漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話 作:erif tellab
ある日、俺はメビオに猫じゃらしを使ってみた。
「ほーれほれ」
猫じゃらしをメビオの目の前に垂らし、素早く左右に振る。それに応じて、メビオの目が猫じゃらしの軌跡を追う。その釘付けになっている姿は、まさしく子猫だった。
「にゃっ!」
刹那、メビオのブロウが猫じゃらしを俺の手の中からカッ拐い、宙へと打ち出す。猫じゃらしは空中分解を起こしつつ、綺麗な放物線を描きながら地に落ちていく。
「エノコロダイィィィィン!!」
無残に散った猫じゃらしに俺の叫びが木霊した。下手人であるメビオはどこ吹く風で、容赦なく俺に攻め掛かってくる。彼女から止めどなく放たれる拳を一心に捌き続けた。
組手はやがて、最後に俺が繰り出したキン肉バスターが決め手となり、メビオへの連勝記録を更新する事になった。再び敗北を喫したメビオは、うるさく悔し涙を流した。
そんなこんなで、ちょうど太陽が真上に昇る頃。俺たちは無法者のグロンギたちの蔓延る集落に訪れていた。
できればこんな場所には一生近づきたくなかったのだが、個人的に済ませたい用事があるので我慢する。メビオは親鳥に引っ付くひよこのように付き添いで来ていた。
ふと視線を横にしてみれば、幼女に一蹴されているザインが見えた。あの幼女は確か、メ集団のウサギ怪人だったはず。とにかく身のこなしは幼女ではなく、むしろSPや海兵隊員の近接格闘戦を彷彿させるものだった。幼女ではなく幼兵(つわもの)だったか。
仮にもズ集団のリーダー格のザインが幼女にやられるなんて……もうやだこんなところ。俺は何もかも振り切る思いで駆け足になり、目的地の工房へ到着する。メビオもトテテと小走りでついてきた。
しかし、「お邪魔しまーす」と繰り返し声を掛けてみても工房の奥から何の返事もやって来ない。人がいるのは匂いでわかるのだが、また時間を改めて来ようにも外に出るのは気が引けるので待ち続ける事にした。
ただ、数分過ぎたところでメビオが待ちそびれてしまい、暇つぶしに二人で折り紙に興じる事になる。
「ふふん」
「ほーん」
「にゃっ!?」
自信満々に自力で完成させた折り鶴を見せてきたメビオに、俺は折り鶴の発展形であるドラゴンを披露する。メビオは敢えなく面食らい、まじまじとドラゴンを眺める。
すると、工房の奥から一人の男性が出てくると同時に小言が飛んできた。
「お前ら、人の家にずけずけ上がってきて何してんだ」
「「折り紙」」
「ズの癖に手先と発想と工夫が器用すぎるな」
即座に答えてみれば男性に突っ込まれる。偏見的な発言だが、俺たち以外のズの場合ならほぼ的を射ているのでぐうの音も出ない。
俺たちの目の前に出てきた彼の名前は、ヌ・アゴン・ギ。ゲゲルに用いる道具とかを作っている人だ。ヌは他にもザジオがいるが、彼はゴ集団の武器メンテナンスなどを主に担っている。
それはさておき、俺は早速話をアゴンさんに切り出す。
「折り入って話があります、アゴンさん。俺に全身鎧を作ってください。クウガにボコボコに殴られても平気で、硬くて軽くて強いものを」
「自分が何言ってるのかわかってるのか? メビオの方は?」
「そんなのいらない。ガミオが臆病なだけだ」
「俺の考えたデザインはこちらになります」
俺は一枚の巻き紙を取り出し、それを近くのテーブルの上に開く。メビオとアゴンさんがそそくさと覗き込んでくると、瞬く間に目を見開いた。
白黒で描かれた鎧の絵。鎧の装飾はカッコいい感じにとびきり洗練されていて、兜は狼を模している。
え? それ、まんま魔戒騎士の鎧だって? いいんだよ、即暗黒堕ちは確定してるから。最初から暗黒騎士だ。
俺と絵を交互に見比べたアゴンさんから再度、ツッコミが入る。
「絵心もおかしいぞ。貴様、本当にズか?」
「はい。それで、作ってくれますか?」
「まぁ、いいだろう。仕事もザジオと交代して暇してたんだ。時間潰しにはなるが……本当に武器じゃなくて鎧がいいのか? そもそも貴様に扱えるのか? ガミオ」
「間に合ってます」
アゴンさんのごもっともな指摘に、俺は道中で拾っておいた木の枝をモーフィングパワーで瞬時にロッドへ再構築する事で応える。それだけでなく、何度も木の枝とロッドの変換を繰り返しまくる。
これには少し呆気に取られていたアゴンさんだったが、すぐに気を取り直して口を開く。
「……鎧だけならズのゲゲルのルールを破るまい。一週間もあれば形にできる。また日を改めて来い」
「ありがとうございます!」
かくして、俺の出した依頼は受理された。鎧がクウガの封印エネルギーを受け流してくれる事を夢見つつ、まだ緊張感を解かずに帰路に着く。
どうか他のグロンギから喧嘩を売られてきませんように。そんな事を祈ると、横からメビオが話し掛けてくる。
「ガミオ情けないぞ。防具なんかに頼って。お前ならリントの百人や二百人、軽く殺せるだろ?」
「発言が殺伐すぎるし。できればゲゲルはやりたくないんだけどなぁ……。リントを殺す必要性が全然ない」
「ん? なんでだ?」
「強くなりたいだけなら他の方法もある。俺たちが今朝やったみたいな感じに。殺さなくても良かっただろ?」
それを聞いてまっすぐ頷くメビオだったが、途端にオロオロし始めた。目を白黒させて、頭を抱えて悩み出す。まるで俺の言いたい事の半分も伝わっていないようだった。
「命は大事にしようって事。メビオだって死にたくないだろ。リントも同じ気持ちだよ。変わらない」
「あ、それはわかるぞ。私が溺れてるのをガミオが助けてくれなかったら――」
俺の付け加えての言葉にメビオは顔をパアッと輝かせる。しかし、それも一瞬の出来事で、今度は顔と耳たぶを赤くしながら難しく唸り始めた。
「どうしよう、ガミオ! 頭の中がこんがらがってきた!」
「悩め悩め。多分、ちょうどいいから」
助け船を欲しがるメビオを差し当たりのないように突き放す。代わりに何度も脇腹を小突かれた。
このままメビオが誰かを思いやれるようになれれば、それで良しとしよう。どのみちゲゲルからは逃げられない。止められない時の定めだ。ならばせめて、命を奪う事の意味をしっかり考えるようになってもらいたい。彼女はあまりにも、無垢すぎる。
その時、歩く先に見覚えのある誰かを見つけた。匂いも覚えていたおかげで、咄嗟に物陰へと身をひそめる。
ついでにぼさっと立っているメビオを俺の近くに手繰り寄せる。いきなりの事で首を傾げたメビオは、おもむろに俺の名を呼ぶ。
「……ガミオ?」
「しっ」
俺はメビオに静かにするように求めて、物陰の向こう側をもう一度確認する。そこには、身体中に戦いの傷痕が多く残っている強面の男がいた。
彼はメ・ガドラ・ダ。虎の怪人に変身できるグロンギだ。シリアルキラーばかりのグロンギの中では、随分とストイックでまともな武人肌である。ガドル閣下のように、ゲゲルにおいても強い奴や戦士と戦おうとするタイプと言えよう。効率厨のジャーザとは大違いだ。
そして、本編の総集編の煽りを受けて一話で退場してしまった、色々と扱いが可哀想な奴でもある。再生能力縛りをしているからだ。
もちろん、そんなガドラと出会ってしまった暁には、執拗に絡まれるのは間違いない。これがギノガやゴオマならグーパン決めてすぐ逃げるのだが、相手がまともな思考の持ち主なだけあって中々手を出しづらい。過去の一件もある。
「ガドラがいる。やだ。めんどくさい」
そうやってメビオに手短に教えて、迷いなく別の道を進もうとする。しかし――
「貴様、ガミオか! 以前の借り、ここで返させてもらう!」
あっさりガドラに見つかってしまった。俺は急いで怪人態に変身して、一目散にその場から逃げ出す。メビオは米俵を運ぶようにして肩に担いだ。
対してガドラは、俺と同じく怪人態になって追走を始める。それから間を置かず、腹に響くほどの大声を出してきた。
「逃げるなぁ!!」
「ごめんなさい! キン肉バスター掛けてごめんなさい!」
俺は謝罪の言葉を述べながら、肩で暴れるメビオに負けずに逃走を続ける。何を隠そう、ガドラはキン肉バスターの被害者第一号であった。
その後、どんなに逃げても振り切れなかったので、メビオと二人掛かりでしょうがなくガドラと戦った。マッスル・ドッキングで地に沈めてしまったが、伊達にグロンギではないから大丈夫だろう。俺たちは気絶したガドラを放置し、自宅へ帰った。
※
「ガミオ、ガミオ」
「ん?」
「私たち、魚やウサギを殺すだろ。リントを殺すのと何が違うんだ?」
夕暮れ時。俺がキノコのスープを煮ていると、不意にメビオがそんな疑問を投げ掛けてきた。
これはメビオの価値観に変革がもたらされようとする兆しなのだろうか。だとすれば、いつしか「ようこそ、こちら側へ」が実現するのも夢ではない。
さぁ来い、メビオ。まともになるんだ。俺がグロンギの中で異端扱いされても、仲間が増えれば怖くない。旅は道ずれ、世は情け。貴様も一緒に連れていく、とシロッコだって言っていた。
そんな願いを込めつつ、キノコスープをヘラでかき混ぜる片手間に答えを出す。
「俺らは生きてるんじゃなくて生かされてるって考えろ。飲み食いしないと生きていけない。根本的な解決ができなくて、歯磨きみたいに一生向き合わなきゃいけない問題だ。動物たちを犠牲にした上で生きているんだから、ただでさえ命を粗末に扱うのは――」
「ながい」
「……遊びで奪っていいほど命は安くない。俺が死んだらメビオは――」
「死ぬのはダメだ!」
簡潔にまとめた俺の言葉を遮るようにして、突然と喚声が響き渡る。それから辺りはしんと静まり返り、俺は調理の手を止めてメビオを凝視する。
叫んだ後のメビオは髪の毛が逆立っているように見えた。いつにも増して目付きをきつくしていたが、徐々に間の抜けた表情に落ち着いていく。
やがて、首をブンブンと横に振りながら俺に告げてきた。
「……ぅぅ、今のは忘れろ! 私、何かおかしくなってる……」
ヨロヨロと頭を両手で抱えて、その場で体育座りをして塞ぎ込むメビオ。こちらから顔色を窺おうにも、両手ですっかりガードしていた。
様子を見るからに、彼女から戸惑いが感じられる。今のだって、俺からすれば至って普通の考え方だ。問題ない事も含めて、メビオを宥めようと試みる。
「普通だと思うよ? もしメビオがいなくなったら、俺は悲しくなるぞ。泣くかもしれない」
その瞬間、メビオは顔を上げる。しばらく呆けた表情を見せていたが、次第に柔らかく微笑み始める。
そして――
「……私も、いなくなったらイヤだぞ。ガミオ」
僅かに顔を逸らし、視線だけが俺に向きつつも確かにそう言い放った。直後に照れ隠しか、
両手で顔を覆い隠す。それが何だか、ものすごく可愛かった。グロンギなのに。
しかし、そんな素振りも夕食の時間となれば虚しく掻き消える。今晩はメビオと一緒にキノコスープを頂いた。味は悪くなかったが、次はもう少し手を加えたいと思う。より大量に鍋へ投入したキノコを八時間ぶっ通しで煮てみようか?
Q.ガミオが頼んだ鎧って、どんな風に着るの?
A.トライチェイサーにゴウラムが合体する感じになります。(適当)
Q.マッスル・ドッキングだとぉ!?
A.
ガミオ「行くぞ、メビオ! マッスル・ドッキングだ!」
メビオ「まっするどっきんぐ……? とにかく合わせよ」
ガミオ「落ちろぉぉぉぉ!!」
ガドラ「ぐわあぁぁぁぁぁ!?」