天気は予報通り雨が降り始めた。
しかし雷雨とはならない空を不思議に思いもしやとモービル・キャビンから出ると予想通りの人物…動物がいた。
「アンブラ!」
「ルナフレーナ様のお使い?」
続いて出てきたノクティスが驚いたように近寄り、プロンプトがそれに続く。
イグニスとグラディオラスも出てきてタシタシと前足で地面をたたくアンブラに近寄った。
プライナと同じ模様で白と黒が反転しているアンブラはわんっと一鳴きするとどこかへと走っていった。
しばらく進んだところ止まり、チラリとこちらを振り返る。
「何かを伝えたいのか。」
「ついてこいっていってるのは確かだな。」
アンブラを追いかけていくとメルダシオ協会が派遣している移動武器屋の隣。
少しばかり木々が生い茂るその場所にペタリと座り嬉しそうにもう一鳴き。
木々に紛れて視界にはとらえられないが、一瞬にして現れた気配を追うと六神の遣い。
二十四使が一人、ゲンティアナが佇んでいた。
「予定通りだな。」
素晴らしい仕事ぶりで、と茶化すメディウムを一瞥し軽くうなずくとノクティスに向きなおる。
「聖石を背負いし王。雷神の啓示により力を宿しなさい。準備はすでに整いました。」
ノクティスを見て優しく笑うと同時に呼応するように後方の雨雲からゴロゴロと雷鳴が轟く。
メディウムの言っていたもう一つの神の力を手に入れることになるのだろう。
「そして…泡沫の王。まだ夢を見続けているのならお止めなさい。燃え尽きるその命は夢を見る限り業火の中をさまようことになる。」
ゲンティアナの諭すような言葉にメディウムは冷めた視線を送る。
要するにさっさと死んでしまう方が身のためだと警告しているのだ。
死ぬより酷い目にあいたくなければとっとと消え去れと、そういいたいのだろう。
どこか哀れみと悲しみと少しの愛情を向けるその表情に冷たい心が動く。
「忠告どうも。ひとまず余計な巡りを終えてくれたことに深く感謝を述べる。だが、俺は心が狭い。その最悪な呼び名で呼ばれると何もかもぶち壊したくなる。…ルナフレーナの友でなければこの場で神殺しを行うところだ。」
魔力が揺らめいた。
主人の怒りを表すようにゆらゆらと燃える魔力にゲンティアナは微笑み、どこかへと消えた。
ルナフレーナの元に戻ったのだろうか。
逃げられたというよりどこか小さな子供の癇癪を見るような顔で消え去ったゲンティアナに小さく舌打ちをし、次に会ったらあの綺麗な顔に油性マジックで落書きしてやると心の中で誓う。
その場に残ったアンブラは呆然とするノクティスの足を前足でタシタシと踏みつけわんわんと鳴いた。
「あの方は神の遣い…神話の存在だ。」
「ほぉ…?ノクトの呼び方はメディが言っていた真の王様の事だってのはわかるんだけど、メディの呼び方はなんか変だったね。」
「泡沫の王、だったかってうぉ!?」
「その名で呼ぶな、誑しゴリラ。」
「誑し…!?」
心底嫌いな呼び名なのか反復したグラディオラスに刃こぼれした短剣を投げつけ不名誉なあだ名という暴言を吐く。
傷つくことはないがとても驚いたのか後ろにのけぞり短剣をよけた。
いつも感情の読めないにこにこした笑顔が一変し、怒りをあらわにするメディウムの表情は憎悪と激怒。
相当嫌な思い出があるのか盛大に舌打ちをしてゲンティアナへと規制の入りそうな呪詛を吐き続けた。
その間にノクティスはアンブラの背に括りつけられた手帳を受け取る。
一度顔を合わせたが満足に会話もできずまた別れてしまった。
何が書かれているのだろうとはやる気持ちを抑えてゆっくりと手帳を開く。
ーーどうか、怪我をなさらないようにーー
神々と対峙することになるのを知っていたルナフレーナはノクティスの身を案じてその言葉を書いたのかレスタルムのステッカーが貼りつけられていた。
メディウムはぶつぶつと言いながらも落ち着いてきたのか口をへの字に曲げて何かを差し出す。
チョコボポスト・ウイズで売られているヒナチョコボと親チョコボのステッカーとメディウムがスケッチブックに書いたヒナチョコボの水彩画だった。
絵のお礼にもらったそのステッカーをノクティスは受け取り手帳へと貼り、その隣に水彩画を挟む。
一言には"ルーナのお陰で啓示ができた"と書き込み、閉じてアンブラに括りつける。
「みんな無事だって、待たせて悪いなって伝えてくれ。」
優しい声で微笑みながらアンブラをなでるノクティスの横からひょっこりと顔を出してメディウムは忌々しそうに言う。
「ついでにゲンティアナに死んでくれって伝えて。」
「根に持つな…。」
「誑しゴリラは遊びじゃなくて嫁さん見つけてから言いなさい。」
「何で知ってんだ!?ていうかあんたも身は固めてねぇだろうが!」
「俺は独身を貫き通すからいいんですー!お付き合いもしたことありませんー!」
「それ自慢すること…?」
どや顔で非常にどうでもいい情報を晒すメディウムにグラディオラスが楽しそうに食って掛かる。
なぜグラディオラスが複数の女性と交際していることを知っているのか疑問だが時たま電話で会話しているところを薄目で観察していることが何度かあった。
その時に会話の内容も聞いていたのだとしたら察していてもおかしくない。
仲間内でも気の抜けない情報収集能力にほかの三人が戦慄しているとメディウムの携帯がヒナチョコボの鳴き声という気の抜ける受信音を鳴らす。
特定の人物に対してこの受信音を設定したメディウムは驚くことなくその内容を見る。
このタイミングで届いたメールは十中八九なにか関係があるだろうと四人はメールを読むメディウムを待った。
「残念な知らせといい知らせが届いた。どっちから聞きたい?」
「いい知らせから。」
先ほどの怒りは何処へやら。
携帯で口元を隠し、楽しそうに笑うメディウムに悪いことを考えているなとあきれた視線を送りつつも返答する。
鼻歌でも歌いそうなメディウムはファンファーレを口ずさみながらいい知らせを教える。
「いい知らせその一。ダスカ地方の封鎖戦線が明後日には解除される。いい知らせその二。レガリアのある場所が分かった。」
封鎖戦線の解除依頼はともかくレガリアの居場所は数日前に知っていたはずなのにさも今知りましたと言わんばかりの言い草。
しかし違和感のない言い方に四人は首を傾げつつも今知ったのかと信じ込む。
出所を教えてくれるかはわからないが明らかに帝国軍関係者だろうことは把握できる。
「どうやってわかったの?」
「俺のツテ。出所は内緒だけどちょっと厄介な人でね。ただで請け負ってくれるわけもなく…。」
「何か押し付けられたというところか。」
「その通り。それが悪い知らせ。これから行く目的地の攻略にはついていけない。かなり厄介というか危険はないが面倒くさいの押し付けられた。しばらくはお仕事になる。」
「大丈夫なのか?」
「情報を聞いてしまっているうえにすでに動いているらしい。その時点で契約は成立。押し付けじみた契約だが持ち掛けたのは俺だしな。レガリアの場所と雷神の場所は携帯のマップに送る。雷神はおそらくわかりやすく導いてくれると…。」
言葉を続けようとした瞬間にけたたましい音を立てて雷が落ちた。
落ちた場所を考えるに今まさに送ったマップが指す方角。
早く来いとせかすような落雷に全員が苦笑いをし、メディウムは承知いたしましたという短いメールを返信して携帯をしまう。
「この辺も封鎖戦線が敷かれてる。移動するならチョコボに乗って林を抜けろ。道のりの上は帝国兵がいると思え。」
「わかった。兄貴はどうやってその依頼を受けるつもりなんだ?」
「同じくチョコボで移動する。レスタルム周辺の依頼でな。仕事中は電話を掛けられないから何かあったらメールで。」
「次に会えるのはどこだ?」
「カエムの岬。レスタルム経由で行くと楽だと思う。というか俺より自分たちの心配をしてくれ。比較的温厚な神様だが何があるかわからん。気張って行けよ。」
メディウムの後押しを受け、ノクティス達はレンタルチョコボと共に林の中へと進んだ。
パーティー離脱となったメディウムはレンタルチョコボの黄色いチョコボに跨って移動基地停留所予定の補給基地、アラケオル基地へと向かう。
常時発動型幻覚魔法という正式名称のネックレスに魔力を送って姿を変えつつ、認識阻害魔法を併用してチョコボごと景色に紛れた。
二重の幻覚魔法を使用すると片方の幻覚がブレる可能性があるのだがそれ以前に発見される可能性があった。
認識阻害魔法が途切れた時にごまかすにはディザストロ・イズニアでなければならない。
メディウムでは良ければひっ捕らえられるか悪ければその場で射殺だ。
王族はどのように処理するのかをまだ聞いていないメディウムには強行突破というリスキーすぎる賭けより大人しく隠れ蓑を使った方が賢明だった。
それにしても多いな、と道路上に止まる揚陸艇や飛行戦艦、その側を見回す魔導兵をチョコボで駆け抜けながら観察する。
数百メートルおきにおかれ、道らしい道全てを封鎖している。
王族や神凪、つまり神話の国家二つの代表者が軒並み亡くなったと報道したとしても他国は他国。
王都以外を譲渡する帝国との条約だって調印式の襲撃のおかげかせいか為されていない。
それでもルシス領を力でねじ伏せんとする動きには心なしか焦りを感じた。
クリスタルを盲信するイドラ皇帝に何かがあったか、それともあの胡散臭いおじさんが吹き込んだか。
どちらも起こっていそうだが軍の配置の仕方が穴だらけであることを省みるにアーデンが介入している可能性がある。
指揮しているのがレイヴスであるならば、尚更。
考え事をしつつもチョコボをうまく操り、なんとかアラケオル基地へと到達した。
幻覚魔法をかけたままのレンタルチョコボを移動時間と同じ時間で切れるようにかけ直して返させ、突如現れたかのように閉ざされた基地の門の前に立つ。
いきなり現れたメディウムことディザストロに銃口を向ける魔導兵だが赤毛と顔の見えないフードという出で立ちに一歩引く。
どうやらすでに話は通っているようだ。
「帝国宰相の副官。ディザストロ・イズニアだ。連絡が行っていると思う。門を開けてくれ。」
聞こえるように声を張り上げると少しの間をおいて門が開く。
何体かの新型魔導兵と共に准将の顔ぶれである男が現れた。
「カリゴ准将。ここはレイヴス将軍の管理下ではないのですか。」
「あなたこそ、今まで何をしていたのですかな?ディザストロ副官。」
一触即発。
昔からよく突っかかってくるカリゴ・オドー准将は少しばかり背の高いディザストロを舐めるように観察する。
フードで顔が見えないのは宰相から特定の人物の前以外では顔を出すことを禁止されているということなのだがカリゴは特定の人物に入っていない。
帝国軍ではアーデン、レイヴス、アラネア、事故でビッグスとウェッジ。
この五人以外にフードを取ったことがないがカリゴはことあるごとにフードを取れと要求してくる嫌がらせをしてくるのだ。
「相変わらず顔も見せず。宰相が見せるなというほどの醜い顔なのですね。」
「ええ。その通りです。お見せできるような顔ではございません。」
否定するのも面倒くさく、適当に肯定し基地内へと足を進める。
門番から外れた何体かの魔導兵が両脇を固めるが護衛でも任命されたのか。
基地の中だから必要ないだろうに。
堅苦しいとフードの中で嫌そうな顔をしている中、後ろからカリゴが付いてくるような鎧の音が聞こえる。
レイヴスに用があるのであってカリゴには微塵も用はないのだが。
「私はヴォラレ基地の統括を任されましてね。アラネア准将と、と言うのが納得できませんが宰相の提案ですので無下にはできませんでした。」
聞いてもいないことをベラベラと喋っているがヴォラレ基地というとオールド・レスタ付近に建設中の補給基地。
調印式前からこっそり建設されていたが大々的に建設することになったのか。
これは早急に潰さねば厄介になる。
アラネアもいると言うのが気がかりだが彼女の仕事は基本シガイ狩り。
常に基地にいると言うことはないと思うがあとでノクティス達に連絡しよう。
無駄話のせいで自分の評価が下がるとはつゆしらずカリゴは話を続ける。
「あなたも極秘任務中。その一環でこの基地に来たと伺いましたが随分宰相に重宝されていますね。」
何をしていたのかも何の目的で来たのかも知っているのにあんな嫌味を飛ばしたのか。
いや、今もこれは嫌味なのだろうが見下すと言うより嫌らしい目線なのが気にくわない。
何がしたいのかさっぱりわからないカリゴに寒気がするがレイヴスの元へ先導する魔導兵の様子を見るにもうしばらくの辛抱のようだ。
「宰相の言う通りに動くのが私の仕事ですので。」
「魔導兵ではできない部分を必ず言うことを聞く人間にやらせる。非常に合理的です。」
「常に最善を考えておられる方ですから。」
かなり適当に流しているがカリゴはディザストロが自分は宰相の言うことを聞く忠実な犬で魔導兵よりかは扱いにくいが魔導兵ではできないことをこなせる便利な副官だと認識していた。
これがどこの誰だかわからない人間であれば上官に対する侮辱行為とでもでっち上げてフードを剥ぎ取り傭兵部隊にでも放り投げるところだが、宰相の副官は准将と階級が大して変わらない。
文官か武官かの違いしかないのだ。
同じ階級の、しかも宰相の犬であれば多少の無礼は見逃そう。
カリゴは貴族階級出身のため常に上から目線だった。
言いはしないが階級だけで言えば他国の王子という顔も持つディザストロの方が圧倒的に上である。
「…電話ぐらい出たらどうだ。ディザストロ副官。」
「申し訳ありません。少しばかり厄介ごとが。」
魔導兵が止まった簡易的な軍事基地なのだろう大きめのプレハブに足を踏み入れる。
カリゴも入ろうとしたが重要な話だとレイヴスに追い出された。
将軍には逆らえないようで渋々下がっていくカリゴは中々に見ものである。
レイヴスは面倒臭そうに鼻をならし魔導兵も下がらせた。
ディザストロが防音魔法を張りどっかりとパイプ椅子に座る。
「ーー我が王よ。考えは変わったか。」
「ノクティスが王だと何度言えばわかる。レイヴス。」
暑苦しそうにフードを外す。
半袖の上着とはいえ暑苦しいとぽいぽい脱ぎ捨て、タンクトップになるとぐったりとだれる。
そんなディザストロにレイヴスは注意一つせず"我が王"と呼んだ。
ディザストロにとっては何度も聞いた呼称で、テネブラエ襲撃事件のときから続いていた。
真っ先に逃げたことが正しいといえども見捨てたレギスやノクティスに反感を抱き、守らんと奔走したディザストロことメディウムを王として認めた。
レイヴスが帝国軍に所属したのも指輪をはめようとしたのもディザストロを想ってのこと。
神凪の行動理念としてルシス王家に仕えることは間違っていないが真の王に仕えてくれというディザストロの願いは届いていなかった。
「あの日から俺の王はお前だけだ。メディウムでもディザストロでもお前がお前である限り、神凪として守り抜くことを誓った。」
「その誓いはノクティスに向けてやれ。妹さんが泣くぞ。」
「お前も、ルナフレーナも!なぜあの腑抜けを王にしたがる!あれが王の器に見えるのか!」
「見えないよ。どう頑張っても無理だね。」
「ならば何故…っ!」
ギロリと断罪するような冷たい目線にレイヴスは押し黙る。
何度も抗議した。何度も王になれないのかと説得した。
ノクティスよりも世界の危機を重く捉え父王の死を辛く思うディザストロこそが王にふさわしいと、何度も。
その度にディザストロはこうやって睨みつけるのだ。
そして決まってこういう。
「レイヴスは俺に死んで欲しいのか?」
「そういうことではっ!」
「王になるってのはお前より早く死ねって言っているのと同義だ。」
「だがあのノクティスでは…。」
忠誠を誓う王に早く死んで欲しいなど思うわけがない。
だが意味合いは同じ。
それが心苦しく、辛いものだった。
ディザストロは弟に死ねと言っているのと同じ。
それが彼本人の心を傷つけ続けている。
弟に死んでくれと願える兄がこの世にいるだろうか。
レイヴスとてルナフレーナに身を賭してでもノクティスを守れとはいえない。
だがディザストロは、メディウムは弟に何度も王になってくれと懇願しなければならないのだ。
「今はいいんだ。あいつはこれから成長する。その過程でノクティスを王にしたくなったらあいつに仕えてやってくれ。それまでは妹さんを、ルナフレーナを守ってやってくれ。兄貴なんだろ。」
「…当然だ。」
レイヴスは納得できないようだがなんとか頷きそっぽを向く。
二歳年上のくせにどこか子供のような行動にくすくすと笑った。