FFXV 泡沫の王   作:急須

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FF14、暁のフィナーレをプレイ中。


異界のバハムート その3

 

「鏡像世界の次は異世界か……」

 

興味深そうにメディウムとノクティスを見つめるグ・ラハ・ティアとは別に、聞き覚えるある事態を思い出したサンクレットとアリゼーは首を傾げた。

 

「前もこんなことなかったか?事後報告だったが」

「そういえばそうね。同じ人?だったら前回の方法じゃダメなの?」

「ダメらしい。事情が違うようだ」

 

あらかた説明をし終えた辺りで、全員が現状の問題点について議論を始めたところで、ノクティスが感心したように一つ頷いた。

彼の感心している部分はほかでもない、メディウムがバハムートであると聞いても彼らが動じなかったことである。

 

一瞬の驚きこそあったが、それもつかの間。

違う世界の神であり元は人間、今は困り果てたただの人であると説明すれば、彼らは協力しようと一番の問題へと矛先を向けた。

実に懐が広く、効率的なものの運びをする人達である。

 

一瞬、ほんの一瞬であるが、全員が武器に手をかけた様な気がしないでもない。

その上で冒険者が街中であると小声で口にしたような気もするが、きっと気のせいである。

まさかそんないきなり切りかかってくる野蛮人が賢人と呼ばれるはずもなし。

見間違いであろう。

 

「世界を渡るために純粋なエーテルが足りないわけね」

「クリスタルタワーの様にエーテルを精製できる物品があるわけでもないし、急には難しいだろうな」

「言っておくが、クリスタルタワーを動かしたとしても無理だぞ。鏡像世界でもギリギリだったのに、別の世界なんて遠すぎて必要なエーテル数を計測できない」

「あら?それって事実上、詰みじゃない?」

「あれだけ大規模な装置を動かしても足りない、と言っている様なものだぞ」

 

仮に他の方法があったとしても、どうやってエーテルを確保するのか。

それほどの大規模なエーテルである。

収容する場所も集めるあてもない。

地上にあるクリスタルだけでは到底足りないであろうと賢人達は推測していた。

 

「……ここにヤ・シュトラがいれば話がもう少し進むんだけど」

「そうだな。いっそのことアラミゴまで飛んで……」

 

そういって冒険者が立ち上がろうと椅子を引いた瞬間、酒場に大きな声が響き渡った。

 

「失礼します!!こちらに暁の血盟の方々はおられますか!!」

 

一斉に、全員が入り口付近に視線を投げつけた。

このリムサ・ロミンサを守護する黒渦団と呼ばれるグランドカンパニーの団員が慌てた様子で駆けつけてきたようだ。

英雄とは一体誰なのかと問いかける前に、スッと冒険者が背筋を伸ばした。

 

「ここにいる。何かあったのか」

「ああ……良かった。お忙しいところ失礼いたします!メルウィブ提督より緊急の伝言です!沖に蛮神が出現!至急、暁の血盟に討伐へと赴いて欲しいと!」

「リヴァイアサン!?」

「もう!頭使ってるときに!」

 

団員の言葉に慌てだしたのは冒険者だけではない。

賢人たちが慌ただしく席を立ち、サンクレットが黒渦団の本部へ、グ・ラハ・ティアとアリゼーが船の手配へとそれぞれ迅速に散っていった。

あっという間の出来事に反応できず、ノクティスとメディウムは茫然と状況を見守る。

 

「分かった。至急討伐に向かう。メルウィブ提督は今どこに?」

「今はまだアラミゴにて会議中です」

「提督に”案ずるな、帰るころには凪の海原をお届けする”と伝えてくれ」

「はっ!」

 

大剣を一瞬で刀らしき形状のものに持ち替えた彼が、こちらへと振り返る。

困ったように眉を下げる様子から、相当緊急らしい。

リヴァイアサンと言っていたが、例の蛮神だろうか。

 

「すまない、蛮神が出現してしまったようだ。直ぐに戻ってくるからしばらくここで待っていてくれるか」

「待て。リヴァイアサンと言っていたな。それが今回の蛮神なのか?」

「ああ。海の荒ぶる神だ。蛮神問題解決が暁の血盟業務の一つでな」

 

サクッと捌いてくる、と言って鎧からまたまた一瞬で漆のように美しい着物へと着替えた。

その姿に一度顔を見合わせ、二人は深く頷く。

この状況、ラッキーかもしれない。

 

「その蛮神討伐、俺達も同行させてもらえないか?」

「……ふむ、まあ、戦えるのであれば構わないが……」

「え?あ、いいのか?」

「問題ないだろう。ノクティスはガルーダを一度倒しているし、メディウムはバハムートなのだろう?争ってもテンパード化する危険は低い」

 

戦力に関しては推して知るべし。

ただ、異界より来た友人に手伝ってもらうのはどうかと考えたが、本人達が望むのなら好きにすると良い、と彼は肩を竦めた。

あっさりと許可を出した彼は早くいくぞ、と二人の手を引いてリヴァイアサン討伐専用の船へと駆け足に乗り込む。

ひかれるがままに三人で蛮神討伐が決定してしまった。

何という決断力の速さ、政ばかりしていたメディウムにはない技能である。

 

「リヴァイアサンとの闘いは船の上で行う。戦うのは俺とメディウム、ノクティスの三人だ」

「他の賢人たちは戦わないのか?」

「光の加護がない者はエーテル放射に耐えられないからな」

 

こちらの蛮神、つまるところ神はエーテルを放射することで他種族を自らのテンパードにしてしまう。

テンパードになったものは蛮神を狂信し、最悪の場合、本来の姿形すら失ってしまうという。

メディウムはバハムートの化身。

そもそも存在が蛮神のような彼が影響を受けることはない。

ノクティスは最初からメディウムのテンパードのようなものだ。

影響を受けるとは考えにくい。

 

サンクレッド、アリゼー、グ・ラハ・ティアは三名とも光の加護を持っていない。

暁の血盟内に光の加護を持つ者は何名かいるが、緊急招集をする時間もない。

三人での出撃、これが最善の選択であった。

 

「もし俺達が行かないって言ったら、一人で戦うつもりだったのか?」

「ああ」

 

神相手に一人で立ち向かうなど、ノクティス達には考えられない自殺行為であった。

一度だけノクティス一人で立ち向かうこともあったが、あれでも周囲のサポートがあった。

正真正銘、一対一でやり合う相手ではない。

万全の準備をしたところで勝てるかも怪しい相手である。

それを当然の如く倒す、と言う彼の自身はこれまでの経験故か。

 

「リヴァイアサンはそう難しい相手じゃない。油断こそできないがな」

「へぇ……俺もいつかノクティスにそう言われる日が来るのかねぇ。バハムートなんてワンパンです、みたいな」

「ムリムリ」

 

そこはできるって言えよ、と軽く小突きながら突っ込むと苦い顔で返された。

兄であるバハムートを殺したいとは微塵も思っていないのだろう。

メディウムとて理由もなく牙を向ける気もないので、冗談の世界である。

 

そうしてふざけている間に、船は段々と針路を変えていく。波は高く上がり、空は暗雲が覆い始めた。

大海嘯と呼ばれるリヴァイアサンの荒れ狂う領域に踏み入った証である。

エーテルを活用した超技術の船は、エンジンと変わらない速度で海原を踏破していく。

 

「冗談言ってる場合じゃなさそうだな。なんか作戦とかあんの」

「殺す」

「至極単純明快な答えが返ってきたが、それは作戦とは言わないなぁ」

 

英雄と呼ばれるだけあると言えばある。

要は殺せばいいとしか考えていなさそうな顔である。

いつもそんなもんで倒せるなどと威張る彼にうっすら恐怖を覚えるが、兎に角何も考えていないことしかわからなかった。

 

「うーむ……一応、俺が呼びかけてみるか。もしかしたら反応があるかもしれねぇ」

「呼びかける?」

「俺達の世界だと、リヴァイアサンはバハムートの配下に居るんだよ。こっちのリヴァイアサンとは関係ねぇから無意味だと思うけどな」

「やってみなきゃわからんだろうさ」

 

野生の勘で退いてくれるかもしれないじゃん?などと軽い調子でまずは任せてくれというメディウムに、英雄はしばし迷いつつも最終的には頷いてくれた。

多少の時間であれば自分の身は守れる、とのことである。

 

「あと数秒で接近する。船はリヴァイアサンについて回る様に組まれているから、足場は気にしなくていい」

「りょーかい」

「いっちょ神殺しと行きますか」

 

波打つ音が一層大きくなっていく。

戦闘に特化した船は広々とした平たい足場のようなもので、存分に暴れても問題なさそうだ。

揺れを感じながら進むこと数秒。

 

海のど真ん中に、見慣れたリヴァイアサンとは少し形状の違う巨大な龍が現れた。

 

「あーてすてす……んん……あー……リヴァイアサン」

 

ギロリ、と龍がこちらを睨んだ。

自らの海域で沈まぬ船を見たのか、メディウムの呼びかけに従ったのかは分からない。

ただこちらを視界に入れたリヴァイアサン常と違う反応を見せていた。

 

「吼えないな」

「吼えるのか?」

「いつもならまず咆哮をあげて襲ってくる。会敵の合図と言ってもいい。それがないのは珍しい」

 

英雄の言うとおり、リヴァイアサンは特殊な反応を示しているようだ。

長い胴をぐるぐると巻き、ジッとメディウムを眺めている。

その上で龍は大きな口をぱっくりと開け、あろうことか神を食わんと襲い掛かってきた。

 

「初めてのパターンだ」

「言ってる場合か!?」

「まあ落ち着けって。お前も食われそうになったことあったじゃん」

「目の前の危機と過去の話を一緒にするな!」

 

目と鼻の先、巨大な牙が迫ろうかと言う刹那。

バキッ、と得も言われぬ痛々しい音と共に数メートル先まで吹き飛ばされたリヴァイアサンが痛みに海を荒らしていた。

 

「ほら、大丈夫だったろ?」

「魔法障壁か。一人で展開するには大規模だな。あれは独自で?」

「いや、これは代々受け継がれる魔法でな。寿命を削る代わりに一つの都市を覆いつつ、最長三十年の展開が……」

「専門家の話始まっちまったよ」

 

吹き上げる海と降り注ぐ潮と雨に打たれながら魔法専門家会議が開催されてしまった。

あーあ、と呆れる間もなく復帰してきたリヴァイアサンが、怒りに狂ったような目で海を割ってくる。

しかし、追撃も虚しく魔法障壁に阻まれ、専門家会議は止まることを知らない。

 

「俺には展開できない魔法だな。エーテルの操作がとんでもなく緻密だ。戦闘中に展開なんてほぼ不可能じゃないか」

「慣れるとできるようになる。むしろそれだけの職業と魔法を使い分けられる方が凄い。そのソウルクリスタルが魔法の補助になっているのか」

 

完全にリヴァイアサンが蚊帳の外に行ってしまった。

何度も障壁を破壊しようとリヴァイアサンが攻撃を繰り返すが、それでも障壁は割れるどころかヒビすら入らない。

リヴァイアサンのヘイトが何度も跳ねる音がするようだ。

 

「そろそろ煩わしくなって来たな」

「むしろ放置したまま議論できる方が怖い」

「ノクトももうちょっと場数踏めばできるようになるって」

「なりたくねぇなぁ」

 

議論の邪魔になりかねないから仕方なく相手してやります、と言わんばかりの溜息を吐いた英雄が刀を抜いた。

それを合図に、メディウムが身に纏っていた魔法障壁がほどける。

今が好機と言わんばかりに突貫してくるリヴァイアサンに、英雄がひるむことなく跳んだ。

 

「会話の邪魔だ。刺身にでもなっていろ」

「ノクトー、詠唱よろしく」

「俺かよ!」

 

英雄の切っ先がその首を断つ。

降り抜いた斬撃がエーテルそのものを切り裂き、悲鳴を上げる間もなく、海を切り裂く。

しかし、首を切ったところで幻影に近しい神は倒れない。

何やら目論見があるらしいメディウムは、ノクティスにわざわざ召喚を頼んだ。

 

「えーっと……夜闇の翼の竜よ。怒れしば我と共に、胸中に眠る星の剣を!バハムート!」

「ほいきたぁ!」

 

翼竜が舞い上がる。

剣を翼と成した剣神が大海嘯を割る。

作り上げた巨大な刃がリヴァイアサンに直撃し、吹き上がる波が船を襲った。

 

まともに食らったリヴァイアサンが生き残れるはずもなく、海へと倒れ伏し、はらはらと粒子となって消え失せる。

その間に、メディウムがバハムートの巨大な手をその粒子へと向けた。

 

「一柱分、頂き」

 

どうやらリヴァイアサンの保有していたエーテルを存在ごと吸収したようだ。

蛮神同士の合体にも似た行為に感嘆の声を上げる英雄の横で、紫の瞳を宿したノクティスにがぐったりと海水に濡れた船の上でしりもちをついた。

 

「やば、魔力切れ」

「あーごめん。久々で制御できなくて余分に食った」

「さいってー……」

 

気が付けば、空は晴れ、海は凪を取り戻していた。

船は自然と帰りの針路をとり、三人はびしょ濡れになりながら船の上に座り込む。

異世界で初めての蛮神討伐、難なくクエストクリアである。

 

「魔力補給はできたか」

「使った分ととんとんだな」

 

先程のアルテマソードの後、リヴァイアサンの吸収量について問うているのだろう。

元の世界へ帰るための魔力補給方法として効率は良いが、討伐の為にこちらが魔力を使うと意味がほとんどなくなってしまう。

今回は初見の為に全力でかかったが、今度からはもう少し手を抜いて対応すれば何とかなるだろう、とメディウムは自身の掌を何度か握った。

 

「何度も蛮神召喚が起こることはほとんどない。だが、この世界の物体から供給できるのならやりようはあるだろうな」

「これで一歩前進ってところだな」

 

穏やかな海の中、青い空を見上げる。

いつか五人で、自分達のクルーザーで旅をした、あの日のように。

 


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