本編でゲーム好きはあるかもしれないが此処までじゃない。
泡沫の王には確実にない設定。
本編とは一切関係ありません。
・概要
ディザストロ・イズニアが存在しない世界線。
家出も自殺もしない代わりにゲームがないといきていけない。
アーデンおじさんとは後々関わり合いになり頭のネジが飛んでいる者同士息が合ったり同族嫌悪だったりするかもしれない。
ノクティス達とは生まれた時からの付き合いで非常に仲がいい。
大学まで卒業しているため頭はいい。
左手の親指に黒曜石のリング。中指にプラチナ。
右手の中指にアクアマリン。薬指にラピスラズリ。
計四つの指輪をつけている。どれも願掛けで立て爪なしの機能性を重視。
故郷が燃えていく。
生まれ育った王城に血の匂いが充満する。
王と宰相を逃がし、姫を英雄に任せ、裏切り者と対峙する。
これも全てシナリオ通り。
メインストーリーに実害がないのなら、シナリオ破綻は免れる。
「なぁ、
「……狂人め」
「おおっと!狂人!俺は無害な村人だと言うのに!」
大仰な身振り手振りはご愛敬。
ゲームはまだ始まったばかりだ。
メインクエストを進めるために、噛ませ犬のサブキャラは早々にご退場願おう。
何故って?
そんなもの、シナリオライターに聞いてくれ!
クリスタルに寄生しているあの野暮ったい出不精に!
「人狼ゲームはおしまい?今度は格ゲー?俺、コマンド入力苦手なんだけどなぁ。ニュートラルとの入れ替えが雑でぇ」
「第一王子……貴様のせいでどれだけの諸島か犠牲になったと……っ!」
「ああ、それ恨んじゃってトレイター?よくやるよねぇ狼さん」
肩を竦めたゲーマーに怒りの牙を研ぐ。
謂れのない事柄だが、ゲーマーが知っていて見て見ぬふりをしたのもまた事実。
あの時止めていれば、あの時教えてくれれば、きっと余計なことをあの赤毛の宰相に吹き込まれでもしたのだろう。
全く持って可哀想な策略だ。
「馬鹿だなぁ!人に教えてもらって救える程度の正義なんてろくな経験値にもならない!」
「貴様ぁあああッ!!」
それもこれも全てゲーム。
言っただろう、人生はゲームだと。
怒り狂って矛先を向ける誰かさんも。
死ぬ筈だったサブキャラが生き残った未来も。
全ては誰かが描いたシナリオに沿って裁定が下される。
「ストーリーをひっくり返すには、それ相応の対価が要るんだよ」
神より授かった剣が全てを粉砕して心臓を貫く。
けれど、復讐に燃えた鬼は死すらも超えて男の左腕をもぎ取った。
肉も骨も、神経すらも引き剥がされ、まともな者は叫び声を上げるソレに、男は微笑む。
そう、これもゲーム内容だから。
「それでいいんだよ。タイタス。お前は間違っちゃいない。来世はクソみたいな世界じゃなくて、もっと綺麗なところに生まれろよ。将軍サマ」
「狂っ……てる……」
崩れ行く亡骸に戦利品のように自身の左腕を持たせ、血を滴らせる肩に魔法をかけた。
なくなった腕で手に入れたのは家族の生。
彼は戦いの前日、神と家族の生死ギャンブルに勝利し、たった今参加費の"腕"を支払ったのだ。
「はー……ゲーム楽しー」
人生はゲームだ。
掛け金はいつだって自分自身。
持ち合わせのカードを切って、振ったダイス目に責任を持つ。
夜明けと共にトボトボト歩き出した背は、酷く切ない。
彼を出迎えるのは父でも姫でも、ましてや弟でもない。
いらぬ翼を付け、大仰にお辞儀をするこちらも哀れな男。
人生を掛け金に二千年もギャンブルを続けるとんでもないゲーマーだ。
「腕がないと不便だねぇ」
「義手を用意させよう。君のためにね。ニフルハイム帝国に寝返ったメディウム・ルシス・チェラム」
「今度は俺が狼さんってな」
後のことは父と姫が何とかするだろう。
世界の命運は弟が背負っていく。
自分は今まで通りにシナリオの役者を演じるだけだ。
「おお!我が愛しの祖国よ!永遠にさようなら!」
彼に用意されたシナリオは至極単純なものだ。
一、ニフルハイム帝国へ寝返り、ノクティスの敵として彼を鍛えること。
二、ノクティスが死ぬような事態を秘密裏に防ぐこと。
三、アーデンの計画に加担すること。
四、闇に落ちた世界で処刑されること。
五、ノクティスにファントムソードを残すこと。
この五つが達成されればメディウムの魂は解放され、彼は漸く自由になるのだ。
「素晴らしい!敗者には人生設計をプレゼントだ!」
ケラケラと笑うメディウムを先駆者は哀れむように見つめた。
彼はアーデンとは違って聖人君主でもなければ献身の塊でもない。
ただゲームさえできればそれでいいのだ。
これもまたゲームだというのなら彼は喜んで処刑されよう。
「首吊り台かな、断頭台かな、火あぶり?銃殺?石を投げられる?当たり所が悪いチーズかも!」
「処刑を楽しみにする人類がまだいたことに驚きだよ」
「シガイになって彷徨ったりしたらどうしよう!ああ!楽しみだなぁ!」
メディウムはもう十分満足だった。
家族と姫さえ救えれば彼はゲームにボロ勝ちだ。
彼が欲するものはそれ以外になく、守れれば上々、守れなければ途中放棄で自死を選ぶ。
彼の中ではそれだけの話なのだ。
今回はどちらも守れたので後はバハムートの言う通り喜んで破滅の道を歩むのである。
「俺も十分狂ってると思うけど、君も大概だね。あのクソ神の言うことを聞き入れるなんて」
「ゲームはルールを守ってこ……そ?」
ドチャ。
血をまき散らして地面と熱いキスをかましたメディウムが虚ろな目でアーデンに微笑んだ。
焦点の合わない眼球の動きから、恐らく目が見えていないのだろう。
テンションぶち上げて止血も程々にリジェネのみで腕の治療をするからこうなる。
どうせ貧血か、死にそうなのか。
「あはー、へるぷみー協力者殿ー」
「君みたいな変人を助ける義理は全くもってないと伝えよう」
「そう言わずにさー、ねぇねぇー」
重々しい溜息と共に、アーデンは歩き出した。
地に落ちた狂人は放っておいて、彼は悠々と崩壊の街を後にする。
後ろから聞こえてくる緊張感のない死にかけの声などに振り向いたりしなかった。
「マジで置いてくとかさぁ、無いと思うんだよねぇ」
「と言いつつ軍事基地まで来る君もどうかと思うよ」
結局、メディウムは一人で軍事基地までやってきた。
街をすぐ出たところには検問が行われており、事情を知っている魔導兵に連れられて何とかやってきた。
既に王都陥落から一夜明けた今、父はハンマーヘッド付近まで逃げ果せているだろう。
遺言と称してニックスに父のことを預けたので、後はどうにかなる。
「俺が将軍になる話って、どこまで通ってるの?」
「本国に帰ればすぐに就任出来るレベルで通ってるよ。あーでも神凪の誰かさんにはまだ言ってなかったかも」
「えーそれマジー?ぜってぇわざとじゃぁん」
肝が据わっている男、メディウムはどこから取り出したのか自前の携帯ゲーム機を持って揚陸艇に乗り込んできた。
適当な椅子にゴロンと転がったと思えば片腕で器用にゲームをこなすのである。
「しまった、どうせ賭けるなら足にすればよかった」
「義手が手に入ればそんなに悩むことはないよ。ほとんど甲冑だけど」
「えー絶対ボタン壊すわぁ」
呑気にゲーム機の心配をしている男は本当に自分がこれからしでかすことを自覚しているのだろうか。
恐らく父王レギスはメディウムの失踪に気付いている。
腕をタイタスに握らせたのは死亡説を濃厚にするためだったが、他に遺体が見つからないのも不自然か。
メディウムが持っているスマートフォンはそのまま残されているが、着信の嵐で電源はオフ。
一応設定として、最初は記憶喪失風にノクティスに絡みに行くことが決まっている。
「設定と致しましては、メディウム君記憶喪失でニフルハイム帝国による洗脳!将軍に就任!ってところですけれども」
「その方があの甘ちゃんに対する精神的負担が少ないって案でしょう。剣神も何考えてるんだか」
「俺に聞かれてもわからんって」
記憶喪失の演技楽しみだなぁ、と呑気に構えるメディウムにアーデンは薄ら笑いを浮かべた。
自分とは違うベクトルで頭が可笑しくなってしまったルシス家の面汚し、メディウム。
会談後に交換した連絡先に突如としてルシス王国陥落を仄めかす綿密な草案を提案された時は大声をあげて笑ったものだ。
彼曰く、バハムートとゲームをしているのだと。
そのゲームに勝つために是非協力して頂きたいと自国への謀反を大声で喚いたのだから素晴らしいものだ。
乗るしかないと便乗したアーデンも大概だが、的確に敵国を牛耳っている男に魅力的な提案をするメディウムも酷い。
「処刑までどうこぎ着けるつもりなの。余程のことがないと難しいでしょ」
「人心を煽ればちょちょいのちょい。バハムートにもサブリミナル効果的に協力してもらう予定でーす」
「見ものだね。まあ俺はルシス王家が滅んでくれさえすればいいから。好きにすれば」
レギスはもう子を設けられる年齢ではない。
ノクティスも死は確定している。
メディウムも処刑までがワンセットだ。
アーデンがこの話に乗らない手はなかった。
バハムートがストーリーテラーであるというのが気がかりだが、それはもう諦めよう。
今はこの面白そうなゲームに乗った方が楽しそうだ。
「ちなみにどんな死に方がいいと思う?」
「水銀飲んで死ねば」
「不老不死!いいねぇ!」
「全然面白くないんだけど」
「本物の不老不死にはお気に召さない?交代してあげようか?」
「それじゃあストーリー破綻でしょ。大人しく死んで」
終始テンションの高いメディウムは片腕から零れ落ちたゲーム機もそのままにケラケラと笑った。
頭の可笑しいゲーマーにとって今ほど楽しい世界線はない。
こっそりと準備している裏ステージまでの道のり完成まで目前だ。
あとはじっくりコトコト煮込んで、ノクティスに飲み込んでもらうとしよう。