本編でゲーム好きはあるかもしれないが此処までじゃない。
泡沫の王には確実にない設定。
本編とは一切関係ありません。
・概要
ディザストロ・イズニアが存在しない世界線。
家出も自殺もしない代わりにゲームがないといきていけない。
アーデンおじさんとは後々関わり合いになり頭のネジが飛んでいる者同士息が合ったり同族嫌悪だったりするかもしれない。
ノクティス達とは生まれた時からの付き合いで非常に仲がいい。
大学まで卒業しているため頭はいい。
左手の親指に黒曜石のリング。中指にプラチナ。
右手の中指にアクアマリン。薬指にラピスラズリ。
計四つの指輪をつけている。どれも願掛けで立て爪なしの機能性を重視。
人が生きると書いて"人生"。
生活する意味も生きる意味も含めて表される"Life"。
どちらも共通しているのは"生きている"ことを表す、ただそれだけ。
では生きるとは何か。
生活するとは何か。
人それぞれの回答がある中で敢えて答えを呈すならば。
「お遊びの時間だ。楽しもうぜ?」
ーー俺はゲームと答える。
オルティシエのマーゴと呼ばれる店で、メディウムはニックスとゲームをしていた。
ただ遊ぶだけでも楽しいが、どうせならば昼食代を賭けて一勝負と洒落込んだ。
一食にしては高いマーゴの支払いは痛手だとニックスは懸命に奮闘している。
今回行っているブラックジャックは一対一でも良し一体多数でも良しのカジノ向きゲーム。
二十一を超えて仕舞えばバーストと呼ばれる負け確定手札となる。
初期の手札は二枚。
そこからヒットかスタンドか。
もう一枚山札から引くか、そのまま勝負するかを選ぶ。
ゲーム慣れしたメディウムとそこまでではないニックスが勝負するには公平さが不可欠。
ブラックジャックはわざわざイカサマをしなければ確実に運ゲーだ。
昼食代をケチるつもりではなくただ遊びたいメディウムは緩やかにゲームを進めている。
「おいおい、ニックス。特別ルールなしにただ二十一に近けりゃいいんだぜぇ?十八でスタンドとかチキんなよぉ。面白くねぇなぁ。」
「バーストしたら勝負すら始まりませんから。てかあんた相手に十七でホールドは妥当でしょう。ギャンブラー。」
「ばっか。十六程度なら賭けに出た方が面白くなるだろーが。」
初期手札二枚なのは同じだが、一枚は伏せて置く。
自分のターンになればひっくり返して数を計算してヒットかスタンドか選ぶのだ。
ここでディーラー用にルールがある。
ディーラーは自分の手が17以上になるまでカードを引かなければならない。
十七以上になればその後追加のカードは引けない。
ディーラーが二十一を超えた場合には、スタンドしたプレイヤーは勝利である。
つまり、ニックスの行動は決して間違いではないはずなのだが。
「んお?
悉く負けていた。
最初のうちはバーストしまくりでゲームにならないほどだったがだんだん慣れてゲームと言えるレベルにまでなってきた。
メディウムも手加減して時折バースト負けの引き分けに持ち込んでくれたりと長期戦になっている。
試合的に見れば非常に生ぬるいのだが、時折見せられるナチュラルブラックジャックや意図せぬブラックジャックが確実にニックスの心を砕いていった。
相手がこのテーブルを仕切っているのだと強く主張する運とステータスの差。
勝負になっているのは相手の善意なのだと推して知るべしだ。
だがニックスも引き下がれない。
このマーゴの昼食代で一週間は飲み食いできるのだから。
払うわけにはいかないのだ…!
「へいへい粘るねぇ。降参なんて味気ないことはしてくれるなよー。」
「引き下がれないんです。飽きたらいつでも降りていいですよ。」
「やぁなこった。ここからはわざとバーストしてやらないからなー。」
「ちょっ!慈悲!慈悲を!」
「はぁい、メディウム様のお慈悲は本日完売でーす。ヒット?スタンド?」
「くっ!カモ扱いしやがって!」
チラリと時計を確認したメディウムは畳み掛けるようにニックスの手札を負かしていく。
宣言通り慈悲は無いのかバーストさせられるわブラックジャックされるわ散々な結果でぼろ負け。
泣く泣く領収書をもって寂しい財布をさらに寂しくさせる羽目になった。
涙目で元凶たるメディウムを睨みつけてもケタケタと笑うだけで本気で払う気はないようだ。
最低上司だ。
こんなのに護衛必要なのか。
絶対イカサマしてる。
「俺はゲームに勝ち確定のチートはしない主義だぜ?」
リスクを背負ってのゲームはそのリスクすらもゲーム内容。
ゲームをぶち壊す
勝っても負けても真剣勝負。
相手が大真面目に臨んで来るならばあくまでフェアに。
ストーリー破綻のゲームはその労力こそ買うが、面白さはかけらもない。
「ただし。お前がもしイカサマをしていて、俺が気づいていたら。」
先程何処かへとしまっていたトランプを取り出し、目にも留まらぬ速さで二枚のカードをニックスと自分の目の前に置く。
カードを切り続ける速さは異常で残像すら見える。
「ヒット?スタンド?」
目の前に配られたカードは
合計十二。
「ヒット…?」
突然始まったブラックジャックに困惑しながらも、数字からしてヒット一択。
確率的にバーストはほぼありえない。
そう、思っていたのだが。
「ハートの
「ヒューッ!ハートの女王様はニックスにご執心らしいな。」
絵札は総じて十に数えられる。
必然的にバーストだ。
確率ゲームのブラックジャックでほぼ見ないバーストの例が出てしまった。
「素敵なハートの女王様は少々過激なのさ。…断頭台へ真っ逆さまってな。」
齧りつくようにメディウムの手札を見ればスペードの
ナチュラルブラックジャックだ。
「ああ、断頭台は登るもんだったな。なら首吊りで地獄へ真っ逆さまだ!滑稽だなぁ!ニックス坊や!」
ケタケタとカードで口元を隠しながら笑う様はとんでもない大悪党。
まるでシナリオが用意されていたかのような完璧な負け。
「と、まあこんな感じでぼろ負けさせて三ターンキル確実にだな。」
「な、何されてたのかわからなかった…。」
「カード自体に細工はないさ。ただちょーっとばかし手癖の悪い奴がカードを狙って配ったらしいなぁ?」
ニヤニヤ顔で笑う姿は全くもって王子に見えない。
こちらがイカサマを仕掛けても負けていたし、何もしなくても負けた。
勝ち確定ゲーム嫌いなんて嘘っぱち。
存在そのものがチート野郎じゃないか。
悔しさに顔を歪めるニックスの肩をポンっと叩く。
「そらお仕事の時間だ。後ろでシャキッと控えとけよー。寒々しい財布君。」
悠々とゴンドラに乗り込む悪魔のような王子にため息をついた。
オルティシエに来た目的はニフルハイム帝国宰相のアーデン・イズニアとの停戦協定へ向けて打ち合わせ。
駆り出されたのは次期ルシス王国宰相のメディウム第一王子。
用意された場所はアコルドの首相官邸。
二人っきりというわけにも行かずお互い護衛を連れて用意された完全防音の部屋に入るはず、だったのだが。
「初めまして。メディウム第一王子。」
「お初にお目にかかる。アーデン宰相。」
護衛も付けずにノコノコやってきたのはどちらだったか。
嫌な予感のしたメディウムはニックスに扉の前で待機するように命じてその身一つで会談の部屋へと足を踏み入れた。
部屋の中には緩やかに紅茶を飲む胡散臭いおじさん。
又の名をアーデン・イズニア。
側には誰も控えておらず本当の意味で一対一となった。
何故メディウムが嫌な予感でニックスに入室を許可しなかったのか。
それは勝負師でありセオリーを知り尽くした彼の勘がそうするべきだと囁いた、という曖昧な答えになる。
正しいか正しく無いかはアーデンの顔を見てわかった。
帽子もとらない頭も下げないコートも脱がない。
このおっさんは。
完 全 に 。
メディウムを舐めている。
「お待たせしてしまったかな。」
「いえいえ。第一王子であらせられるメディウム様を待たせるなど恐れ多いことにならなくてよかった。」
金色の瞳はメディウムに対する侮蔑の色しかない。
軽蔑、蔑視、侮蔑、なんだっていい。
兎に角自分が舐められているのだと理解したメディウムはスッと目を細める。
こいつは敵だ。
国だとか因縁だとかそんなものは関係ない。
何にも囚われないただ純然たる敵だ。
「本日の打ち合わせはアコルド政府側が記録してくださる。準備が整うまでしばし談笑を、と提案したい。どうかな?」
「ええ。勿論。素敵な提案ですね。」
内面などおくびにも出さずににこやかな笑顔で正面の席に座る。
ここで顔に出せばゲームはこちらの負けだ。
外交は選択肢を自分で考え出すノベルゲーム。
正解を導く前に相手の性格を把握しなければならない。
敵であろうがなんであろうが紳士的に。
スッと背筋を伸ばして話題を振る。
「なにぶん若輩者でな。第一王子とは名ばかりの肩書きだ。今畏まるのはお互いに肩身が狭いだけであろう。楽にして話をしよう。」
「では改めて。何か聞きたいことがあるのかな。メディウム君。」
やはり舐めきっていたのだろう。
なんの遠慮もなしに君付けに加えて子供に相対するような口調。
その程度で怒るほど心は狭くないが、本編開始前の準備フェーズで馬鹿にされるのは気に入らない。
「ニフルハイム帝国は不思議な舵取りをする。」
首都であるインソムニアを除く全ての領土をニフルハイム帝国に譲渡するのは各地にルシス王国への恨みを残すことになるが、国としてはそれしか手がないともいう。
ルシス王家として残ってさえいれば我らが使命は果たされる。
ぶっちゃけて仕舞えば使命的になんの損害もない。
メディウムの
では使命という観点から外れて国王という立場から物事を見よう。
レギス王はインソムニアで戦争をけしかける心算。
たとえ使命が果たされるとしても国王としての矜持がある。
故に我々は停戦協定とは名ばかりに戦争の準備中だ。
さて、使命はまだしも城で戦争を仕掛けられることを想定していないニフルハイム帝国なのだろうか。
答えは無論。
否である。
故におかしい。
穏便にしているようで冷徹。
実直なようで暗躍。
騙しているようで騙されている。
その舵取りをしているのがこの宰相だというのならば。
何故わざわざ王家を残すのだろうか。
歴史ある国だから?
神凪たるフルーレ家と親交があるから?
神の使者たる魔法が使えるから?
どの理由でも当てはまるほど巧妙に建てられた道筋。
どれも納得できるのに違和感が拭えない。
それはつまり。
「まるで…神話を信じているかのような。そんな動きだな、と。」
目の前に座るアーデンが胡散臭い笑顔を向けてきた。
察しのいいメディウムは笑顔の下に言葉が見える。
それすなわち肯定。
信じているのだと。
この宰相は宣うらしい。
「いやはや。まさかこんなところに伏兵がいるとは。王族はみんなマークしてるつもりだったけど侮れないのも居るね。ゲーマー君?」
「ほぉ。それはそれは。褒め言葉として受け取ろう。」
ルシス王家そのものを馬鹿にする発言だが、その言葉に納得が行った。
何故だかは知らないが彼はルシス王家を心底憎んでいる。
それでいて破壊しないのは何かを待ち構えているからか。
絞られる可能性はいくつもある。
その中でも有力なのは二つ。
ルシスを骨の髄までしゃぶり尽くして復讐と成すか。
こいつが例の"星の病の王"か。
神話を信じているならば後者か。
「…二千年の眠り姫は随分狡猾でらっしゃる。」
「メディウム・ルシス・チェラム。これだけの会話でそこまで行くか。」
「昔から違和感があっただけだ。貴方が宰相になった時から、ずっとな。生憎だが望みまでは察せない。背負わされた使命も直接的ではない。聞き流せ。只の戯言だ。」
尊大な態度のメディウムにアーデンはその帽子を取り軽く会釈をする。
多少は認めてやろう、という行動なのか。
帽子からのぞいた顔が骸のような風貌に変わる。
一瞬の出来事だがメディウムは何も言わず、懐からトランプカードを取り出した。
「ゲームは好きかね?」
「ほどほどに。」
「では一戦と行こう。未来の戦いへの前哨戦だ。」
優雅に足を組み、山札の一番上のカード二枚をアーデンに見せる。
ジョーカーとジャック。
薄く笑う二人の試合は引きつり顔で入室するアコルド政府の人間が来るまで続いた。