漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話   作:erif tellab

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まるでピクニックだな(目が節穴)


今だ! なりなさい! ライジング!

 忽然と姿を現したバラの花片が、宙をヒラヒラと舞う。それは俺とメビオの方に降りてきて、幻かどうか定かでない女の声をもたらす。

 

 ――ゲゲルを始める――

 

  それを耳にした瞬間、俺は泣きたくなった。

 

  バラの花片を受け取ったのは、アゴンさんからちょうど鎧を手にした頃だ。アゴンさんの工房はグロンギの集落にある訳で、この通達を無視するのは不可能に近いと悟らせる。工房の外は喧騒に満ちていた。

  外はズの皆が騒ぎまくってるんだろうなぁ。ここで逃げてもダグバから「じゃあいらない」と言われて処刑されるだけなんだろうなぁ。あんな連中たちと混ざりたくないなぁ。

  現在進行形でメビオに引きずられながら、俺はものすごくゲゲルを渋る。連れていかないでくれと懇願しても、彼女は「ダメだぞ」との一点張りだった。

  そのまま広場に辿り着けば、先に集まっていたグロンギたちがゲゲルの順番決めを争っている。欲にまみれた醜い争いだ。バルバが力ずくで黙らせようにも、ズ側の人数が多すぎて時間が掛かっている。その上、後続で次々とやってくる者たちもいるため、もはや目も当てられない。

  そして、とうとう静かにぶちギレたバルバが片腕だけを怪人態に変身させて、それを鞭のように伸ばしてズ集団の大半を打ちのめす。メビオがあの中にまだ飛び込んでいなくて良かった。

  不意にもラの実力の一端を目にした彼らは、途端に黙り始める。辺りは一瞬にして静まり返り、誰も口を開かなかった。メビオも軽く呆けて、我を忘れているみたいだった。

 

「俺は最後でいいです!! それじゃ!!」

 

  その隙に俺は声高らかにそう叫び、急いで広場を後にする。もうこんな場所に長居はできなかった。家に帰らせてもらう。

  間髪入れずに怪人態へ変貌を遂げて、形振り構わず集落を駆け抜ける。やがて森へと差し掛かり、誰もいなくなったと感じたところで一思いに今の感情を吐き出す。

 

「ちくしょうめぇぇぇ!!」

 

  この叫びに答えるものは何もいない。空しく木々の間に響き渡るだけだった。

  誰が好き好んで殺戮のゲームに興じなければならない。野生の生き物たちですら殺生は穏便に弁えているのに、どうして畜生以下の真似に手を染めないといけない。嫌だ、サボりたい。ゲゲルをやるよりもおうどん食べたい。

  そんなゲゲルで我先にと順番を奪い合うグロンギたちもどうかしている。この一族をものすごく裏切りたくなってきた。血を見るのが大好きだなんて理解し難い。

  息切れを起こし、脚がかったるくなるまで全力疾走を続ける。クウガよ、早くコイツらグロンギを一人残らず封印もしくは撃破してくれ。

 

  遂にスタミナの限界が訪れ、足取りは自然とゆっくりになる。そうして、荒くなった息を少しずつ整えている時だった。後ろから呼び声が掛かって来たのは。

 

「ガミオー、私を置いてくなー!」

 

  つい振り返ってみると、怪人態でこちらに駆けつけてくるメビオを見つける。腕にグセパはない。誰よりもゲゲルをやりたかったはずの彼女が俺を追いかけてきたのが、不思議でしょうがなかった。

 

「メビオ……? お前、ゲゲルの順番決めは? 早くやりたかったんじゃなかったっけ?」

 

「ガミオと一緒の方がずっと楽しいからな。私も最後でいい」

 

「あ、そうなの……」

 

  まさかの返しに苦笑せざるを得なかった。それから彼女は程なくして俺の隣に並び立ち、ほぼ同時に人間態に戻って前に進み直す。

 

「ガミオはゲゲルどうするんだ? 何人にする?」

 

「いや、俺の番が来たらクウガ一本に絞るし。むしろそうするしかないし。つーか特に理由のない殺しすらしたくない。天下一武道会みたいなのが良かった」

 

「じゃあ私もゲゲルの相手はクウガだな。ガミオには負けたくない」

 

  そんなメビオの意気込みに俺は思わず面食らう。彼女をある意味で一方的に知っている身からすれば、随分とグロンギらしかぬ変わりぶりだった。

  最初に出会った頃をしみじみと思い返す。昔のメビオは今と比べると、似ても似つかなくっていた。嬉しさ半面に複雑な思いが微妙にあるが、うっかり口にこぼしてしまう。

 

「……お前、変わったよなぁ」

 

「変わってるのはガミオの方だろ」

 

「そういう事じゃないんだけど……まぁ、いっか」

 

  間違った意味の受け取られ方をされたが、気にしない事にした。

  こうして小休止がてらに家までの長い道のりをトボトボ沿っていると、急に雨の匂いが遠くから漂ってくる。次に空を見回してみれば、メビオが真っ先に声を上げた。

 

「ん、空が黒い。ガミオ、早くもどるぞ? きびだんごが食べたい気分だ」

 

  山の向こう側には、黒く立ち込めた暗雲がびっしりと漂ってくる。風も不意に強くなっていて、暗雲の流れる速さは増すばかりだ。

  瞬間、暗雲がビカッと光ったかと思うと、時間差で雷鳴が激しく轟く。ついでにその稲光は俺に、ある種の天啓を与えてきた。

 

 ――今だ! ライジングしなさい! ラ・イ・ジ・ン・グ!――

 

  はい! わかりました!

  返事はあくまで心の中に留め、目の前の暗雲をしっかり捉える。

 

「ガミオ?」

 

「ごめん、メビオ。先に帰ってて。俺、山頂まで登ってライジングしてくるから」

 

「らいじんぐ? あ、待て!」

 

  そう言って俺は戸惑うメビオを置いていき、怪人態になって近くの山を駆け上がる。普通なら通れない悪路も変身していれば楽勝だ。

  ただ、そうこうしている内にも天候は悪化の一途を辿り、メビオが大慌てで変身して俺の跡を追う。俺の願いは聞き入れてもらえなかったようだ。

  次第にポツポツ雨が降り出す。これはあくまで始まりに過ぎないだろう。しばらくすれば勢いが強くなる。ここからが正念場だ。

  遂に山頂へと到着する。周りの木々は閑散としており、ライジングする空間が十分に設けられていて実に好都合だ。

 

「何やってるんだ、ガミオ! こんなところにいたら雷が――」

 

  遅れてメビオもやって来る。捲し立てるように喋る彼女だったが、途中で雷に妨げられた。

 

  ゴロゴロゴオォォォォン!!

 

「ひゃん!?」

 

  咄嗟にしゃがみ、両手で頭を隠すメビオ。チラチラと空の様子を窺っては、俺の近くに駆け寄ってくる。可愛い悲鳴を出すなんてお前、雷が苦手だったのか。

  だが一緒に来てしまった以上、撤収はもう間に合わない。空はすっかり闇に包まれ、次第に嵐がもたらされる。メビオには悪いが、俺共々ライジングする覚悟をしてもらう。

 

「名護さんが言っている。ライジングしなさいと……」

 

「ガミオ? ナゴサンって誰だ? らいじんぐって何だ? は、早く戻るぞ! 山を降りないと!」

 

「イクサとは太陽、太陽とは名護さん。名護さんとは世界の希望。あ、そうだ。縁起担ぎにイクササイズするか」

 

  そこまで思い至った俺は早速、アゴンさんに作ってもらった鎧を纏った上でイクササイズを試みる。鎧の着方はモーフィングパワーの応用だ。一切のタイムラグもなしに、狼を模した鎧が全身を覆う。無論、鎧は金属製。俺自身が誘雷装置となる。

  さぁ、腕振りなさーい、振りなさい。そうしようとした矢先、怯えきったメビオが俺に飛び掛かってきた。

 

「あぁ!? よせ、ガミオ! それはダメな気がする! 雷が落ちてきて死ぬぞ! 脱ぐんだ!」

 

「大丈夫だ、メビオ! 俺は死なない!」

 

「ウソだ! 見た事あるぞ、雷が落ちてきた木が木端微塵になるのを!」

 

「……なんて事を言ってくれるんだ。おかげで怖くなったじゃあないか」

 

「よ、よし! さぁ、早――」

 

  しかし、時すでに遅く。帰還を選んだメビオをまるで叱るように、暗雲から一本の雷が俺たちに向けて落とされる。それはほんの一瞬にも満たない出来事で、俺は落雷の目映い光を目にするだけで精一杯だった。

  太い雷光の先端が俺たちに触れて、頭上から電流の衝撃を全身に伝わらせようとする。逃れようがない一撃に、俺とメビオは成す術を持たない。グロンギの頑丈さを頑なに信じるしかなかった。

  刹那、まさしく大地震の直撃を受けたかのような錯覚に激しく襲われる。

 

「ぎにゃあぁぁ!? ……あ、あれ?」

 

  悲鳴を上げるメビオだったが、のちに呆けた声を出す。予想外の結果に俺も唖然としそうだった。

  俺とメビオを交互に見比べてみるが、どちらも五体満足だ。電気による火傷がどこにもない。

  そして何より、雷を受けたはずなのにビリビリとした感覚が来なかったのが謎だった。もう一度確認を取り、今度は俺たちの立ち位置や状態に目を向ける。すると、意外と簡単に謎は解けた。

 

「……電流が別れたからか! ならイケる!」

 

  曲がりなりにも俺たちはしっかり手を繋いでいたのだった。細かい説明は面倒なので、直感で原因を理解する。いくらうろ覚えやにわかでも、科学の知識は俺に芽生えた雷に対する恐怖心を払拭してくれた。

  ならば話は早い。もっと何度もライジングするために、俺はスゴスゴと山頂を巡ろうとする。手を繋ぐメビオが乗り気になってくれないのが難点だが。

 

「ガ、ガミオ? そっちは帰り道じゃないぞ? 戻って……あ、ヤダ。手は離すな」

 

  ただし、無理やり手を振りほどこうとすると、彼女はもれなく付いてきてくれた。

  それでも足取りはおずおずとしている。なので俺は、思いつかん限りの言葉を掛けてメビオを勇気づける。

 

「心頭滅却すれば火もまた涼し。病気は気から。要は気持ちの問題だ。お前を信じるお前を信じろ! それでも怖いなら暗示だ。強靭、無敵、最強! 強靭、無敵、最強!」

 

  嵐と雷鳴に負けじと腹の底から声を出す。何度も暗示を繰り返している内に、俺にも勇気が湧いてきたような気がした。雨風に強く打たれまくっている状況下だというのに、ステップを刻みたくなる。

  手を繋げば受ける雷のダメージも大した事ないと知れれば、怖がる必要はないとテンションが上がる。今なら名護さんのテーマソングを熱唱して、カラオケで満点が取れそうだ。

 

「強靭、ムテキ、サイキョー!」

 

  俺が根気よく叫んでいた甲斐もあり、メビオもとうとう追従を決める。最初は恥ずかしかったのか、声量は少し心許なかったが、数回以上も連呼すれば躊躇は全く感じられなくなった。むしろ楽しそうでもある。ようこそ、こちら側へ。

  一人では怖くても、皆で行けば怖くない。メビオと仲良く嵐の中を突き進み、時々放たれる電流の塊をひたすら浴びる。並みの人間ではできない真似をこうして易々と実行できているあたりに関して、グロンギとして生まれた事に感謝の念が尽きなかった。例え化け物でも、メビオが側にいるから寂しくない。

  かくして、グロンギの頑丈さを存分に活かした度重なる雷浴びにより、電気が身体中に溜まったような感覚を抱く。それはメビオも同じだったようで、ポツリと言葉をこぼした。

 

「……ちょっとビリビリしてきた」

 

「そうだな。もうそろそろで切り上げ――」

 

  それが訪れるのはあまりにも突然すぎた。俺がそう呟いた直後、山を越えた遥か向こう側から一本の巨大な火柱が天へと登っていったのである。

  見かけたのか偶然すぎて空いた口が塞がらなかった。豪雨の中であっても火柱は発生の勢いを削がれず、花火のように存在感を伝える。火柱にメビオも気がついた時には、微かな地面の揺れと空気に重たく響く爆発音、突風がやって来た。

  それらは堪えられない事はなかったが、やはり少しはよろめいてしまう。土砂崩れは起こっていないが、こうも一気に不安要素を増やされてしまうと気が気でなくなる。火柱へのデジャブもあった。

 

「……帰ろうか」

 

  俺がそう言うと、メビオはコクコクと素早く頷く。そんな訳で俺たちのライジングは早々に幕を閉じた。

  帰路に着いた後はトントン拍子で進んでいき、あっという間に家の中へと転がり込む。二人して人間態に戻ったら、囲炉裏の火を焚いて囲む。手拭いで濡れた身体を拭きながら、焚き火の前で暖まる。

 

「暖かいな」

 

「そうだな」

 

  焚き火のちょうど良い熱量を堪能するメビオに相槌を打つと、彼女はウトウトと身体を揺らし始める。実に眠たげで、遂には俺の肩に頭を乗せてスヤスヤと寝息を立てた。どうやらお疲れのようだった。

  そっと横たわらせようとするものの、メビオは俺の手をぎゅっと掴んで離してくれない。しばらくはこの体勢のままである事を強いられていた。だが、悪い気はしない。

  そうして焚き火でじっと暖まっていると、雨の匂いが少し弱まる。冷たくなった気温も先ほどよりも和らいだ気がするので、きっと嵐は終わったのだろう。雷鳴は無理だが、竪穴式住居の屋根は驚くぐらいのレベルで雨音を吸収する。

  例えどんなに曇ったとしても、やがて青空になる。その時は一度、輝く太陽を拝むとするか。

 

  そして後日――

 

「ダグバが封印された」

 

「えっ」

 

  バルバから突如として、耳を疑うような連絡が入ってきた。

 





Q.名護さんとは?

A.名護さんとは世界の希望。輝く太陽のように決して消える事はない。それすなわち、太陽の子である仮面ライダーBlackRXは名護さんの息子でもある(とんでもないこじつけと暴論)

Q.火柱……アメイジングマイティキック……いや、下手な推測はよそう。

A.もう少しで答えに辿り着けるじゃないですか。

Q.天啓が降りてきた時のBGMは?

A.名護さんの Fight for justice です。

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