※ディザストロ・イズニアのプロトタイプでありルシス側ではなく帝国側の一軍人という設定。
メディウム・ルシス・チェラムが存在しない世界線。
泡沫の王には確実にない設定。
本編とは一切関係ありません。
・概要
殺意に溢れた殺人鬼。
王族でもルシス民でもない帝国生まれ帝国育ち。
ディザストロ・イズニアのプロトタイプ。
ディザストロ・イニティウムの話。
意味「厄災」と「始まり」
ディザストロ・イニティウム
二十六歳。
筋肉がしっかりついた男性。
帝国軍人。
お調子者で頭のネジが百本はくだらない数がすっぽ抜けた異常者。
猟奇的な殺人というより無差別な虐殺行為が特徴的。
生きて動くものならば植物だろうが野獣だろうが人だろうがシガイだろうがミンチにする。
銃と剣どちらも使うが得意武器は斧。
形状は鎌に近いが斧である。
人を煽りに煽って馬鹿笑いをしているところが多々目撃されるが、人との会話はできる模様。
両親はおらず施設育ち。
殺人を正当化するために傭兵をしていたためアラネアとは古くからの知り合い。
戦争ならば殺し合えると帝国軍に所属しているが性格に難があり腐れ縁でアラネアの部下。
自由な上に稀に憂さ晴らしに野獣を虐殺しにどこかへ出かけてしまう。
基本行方不明。
しかし戦場での働きは群を抜いているため処罰はいつももみ消される。
アーデンとは腹黒仲間だと思っているがネチネチしているところが嫌いだという。
いーち。
「クソッ!撤退命令はまだなのか!」
にーい。
「こ、後方との連絡が取れません!これ以上我々が下がれば同胞も巻き込みます!」
さーん。
「我々とてここで死ぬわけにはいかない!責任は俺が取る!撤退するぞ!」
しーい。
「はい!全力でたい…ひ?」
目の前に立っていたはずの部下の頭がズルリと落ちる。
あまりのことに状況が飲み込めず、男は尻餅をついて後ずさった。
部下の頭をおもちゃのように持ち上げて眺める犯人の男は口が裂けているのかと疑うほどニタリと笑う。
「ごー。ほら五秒待ってあげた。俺ちゃんやっさしー。」
片手に頭部、片手に血塗れの斧。
部下達と対峙した不思議な帝国兵は位もないただの兵。
頭がイかれているのか五秒待っている間に逃げ惑えと言った。
銃ではなく斧を持った奇妙な男に不審がりながらもシフト魔法で逃げてしまおうと考えた王の剣達は、言葉を無視して警戒しながら後方との連絡を取った。
焦土と化した前線はお互いに大打撃。
いい加減に撤退させてくれと思った矢先に目の前の部下が死んだ。
なんの位も持たないたった一人の兵士に頭を切り落とされて。
ケタケタと壊れた人形のように笑う男はぐるりと頭を回してこちらを見る。
狂気に染まった双眼。
血の色のような真っ赤な瞳が真っ白な男に血液を落とす。
「はぁい。俺の勝ち。」
最後に目にしたのは斧を振り上げる化け物の姿だった。
本日も面白い"遊び"が終了。
命令違反の単独行動や何体かの魔導兵の破壊により始末書を書かされている男は不満げに上司を見た。
「俺大活躍だったじゃーん。例の大魔法の発動阻止のために大隊を二つも壊滅させたし。それがなんで始末書なのぉ。」
「殺しすぎ壊しすぎ暴れすぎ。名前に恥じないその武勇は認めるけど私たちは国際法を無視する野蛮人じゃないわ。」
「あんな戦争法なんか守ってどうするのさ。上層部だって穴を搔い潜って戦争から略奪までなんでもござれ。今更俺が守る必要ある?てかみんな守ってないよね?」
「集団心理で守らないからあんたも破るってのはおかしいでしょ。それでも契約違反なしの傭兵あがりなの?」
「契約違反すると次の仕事がもらえないんだよ。それじゃあ"遊べ"ない。」
「ほんと名前に恥じないわね。ディザストロ。敵に回したくはないわ。」
その男の名はディザストロ・イニティウム。
"厄災の始まり"という名を持つ彼は常に災いの中心。
つまり起点となるトラブルメーカー。
その災いは小さな小競り合いから戦争まで発展させられるとの噂。
その名をつけた親はすでに他界しているらしいが、未来を察してつけたとしか思えない名前だ。
この度のルシス王国とニフルハイム帝国の戦争が激化したのも彼がニフルハイム帝国の軍人になってから。
実際は傭兵の契約が面倒くさくなって手っ取り早く殺しができる兵士に転身しただけである。
理由が理由すぎて災い以前にただの殺人犯なのだが、平民に危害は加えていない。
命令されたことを曲解しつつも最終的な結論は同じに働いている。
寄り道の多すぎる優秀な戦力だ。
本来ならば始末書では済まない虐殺行為。
多くの命が紙ペラ一枚にもみ消された回数は数知れず。
それでも戦果さえ良ければ優遇されるのが戦争屋と言うものだ。
「殺人なんてみーんなしてるさ。ただ俺が目立つから異常だと断罪したいだけ。自分を守るために悪人を仕立てる。犯罪者を牢屋に放り込むのは我が身が可愛いからなのさ。」
「…あんたは捕まらないけどね。」
「上層部と同じように法の穴を抜けてるからなぁ。傭兵の依頼や軍務なら許される。そうだろう?」
ディザストロは長く"遊ぶ"為に考えることを惜しまない。
誰かに殺されるまで彼は誰かを殺し続ける。
そのように生きるのが彼にとっては当たり前。
酸素を吸って二酸化炭素を吐く人間がイオスを汚染するのと同じように、遊ぶ為に人間を刈り取って人々の命を脅かしていくのだ。
それが合法なのだからどうしようもない。
戦争など早くなくなって仕舞えば彼の餌食になる人も減る。
そう簡単に行かないのが現実だが。
アラネアがため息をついたと同時に休憩室の扉が開く。
滅多に現れない大物が何気なくやってきた。
「やあ。ディザストロ君いるかい。」
「おります。宰相閣下がどのようなご用件でしょうか。」
赤毛と橙色の瞳を持った大柄な男。
センスのいい割に暑苦しいとまで言えばニフルハイム帝国には一人しかいないだろう。
帝国の宰相アーデン・イズニアが立っていた。
慌てて立ち上がって敬礼をしたけれど、部下であるディザストロを探している理由がわからない。
心当たりは山のようにあっても何か言ってくるならば将軍あたりが妥当だ。
政府首脳部統括の宰相が行う仕事ではない。
ちらりとディザストロを見てもにこやかに落ち着いている。
彼の表向きの顔は社交性溢れる好青年だ。
顔を繕われると腹の中が見えない。
二人とも和やかな表情だが空気が氷点下。
アラネアは冷や汗を流した。
「君の話をグラウカ将軍から聞いてね。なんでも、問題行動が目立つ代わりに殲滅力と単体行動力が凄まじいとか。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「そこで君に提案だ。次の出撃の前に魔導兵と数匹のシガイが最前線に投入される。」
それはつまり、生身の人間をこちら側は配置しない大規模侵略ということ。
こちらに人命のリスクがないが臨機応変には対応できない。
文字通り数の暴力による侵略行動。
「その先陣を切る気はないかい。」
「…一人で、でしょうか。」
「君以外に配属する予定の人間兵はいないかな。」
なるほど。
この鬼畜宰相は意思疎通のできない魔導兵と誰彼構わず襲うシガイと共にたった一人でルシスの王の剣と対抗してこいと言いたいのか。
死んでこいと言われているのと同等ではないか。
なぜそのような露骨な厄介払いなど、とアラネアが抗議の言葉を口にする前にディザストロが驚きの返事を返した。
「はっ。任務、拝命いたしました。」
「はぁ!?ちょ、ちょっと待ちなさい!あんた本気!?」
「如何なさいましたか、准将。軍人に二言はありませんが。」
「こんなの死ぬに決まってるじゃない!魔導兵やシガイってことは食料の供給もないし!前線から下がることも許されない!一方的な侵略でない限り三日三晩は休みなしの戦闘よ!?味方からも敵からも殺されても文句言えないわ!それをあんた!受けるっての!?」
焦土でのサバイバルなどできるわけがない。
お互いに食うか食われるかの極限戦闘。
最悪の想定として補給無しの長期戦闘の場合、敵の資源を単独でもぎ取って食い漁るしかない。
後ろには意思のない兵器。
前方には問答無用で殺しにくる兵。
そんな場所に行く奴の気が知れない。
けれど、ディザストロはなんてことないような顔だ。
まるで当たり前かのように戦さ場に行く準備を始めようとしている。
宰相もいつの間にかいなくなっていてもはやアラネアが抗議に向かっても意味のない状況だ。
「そーカッカするなよアラネア。ハゲるぜ?」
「今はそんなことどうでもいいわ!アンタ!死にたいの!?」
自殺志願者でもこんな酷い戦場に向かわない。
出撃前ということはシガイや魔導兵で掃討出来なかった区域に人間が投入される手筈なのだろう。
それまでの間は長く見積もって一週間。
例えアラネアといえど救援に向かうことすらできない。
その地で死ねばだれの目に留まることなく厄介払いが済まされてしまうだろう。
「紛いなりにも私の部下なのよ!無様に死なせたりなんかしないわ!」
「ん、アラネアが優しいのはよく分かったよ。でも心配すんなって。」
准将に与えられた執務室で既に書きあがった始末書をアラネアに手渡し、扉に手をかける。
戦場でよく見かけるあのタチの悪い笑顔。
口端を釣り上げて快活のように見えて歪んだ欲望の権化のような笑顔を見せた。
ディザストロは確信している。
この戦役において自分が死ぬことは絶対にないのだと。
それでいて己の欲望だけを満たしてくれる夢のようなワンダーランドが広がっているのだと。
「ディザストロ・イニティウム。只今より宰相閣下より賜った任務へ行って参るってな。お迎え頼むぜ、アラネア。」
んじゃまたなー、と軽く去っていったディザストロを呆然と見送った。
戦場。
それは血で血でを洗う獣の独壇場。
獲物。
それは奪われる側という概念。
捕食者。
それは奪う側だけが名乗ることを許される総称。
殺し。
それは。
獣が持つ存在意義。
故に私は獣でありたい。
人であることをやめ、奪うことを良しとする。
時として奪われることを受け入れる。
何人にも阻むことのできない連鎖を。
獣。
それは命あるものすべてに等しく配られる性。
「この血生臭さに勝る欲なんて、俺は無いと思うんだけどなぁ。ね、そう思うだろー?」
物言わぬ亡骸だけが積み上げられた天にまで届く山の天辺でたまたま天を仰いでいた顔に話しかける。
口を開くことは二度となくなった王の剣であろうものは肯定も否定もしなかった。
ひび割れた奈落のような底から地上にまで聳え立つ地獄の一角。
シガイも魔導兵も人間も分け隔て無く積み上げられている。
もう地上にはディザストロ以外は立っていなかった。
シガイは陽に当てられて逃げたか王の剣に討伐されたか。
魔導兵もほとんどが破壊され巻き込まれ動いているものは生きる者を探して下を徘徊している。
王の剣は命あるものを引き連れて皆撤退していった。
忌々しげにこの地を見下ろしていたあの顔は忘れられない。
那由多の命を見届けてきた天でさえもこのような惨状を目にした回数は片手で数えるほどだろう。
ここは地獄と化していた。
あの胡散臭い宰相から任務を受けて早一週間。
物資補給もなく大量に持ち込んだ武器もほぼ使い物にならなくなった。
時には殺した王の剣から武器を剥ぎ取り、時には駐屯地から物資を略奪した。
それがいいか悪いかでは無い。
敵しかいない四面楚歌の世界で"欲"と"性"を満たすために合理的な方法をとっただけだ。
どうせ法を叫び倫理を説く者は誰一人としていない。
なら好きなようにやるだけ。
まるで夢のような一週間だった。
何をしても咎められることもなく始末書もない。
この積み上げた
誰に理解されなくてもディザストロが分かっていればそれでいい。
殺してでも分からせなくていい。
人として獣を扱わなくていい。
ああ、なんと素晴らしき世界なのか。
けれど、それもこれもすぐに終わる。
この地獄でできる遊びは大抵こなしたし。
面白いことも命がない魔導兵しかいない今は何にもない。
また新しい遊びを見つけるために外に出なければならない。
お迎えの揚陸艇の音が遥か後方で聞こえた。
血濡れの体もそろそろ嫌になってきたことだ。
最後まで鈍ることなく殺戮をしていた愛用の斧もだいぶ切れ味が落ちてきた。
相棒とも呼べるこの斧を研ぐには帝都まで帰らなければならない。
致し方なく山を飛び降りて揚陸艇の方へと足を踏み出せば、見知ったサソリのような鎧を着たアラネアが全力で走ってきていた。
心配するなと言ったのにあの腐れ縁の親友はこんな破綻者を放って置けない。
全く、だからこの人だけディザストロには殺せないのだ。
「ディア!」
上司と部下になってから余り呼ばなくなったあだ名をめいいっぱい叫んでいる。
よく見たらかなり後ろにビッグスとウェッジも走っていた。
アラネアに出会うと大抵あいつらも付いてくる。
悪巧みや悪ノリはあいつらの方が調子が軽くて好ましい。
親友とは言わずとも気の置けない友人達だ。
斧を担ぎ上げ、開いた片手を上げてヒラヒラと振る。
血濡れで髪も頬にひっつく程ぐちゃぐちゃになっていても三人は臆することなくディザストロに近づいた。
一週間も泥と血と汗を纏っていたのだから酷い悪臭だろうに、顔色一つ変えない。
水辺の一つ、雨の一度でも降ればまだマシだったかもしれないが生憎ここ一週間は晴天だった。
「よ。お三方。お迎えあんがとさん。」
「本当生き汚いというか運がいいというか。」
「悪運が強い。」
「んなことはどうでもいいから帰るわよ。…あんなところに山なんてあったかしら?」
「あー…気にしなくていいーわ。流石の俺ちゃんも風呂入りてぇーし早く帰ろー。」
この距離だと"何で"できた山なのか視認できないらしい。
どうせ後で帝国の研究機関やらルシス王国の奴らがやってきて、色々するだろう。
放置しておいたってここは墓穴のようになっている御誂え向きな渓谷だ。
人が住めるような場所もこの付近にはない。
だから"理解できぬ人"は気にしなくても良いのだ。
どうせ死んでいるだろうに迎えに行くと言って聞かないアラネアはビッグスとウェッジを従えて戦場へと早めに向かった。
序でに掃討に人間兵が必要か見定める役も。
けれどその必要は微塵も感じず、徘徊する魔導兵の回収だけ報告した。
帰投したディザストロには誰もが驚き、その酷い有様に付いたあだ名が将軍でもないのに"
厄介払いのつもりで作戦投入を推薦した准将各位、手柄を横取りされていた兵達は皆一様にディザストロを恐れた。
作戦的には大成功。
晴れて
壊しても殺しても怒られることが少なくなってウハウハだ。
超絶ご機嫌なディザストロが今日も元気に愛用の斧を携えてアラネア准将の執務室の扉を無遠慮に開けはなつと、にっこり笑顔のアラネアがいた。
何がそんなに嬉しいのかと聞けば今日の朝刊がその手にある。
「ルシスとの停戦。決定したらしいわよ。」
「ほー…。」
…。
……。
………。
間。
え?
「戦争はもうしない?」
「イオスのほとんどの国は手中に収めたでしょうしね。」
「内乱もしばらくない?」
「向こう五、六年は確実に。」
「兵士してても殺しが合法にならない?」
「もともと合法じゃないわよ。」
ディザストロの中で幸せな時間が崩れ去っていく。
ユートピアが。
夢の国が。
幸せの絶頂が。
「
「ちょちょちょ!待ちなさい!!」
誰が待つか馬鹿野郎ゥゥ!!
全力で走り去っていくディザストロをこれまた全力で追いかける奇妙な光景がその日は続いた。
あまりにもグロテスクな表現が続きそうなので却下と相成りました。
今のディザストロ君はとても温厚。