夕刻頃。
アラネアが仮眠を取っている間にディザストロはノクティスへの連絡を入れていた。
素知らぬ顔で雷神の啓示についての文面を書いてみたが、ノクティスから自慢げにレガリア奪還の報告が届いた。
さらに今はレスタルムまで逃走。
少々の休憩を入れているらしい。
その後、合流地点のカエムの岬まで向かうつもりと。
ルート的に通ることになるオールド・レスタ付近のヴォラレ基地を潰せないか、とメールを打つと少し間をおいて簡潔に"了解"と返って来た。
時間的にアラネアとディザストロが到着する頃合いと被ってしまうが、戦闘だろうが事務作業だろうが残業は絶対にしない主義のアラネアならば時間きっかりに途中撤退をするだろう。
カリゴが滞在中だがもともと戦力として考えてはいない。
指揮能力は買うが野心が強すぎる。
現段階でルシス王族とルナフレーナの捕縛を狙っているためアーデンにとっても邪魔な存在。
ここで消しておきたい気もするがアラネアに不信感を持たれるのも気が進まない。
一先ずノクティス達のお手並み拝見か。
"頑張ってくれ"というメールを送って携帯をしまう。
二部屋に別れた簡易拠点の仮眠室の方から物音がしたためだがどうやら傭兵のお嬢様が起床したらしい。
寝起きがいいアラネアの為に少しぬるめのコーヒーを入れていると、仮眠室の扉が開いた。
サソリを思わせる鎧と魔導ブースターが搭載された槍を装備してでて来た。
まさかそのまま寝ているとは思わないが、仮眠室から完全武装の軍人がのそりと出てくると流石に驚く。
若干の動揺で揺れたコーヒーの水音に反応したアラネアが起き抜けとは思えないほどさっぱりした顔で兜をとる。
「あら。私にも淹れてくれる?」
「このコーヒーは元々アラネア用。温いぞ。」
「ありがとう。気が効くわね。」
「あらゆる面での補佐が仕事だからな。」
インスタントコーヒーを手渡し、現在の時刻と出立準備の出来具合を伝えた。
殆ど単身で飛び回ってシガイ退治か標本集めかの彼女の揚陸艇は、燃料補給と非常食の備蓄補給ぐらいしか出来ることがないためすぐさま飛び立てる。
ビッグスとウェッジや他の帝国兵もいたはずだが標本集めのためにスチリフの社において来ていた。
「優秀な副官だこと。コーヒー飲んだら行きましょう。カリゴは面倒くさいし。」
「承知した。定時上がりが望ましいな。」
「同感。残業代出ないしね。」
コーヒーを飲み終えた二人は、魔導兵にアラケオル基地を任せ、アラネアの赤い揚陸艇でヴォラレ基地へと向かう。
車より少し早い速度の揚陸艇だが飛行するため順路など関係ない。
一直線にヴォラレ基地へと向かうこととなった。
一方その頃。
ノクティス一行は、レスタルムにてメディウムからのメールについて話し合っていた。
ヴォラレ基地の情報は既にレスタルム中に広がっており、コル将軍経由でメルダシオ協会に確認を取ったところ准将クラスの人間が出入りしているらしい。
メールには潰してくれと書かれているのみで、助言もない。
軍師イグニス、腕の見せ所だ。
レスタルムのホテルで思い思いの場所に座した四人は情報の整理から始めた。
「メルダシオからの情報では、例の魔導兵強化装置も確認されている。更に准将らしき者もレスタルムに一度訪問して来ている。」
「一般市民と揉め事を起こしたとかで街の連中にはかなり敵視されていた。あまり性格のいい准将じゃぁないだろうな。」
「兄貴からは指示も助言もなし。どこで何しているかも分からないままだ。どさくさに紛れて秘匿しやがって。」
「イリス達とも連絡取れたよ。結構楽しんでいるみたいで、帝国人も見かけないって。」
情報収集に際して役割分担した内容をそれぞれ報告していく。
ヴォラレ基地についてイグニス、街の噂話をグラディオラスとノクティス、兼任してメディウムからの連絡待機。
プロンプトは隠れ家にいるイリス達と連絡を取った。
ヴォラレ基地の規模自体はアラケオル基地より広く感じるが、壁の中だけを見ればそう変わらない。
殆どが魔導兵のようで人間の帝国軍人の目撃情報はカリゴ・オドーという名の男のみ。
准将の階級と確認が取れているが街の人曰く"人を小馬鹿にしたいけ好かない男"らしい。
隠れ家の方に帝国軍の手が及んでいる可能性も考え、イリス達が心配になって連絡を取ったがそちらまで手は及んでいなかった。
ただの灯台なのでマークされていないのかもしれない。
灯台下暗し、言葉通りになっている。
「アラケオル基地のように夜の潜入になるが、できれば准将から情報を聞き出したい。」
レガリア奪還とは違い、難易度が跳ね上がるが帝国側の情報は欲しい。
イグニスの考えを汲んだノクティスはその考えを肯定し、プロンプトやグラディオラスも意義は唱えない。
旅の始めの頃。
真っ先にイグニスを頼っていた今までとは違い、全員が考えを口にしてから王が最善を纏める。
ここ数日で王たるノクティスの提案を第一優先として動く体制が出来上がっていた。
「陽動作戦なんてどうだ。敵の注意は存分にひけるぜ。」
「でもそれで准将も出て来ちゃったらまずいんじゃない?」
グラディオラスが腕っ節を利用した作戦を考案するがプロンプトが待ったをかける。
陽動作戦自体は名案だろうが准将が出て来ては元も子もない。
派手なものをやるとしても捕らえてからが良いだろう。
ノクティスは普段使わない頭を使って過去の経験を探る。
潜入作戦ではないが、メディウムの悪戯は視線誘導をする仕掛けが多く使われていた気がする。
グラディオラスの提案とプロンプトの助言を元に、マジックボトルを二つほど取り出して間の作戦を提示した。
「イグニスと俺で准将とやらをとっ捕まえている間に、二人には軽く陽動の為にマジックボトルを置いて来てもらうってのはどうだ。」
「おお!ノクト冴えてるー!」
「ならば派手なものよりボヤ騒ぎほどのものがいいな。作れるか?」
「兄貴がよく作ってたから余裕。魔導兵がそっちに惹きつけられれば手薄になるだろう。」
「あの人なんでも作るな…。」
手先が器用なのか作ることも解体することも元に戻すこともうまい例の王子様は中火程度の炎のエレメントを詰めたマジックボトルとメモ帳の紙を燃やして、ボヤ騒ぎを起こしたことがある。
燃やされていたメモ帳には魔法がかけられていて氷のエレメントも付随し、一定以上燃えた頃合いに自然鎮火するものだったが城で発見された為大騒ぎになった。
犯人の王子様は"会議を抜けてノクトと遊びたかった"と供述した。
ノクティスには仕事より自分を優先してくれた優しい兄とのちょっぴり嬉しい思い出。
激しくしょうもない魔法だったが意外なところで役に立つものである。
「俺たちは闇に紛れて准将の隙を伺おう。シフト魔法での捕縛になるが、くれぐれも殺すなよ。」
殺すなというイグニスの注意にノクティスは複雑な顔をする。
今まで帝国軍を相手取って来ても殆どが魔導兵で、命をとらなければならない相手はモブハントの野獣がもっぱら。
どちらも理性や知性がない、本能のままの野生であり同族ではない。
人を殺めることはなるべくしたくはない。
しかし王として時には必要な判断だろうと、ノクティスは複雑な顔のまま思ったことを言う。
飾らない思いをぶつけることが何よりも信頼している相手に理解してもらえることをメディウムとの交流で学んだ。
「敵ならどうしようもないかも知れないけど、人間を殺すってのは抵抗あるし、やらねぇよ。」
「そっか…ずっと魔導兵相手ってわけじゃないもんね…。」
「王様の手を汚すわけにもいかねぇし、避けられるなら避けたい物事だ。」
「ああ。なるべく避けるが、どうしてもの時は俺とグラディオで対処する。ノクトやプロンプトが気にすることではない。」
今回の目的は捕縛。
殺めるつもりはないがそうしなければならない時が来た時はグラディオラスやイグニスが手を汚す覚悟をしていた。
精神の若いプロンプトや王になるノクティスには経験させたくない。
イグニスは王子であるメディウムにもさせたくないが二十年の間のことははっきりとわからない為自分たちより手慣れている可能性もある。
避けられるのが一番だが、全員で相談しながら進んでいこう。
四人の中で答えが決まり、作戦も可決したところを見計らってノクティスが三人に相談したいと前置きを置く。
「兄貴のことで気になることがいくつかある。」
未だ二十年間のことや、使命について多く語らない兄の交友関係が昨夜のアラケオル基地でのレイヴスとの邂逅で少し垣間見えた。
その交友関係の友人枠に帝国軍重要人物ディザストロ・イズニアが名を連ねている可能性が浮上。
更にルシス王国とほぼ絶縁に近い状態であったレイヴスの神凪としての発言。
メディウムを玉座に据えるべきであると考えているのが見て取れた。
一体いつどこで出会ったのか。
十二年前の襲撃前ですら顔を合わせたことは無いはずだった。
「分からないことは合流して聞けばいいと思っている。俺は兄貴を信じたい。でもお前らは敵って考えているかもしれない。それを間違いだと思わないし、そう考えるのが当たり前だと思う。なんだっていい。兄貴について忌憚のない意見を聞かせてくれ。」
ノクティスが最も危惧しているのは不安の種がくすぶり、いつか爆発すること。
五人しかいない仲間内で疑い合うのはこれからの旅では避けたい事態。
その意図を汲み、巨神戦を通して兄という存在の共通点を見出したグラディオラスが素直に答える。
「俺は信用している。二十年も空白の時間があれば神凪の一族と関わり合いがあってもおかしくねぇし、あいつのノクトを思う気持ちは本物だ。王の盾として守り合う仲間だと思っている。」
「俺は…ちょっとわかんないかな…。ノクトを大事にしてるのはよくわかる。多分、自分の命より大切に思っているんじゃないかなって。でもやっぱり話せない過去が長過ぎるよ。人に言えない過去ってのが…。」
グラディオラスに続いてプロンプトが申し訳なさそうに答えるが、ノクティスは首を振って優しく笑った。
たとえ兄を信頼できないからといって真っ向から意見を否定する気は毛頭ない。
家族という契りなしで信頼してくれるグラディオラスの器が広いのだ。
「イグニスはどうだ?」
顎に手を当てて、黙ったまま考え込むイグニスの答えは一つしかない。
しかし、本当にそれでいいのかを躊躇う様子。
忌憚のない意見を言えと言われてもイグニスには迷いが出る。
長い付き合いのノクティスはなんとなく察して、自ら発言するのを待つ。
数分の間をおいて、イグニスは苦い顔で口を開いた。
「…率直に言おう。彼は敵だと思っている。」
「理由を聞かせてくれ。」
「例のディザストロ・イズニアは表には滅多に顔を出さない。知り合いがいるとしても殆どが重役ポストの顔ぶれ。外交官ですらないメディが容易に会える人間ではない。さらにレイヴス様、いやレイヴスの発言…ノクティスの王座すら危うくする政敵が近いと俺は考えている。」
「帝国と繋がってるって言いたいのか?」
「おいイグニス、それは言い過ぎじゃぁないのか。」
遠回しではあったが帝国とのつながりを危惧するような発言にノクティスが悲しそうに眉を寄せる。
決してその可能性がないと言えない。
二十年の足取りを追えていないのが一番のネックになっている。
しかし、流石に王子に対して不敬だろうとグラディオラスが止めに入るがイグニスは言葉を続ける。
ここで言葉を切って仕舞えばイグニスは二度と同じ発言はしないだろう。
ノクティスは心苦しいながらも先を促した。
止めに入ったグラディオラスも口をつぐむ。
「不敬罪に当たるのは重々承知だ。王子と側近の立場を忘れろとは言われたが垣根は変わらない。だが、だからこそ言わせてほしい。あの王子メディウム・ルシス・チェラムは敵だ。俺の仕えるノクティス・ルシス・チェラムを脅かす、最大の敵なんだ。」
王子と側近。
しかし側近が支えるは未来の真の王。
その王を脅かす存在はたとえ王の兄でも敵と認識しなければならない。
それが王を守る側近の務めだから。
ノクティスはイグニスの言葉に嬉しさと悲しさを浮かべた。
王として不十分だと様々な方面から言われ、揺らいでいた心が支えてくれると宣言したイグニスに温かさを感じた。
しかし、家族を否定されるとどうしても悲しさが勝ってしまう。
「だが、彼は仲間だ。そして大切なノクトの家族だ。…時間が欲しい。信頼できると確信できる時間を。」
「お、俺も!すぐは無理でもこれからの旅で!絶対悪い人じゃない!ノクトのためにあんなに一直線なんだから!」
悲しみに俯いていた顔を上げる。
イグニスとプロンプトは勇気があった。
敵だと決めつけても、信頼できないと遠ざけても、仲間である以上志は同じのはず。
彼はノクティスの唯一残った肉親。
その絆は仲間では超えられない壁を悠々と超えていった。
そしていつも優しく支えて導いていた。
そんな彼が完全に敵だとは思えない。
思いたくなどない。
旅は長い。
歩み寄るチャンスはいくらでもあるはずだ。
「…さんきゅーな、お前ら。」
とてつもなく珍しく、素直に微笑むノクティスに仲間達は笑い合う。
仲間というのは時に衝突し合うものだろう。
しかしそのあと許しあって笑いあえれば、きっとそれはいい思い出でよく考えて理解し合えた大切な時間。
旅というものは人を大きく成長させる。
ノクティス達もまた大いに成長しているだろう。
「よし!さっさと基地ぶっ潰して、メディの野郎ともこうやって語り合ってやろうぜ。」
「うん!きっといろんな話ししてくれるよね!」
作戦の決行は夜。
気合いを入れ直した一行はオールド・レスタで一度食事を取るつもりでホテルを出立した。