漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話   作:erif tellab

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サブタイへのアンサー

A.ガミオだよ


たった一つの猪を叩いて砕く(血抜き、解体の比喩)。メビオがやらねば誰がやる。

 今晩の献立は猪鍋だ。山菜も投入して、色鮮やかにしている。極めつけは、長年掛けてようやく完成に至った魚醤をスープにしている事だろうか。糖も加えたのでそこそこ甘い。ただし、肉と魚の味が喧嘩してしまうのがネックだが。

  この手の調味料を作るのは本当に長かった。発酵のはの字も知らなかったので、悪戦苦闘は必定。一から発酵倉を建てる事から始まったりと、知識がうろ覚えのせいで色々大変すぎた。醤油は序盤で諦めた。

  大きな土鍋で具材をグツグツ煮込む。なかなか美味しそうな匂いもしてきた。ここで一枚のうちわを取りだし、とある方向へはためかせる。

  料理の香りがほのかに飛んでいく先には、バルバが佇んでいた。香りを前にして表情が僅かに緩むが、それだけだった。スタスタと歩いてきて、話し掛けてくる。

 

「ネズマとネズモを倒したようだな」

 

「はい。あ、夕飯いかがですか?」

 

「……いただこう」

 

  近くにあった木製手作りの丸イスにバルバは腰掛ける。こうも誘いに乗ってくれるのは少々意外だった。

  メビオはバルバを威嚇しながら、俺の隣に陣取る。ピタッと側にくっついて離れようとせず、相手を睨み付ける。だが、バルバのまるで気にも留めていない様子に、だんだん苛立ちを募らせていた。

  それでもお椀に盛り付けを始めれば、バルバへの警戒も忘れて真っ先に夕食の方に釘付けになる。そうして三人一緒に猪鍋をいただいた。俺とメビオの食事の挨拶にきょとんとするバルバの姿は新鮮だった。

  完食して片付けを終えた後、バルバが何やらしっかりとした話を求めていたので、俺は内心びくびくしながら家の中へと案内する。この人に立ち話は余計に失礼な気がした。

  ただし、悠々と腰を降ろしてバルバと相対するのも束の間、メビオが俺の膝に頭を預けてくる。何度も声を掛けても一向に離れてくれない。それどころか、余計に頑なになって俺の膝枕を堪能しだした。瞼をじっと重く閉じる。

  どうしよう。メビオの対処に困っていると、バルバは構わずに話を切り出してくる。まさかのスルーに不意打ちを受け、こちらはしどろもどろになりそうだった。

 

「ガミオ。何故ゲゲルを拒む。貴様にもゲゲルを求めたくなる衝動があるはずだ」

 

  そして案の定、話の内容は真剣にならざるを得ないものだった。俺はメビオを放置した状態で急ぎ体裁を整え、真摯な気持ちで彼女の問に答える。

 

「やたらな血を見るのが嫌なんです。ゲゲルをやって喜ぶなんて、それは心がどこか壊れた時だ。俺は自分の心をずっと守りたい。ほのぼの暮らしていきたい。闘争もいいかもしれないけど、ほんのちょっとで十分です」

 

「ゲゲルは我々グロンギの存在理由だ。ゲゲルなくして、生きていく意味がない」

 

「なら自力で新しく作ります。ゲゲルがなくても生きていける」

 

「変わっているな。何が貴様をそういう風にしたのか……」

 

  前世です。メビオに至っては俺の影響をもろに受けています。

  だが、そんな事を言えるはずがない。頭の正気を疑われるし、客観的な視点に基づいての証明が不可能だ。だから、その質問には答えられない。

  そうやって黙っていると、バルバは独りでに納得したような素振りを見せる。次にはその曇りない瞳で俺を見つめ、おもむろに口を開く。メビオと違って彼女の雰囲気は、えらく神秘性に満ちていた。

 

「まぁ、良いだろう。バックルを出せ。メの昇格の儀を済ませる」

 

「……え? こんなあっさりですか?」

 

「次のゲゲルはこうは行かない。ルール違反者は両手で数えられる程度だが、中には手練れのメもいる。今度は違反者全員を仕留めろ。無論、武器の使用は認めよう。クウガがゴに手を焼いている今が絶好の機会だ」

 

  トントン拍子でゲゲルをクリアしてしまった事に未だ実感が湧かない俺は、思わずメビオの寝顔を見る。バルバの中での彼女の扱いがとても気になった。

  予想通り、メビオの同行はルール違反じゃなかった? そう訝しむと、バルバは俺の内心を察したかのように一言付け加えた。

 

「メビオに関しては特に言及しない。好きにしろ。……貴様らの変化を最後まで見届けたくなった」

 

  それから薄く笑うバルバ。彼女の立場を考えれば、その笑みは得体が知れないものだ。殺し合いの中で笑顔がより輝くダグバとは、感じられる恐怖の方向性が変わっている。

  もちろん、ゲゲルを辞退すればガドル閣下が粛清ついでに俺へ決闘を申し込んでくるかもしれないので、下手に逃げようがない。拒否なんて示せなかった。

  ただ、終始メビオが俺の膝にがっしりと掴まっていたおかげで、シリアスな雰囲気が中和された感は否めない。メビオに膝枕している赤狼の怪人の元に、指輪を構えながら歩み寄ってくるバブリーな美女という構図が不覚にも出来上がった。

  指輪が怪人態の俺の腰に巻かれたベルトのバックルに嵌め込まれる。すると、ベルトの色がブロンズから銀へと瞬く間に変化した。それに対する身体の違和感は特にない。精々、赤い毛並みが少し濃くなった程度だろうか。

  その後、バルバは「ではな」と言い残すや否や、突如として蒔かれたバラの花片の中に紛れ、忽然と姿を消した。

  きっと瞬間移動だな。そんな風に見当づけた俺は即座に怪人態を解除する。地面に落ちたバラの片付けは後回しで良いかな……。

  それよりも気にしたいのメビオの方だ。見てみる度に表情が妙に忙しく変わっているので、狸寝入りにしか思えなくなってきた。軽く身体を揺さぶってもなかなか起きないが、試しにと遊び半分の言葉を投げる。

 

「ほらメビオ、起きろ。牛になるぞ」

 

「へ!?」

 

  瞬間、メビオは大慌てで起き上がり、ぱっぱと自分の身体を確認する。何も変化がなかったと胸を撫で下ろすのも束の間、軽度の怒りを滲ませた様相でこちらの姿を視界に捉える。

 

「あ、ウソをついたな、ガミオ」

 

「メビオが起きたらすぐ消えちゃったよ」

 

「ウソだ!」

 

「あっこら、飛び掛かんな!」

 

  真正面から掴み掛かってくるメビオ。手早く裁こうにも相手の抵抗が粘り強く、膠着状態へと陥る。だが、それにしては手加減されている感じが伝わってくる。心なしか、メビオは俺を傷つけない程度で戯れているように見えた。

  次第に掴む力が弱まり、遂に脱力したメビオは俺にぐったりのし掛かる。今度は俺の肩に顎を乗せて、優しく抱き締めてきた。彼女の髪の毛が顔に掛かり、少しこそばゆい。上機嫌に鼻歌も歌っているので、しばらくは彼女の好きにさせてみた。

  すると、メビオはおもむろに俺の膝の上に座り、満面の笑みを浮かべた状態で名を呼ぶ。

 

「ガミオ」

 

「ん?」

 

「私を見ろ」

 

  言われた通りにしてみれば、すかさず俺の顔に彼女の手が添えられる。空いた手で俺の腕を掴み、自身の前へと提げさせる。込められた力は強く、簡単には抜け出せそうになかった。

  しかし、悪い気はしない。今のメビオの様子はまるで、主人にじゃれる飼い猫のように可愛らしげがある。こちらから頭を撫でてみると、より一層と声を鳴らした。

 

「んふふ♪」

 

「嬉しそうだなぁ……」

 

「ゲゲルの時もガミオと一緒にいられるからだぞ。離ればなれはイヤだ」

 

  特に恥じらいもなくばっさり言い切ってみせたメビオ。割と遠慮がなかった彼女の言葉に俺は面食らい、気後れするばかりだ。

  まぁ、かくはともあれ、メビオの存在は俺の中でもびっくりするぐらいに大きくなっている。第一の生き甲斐とも呼べようか。メビオがいない日常というのは、あまり考えたくない。

  そうなると、なおさらゲゲルに失敗は許されないな。メビオとほのぼの暮らしていきたいと願う以上は、死んだり封印されたりする訳には行かない。何が何でも生き残らないと。

  ならばと決心をつけて、多少のドギマギを堪えながら彼女の気持ちに応えた。

 

「俺もだよ。それじゃ、歯磨きするか」

 

  この発言に一拍置いてからメビオの頬が赤く染まる。こればかりは彼女も堪えられなかったようだ。もじもじと身をよじらせる姿は、俺に庇護欲をじわじわと掻き立たせた。

 

  ゲゲルの相手がグロンギなら、もうウジウジと悩む必要はなくなる。簡単に人を殺めていく連中に容赦はいらない。バルバが指定したゲゲルのルールであるため、裏切り者扱いからの粛清コンボを受ける心配もない。片っ端から倒していく。

  それで例え少なくても、身勝手なゲゲルで失われるはずだった人間たちの命が間接的に救えるのに越した事はないだろう。主に大勢を救うのはクウガ軍団に任せる。「もうあいつらに全部任せていいんじゃないかな?」と呼べる次元の存在だから。

  本格的にグロンギを裏切るには、俺に勇気が足りなさすぎた。ピーコックアンデッドに土下座し、モズク風呂に浸かってどうにかなるレベルじゃない。ダグバの次にガドル閣下が恐ろしすぎる。今の状態で喧嘩を吹っ掛けても負けそう……。

  それでも唯一の希望はダグバの不在だ。あくまで封印に留まっているだけだとしても、理不尽の塊がいないだけ気持ちが軽くなる。いつまでも足をすくませていられるかと、踏ん切りがつく。

 

  そうして俺たちは、スタスタと歯ブラシを取りにいった。

 





Q.なんだよ、ガミオ。びびってんのか? 破壊のカリスマ(笑)なんて楽勝だろ?

A.ガドル閣下をそんな風に貶めるなんて、恐ろしい奴……。あ、ガドル閣下、こいつです。あんなのでもリントの戦士らしいですよ。はい、肋骨が三本ぐらい折れても果敢にグロンギに立ち向かえるだけのガッツがあります。もれなくゲゲルのターゲットですね。


Q.どうしてガドル閣下は警察ではなく自衛隊を狙わなかったのだろうか?

A.自衛隊はリントを狩るのではなく、リントを守る人ですから。(ちょっと微妙な答え)
それとグロンギが個人犯の範疇を越えない事には、対応はいつまでも警察のお仕事のままですし。


Q.ガミオはガドル閣下に勝てないの?

A.今の彼では負けるでしょう。ガドル閣下がライジングしてなくても、ギリギリ互角な程度です。判断基準はTV版から。アメイジングクウガでガドル電撃体に辛勝はちょっと……悲観的にならざるを得ません。



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