漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話 作:erif tellab
その日、酒を飲んだベミウはとんでもない酔い方をしてきた。メビオを甘え上戸とするのなら、まさしく彼女は母性に満ち溢れた誉め上戸と呼ぶべきだろう。
もちろん、一口飲んだだけで既にべろんべろんだ。酒に弱いのは女性グロンギ共通なのだろうか? メビオは酔っていた時の記憶を持っていたので、恐らくベミウも今日の事は酔っても忘れないはず。
メビオの場合は朝起きた後で顔真っ赤にしながら悶絶していたが、ベミウとなるとその時の反応が未知数だ。鞭を振り回しながら追い掛けてくるかもしれないので、色々恐ろしい。考えたくもない。
「よしよし、いい子だ……」
「えっと……ベミウ、さん?」
現在、俺をそっと胸の上に抱き寄せたベミウはひたすら頭を撫でてくる。真っ先に抜け出そうとすると急に強く拘束してくる辺り、やはりグロンギだと実感する。
彼女の胸の大きさは一発でわかる通りジャーザに劣る。それでもメビオやガリマ姐さんと比較すると遥かに勝っている。よもや、この歳で女性の柔らかく程よい双丘に顔を埋める事になるなんて、思いもよらなんだ。
しかし、その次に脳内で思い浮かぶのが、ベミウの酔いが覚めた直後。おかげで呑気に彼女の包容を堪能している余裕はなく、内心では歓喜と恐怖の感情がせめぎあっている。今にも歓喜が負けそうだ。
おずおずと名を呼んだ俺にベミウは僅かに眉をひそめる。そして、ちょっとの不満とたくさんの期待・喜びを織り交ぜた表情で告げるのだった。
「いつものように呼び捨てにしてくれ、ガミオ。それか……お母さんと呼んでくれ」
「へ!? ちょっと重症すぎません!? 水ぅ! 水ぅ! 水を飲んでぇ!」
「水割り……確か、そういうのもあったな。どれどれ……」
「ごめん、ベミウ! 俺が言いたいのそうじゃないの!」
そんな俺の叫びも空しく、ベミウは片手で取り出した鞭を思うがままに操り、先端から四角形の氷を作り出す。氷はそのまま酒が入ったコップに投下され、ドラマでバーテンダーがよくやるアレが完成した。
水割りされた酒をベミウは軽く口にする。俺を抱き抱えたままなのに動作は淀みない。酒を喉に通らせた後はコップを再びテーブルの上に置き、俺を愛で直す。
「そう言えば、ガミオは氷が出せるように鳴ったのだな。偉いぞ、よしよし。私を目標にしてくれるようで嬉しいぞ」
「いえ、ヒャドは偶然です」
咄嗟にそう言い返すと、ベミウはたちまち顔を暗くする。落胆しているのは一目瞭然だった。
「そうか……ガミオは私の事を全く気にも留めていないんだな。そうか……」
「あ、そうじゃなくて。嫌いじゃないから泣かないで、ベミウ。自信を持って、ね?」
まさに泣きそう雰囲気だったので間髪入れずにフォローを入れると、ベミウの表情が明るくなる。黒い長髪に口紅と大人びた容姿にしては、その笑顔は意外とどこか幼く感じた。可愛らしい。
それからベミウは嬉しげに俺をぎゅっと抱き締める。いつでも逃げ出せそうなくらいに力は込められていないが、絶対に罠だろうな。ここで逃げようとすれぱ、間違いなく想像を絶する出来事が発生してしまう。伊達に彼女は死のコンダクターとの二つ名を持っている訳ではない。
「もっと甘えてもいいんだぞ、ガミオ? 私が受け止めてやる……」
「……っ!」
しかし、後々の命の保証はされていない。ずけずけと甘えられるはずがなかった。
「今まで一人で辛くなかったか? 寂しくなかったか? 大変だったろう?」
甘い吐息と慈愛の込もった言葉が、ほぼ零距離で放たれる。なんでこの人は地味に心に刺さる部分を突いてくるんだ?
「グロンギの中でお前が浮いてて、苦労しただろうな? もう大丈夫だぞ、私がついている」
「うっ……」
ああ、そうだ。メビオとガリマ姐さんと出会う前は何の楽しみもなくて、かなり苦労したさ。だからといって、今さらそんなのがどうしたんだ。心には来るけど、もはや意味はない。
このグロンギ社会において、俺の隣にはメビオとガリマ姐さんで十分。これでも楽しく暮らしていける。ベミウまではいらない。何故なら、貴女が酔っているからだ。こんな母性の目覚めなど、一過性のものにすぎない。
「育ててくれる父も母もいなかったのに、よく頑張ったな。ガミオ、お前は強い子だ……」
……ハッ! それはダメだ! いくら当時の精神年齢が誰よりも上だった俺でも、それ以上踏み込んでくるのは不味い! やめてくれ!
だが、言葉には出せなかった。口にしてしまうと、自分からそれを認めてしまうからだ。グロンギに生まれ変わったために、甘ったれた事は一切できなかったというだけなのに。他のグロンギたちは知らないが、俺は心が人間なんだ。
「私がたっぷり愛情を注ごう。お前が小さい時に味わえなかった分をまとめて……」
それを聞いて、俺は思わず涙が出そうになった。普通のグロンギなら、愛情なんて単語は出てこない。親から受けた愛情というものが大きく欠落していた俺にとっては、雷に打たれたかのような瞬間だった。
もうダメだ、我慢できない。ベミウ、もしも貴女が許してくれるのであれば、その好意を甘んじて受けよう。俺はそっと、彼女の名を呼ぶ。
「ベミウ……お母さん」
その時、ベミウはにっこりと微笑んだ。酔いで頬を赤く染めながらも、理性が残っているのが感じられる。どこまでも優しく、艶かしくもあった。
次に俺はベミウの背中に腕を回す。案の定、彼女に嫌がる素振りはなかった。むしろ期待たっぷりな眼差しを向けて、正面から俺を受け止めてくれる。
「お母さん……お母さん……!」
「よしよし」
思いきり涙を流すなんて幾日ぶりだろうか。しかも女性の胸の上で、頭と背中を撫でられながらなんて。ますますベミウに甘えたくなる。彼女の愛情を享受したくなる。離れようとは思えなくなった。
物心ついた頃から、グロンギに生まれた俺に親はいなかった。愛情は前世で知っているが、きっと脳内に分泌されるホルモンとかのせいだろう。親の温もりに対する寂しさはどうしても拭えなかった。それで一人暮らしが辛うじてできていたのだから、グロンギは色々とズルい。
正直に言って、こうしてベミウが温もりを与えてくれるのは時期が遅すぎた。今の俺はれっきとした大人だ。それでも、悲しみと同時に喜びが胸の内から溢れてかえってしまう。もう何も考えたくなかった。
ひとしきり泣いた後、酒盛りを始めたのが夜中という事もあって、俺たちはそのまま眠りについた。睡魔には勝てなかったが、ベミウは依然として俺を抱き締めたままだった。今夜の出来事は一生の思い出になるだろう。
ちなみに後日、覚醒したベミウと命懸けの鬼ごっこを繰り広げたのはここだけの話だ。途中でメビオも参加してきたので、鬼ごっこは熾烈を極めた。
Q.ガミオ、ギルティ。
A.おや? ザザルが憂いた目で見つめているぞ? どうやらお酒が入ったようだ。では、ザザルと仲良くしてやってください。もれなく女の子のゴオマもついてきます。
Q.コマチャンダーを嫁にください。
A.そのためにはまず、コマサンダーの義弟になる覚悟を決めましょう。
Q.自分はジャーザと酒盛りしたいです。
A,.ご健闘を祈ります。
ジャーザ「イヤッフウゥゥゥゥ! お酒サイコォー! あっ、あなたもガンガン飲みなさい♪ 」