本編でゲーム好きはあるかもしれないが此処までじゃない。
泡沫の王には確実にない設定。
本編とは一切関係ありません。
・概要
ディザストロ・イズニアが存在しない世界線。
家出も自殺もしない代わりにゲームがないといきていけない。
アーデンおじさんとは後々関わり合いになり頭のネジが飛んでいる者同士息が合ったり同族嫌悪だったりするかもしれない。
ノクティス達とは生まれた時からの付き合いで非常に仲がいい。
大学まで卒業しているため頭はいい。
左手の親指に黒曜石のリング。中指にプラチナ。
右手の中指にアクアマリン。薬指にラピスラズリ。
計四つの指輪をつけている。どれも願掛けで立て爪なしの機能性を重視。
義手になった時からリングをネックレスにして首から下げている。
「どうして……!どうして裏切ったんだ!!」
弟の虚しい叫び、家臣たちの怒りの表情、知らぬ一般人の悲痛な瞳。
第一王子の裏切りは瞬く間に報道され、ついに対峙することになった彼等は怒りを彼にぶつける。
ゲーマーはその叫びに微笑みかけ、用意されたテキストを読み上げるのだ。
自分は所詮、踏み台のNPCだから。
「はて、どこかでお会いしましたか?」
アラケオル基地で悠然と構える男の名はメディウム・ルシス・チェラム。
見紛う事なきルシス王家の第一王子であり、魔法の使い手、そしてノクティスの兄である。
その口から飛び出たあまりにも気の抜けた言葉。
信じられない、とノクティスは目を丸くした。
「それで言い逃れできると思ってんのか!?」
「ふむ、俺は正しく君の名前を知らないと言っているのだがね。そう激昂することか?初対面の人に名前を聞くのは不思議なことではないだろう?ああ、今の俺にはほとんどの人が初対面にあたるが……」
「何馬鹿なこと言ってやがる!俺はアンタの弟だぞ!!二十年も一緒に過ごしてきたじゃねぇか!」
「弟?そうか、俺には弟がいるのか。では妹も?兄や姉もいるのかもしれないな!是非教えてくれ!」
嬉しそうに瞳を輝かせるメディウムにノクティスは顔を引きつらせる。
こんな兄は知らない。
いつも引きこもりでゲームばかりしていて、でも家族のことが大好きで。
クマもない、ゲームもしていない、真っ黒な布に包まれた片腕と満面の笑みなんて知らない。
「なんなんだよ……なんでそんな……」
「ああそうか、君には状況が分からないのか。弟なのだから俺の状況は知っていて欲しいな……」
にっこりと微笑んだ兄に薄ら寒いものを覚え、ノクティスは崩れ落ちた。
戦死したかもしれないと告げられていた兄が、どうしてこんなことに。
「いやぁ、実は記憶を失ってしまってな。ニフルハイム帝国に保護され、何故だか将軍をやらせてもらっている。ルシス王家の第一王子?とかで、魔法が使えるからいい戦力になるのだと」
「記憶喪失だって!?」
「そうらしい。良く知らんが、ルシス王国は滅んでしまったから友好国のニフルハイム帝国が保護したとか……救われたのだから最大限に恩返しをしなければなぁ。分かってくれるか、弟らしき青年」
ずっと笑顔を浮かべる兄の言葉は明らかに矛盾だらけだ。
帝国に吹き込まれたのであろう戯言を赤子のように全て飲み込んで本気にしている。
彼の中で正義も悪もなく、ただ拾ってくれた帝国を刷り込みで好んでいるようにしか見えなかった。
薄っぺらい愛情と愚かにも真実を知らない赤子。
卑劣な行いに、弟も、家臣達も唇を噛み締めた。
「兄貴……なあ、メディウム……」
「ん?なんだ」
「親父に会いに行こう。アンタは、間違ってる」
「……ほう」
父の下へ連れて行き、真実を語ろう。
騙されているのだと知れば兄はきっと戻ってきてくれる。
記憶がなくても家族だから、帝国なぞに引き渡して戦争に身を投じさせるわけにはいかない。
兄を、助け出さねば。
しかし、兄は寒い笑顔を浮かべた。
全く心の籠っていない笑みで、真っ黒な手を見せつける。
「残念なことに、それは許されない」
「許す許さないの問題じゃねぇ!家族が会うのにどんな理由もいらねぇ!」
「俺には君が本当に弟か判断する材料がない。ルシス王家にしか魔法が使えないという話もあるが、君のお友達は魔法を使っていたじゃないか。どこまで真実か俺には分からない」
「それは、使い方の違いで!」
「俺は帝国も、君達も、信用はしていないのだよ」
今でこそ救われた恩があるから言うことを聞いているが、真実を知れば離反する可能性もある。
そう仄めかして、彼はノクティス達に疾く去るように告げた。
今のところ恩人に仇名す侵入者であることに変わりはないのだと彼は鼻で笑った。
「ノクト、今すぐメディウム様をお連れするのは不可能だ。今は撤退しよう」
「クソ……兄貴……」
レガリアにさして興味はないのか、好きにすればいいと逃走の邪魔をする気もないメディウムを見つめる。
真っ黒な瞳にいつもの暖かい色は見えず、ただ静かに凪いていた。
自分の知らない兄、間違いなく別人のようであった。
「俺はしばらくこの地域にいる。レスタルムにも何度か出没するだろう」
「なんでそんなことをわざわざ……」
「次は、ゲームでもしてじっくり話し合おう」
驚いたように口をぱくぱくさせるノクティスに手を振り、彼は踵を返した。
最後の一言は、些細な言葉だ。
翌日、出店でバンズに挟まれた肉にかぶりつきながら義手を外す見知った男がレスタルムに現れた。
ジャレット・ハスタとイリス・アミシティアがグラディオラスからの情報で記憶喪失のメディウムだと判断し、声をかけてみたところフレンドリーなレスタルム市民だと思われたらしい。
それ以降彼はただ出店で食事をするばかりで、先程顔をしかめながら義手を外したところだった。
痛々しい傷跡は縫われた痕もなく、不自然に塞がれている。
「マジでレスタルム来てるじゃねぇか」
「おや、自称弟くん。奇遇だね」
複数人でゾロゾロ行くと話したいことも話せないだろうとノクティス一人が彼との対話に臨んだ。
視界に入る位置に仲間達が控えているが、人混みに紛れれば一対一だ。
メディウムも特に取り囲まれていることに気付くこともなく、残りのバンズを口に放り込んだ。
「えっと、なんだったか、ノクティス君だっけ?」
「ノクトでいい。兄貴にそう呼ばれると痒い」
「ではノクトと。俺の下へ来たということは、君は自信を持って自分は俺の弟だと言いたいのかな」
「当然だ。出生記録とかもあんだろ」
「今となっては確かめようもない公的な書類だろう。まあ、君が弟だと名乗りを上げるのであれば俺は受け入れよう。嘘か真かは何れ判断できるさ」
机に置かれた真っ黒な義手を嵌め直し、何度か動きを確認する動作に眉をしかめた。
王都の戦いで腕一本のみが発見されたとの報告が真実であれば、腕が片方欠けているこの男が同じ顔を持つだけの別人と言うことはないだろう。
魔法を使っている様子は見ていないが、些細な仕草や癖が泣きたいほど一緒だ。
「親父が、兄貴に会いたがってる」
「なんだったか、レギス王だったか。彼は崩御したのでは?」
「え、あ、帝国ではそう報じられてんの?」
「正しく崩御と。何か問題でも?」
ちょっとした違和感。
メディウムは今崩御と言った。
それは彼の中で父は死に、弟はつい先日生存を確認したという答えに他ならない。
しかし、彼は先日の戦いで崩御したはずの父と会うことに対して”拒否”を示したのではなかったか。
死体に会うとでも思ったのだろうか。
それにしては、随分とおかしな返答をしたことになる。
「なあ、兄貴」
「どうした」
「本当に、記憶がねぇの?」
「ん?まあ、覚えていることは一般常識レベル……好き嫌いは忘れた……なんだ。何を疑う」
記憶喪失にしては、落ち着きすぎているのではないだろうか。
片腕を失った記憶喪失者が、こんなに平然としていられるものなのか。
良く分からない世界に放り出され、いきなり将軍にさせられて知りもしない土地で単独行動。
だが、彼はまるで知っている土地のように闊歩し、コミュニケーションを取っている。
王との決戦直後から失踪し、帝国に保護されたとしてもたった一週間だ。
もっと、混乱して、慌てて、疑心暗鬼になるものではないのか。
ノクティスにとって、兄と違う部分は瞳の中に眠る感情だけ。
いつも燻っている愛情がとんと見えないだけで、その他は全て兄と変わらない。
人に悟らせない顔の作り方は兄の専売特許だ。
そもそも、記憶喪失自体が嘘だとしたら?
「……なあ、兄貴の嫌いなカードってなんだ」
「ジョーカーだ。他にない」
「なんでジョーカーが嫌いなんだ」
「決まってる。あれは……」
当たり障りのない問いだ。
しかし、メディウムはそれ以上言わなかった。
まるでその先にある答えは禁句だとでも言いたげに、そっぽを向いたのだ。
ノクティスはその些細な挙動で確信した。
「俺は、どのカードなんて言ってねぇ。トランプかもしれねぇし、トリプルトライアドかもしれない。普通のカードゲームかもしれない」
「待て、今のは」
「兄貴は、ジョーカーが嫌いだった。いっつもその理由は教えてくれねぇけど、決まって口をつぐむ時に目を逸らすんだ。んで、天を睨む」
「違う、そんな癖はない」
「あるんだ!兄貴にはある!無自覚で、俺しか知らない癖!好き嫌いは忘れたって言ってたよな!なんでジョーカーのことは覚えていやがるんだ!」
身を乗り出して義手を掴んだノクティスを静かに見上げた。
彼は、しくじったと思う反面、仕方がないことだと諦めている。
あの問いには、どうしても嘘がつけない。
「ノクト、憎しみはどうあがいても消せないんだ」
「……は?」
「俺はジョーカーが大嫌いだ。このくそったれな世界も、馬鹿みたいな神様も、愚図みたいなこの体も、死んじまえばいいと思ってる」
「何言って……」
「やっとだ。ジョーカーが、道化が牙を剥ける日が来たんだ。邪魔しないでくれ」
バレてもバレなくてもシナリオは破綻しない。
面食らったようなノクティスの頭を撫で、いつも通りの表情を浮かべた。
大丈夫、兄は弟も父も愛している。
ただ、今はどうしてもそんな風に言えないだけ。
「親父に生きててよかったって伝えてくれ。俺には俺のやりたいことがあるんだ」
「ま、待てよ!兄貴!なんで将軍なんかになったんだ!やりたいことってなんなんだよ!!」
無理があるとバハムートにいったのだが、やはりバレてしまった。
記憶喪失のフリなんてバレる前提だ。
ノクティスの心のためとはいえ、演技力皆無の男にやらせるには酷だ。
弟には悪いが、これから付き合ってもらうしかない。
「俺は今、イオスRPGをプレイ中なんだ。お前も存分にプレイしろ」
「はぁ!?」
ひらひらと手を振って離れて行くメディウムを追うために仲間達が動こうと足を向けたが、彼は既にその場から消え去っていた。
その場に残されたのは魔法の残滓だけ。
追い掛けるのは難しいだろう。
「クソ……っ!」
ゲーマーが残した一言が妙に頭に残っていた。
レスタルムから少し離れた草原の合間。
揚陸艇まで転移したメディウムは一ミリも申し訳なく思っていなさそうな程度の低い謝罪を口にした。
「すまーん。バレた」
「だよね。っていうかバラすつもりで行ってたでしょ」
「あ、分かってた?」
「見りゃわかるって」
揚陸艇の前で暇そうにしていたアーデンはどうでも良さそうに欠伸をしている。
この茶番に付き合ってもらわねば神を出し抜けないので仕方がない。
言われた指令通りに遂行しました、という事実が肝心なのである。
成功したかしないかは元来どうでもいいのだ。
結果が同じであれば些細なサブ目標は無視される。
「どーすんの。弟君食って掛かってくるよ」
「食ってかからせるんだよ。絶対聞き出してやるーって動力を使ってファントムソード回収を早める。上手くいけば早期達成報酬もあるかも?」
「あっそ。早く乗ってくんない?」
「うわー興味なさげ」
「お前のことなんてどうでもいいし。処刑される瞬間だけ最高に面白そうだから手伝ってるだけ」
「あ、網焼きとか考えたんだけど。虫に食われるってのもあるらしいよ?」
ゲーマーから自死志願者に降格するレベルの面倒くさい会話にアーデンが顔をしかめる。
なぜこんな面倒な男をキーに選んだのか、神は心底愚かだと鼻で笑った。
※ちょっとした蛇足
久々に番外編を更新。
二話連続投稿でございます。
IFのお話は大方「王都陥落」「レスタルムにて」「オルティシエ」「帝都にて」「闇の世界」「決戦」ぐらいの大枠で書いて行こうと思っております。
ここまで書くのはゲーム脳と神父ぐらいかもしれませんが……。(殺意と鈴の音は厳しい)
更新はかなり遅くなっておりますので気が向いた時にでも。