FFXV 泡沫の王   作:急須

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神父は進む、続きの話。

※メディウム・ルシス・チェラムがシガイこそが神であり六神は邪神であると信仰する危ないやつ設定。
泡沫の王には確実にない設定。

本編とは一切関係ありません。

・概要
六神は邪神だと一刀両断。シガイこそが神であり六神こそが病であると断言する。
シガイ化することは人間の至高の喜びではあるが広める側のメディウムは半シガイ化にとどまっている。
シガイの王であるアーデンは神様。それはもう神様。愛してる。LOVE。
アーデン側は懐いてくる同じ存在として大事にしているがうるさったいと思う方が強い。

・メディウム
バハムートに止められることなく自殺するに至った。
レギスが救うこともできず意識不明の重体で発見され数日後に息を引き取る。
もともと知名度が低いのも相まってノクティスの生誕でその存在ごと葬り去られた。
墓所はレギスの一存で王城の中庭に作られた。
遺体を燃やすなど考えられなかったレギスは土葬をしている。
イフリートにメディウムの存在を教えられたアーデンによって遺体は後々ひっそりと持ち去られる。

死体のシガイ化実験の第一サンプルとして半シガイ化蘇生。
記憶はあるが心底どうでもよく、愛すると誓ったアーデンの手駒として生きる。

ノクティスとはレスタルムで知り合った。
ハンターの同業者として仲良くしている。


ボツ設定 神父は進む その3

レスタルム周辺はメテオの余波を受け、真夏の気温を常に保ち続けている。

そんな過酷な環境にもかかわらず、キッチリ着込んだ神父服で歩くディザストロは汗一つかいていない。

不思議な色彩を持つディザストロはいい意味でも悪い意味でも非常に目立ち、さらに神父服の所為で余計に注目を集める。

 

だからと言って脱ぐことは出来ないのだけれど、悪評が立つ前に何か対策をしなければこの街に居辛くなってしまう。

任務に支障があることは対処しなければならない。

一番手っ取り早いのはハンターの仕事だろう。

 

「ふむ…まあ、この辺りのモンスターですからこんなもんでしょうね」

 

早速、メルダシオ協会が出しているレスタルム周辺の依頼を適度に受け、さっさと片づけてしまおうと依頼の場所を回っている次第である。

王子ご一行が依頼を受けられるように難易度別に均等に残してきた。

これで邪魔をせず目的を果たせるといいのだけれど。

 

足であるバイクに跨り、レスタルムを見つめる。

今日は平均より多く帝国兵が出入りをしていた。

王子一行に何かがあってはたまらない。

今日は早めに帰ろう。

 

バイクのエンジンをかけ、直ぐ目の前にあるレスタルムの街まで飛ばしている間、ひっきりなしに帝国兵の揚陸艇を見かけた。

何をしようと思ったらあんなに揚陸艇を動かす必要があるのか。

レイヴス将軍や我らが神専用のメールアドレスから何の音沙汰もない。

将軍と宰相の命令ではなく独断で行っているのなら重罪だ。

神の御意志に反する事態になったらどうしてくれるのだ。

 

「これだから躾のなっていない一般兵は嫌なのです。准将クラスでもアラネア准将ぐらい扱いやすければ良いのに」

 

思わず漏れた溜息を飲み込み、レスタルムの駐車場に入る。

依頼の報告に行こう、とホテル方面に足を進めていると聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「レイヴス将軍も何を考えておられるのやら。こんなに近くに情報源がいるのに放置とは」

 

仰々しく制御された魔導兵を連れ歩いているのはニフルハイム帝国准将、カリゴ・オドーだ。

確か、レスタルム付近にあるヴォラレ基地統括の任に当たっていた記憶がある。

レスタルムに買い物?

補給品は軍部から届くのに?

 

嫌な予感がしたディザストロはシャドウムーヴで彼の後をつけることにした。

人目があるところで突然消えると怪しまれるため、裏路地から慎重に後を追う。

何か不審なことがあれば魔導兵が動くだろうが、生憎、彼等とディザストロは出身が同じだ。

特殊な魔導兵と言っても差し支えないディザストロは無視して行動する。

 

「宰相様も不思議な方です。殺戮兵器を私用に使っているとは。確かに彼は魔導兵の長でありながら宰相様の信奉者ですし、命令にも忠実ですけれど。殺戮兵器なのをお忘れなのですかねぇ」

 

随分独り言の多い男だ。

魔導兵は従順に従うだけで返事をするわけがないのに。

量産型のために知性までは備え付けられなかった彼等は哀れだと思うが、神に忠実に仕える信徒である。

神が知性など要らぬというのなら必要のない物なのだ。

 

カリゴの後ろを誰に気づかれることもなくひっそりと近付いていると、ホテルのロビーまでやってきた。

ホテルのロビーには先日プロンプトとグラディオラスに紹介された老人と少女、子供がいた。

老人の名はジャレット・ハスタ。

グラディオラスの生家であるアミシティア家に古くから仕える、王家にとっても代えがたい従者である。

 

少女はグラディオラスの妹であるイリス・アミシティア、子供はジャレットの孫にあたるタルコット・ハスタ。

彼等は王子一行に有益な情報をあたえる価値ある存在だ。

精神的な自立を促すために殺すことも考えたが、情報を持ち得る限りは生かす方針で今は見守っている。

 

「ご機嫌よう。ジャレット・ハスタさん」

 

カリゴ達の目的は彼等のようだ。

帝国兵に怯えたタルコットを庇う様に立つイリスに、ジャレットは離れているように言い聞かせ、カリゴに向き直った。

 

「何の御用でしょうか」

「ノクティス・ルシス・チェラムの居場所を教えなさい」

「…王都で、お亡くなりになったと」

 

ホテルの入り口で彼等のやり取りを聞き、眉間にしわを寄せた。

ジャレットの返答は真相を知っていれば忠実な従者の返答だ。

決して情報は漏らさず、公に報道されていることだけ述べている。

これを否定することは帝国軍の情報操作が露見するのと同義だ。

カリゴに否定する権限はない。

 

何度かの押し問答の末、カリゴがついに剣を抜いた。

それでも一歩も引かずに睨みつける忠臣の決意に恐れ入る。

何より大事な存在だ。

“准将ごとき”がディザストロの縄張りで調子に乗っていいのはここまでである。

 

「おや?おやおや?おやおやおや!これはこれは!カリゴ様ではございませんか!」

 

ワザと大きめの足音を立て、両手を広げて歩いていくと、カリゴは急いでこちらに振り返った。

忌々し気な顔と邪魔をされたことへの苛立ちに大変ご立腹のようだが、残念なことにこちらも喧嘩腰なのだ。

軍部の規定により独断の行動は多少許される状況にあるが、一般人の殺害は許されない。

もみ消す側も大変なのだから。

 

「貴方、何故ここに?」

「神の思し召しです。それ以外に私が外へ出る理由などありません。そうでしょう?」

 

殺戮兵器の外出には基本、将軍か宰相の命令が必要だ。

今回は宰相の命令だと言外に含ませ、ジャレットに微笑む。

 

「貴方に神のご加護がありますように」

「まさか、貴方…!」

「もう一度言います。彼等に、この地に、神のご加護がありますように」

 

この地は宰相の作戦区域である。

何人たりとも、この地への手出しは許されない。

決められた言葉を聞いたカリゴは悔しそうに唇を噛み、鼻を鳴らしてホテルのロビーを出て行った。

彼も従順な信徒であるならば良いのに、兵とはままならないものだ。

 

「入信ならいつでもお受けいたしますよ」

「結構です!巻き込まないで頂きたい!」

「おや、それは残念。貴方にも神のご加護がありますように」

 

保身に走るカリゴは一目散に自身の砦であるヴォラレ基地に逃げ帰ることだろう。

ノクティスの居場所を探っていたようだが、残念なことに今この場にいない。

高級車で何処かへ行ってしまった彼等は夕暮れ時には帰ってくるだろうが、今すぐどこにいるかは知れないのだ。

とはいえ、これでカリゴはレスタルムに二度と近付かないだろう。

 

「ありがとうございます、ディザストロさん」

「いいえ。ご無事で何よりです。お怪我はございませんか」

「ええ。彼と知り合いだったご様子ですが…」

「我が教会に何度か足を運んで頂いております。”祭儀”にも、二度ほど。顔見知り程度ではございますが、大事なお客様です」

「そうですか」

 

ディザストロが謎の宗教を信仰しているのはジャレットも知るところだ。

まだ雪山にあるような小さな村でしか信じられていない宗教だと説明しているが、彼はカリゴとの繋がりを見てディザストロを怪しんだのだろう。

宗教関係であると伝えれば彼は疑いながらも頷いてくれた。

 

六神信仰が当然の世界で未知の宗教を信仰しているだけで珍しい。

彼等が知らなくても仕方がない、という体で話が進んでいる。

 

「彼は何者か聞いても?」

「…そうですね。確か、ニフルハイム帝国軍の准将であったと記憶しています」

 

それ以上は知らない、と申し訳なさそうに首を振ればジャレットは頷くだけにとどまった。

一般的な情報しか持ちえないディザストロの発言を信じた訳ではなさそうだが。

後でレイヴス将軍に事の顛末を報告しておく必要がありそうだ。

 

「ハンター業の帰りだったのです。少々報告に行ってまいります。イリス様に電話番号をお渡ししていますので、何かあればそちらに。ある程度は私も腕が立ちますので」

 

お茶目にウィンクを飛ばすと、イリスとタルコットがこっそり出てきた。

離れたところで様子を見ていたようだが、もう大丈夫だと声をかけるとジャレットに駆け寄っていく。

これ以上居座ると邪魔だろう。

さっさとホテルを出て行くと、見覚えのある背格好の男が裏路地に入っていくのを見つけた。

 

声をかけてもいいのか、それとも気が付かなかったフリをすればいいのか分からず、その動向を目で追っていると、降ろした手が手招きするように蠢いた。

良し!と飼い主に言われた犬のように喜び、怪しまれない程度に小走りに後を追う。

 

いくつかの小道を曲がってたどり着いたのは工場付近の路地だ。

配管しかないこの場所は作業員以外の立ち入りはほとんどない。

人に聞かれたくない話をするにはもってこいだろう。

 

「ああ、我が神よ。どうか私に耽美なる神託を」

「相変わらず大げさだ。トラブルを起こしたようだけれど上手く立ち回れたね。良かった」

「卑しい私には勿体ないお言葉でございます」

「設定も良く考えたものだ。害のない宗教家ならハンターとして貢献している限り溶け込みやすいだろう。くれぐれも、怪しまれないように」

「承知いたしました。我が神のご随意に」

 

傅いて面を上げないディザストロの頭を撫でる。

嬉しそうに目を細める姿はとても殺戮兵器には見えない。

父親の誉め言葉を嬉しそうに受け取るただの子供だ。

 

「そうだ、ちょっと王子サマにちょっかいをかけるけど俺達の関係はバラしちゃいけないよ」

「はい。どのようにお呼びすれば宜しいでしょうか」

 

アーデンの提案は、ディザストロが所属する教会の出資者としての立場を作ることだった。

教会に寄付金を出すちょっとした金持ち。

信仰している訳ではないのが重要なポイントだが、要はディザストロにとって大切にするべき存在であることを匂わせるのだ。

 

「友達とか親友ポジションとかも考えたんだけどさ。肉体年齢近いし。けど君、俺を呼び捨てとかできないでしょう?あとため口」

「ご要望であれば、ど、努力、する、ます。はい、とても、とても頑張る、です」

「ほら、敬語に戻っちゃうじゃん。変な言葉になってるじゃん。呼び捨ては?」

「アーデン…ん、んん…さ、ま」

「様つけちゃダメでしょ」

「申し訳ございません…」

 

かくなる上は首を切ってお詫びするのみ…!と本気でダガーを首にあてたところを止められ、そっと取り上げられた。

死んでいるので自害しても消滅しないが、ここでやられると見つかったときに厄介だ。

堅物のディザストロにそこまで期待していない。

出来ないのなら最初から上の立場として君臨すればいいだけの話だ。

 

「ほら、最初の設定でいいから。その小難しい顔を戻しなさい」

「いえ、いいえ!神のご要望に応えられぬなど信徒失格でございます!出来ぬと言ってはなりません!出来なければならないのです!不出来な私ではございますが、もう一度だけ御慈悲を!」

 

お前は社畜か。

言わなければよかったと後悔しながら、面倒臭くなってきたアーデンは適当に手であしらった。

やりたいのなら好きにすればいい。

どんな仕上がりであれ、どんな設定であれ、怪しまれなければいいのだ。

 

「なんでもいいよ。好きにしなさい。失敗したら後で俺の部屋だからね」

「はい!ご期待以上の成果をお見せいたします!」

 

颯爽と立ち去って行った我が子に溜息をつく。

どうしてあんな子に育ってしまったのか。

あの研究室に六神の聖典を置いたのはどこの誰だったのか。

信仰を愛と言い換えたのは誰だったか。

少なくとも、彼を担当していたあの研究者であることは確かだ。

御しやすいが、厄介な存在に育ててくれたものだ。

 

「聖女様を失った反動かなぁ」

 

彼が世界の真理を理解した研究所の殺戮事件。

殺戮兵器と呼ばれ始めた最初の事件。

生と死の意味を、自らの感情の異質さを知った愚かな話。

宗教とはかくも歪なものだ。

 

人の心を助ける精神の支えになることもあれば、行き過ぎた信仰は戦争に発展する。

ディザストロなどいい例だろう。

信仰は忠誠に変わり、誓いは呪縛になった。

破綻していた彼を宗教に縛り付け、心身の立て直しを試みたと聞いた時は面白そうだと放置したけれど、まさかこう変化するとは。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、カップラーメンなるものを食している最中にディザストロは声をかけられた。

メテオを見に行くから展望台まで一緒に行かないか、という王子一行からの誘いだった。

何やら頭が痛いというノクティスだったが、六神の啓示だと知っているディザストロはただ心配そうにするだけにとどめた。

それ以上知っているような動きは疑心を生む。

 

「大丈夫なのですか?頭が痛いのなら横になった方が…」

「あー、大丈夫。ちょっと痛いだけだし」

 

直ぐ目の前にある展望台までの足取りはしっかりしている。

心配そうなそぶりのまま展望広場まで行くと、アーデンが先に立っていた。

 

「あれ。偶然」

「おい、またあんたか」

「君達もだけど、ディアもだよ」

 

アーデンは意地悪をするようにディザストロを見た。

全員が一斉に彼を見る。

知り合いだったのか、と王子達に見つめられる中、彼はニッコリとほほ笑んだ。

 

「やあ、アーデン。君がレスタルムにいるなんて知らなかったよ」

 

完璧なため口、完璧な呼び捨て。

詰まることなく、微笑みを崩すことなく完遂して見せた堅物にアーデンは面食らう。

敬語を外したことのないディザストロが初めて普通に喋った瞬間を見たノクティス達も驚いたように声を上げた。

 

「え!?普通に喋れたの!?」

「彼とは古い友人でして。敬語の方が話しやすいのですが、幼い頃からの付き合いですし特別です」

 

もちろん嘘は言っていない。

双方が幼い頃からの知り合いではないが、ディザストロが享年六歳の頃からの付き合いである。

敬語が話しやすいのも彼の標準語が丁寧口調だからだ。

敢えて指摘するならば友人関係が嘘にあたるだろうか。

 

「それで、何か用かな?」

「ああ、そうそう。昔話って興味ある?」

「昔話?面白そうだね」

 

微笑みの裏でディザストロは荒れ狂う。

ああ、神よ!

お許しくださいませ!

貴方様の望みとはいえ、このような不遜な態度!

ああ、何とお詫びすれば宜しいのでしょうか!!

どうか、どうか、お許しくださいませ!

 

引きつりそうになる笑顔を根性と信仰心で抑え込み、アーデンと口裏を合わせる。

これも、思し召しである。


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