ーー力を。
真の王に。
贄を与えよ。
役目を忘れし愚かな人よ。
古き盟約に従い今こそ。
命を持って果たせ。
「…うっせぇよ。忘れてなんかねぇわ。」
巨神タイタンの膝下、カーテスの大皿でも比較的安全であり開けた場所で誓約を行うルナフレーナを見守る。
仕掛けが作動したのか体の奥底から力が抜け、削り取られるような痛みが全身を襲う。
もはや元の皮膚などわから無くなるほどに火傷の跡を追ったのにその上で切り傷までつき始めた体をそっと確認して、ため息をつく。
巨神はすでに目覚めて誓約を始めているが、先程から頭の痛くなるような言葉ばかりを伝えてくる。
そんなに贄が欲しいなら自分で殺しに来ればいい。
そっと召喚獣の言葉でつぶやいてみるが相手は無反応で繰り返すばかり。
絶対聞こえている。が、無視している。
巨神は水神より話のわかる類だと思っていたが剣神とそう変わらない使命狂いのようだ。
いや、神々の悲願に限って言えば人に優しい雷神でも改心した氷神でも同じか。
死ぬことを望まれているのは変わらないが殺しに来ないのは単純に死ぬだけでは意味がないからだ。
そういう面倒臭いことも含めてやり遂げてから死ねというのだから人の心がわからない神々だ。
死ぬ準備を喜んでする人間なんていないっての。
巨神を睨みつけていると、目を閉じて対話をしていたルナフレーナがこちらに戻ってきた。
どうやら無事に終えたようだ。
だが、その顔は晴れ晴れというより重い空気だ。
どうしたのか聞いてやりたいが、今はとにかく時間がない。
ここには帝国軍がいるのだ。
「すまないがここは今敵地だ。脱出し、雷神の誓約を終わらせてから話を聞こう。何か言われたんだろう。」
「…はい。」
「体は問題ないか?」
「はい、とても軽いです。もっと重いものだと聞いておりましたので、なんだか逆に違和感が…。」
「動けるのはいいことだ。行くぞ。旦那様が婚約者の無事を待っている。」
真っ赤になった可愛らしい未来の義妹に笑いながら、歩こうとすると一瞬意識が遠のく。
倒れこみそうになるが次の一歩支え、ルナフレーナに違和感がないように笑いかける。
「つまずくとかすげぇ恥ずかしい…」
「ふふふ、気をつけてくださいね。」
それらしい理由をつけて恥ずかしがるように片手で顔を覆うと可笑しそうにルナフレーナはにこやかに笑い、先を歩いた。
車の運転は問題なさそうだが細心の注意を払おう。
メディウムが仕掛けたのは神凪の負担を一時的に吸い上げた媒体からその負担を吸い取る魔法。
出発前にチョコボポストで渡した青色の髪飾り。
その刺繍が魔法の媒体になっていた。
魔法の構造自体は実にシンプルだ。
媒体に負担を受け渡す魔法を青いリボンにつけ、蓄える媒体を刺繍部分に設定。
媒体の方は受け渡しの魔法を設定し、自分の血を覚えさせる。
この魔法だけで魔力がごっそりなくなったが一晩経てばある程度は回復した。
受け渡し魔法で傷が受け渡せるのは半分まで。
しかし、半分の理論を覆すのが媒体経由の方法である。
常に発動し続ければ半分など言っていられないのでほとんどこちらに流れるはずなのだが神凪の力の機構が非常に複雑のため半分とちょっとぐらいにしかならなかった。
たが、これで負担は大いに減り、ノクティスと無事に幸せな未来を歩めることだろう。
あとはノクティスさえ生き残れる道があれば。
まだ歩ける足を動かし、メディウムは車へと乗り込んだ。
フォッシオ洞窟。
本来ならば洞窟を進んでシガイを打ちはらいながら進むのだが、雷神の誓約自体は最奥地の祠であれば問題ない。
という無茶苦茶な理論を振りかざして洞窟に風穴を開けた。
それも割と乱暴に。
二箇所に広がる雷神の跡地を巡ってから封印を解く祠を無理やりこじ開ける脳筋は後にも先にもメディウムだけだろう。
誓約中のルナフレーナも何か文句を言われているのか少し苦笑いが溢れている。
当のメディウムは素知らぬ顔で増えていく傷を眺めていた。
背中はすでに直視できないほどになっているが筋肉に傷が付くと可動範囲が減るなぁ、腹筋は困るなぁなど非常にどうでもいいことを考えていた。
出血するというより灰になっていく体を無表情で眺められるのは痛みに耐え続けてきたメディウムだからこそなせる技。
本来ならば泣き叫び悶え苦しむ痛みをいつものことのように受け入れるその様は悲しいものである。
そこで、稲妻のような形をした木のようなものに紫の雷が落ちる。
凄まじい音を立てて落ちた雷はルナフレーナの頬を撫で消えていった。
誓約は終了のようだ。
起こすことに時間を費やした巨神よりは早く、洞窟に風穴を開けたメディウムに寛大な神だった。
「おし、あとは水神だがそれはノクティスたちと合流してからだ。チョコボポストに戻って一泊したらレスタルムだ。キリキリいくぞ。」
ぐらりと傾く体を違和感なく前へ倒し、洞窟に開けた穴に滑り込むように這って出る。
大人一人が這えば出られる風穴だからギリギリ許されたとも言えるその穴を抜け、道路に出れば車に乗ってチョコボポストにとんぼ返りだ。
「メディウム様。」
「どうした?」
道路に出ようと足を進めたところでルナフレーナに止められる。
非常に言いにくそうにしているのはなぜなのだろうか。
巨神だけでなく雷神にも何か言われたのだろうか。
「神々に、聞いてしまいました。あなたの背負っているものを。」
「…それは全部か。」
「いいえ、神々も全てを知るのは剣神バハムートのみと。」
「そうか、ならそれが全てだ。それ以上は聞くことも知ることも許されない。俺とバハムートの問題ってことだ。」
「ーーあんまりです。」
思い出したくもない剣神バハムートに舌打ちをし、さっさとここから去ろうと足を進めるがなおもルナフレーナの言葉で立ち止まる。
ああ、確かにあんまりな使命だ。
人間のやることとは思えないだろう。
真実を知る者にはかわいそうな者で知らない者にはただの悪魔だ。
だが、あんまりだからと言って放り投げられるほど簡単なものでもない。
「世界にとって大事なのは歴代のルシス王、六神、神凪、光耀の指輪だ。その中に"ルシスの王子"なんてものは含まれない。王になれない時点で必然的にゴミだ。しかも処分に困る生ゴミ。なら有効活用出来ないか、と寛大な剣神バハムート様が考えてくださったんだ。そこに人の感性はない。」
慈悲などなかった。
星の病を打ち払う使命さえ果たせればいいのだ。
「だがな、俺はタダでその使命を果たそうなんて思っちゃいない。」
果たすことは必然だ。
だが過程が違っても結果が同じなら神々は満足するだろう。
星の病さえうち果たせれば、他の何を救ってもいいのだ。
「だから、そんな顔すんなよ。どうしたらいいかわからねぇよ。」
ルナフレーナは泣いていた。
噛みしめるように、耐えるように泣いていた。
メディウムは使命で死ぬことに後悔はないし、メディウムが死んでも誰も悲しまないように動いてきた。
ルナフレーナだって今の二人旅が終わればノクティス達のことで頭がいっぱいになりメディウムのことなんて忘れると思っていた。
メディウムの価値などそんなものだと。
だが、ルナフレーナは泣いている。
どうしようもない遣る瀬無さとメディウムの使命が人としてどれほど辛いものかを彼女は理解して泣いてくれている。
痛めつけられることも蔑まれることも家族として受け入れてくれる優しさも知っているが極端な悲しみで泣かれることなどなかった。
どうしたらいいかわからない唐変木はおろおろとハンカチを渡す。
「ああ、もう。俺はルナフレーナも笑っている未来が見たいんだ。だから泣かないでくれ。」
「…そこに、メディウム様もおられるのですか。」
「それは無理ってもんが。」
「いやです。メディウム様も笑っている未来でなければなりません。」
「ええ…我儘だろ…。」
誰かへの恩返しのために帝国軍へと入ったと語っていたレイヴスがルナフレーナは頑固で一度決めたことは曲げないと語っていた。
良くも悪くも現実を見たレイヴスはいつもそれに頭を抱えていたが、確かにこれは頭を抱えたくもなる。
泣いていた美しい顔は何かを決心したような晴れ晴れとした顔だ。
なぜか髪飾りにこっそりかけた魔法が後ろめたくなってきた。
彼女の目標から遠のくための魔法だがメディウムの目標の近道だ。
黙っておこう。
足取りが軽く、それでいて力強く歩くルナフレーナを見ながらメディウムは決心した。
彼女の目標が果たされることはないだろうが、せめて救いがあれば。
久々にズキリと痛む身体をかかえて車へと戻った。
メディウム達がチョコボポストへと戻った夕刻時。
ノクティス達は王の墓を目指すべく滝の裏側にあるグレイシャー洞窟へと潜入していた、のだが。
「炎のエレメントってこれのことかよ…。」
「さ、さむっ!」
「冷えるとかのレベルじゃねぇな。」
「長居すれば凍傷の危険性も出てくる。迷わず進むぞ。」
何か燃やさなければならないのかとあらかじめ標近くの炎のエレメントを回収していたが、確かにこれは必要だ。
しかし、マジックボトルに詰め込むと爆発四散するためそっと手のひらに灯すのが限界。
それに群がるように四人は身を寄せ合っていた。
「兄貴の野郎、もっとマシな助言なかったのか!」
「いや、これが最善の助言だろう。暑いレスタルムでは暖かい服が売っているとは到底思えない。」
「ノクト、もっと火力でないの?」
「これ以上にすると長持ちしなくなるぞ。」
細々と消費しているがこれではいつまで持つかわからない。
そろそろと四人で固まって動いているおかげで安全といえば安全だが。
「メディウム様は一人で踏破しているはずだ。四人もいれば王の墓をすぐに見つけられる。」
「言っていることとやっていることが違うよイグニス。」
そうは言いつつも寒いのか、ノクトから片時も離れないイグニスに冷静なプロンプトが突っ込む。
散らばって探すことはできないがこれでは進み辛い。
「あーもう!早く行くぞ!出れば暑いんだからさっさと出るぞ!」
「あ!ノクト!」
「ったく!置いてくな!」
手先から出していた炎を消してズカズカと先に進んで行く。
三人が追いつく前に、天然の滑り台で下に落とされたノクティスへの試練は続く。
ノクティスは誓った。
兄は一度ぶん殴る。
次回は胡散臭いおじさんの再来。
一体、何ズニアなんだ。