「襲撃かしらね。」
「ああ。見事にやられているな。」
赤い揚陸艇から眼下にあるヴォラレ基地を眺める。
見事に破壊された魔導兵強化装置や鉄屑となった魔導兵、魔導兵器がゴロゴロ。
カリゴも出撃したのかと思ったが、どこにもカリゴの機体が見当たらない。
戦闘に参加していないのか、確保されているのか。
どちらにしろノクティスの仕業であると、ディザストロは確信していた。
「一応仕事仲間だし、カリゴの救出しないとダメよねぇ?」
「ダメだろうな。俺は非戦闘要員なので襲撃者の撃退は任せた。カリゴはなんとかしておく。」
「了解。無茶しないように。最悪見捨てなさい。」
「見捨てるとは辛辣なことだ。」
嫌そうな顔で揚陸艇からカリゴのいそうな場所を探す。
ノクティス一行は十中八九魔導兵強化装置の付近にいるだろう。
カリゴを捉えた理由から察するに情報を聞き出すためだろうが生憎あのお貴族様はロクな情報を持っていない。
おしゃべりが過ぎてうっかり機密漏洩してはたまらないとそもそも直前まで知らせないからだ。
頭脳面から考えて、確保しているのはイグニスだろう。
白い外套を纏って、ハンドガンをホルスターから抜き取る。
先日もらったアサルトライフルとは別に、魔導兵の武器庫から拝借したスナイパーライフルを持ち出した。
装填数が三発まである代わりに重く、かなりごつい。
伏せて使うしかない代物だがスナイパーなどそんなものだ。
背負いのホルスターに差し込んで、帝国軍支給品の魔導ブーツを起動。
アラネアのように近接戦を仕掛ける人間兵専用に作られたもので、一定の高度からの降下の衝撃を和らげる。
魔導ブースターも付随しているため人間離れした跳躍も可能。
アラネアが最も得意とする戦闘スタイルの威力を驚異的に上げる一品。
既に亡くなっている前任の将軍、タイタス将軍がフルアーマーで着用していた魔導インビジブルの後継機である。
「全く。生身で飛ぶことになるとはなぁ。」
「文句言わないの。歩いていたら間に合わないよ。」
「わかっているさ。健闘を祈る。アラネア准将。」
「定時には戻ってきなさいよ。ディザストロ副官。」
揚陸艇をアラネアの部下である帝国軍人に任せて同時に飛び降りる。
アラネアはひしゃげた魔導兵強化装置の手前側。
ディザストロはカリゴが使用しているはずの簡易拠点を目指した。
魔法は感知される可能性がある上、降下作戦で音を立てずに着陸はできない。
ならば盛大にやってやろうと魔導ブーツのブースターを起動。
インスタントハウスの屋根をかかと落としでぶち抜いた。
言いようのない鉄の砕けた音と下に置かれていたのだろう机が原型も留めず破壊。
この程度後で本軍に請求してやろうとカリゴを探す。
予想通り、イグニスがカリゴを縛り上げていた。
驚きはしていたがすぐさま臨戦態勢をとるイグニスに、低めの声で聞く。
「また会ったな。襲撃者。」
「ディザストロ・イズニア…!?」
「残念だがその男はなんの情報も持ち合わせてはいない。聞くなら俺にしたらどうだ?」
気絶しているのを起こすところだったのか、救出目標は白目を向いて倒れている。
戦闘をするならばそれでもいいが室内戦で近接武器がダガーしかないイグニスではキツい。
魔法を使われるとこちらが厄介で、ホルスターにあるナイフ一丁では不安が残る。
ダガー程度なら捌けるかもしれないがやはり剣か槍が欲しいところだ。
「俺の仕事はその男を生きて持ち帰ること。お前は情報が欲しいんだろう?等価交換といこうじゃないか。」
「情報をこの男のために売ると?」
「その男に俺の持つ情報と同等の価値はない。だが仕事は仕事だ。質問すれば二つまで答える。どうだ?」
「…三つだ。」
「交渉成立。その男を間におけ。で?なにが聞きたい。」
メディウムとは違う、余裕ある大人を演じているディザストロは楽しげに笑う。
帝国の情報をどれだけ売ろうが大して役には立たない。
そのうち帝国がなくなることは確定事項だった。
イグニスは言われた通り間にカリゴを置いて、顔の見えないディザストロを見る。
昼に立てた作戦通りカリゴを尾行してノクティスに確保してもらい、イグニスが情報を聞き出す手順まではうまくいった。
しかし、増援があるとは思いもよらなかった。
ノクティスを陽動の方面に回して正解。
もしノクティスもこの場にいればここで確保されていたかもしれない。
イグニスは慎重に質問を吟味し、妥当な線を探す。
「ルシスにいくつの基地を作っている?」
「三つだ。昨日のアラケオル基地、このヴォラレ基地。リード地方にフムース基地。どれも補給が主な役割だが、戦争道具は多ければ多いほど戦争のしがいがあるだろう?」
ホルスターから抜いたハンドガンの弾倉を確かめながら愉快そうにリロード。
戦争のしがいがあるという言葉は普通の思考回路ならたどり着かない。
ディザストロはメディウムならば決して発言しない言葉を選んでいた。
「補給してどこに向かうつもりだ。」
「何処へでも。ルシス王族と神凪の確保が名目だが、帝国には無理だろう。」
「何…?」
「その答えが最後の問いでいいか?」
イグニスは一歩下がる。
ディザストロは何かを掴んでいると思っていたがそれだけではないのが一連の問いで分かった。
彼は世界で起こっている物事を知り、理解している。
メディウムと同じだけ何かを知っている。
見えない顔が恐ろしいが全てを見通しているような声音にそう判断した。
その上で最後の問いに悩んだ。
世界の物事の核心に迫るような話につながる鍵が、先程の答えだと本能が告げていた。
それと同時に帝国の情報が欲しいとも思ってしまう。
ディザストロはその様子を黙って見つめている。
イグニスは意を決して、本能を信じた。
「何故、無理だと思う。」
「ああ。人間の直感は素晴らしいな。」
嬉しそうな声でディザストロは楽しげに語る。
「何故無理だかは簡単だ。帝国はそもそも駒だ。闇の王が大いに前進し世界を染め上げるための傀儡。帝国は王の手に落ちた。王は真の王が現れることをお望みだ。そのために神凪は必須。ルシス王族が台頭する日を今か今かと待ちわびている。まあその分、失望も大きそうだ。」
「帝国が駒?裏で操っている皇帝以上の人間がいるというのか。」
「自分で考えな。取引は成立した。その男は返してもらう。」
それ以上は口を割らない。
強い目線で訴えかけてはいるが口元が歪むほど笑っている。
聞けば答えてくれるかもしれないが、彼の中の線引きを超えれば問答無用で撃たれる可能性も高い。
イグニスはそっと後ろに下がり、カリゴには触れていないという意思で両手を上に上げる。
ディザストロはカリゴを肩に担ぎ上げると、くるくるとハンドガンを回してホルスターにしまった。
武器を手放したのを確認してイグニスはどうしても気になることを聞く。
「最後に。どうしても聞きたいことがある。」
「取引外だぜ?聞いてはやるが答えるかは別問題だ。」
「構わない。…貴様は何者だ。」
人間の雰囲気は、感情によって左右される。
ギロリと濁った橙色の瞳だけでイグニスを捉えるディザストロは何の感情も宿さない。
その雰囲気は無。
何よりも恐るべき、敵対とも友好とも違う感情。
質問を間違えたかとイグニスは交戦の可能性も考える。
しかし、ディザストロはすぐになんともなさそうな顔で言葉を発した。
「たまたま宰相に拾われただけのガキンチョ。それだけだ。」
明確な答えを得られなかったイグニスはそれ以上問わなかった。
明らかに藪蛇。
言及を避け、余計なことを口にせずお互いに損害を出さないディザストロに感謝するほど。
契約違反の上、地雷を踏み抜いたイグニスの失態だ。
「そうだ。これは独り言なんだがな…。」
大したことでもなさそうに、抱え上げたカリゴの位置を直しながら入り口へと進んでいく。
その場を動かないイグニスに向けて、魔導ブーツを起動しながらどうでもいい世間話をこぼした。
「世界の核心に迫るととってもいいことがあるらしい。帝国だろうが真の王だろうが市民だろうが、この世界は必ず神の元にあるからなぁ。神に迫れば自ずと本物が見えてくる。世界っていう本物がな?」
意味ありげな言葉を残して、ディザストロは飛び上がった。
魔導ブーツの補助で上空へと打ち上げられた花火のように、一直線に消える星をイグニスは呆然と見送った。
イグニスとディザストロが対峙している頃。
上空からノクティス一行を視認したアラネアは槍の魔導ブースターを起動。
ノクティスへと一直線に突撃。
咄嗟のことで反応できなかったノクティスは不審な飛来物を目視していたグラディオラスに引っ張られて離脱。
ノクティスが立っていた場所に直径三メートルほどのクレーターが一瞬にして出来上がってしまった。
女性の戦士が容易に出せるような威力ではない上に落下時の衝撃も減衰させているのだから驚き。
地面に突き刺さった槍を軽々と引き抜いてアラネアは声をかける。
「あら。随分と可愛らしい顔。」
「援軍かっ!」
引き抜いた槍を持って再び上空へと舞い上がるアラネアをノクティスが追う。
先ほどの一撃も空からの奇襲。
おそらく彼女の最大の武器であり要注意攻撃。
人が到達し得ない空中戦をできる人間がまさか王族以外にいるとは思わなかったが、落下させてはまずいのを察知したノクティスは空中でアラネアに張り付く。
「魔法ってことは王子様ねっ!」
「だったらどうするんだよ!」
アラネアはノクティスのシフト魔法のように魔力さえあれば常に上空を飛んでいられるわけではない。
何よりこの王子様は異常に空中戦に長けている。
魔法一つでここまでやり辛くなるのかと槍でエンジンブレードを捌きながら考える。
知り合いに一人、魔導ブーツの跳躍のみで空中近接戦を仕掛ける副官が頭に浮かぶがそれ以上に張り付いてくるノクティスは厄介。
致し方なく地上に降りたアラネアは近距離戦が不可能なハンドガンを構えるプロンプトへ突進。
しかし、間に入って大剣を振り抜いたグラディオラスに止められる。
「いい判断力ね!」
「あんたもな!」
もう一度、今度は低めに飛び上がり槍をグラディオラスに突撃させる。
魔導ブースターが奏でる重苦しい音と、金属がぶつかり合う鋭い音は人が成すとは思えない人外戦開幕の合図となった。
ディザストロが上空に待機していた赤い揚陸艇内にカリゴを下ろして、揚陸艇を見ているアラネアの部下に聞けばまだ交戦中らしい。
時間を聞けば定時数分前。
撤退を促すにはちょうどいい時間だ。
カリゴも白目を向いて全く起きる気配がないし、ヴォラレ基地ではなくアラケオル基地に別の揚陸艇で移送したほうがいいかもしれない。
今後の予定を大まかに決めて撤退を促すべく魔導ブーツを起動。
部下に礼を言ってもう一度地上へと降り立つ。
今度はアラネアが向かった、魔導兵強化装置のたもと。
スナイパーライフルのリロードをしながら音を立てないように緩やかに着地するホバリングを使用し、死角のコンテナ上に降り立つ。
相変わらず凄まじいアラネアはルシスの精鋭二人と王族一人、重火器一人をものともしない。
アラネアの最大の武器は魔導ブーツによる跳躍と魔導ブーストが付随した槍による加速突撃。
対空戦など通常の人間ならば不可能な上に、クレーターを作るほどの威力で飛来する槍。
飛んで降り立てば簡単に殲滅戦を可能にする代わりに狙ったところに空中で立て直しながら突進しなければならないという、一流槍使いにしかできない至難の技。
ノクティスがシフト魔法で上空に舞い上がり、応戦をしているがうまく捌かれている。
撤退指示をしたいのだが定時まであと二分。
二分間は健闘しなければ敵前逃亡で始末書ものだ。
バレないからとやらかすのもアリだがアラネアがその辺厳しい。
スナイパーライフルでの援護射撃を考え、空を見上げる。
人外の戦い中に援護射撃は無粋だろうと、グラディオラスの大剣とプロンプトが持つハンドガンを狙う。
イグニスはまだ来ていないが好都合。
リロードして装填数が三弾であることを確認し、跳ね返っても鉛玉が当たらない部分を狙う。
この場合ハンドガンの先端。
「撃破…ってしまった。」
側面から射撃し、プロンプトの手からハンドガンが離れたところでサイレンサーをつけ忘れるというあんまりなうっかりを思い出し顔をしかめた。
本来さらに遠距離から射撃する用の重いスナイパーライフルのためそもそもサイレンサーが後付け。
射撃訓練はアサルトライフルとハンドガンしかしたことのないディザストロが使ってしまったため完全に失念していた。
「あそこだよ!」
「チッ!さらに増援か!」
銃声を聞き慣れたプロンプトに場所を特定され、見事な連携でグラディオラスが向かってくる。
大剣に耐えられる武器など持ち合わせていないため、片手にハンドガンもう片手にナイフを構えて魔導ブーツで加速する。
この時ばかりはシフト魔法が恋しくなるが使うことは許されない。
大剣を振り抜くグラディオラスの軌道を読んで、加速中の速度で抜けられる穴を探す。
ナイフで応戦してみるかと背筋に冷や汗を流したところで、携帯に設定していたアラームのバイブレーションをポケットから感じた。
即座に横に振り抜いた大剣を上に振り上げることは不可能と考え、襲いくる前にジャンプ。
「なっ!?」
「悪いな。定時だ。」
すれ違いざま、困ったように告げて着地と同時にアラネアのもとに跳躍。
驚いてのけぞったノクティスのエンジンブレードにナイフを思いっきりぶち当てて、アラネアの鎧を後ろに引っ張る。
強制的に引き剥がされた二人は地上に降り立ち、その間に悠然と着地するディザストロを見る。
「お前っ!あの時の!」
「任務完了。定時だ。撤退を。」
ディザストロを指さして驚くノクティスをスルーしてアラネアを見る。
無理やり引き剥がしたため少々不満げだが定時を告げると自らの腕時計を確認する。
「任務完了お疲れ様。残業代は相変わらずでないわよね?」
「出すわけないだろう。軍事費で手一杯だ。人件費に回せる余裕はない。」
「無視すんなっ!」
安月給の軍の予算を思い出して顔をしかめる二人と対照的にノクティスがスルーされたことに怒りを覚えて怒鳴る。
あの時のと言われたら何事だと、人間なら反応するものだろう。
「なんだ。何か話しがあるのか?」
「ある!撤退って逃げるのかよ!!」
帰っていい?という顔でだるそうに槍を杖にするアラネアに待ってもらいながらノクティスに向き直る。
交戦したかと思えば定時だから戦闘をやめて帰るなど突飛なことができるのはアラネアぐらいだろう。
ディザストロもそのようなことをやられたら困惑する。
「残業をせず定時に帰宅する理想的なサラリーマンと訂正願いたいものだな。一ギルにもならない仕事はしない主義だ。」
「サラリーマンって軍人とは違うだろ…。」
「民間企業に所属するか国の機関に所属しているかの違いしかあるまい。とにかく我々は撤退する。貴様らは好きにするがいい。」
「あっ!おい!」
どうせ補給基地のためろくな資料はない。
早々に跳躍したアラネアに続いて赤い揚陸艇に滑り込む。
このままスチリフの社まで一直線。
動き出した揚陸艇の中で魔導ブーツを脱いでぐったりするカリゴをツンツンとつくが全く起きない。
威張っておきながら小心者とは。
ヴォラレ基地についてアーデンにどう報告しようかディザストロはしかめっ面を作る。
アラネアも面倒臭そうに本部への報告をどうしようか考えた。
取り残されたノクティスたちは狐につままれたような顔で戻ってきたイグニスに事の次第を聞き、結局目的は達成されたと早々に撤退したという。