漫画版ズ・メビオ・ダとほのぼの暮らす話   作:erif tellab

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それは次狼でも絶狼でも牙狼でもない。


GAMIO ~ 赤狼騎士鎧伝 後編

 聖なる泉枯れ果てし時、凄まじき戦士雷の如く出で太陽は闇に葬られん。

 

  全ては、ダグバがクウガたちとの戦いを待ちきれなかった事から始まる。遠くにいたダグバの存在を感知した緑のクウガが放ったペガサスボウガンの先制攻撃を受け、ただでさえ昂っていた戦闘欲求に収まりようがなくなってしまった。

  ペガサスボウガンから射たれるのは、ありったけの封印エネルギーが込められた空気の矢。下級のグロンギであれば一撃だけでたちまち封印されてしまうそれを、ダグバは耐えきる。避けるまでもなく、自身に注入された封印エネルギーを気合いで霞のように消してしまった。

  それをきっかけにし、ダグバとクウガたちとの間に戦いの火蓋が切って落とされた。ダグバはグロンギの族長であると同時に、最強を示す『ン』の称号を持つ。その肩書きは、ゲゲル以外での殺人行為を容認される権利があった。彼は何の躊躇もなく、次々とクウガたちの命を奪っていく。

  この古代に生きるクウガたちは現代とは違って、封印エネルギーを正しく存分に操れる。それでもダグバの超自然発火能力を前にして、半ば無力化されていた。全身が内側から燃やされるせいで、近づいて殴る事すら儘ならない。

  腹部に埋め込まれた霊石の恩恵である再生能力も焼け石に水。誰もが超自然発火能力にまともな抵抗ができていないと気づいたダグバは、すかさず肉弾戦へ移行した。少しでも血わき肉踊る戦いを楽しみたいがためだ。

  この時点でクウガたちの半数が死に体だった。決死の思いでダグバに与える封印エネルギーも、彼の弱体化だけに留まる。それも時間経過で打ち消され、白い闇による蹂躙を止める事は叶わなかった。

 

  ここで一人のクウガが地面に横たわる仲間の亡骸を目にして、瞬く間に心が怒りに飲まれた。心清らかさとは正反対の道を行くドス黒い感情は、腰に巻かれたアークルからの心象風景による警告を無視し、ダグバと同じ境地――究極の闇をもたらす者へと至る。

  クウガ・アルティメットフォーム。全身が白いダグバとは対称的に、その身と瞳は真っ黒に染まっていた。禍々しさがあり、邪悪を打ち払う戦士とは到底思えない。

  しかし、アルティメットクウガは外見に反し、まっすぐダグバを見据えるや否や、狙いを彼につけた。すかさず疾走し、周りのクウガたちには目にもくれない。ただし、黒く染まりきったはずの瞳はどこか、己の大事な使命を忘れていないようでもあった。

  凄まじき戦士の誕生に、ダグバの笑顔はより増していく。自分と対等に戦える存在が生まれたと直感で知り、喜びに打ち震える。かくして大勢のクウガたちが見守る中、二人は戸惑う事なく拳を交わしあった。

 

  その戦いの行き着く先は、ン・ダグバ・ゼバの封印の完了だった。クウガたちの受けた被害は甚大で、ダグバ封印の要となったアルティメットクウガは相討ちのようにして力尽きた。

  また、ダグバ封印の際に『ン』のベルトが全壊し、それに作用されて円柱状の巨大な爆発が発生。ベルトの破片はダグバと共にクウガとリントによって回収される事となる。後に残されたのは、焼けた大地にポッカリとできた一つのクレーターであった。

 

「ボゼバ……ダグバンデスド……!」

 

  だが、究極の闇はまだ終わっていなかった。破片の回収漏れ――小石程度の大きさでしかないモノを、とあるゴキブリ怪人のグロンギが手に入れてしまう。

 

 

 ※

 

 

「「ビリビリ~」」

 

  雷の力を使う練習ついでに、メビオと両手を繋いだ電気マッサージで先日溜まった身体の疲れを癒す。湿布がない現状は、これで対応するしかなかった。電気の心地よさに身が包まれる事に加え、メビオのだらしない表情も見れて一石二鳥である。

  その後はザクⅡも連れて、ゴリギの捜索に出る。メビオは渋っていたが、俺と一緒にいる事を優先したようだ。ただ、俺の後ろに隠れて離れようとしないので、彼女のゴキブリ嫌いは深刻そうだ。

  つまり、ゴリギとは再び一人で戦わなければならなくなる。ザクⅡもいてくれるので戦力での不安はないが、状況次第ではメビオと一緒にリントの救出と護衛に回すかもしれない。捜索早々、雲行きは怪しかった。

  そんな最中、先日にザクⅡと合体してもらったポニーがやって来た。どうして俺たちの元に戻ってきたのかはわからないが、都合が良いのでフュージョンさせてザニーにする。そのままメビオと相乗りし、白バラセンサーを頼りにゆっくりと走らせた。

 

「見つからないなー」

 

「そうだなぁ……」

 

  のほほんと呟くメビオに俺は相槌を打つ。気がつけば、やっている事がゴリギ捜索の皮を被った散歩になっていた。ついつい緩みそうになる緊張の糸をしっかり保ち、本来の目的をしっかり念頭に置く。

  しかし、多少の息抜きをする分には問題ないかもしれない。焦りは禁物だ。肩に力が入りすぎている。もっとのんびり過ごすのはゲゲルが終わった後にしよう。

  バルバが名指ししたルール違反者は、ゴリギで最後となっている。俺の精神衛生上、できる事なら今日中に決着をつけたいところだ。

 

  そうこうしていると、白バラセンサーに反応が出る。それが示す先には、一つの大きな環濠集落があった。

  人里の方にグロンギを感知したとなると、嫌な予感しかしなかった。心無しか、人々の悲鳴も聞こえてくる。メビオの意思も確認した後、俺は迷わずザニーを人里へと駆った。

  人里への出入口である門は、まるで戦車に蹴破られたかのように無惨に破壊されていた。門を形作っていた木材は辺り一面に破片となって飛び散り、槍を持った見張りらしき男がぐったりと地に伏せている。グロンギの反応は、集落の奥だった。

  見張りの人は既に息絶えているようで、馬上からでも瞳孔が開ききっているのが確認できた。かなり申し訳ないが、彼には目もくれずに奥へと急ぐ。優先すべきは、奥で暴れまくっているであろうグロンギを倒して被害を最小限に留める事だ。未然に防げなかった以上は最善を尽くすしかない。

  それと同時に、今回の事件に少し疑問を覚える。ゲリザギバスゲゲルにしては雑で横暴。ズやメのグロンギの暴走にしては、この集落に配属されているはずのクウガに早期鎮圧されていない。今もなお、白バラセンサーの反応は生きている。

  クウガは何をしている? 封印エネルギーでワンパンじゃないのか? そう思っていた矢先、白のクウガをボコボコにしているゴリギの姿を見つけた。

  ゴリギは以前戦った時とだいぶ変わっていて、より筋肉質な肉体を得ていた。白のクウガの背後には、尻餅をついて満足に逃げられていない女性がいる。怖くて腰が抜けているようだった。

  それから女性に手を掛けようとするゴリギの腰にクウガは必死に組み付く。ただ、グローイングフォームでも封印エネルギーは常に注入されているはずなのに、ゴリギは平然としていた。

  そしてクウガが煩わしくなったのか、狙いを女性から変えて首根っこを掴んだ。そのまま持ち上げれたクウガは懸命にジタバタ暴れるが、うんとも寸とも言わない。ゴリギは淡々とクウガに尋ねる。

 

「答えろ……ンのベルトの破片はどこに――」

 

「飛天御剣スタイル!」

 

「ドアラッ!?」

 

  しかし、そうは問屋は卸さない。俺は容赦なくザニーでゴリギに轢き逃げを決めた。奴の注意がクウガに集中していたのが功を奏し、真横から俺たちが突っ込んでくるのに気づくのが遅かった。ザニーとの激突の拍子にクウガを手放し、作用の力で華麗に飛んでいく。一方のザニーは無傷だ。

  メビオがそそくさと女性を助け、ここから離れた場所へと連れていく。ポニーからザクⅡが分離し、俺と共にゴリギと対峙する。怪人への変身と鎧の装着も済ませた。

 

  来たるべき八回戦目でもあり、メ・ゴリギ・バとの決戦。俺たちの突然の乱入に困惑するクウガを傍らに、ザクⅡと連携しながらゴリギに攻撃を加える。メビオはゴリギの外見に我慢できなかったので、物陰からこちらを見守っていた。

  俺としては、もう二回目なのでゴリギに対する免疫はできていた。煽られる恐怖心と嫌悪感は既に軽めに抑えている。ザクⅡも一緒に戦ってくれるので、すぐに終わるだろうと楽観視していた。だが――

 

「うっそだろ!?」

 

「思い知れ! これが闇の力だ!」

 

  ゴリギの強化された見た目は虚仮おどしではなく、俺は瞬く間に劣勢に陥った。以前と比べると倍以上に強くなっており、先日のクウガ・タイタンとの戦いが楽に感じられるほどだった。

  また、モーフィングパワーもクウガ以上になっていて、ただの棒切れを剣に再構築させて魔戒剣と何度も激しく打ち合う。体術もこれまで以上に洗練されていて、苦戦は免れない。ゴキブリの怪人が強くなってくるなんて、悪夢以外の何者でもなかった。

  もはや俺とゴリギの近接戦についてこれなくなったザクⅡには、投石による援護を徹底させる。それでも戦局の打開には及ばず、地力の差でゴリギに押し負けそうになる。

  その瞬間だった。怪人態のメビオがゴリギを不意打ちで蹴り飛ばしてくれたのは。

 

「うぅぅ……ガミオ、負けるな! わ、私も戦うから!」

 

  全身に鳥肌を立たせながらも、前線へと出てくれたメビオ。本当ならゴリギとは戦いたくない彼女が、こうして俺の隣に居てくれるのが大変ありがたかった。

  こちらが手短に「助かった。ありがとう」と伝えると、メビオはたちまち口を固く閉ざして、俺から顔を逸らしてゴリギをじっと睨み付ける。それでも、耳が赤くなっていたのは見逃さなかった。

 

「状況の把握はイマイチだが、俺も戦うぞ!」

 

  次にクウガも、進んで俺たちと共同戦線を築いてくる。仮にもグロンギである俺とメビオの味方になってくれるとは仰天ものだが、百人力であるのは間違いなかった。グローイングフォームでも封印エネルギーの高度な操作力に遜色がないのが、色々と恐ろしい。おずおずしつつも俺は彼を頼りにした。

  敵の敵は味方。利害が奇しくも一致した俺たち三人と一機は、特に大した内輪揉めを起こさずにゴリギと戦っていく。 一人では無理でも、全員で力を合わせば勝機を見出だすのは可能だった。

 

「ゴウラムゥゥゥ!!」

 

「ザクⅡゥゥゥゥ!!」

 

「ザクが死んだ! この人でなし!」

 

「貴様が言える事か、メビオ! ガミオの腰巾着め!!」

 

  途中で援軍に来てくれたゴウラムや、元より満身創痍だったクウガの盾になったザクⅡの犠牲を払い、とうとうゴリギを疲労困憊に追い詰める。

  ここでゴリギの肉体が急激に痩せ細り、弱々しい姿へと変貌した。肩で息をしている様子から、本人に限界が来ているようだった。戦闘中にゴリギが余裕綽々と教えてくれた「ンのベルトの破片で強くなった」という内容も考慮すれば、きっとガス欠寸前なのだろう。

  しかし、メビオとクウガは戦意があっても、ゴリギにトドメを決めるだけの力は残されていなかった。ゴリギからの攻撃を受けすぎて、二人とも膝が笑っている。

  ならば、まだ余力の残っている俺がしっかりやらねば。そうして魔戒剣を強く握りしめた時、ゴリギがふと妙な開き直りをしてきた。

 

「良いだろう、素直に殺されてやる。だがその前にそこのクウガ……否、リントを殺させろ! リントが一人減るだけだ。何も変わりやしない」

 

  次の瞬間、限界が訪れたクウガは変身解除してしまい、悔しい表情を見せながら地面に力なく倒れ、もがく。それを受けてゴリギの頬が吊り上がった。

  命乞いや最期の言葉にしては余りにも図々しく、俺はゴリギの話を真面目に聞く気も失せてきた。代わりに怒りが沸々と込み上がり、厳しい口調で言い返す。

 

「……変わるさ」

 

「何?」

 

「お前みたいな奴には、一生わからないけどな!」

 

  この期に及んで未だに殺人を望むゴリギには、もはや何の言葉も投げたくなかった。しょうもない理由で人間だけでなく、俺やメビオにまで殺しに掛かってくると考えると、無性に腹が立って仕方がない。ゴリギは、こいつだけは生かしておく訳にはいかなかった。

  結果、ひたすら逃げ惑っては見苦しい抵抗を続けるゴリギに、俺は一切の情けを掛けずに怒りの刃を叩き付ける。魔戒剣に迸る雷の力はプラズマに近い何かへと生まれ変わり、炎のように蒼く光る。一刀両断されたゴリギの身体は灼熱の蒼炎に包まれながら、爆発四散した。

  蒼炎は魔戒剣だけでなく鎧にも燃え移っていたが、不思議と熱は感じない。やがて自ずと鎮火し、元に戻った。以後、名前に困ったのでコレを烈火炎装と呼ぶ。

 

  そんな訳で、ゴリギとの戦いはようやく幕を降ろした。烈火炎装使用直後はどっと疲れが襲ってきて、おもむろに怪人態と鎧装着を解く。再度の変身は一応可能だが、その気が全然起きなかった。

 

「ザク……」

 

  同じく人間態に戻ったメビオは、へたりと座り込んでザクⅡの核を手にする。これでも直しようがあるのだが、彼女の悲愴感溢れる顔は見るに絶えなかった。今にも泣き出しそうだ。

 

「核が残ってるならまだ直せるさ。ザクⅡも、ゴウラムも……」

 

  俺がそう言うとメビオの表情が僅かに明るくなる。クウガ改め青年も俺の言葉を耳にするや否や、大破したゴウラムの元に駆け寄って核の様子を確かめる。次にほっと胸を撫で下ろした事から、きっと目処が立ったのだろう。

  ならば良し。俺たちはさっさとこの場から立ち去る事にした。だが、メビオが「もう歩けない」と駄々をこねたので、なし崩しにおんぶする羽目になった。ザクⅡの核は彼女に持ってもらっている。

 

「待ってくれ。君たちは一体?」

 

  その時、青年から俺たちを呼び止める声が掛かる。あまり妙ないざこざを招きたくないが、少しぐらいなら大丈夫だろうと考えて、ちょっと後ろに振り向く。そして――

 

「平和に暮らしたいグロンギAとBだ。それじゃあな」

 

  それだけ告げて、今度こそ帰り道を歩んだ。俺の後ろから抱き付いたメビオが嬉しそうにしていたのは、ここだけの話。

 

 

「メビオ、何笑ってるんだよ?」

 

「んー? 私、笑ってるのか?」

 

「うん」

 

「そうか。んふふ♪ ガミオの背中、大きくて安心する……」

 

  そうやって雑談を交わしていると、どこからともなく見知ったポニーが姿を現す。逃げようともせず、俺たちの隣をのんびり歩く。そちらから歩み寄ってくるなんて、なかなか肝の座った馬だ。どうしてこうなった?

  試しにザクⅡの核を当てると、鞍以外は纏っていないザニーが誕生する。ものすごくちょうど良かったので、途中からザニーに乗って帰った。クウガの追撃もなく、家までの帰路は平穏に包まれていた。

 

 





Q.なんかゴリギ、大爆発起こさなかったんだけど。

A.所詮はメですから。クウガから受ける封印エネルギーを真っ向で打ち消していたツケもありました。ゲブロンがエネルギー切れ寸前という……。ンのベルトの破片を探していたのは、より強くなるためです。


Q.クウガ、何か白くなっていたんだけど。

A.ンのベルト破片ブーストが掛かっていたゴリギにドラゴンフォームで挑み、速攻を決めようとしたら容易く動きを見切られてボコボコにされました。青のクウガはただでさえ紙装甲なので、強制的に白になるのは仕方ない。

なら紫で挑めって? それは……

バベル「モーニングスターでクウガ・タイタンの堅牢な装甲をボコボコに凹ませ、仕留める寸前まで追い詰めた実績があります」

まぁ、結果は同じになるでしょう。


Q.一つの集落にクウガ一体! 一家にクウガ一体はまだ?

A.大きな人里ではクウガは複数配属されています。一家に一体は無理です。




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