほら、一枚あげるから元気出せ」

 

  そう言って俺は、落ち込み気味のメビオに紙を渡す。メビオは不満そうな顔をしながらも渋々と受け取り、一人で黙々と折り紙に挑戦していく。

  この時点でメビオが俺に影響を受けているのは一目瞭然だった。紙飛行機を初めて目にしたメビオのどこかキラキラとした顔を、俺は忘れない。

  どうしてこんな好奇心旺盛で無邪気な子がグロンギなのだろうか。戦う事でしかわかり合えなくなるのが辛い。

  拙いながらも紙飛行機を完成まで漕ぎ着けるメビオ。俺が教えた折り方の手順を丁寧に守っていて、そこが意外といじらしい。

  それから間髪いれず、メビオに空高く放り投げられる紙飛行機。力任せに投げても上手に飛ばないのは、さすがの彼女も学習していた。

  風に扇がれながら、紙飛行機はくるりくるりと宙に舞う。飛行距離ではなく、滞空時間を意識した飛び方だった。

  個人的には飛行距離を稼ぎたくなる派だが、メビオは長く空に浮かばせるのが好きなようだ。やがて落ちていく紙飛行機をキャッチし、目を輝かせながらこちらに振り向く。

 

「おい、ガミオ! 前より長く飛べるようになったぞ!」

 

「随分手先が器用になったなー。すんごい成長だ」

 

「……へへっ、うふふっ! もっとホめろ!」

 

「おー、よしよし」

 

  そう言ってメビオは機嫌良く近づいてきたので、頭を優しく撫でる。気持ち良さそうに声を鳴らし、まるで猫のように可愛かった。顎の下を撫でてみると、より目を細める。

 

 

  あぁ……ゲゲルなくならないかな……。早くラかヌに逃げたい……。

  ゲゲルの際は、クウガ一人倒せばクリアの扱いにしてもらえるように頼んでみよう。きっと大変な戦いが待っているぞ。この時代のクウガ、封印エネルギーを常時フル発動させているだろうから。

 

 




Q.もしもグロンギたちでハーレムなんて作ろうとしたら?

A.世にも恐ろしく、血に濡れた修羅場が発生します。こちらも怪人の力を手に入れないと死ぬでしょう。

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