FFXV 泡沫の王   作:急須

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昔を思う

一先ずお茶会をしていたルナフレーナを迎え、冷えているなら隠れ家の中の方がいいと勧められてニックスの案内で隠れ家二階に用意された五人部屋にイグニスとメディウム以外が入る。

メディウムは別室のシャワーに閉じ込められ、イグニスにせっせとドライヤーからブラッシング、ボディーケアからマッサージまで脱衣所で手入れされて部屋に撤退。

待ち構えていたノクティスとプロンプトに捕縛されて毛布でぐるぐる巻きにされ、ほっこりというより簀巻きのメディウムはベッドに芋虫のように這いつくばることとなった。

 

とりあえず自由な片手でベッドヘッドにもたれかかって座り、ベッドサイドに置かれたぬるい紅茶を飲む。

怒涛のコンボ技だったがあったまったので大目に見る精神で心穏やかに悟った顔で座るメディウムはさながら仏のようである。

ノクティスが目の前のソファーにすわり、その隣に当然のようにルナフレーナが座る姿はいつもなら微笑ましいのに今はただただムカついた。

仏の顔は三秒と持たなかったらしい。

 

「なにこれいじめ?彼女いない歴が年齢という俺への当てつけ?毛布切り裂いていい?」

「良いわけあるか。しかもどこが当てつけなんだよ。」

「うわ無自覚ですかそうですか。いつも奥手なのにここぞとばかりに隣に座ってるのに"こんなの当然だし?"みたいな顔しやがって。」

 

過保護ノクティスはとにかくメディウムをどうにかしようという考えで頭がいっぱいだったためルナフレーナが隣に座っていることに対して何の疑問も持っていなかったが、メディウムの発言でハッと隣を見る。

特に意識した様子もなく自然と座るルナフレーナ。

あまりにも自然すぎてこれは自分の意識のし過ぎで、隣に座るぐらい友達でもするじゃないかと錯覚する。

別段弟の幸せを恨むつもりもないメディウムはひとまず恨み節をやめて、ノクティスにこれまでの経緯を聞いた。

もちろん知っているが怪しまれないためである。

 

「雷神の啓示のあと、レガリア奪還までは聞いた。頼んでいたヴォラレ基地はどうなった?」

「魔導兵強化装置を破壊して暴れた。ついでに帝国の准将を一人捕まえたけど逃した。一応情報として補給基地があともう一つあるってのがわかったぐらいか。」

 

ちらりとイグニスを見る。

大雑把にルナフレーナに教えようとするプロンプトの補足説明をしながら耳を傾けているようだが、ディザストロとの接触は報告していないのか。

ノクティスが触れないということは知らない可能性が高い。

 

「そっちは?」

「仕事にこき使われて、適当なところに放り出してもらった。カエムの岬は特定できていないはずだ。」

 

仕事の内容を深く語らないメディウムにイグニスの頬がピクリと動く。

先程から何か敵意の気配がすると怪しんでいたメディウムはその動きで納得する。

なるほど、思慮深き軍師殿は兄王子を信頼できないようだ。

自分とてこんな胡散臭い男を兄とは言え信頼できるかわからない。

場合によっては政敵になるやもしれない兄王子など、秘密裏に抹殺した方が世のため人のためだ。

どんなに最低の国になろうが、最高の国になろうが、民の混乱は無い。

 

しかし、仲間内での争い事は緊急事態には命取りになる。

早々に火種は鎮火するべきだと、メディウムはわざとらしく罠にかけることにした。

 

「さてノクト。俺は今から特定の人間に対して大いに暴言を吐きたいと思う。構わないかね?」

「は?何のために?」

「理由はあとで答えよう。許可さえくれれば良い。俺とて言いたくて言うわけじゃ無い。」

「まあ…言い過ぎなけりゃ…。」

「承知した。」

 

完全に腹芸がお上手な副官の口調になったメディウムはルナフレーナの近くにいるイグニスとプロンプトを向く。

イグニスは確定としてプロンプトは不安因子として釣ることにした。

 

「ではそこなメガネの人とツンツンチョコボ。」

「…俺か。」

「ツンツンチョコボ!?」

「貴様ら、先程から王子たる俺に無礼では無いか。ーー敵意など向けてはその首をうっかり刎ねてしまう。」

 

いつの間にやら現れたナイフが二人の首元に浮遊していた。

メルダシオ協会本部で見せた浮遊魔法。

ピッタリと頸動脈の位置で刃を向けて静止するナイフに一歩も動けない。

 

許可を出した以上手を出すことをためらわれたノクティスは沈黙し、ルナフレーナをそっと背に隠す。

ノクティスの傍にはグラディオラスが控え、さらにメディウムから二人を隠した。

 

彼らの判断は正しくそのままメディウムは言葉を重ねる。

 

「まずメガネ。再確認しよう。お前は何に仕えている。」

「…今も昔も変わらない。ノクティス・ルシス・チェラムただ一人だ。」

「ふむ。"ルシス王家"ではなく。一個人に仕えていると。」

「その通りだ。」

 

イグニスの目に迷いはない。

政敵としてでも人としてでも、理由は何でもいい。

今敵意を向けているのは敵だと認識しているからだとイグニスは断言したに等しい。

メディウムは冷たさも暖かさもない、無感情な瞳でイグニスを見つめるのをやめて今度はプロンプトを見る。

 

「ではツンツンチョコボ一般人。」

「色々混じってるよね!?」

「お前は誰の友人で、世界が平和になればどこへと向かう?」

「世界が…平和に?」

「そうだ。いつまでも戦争や旅が続くわけではない。その後はどうする気だ。」

 

当たり前のことを今更知ったように考え込むプロンプトを誰も急かしたりはしなかった。

イグニスのように最初からノクティスと共にいたわけではないが、小学生時代から仲良くなりたいと思って多くの努力を積み重ねてきた。

旅に出るとき、特別に訓練をしてもらってやっと同行を許された。

その後は何の疑問も持たず王の剣になるつもりだったが、改めてどうするかと問われると何も言い返せない。

 

「一般人の君には道がいくつもある。王に仕えるだけが人生ではない。」

 

メディウムの言う通り、人生とは人の選択で無限の可能性がある。

しかし、ノクティスと共に過ごし戦ってきた自分はこれからもノクティスを支えたい。

難しいことは苦手で、できるなら隣に立ちたかった。

 

「言う通りってのはわかる…うん、一つじゃないよ。王子様だって二人とも違う道を進んでる。でも俺はノクトと一緒にいたい。隣に立ちたいって、ずっと思ってきたんだ!」

 

一瞬だけ眩しいものを見る目でプロンプトを見てからメディウムはノクティスに問うような目線を送る。

何かをしでかすつもりなのは察しがついたが兄を信じて強く頷いた。

 

「そうか。二人の答えは非常に明確で俺は兄として弟のそばに居てくれれば心強い人間だと二人を思っている。たとえ敵だと思われてもな。」

 

その答えが合っているのか正しいのかの判別は難しいが、弟を任せるにたると判断した。

イグニスとプロンプトの首元に当てられたナイフを消す。

メディウムにとって信頼されるされないは大した問題ではない。

しかし、旅をする上では非常に問題がある。

精神衛生上よろしくない。

 

「俺を信頼できない理由は二十年の動向と王子という立場にあるだろう。だが残念ながら二十年の出来事は話せん。これだけは無理だ。」

「後ろ暗いことがあると断言するというのか。」

「その通りだ軍師。そも、後ろ暗いことしかしていない。俺の過去は真っ黒だ。」

 

プロンプトは少しだけ引いていたがイグニスは予想の範疇だったため動じない。

語れないという時点で察しはついていた。

その後ろ暗さの内容が重要なのだ。

信頼を得られずとも語らない口の硬さは評価に値するが、同時に王への忠誠心が真実なのかも揺れ動くこととなる。

 

「ただ一つだけ明かせる過去がある。"どうしてこんな俺になったのか"の話だ。」

「どういうことだ?」

「俺は自らの意思で王都を出たがその理由は伝えたことがない。年端もいかないガキが安全な王都を出るのに誰の手も借りないと思ったか?」

 

借りたのではなく無理やり持たされたのだがそこは訂正しないでおく。

 

「俺が手を借りたのは剣神バハムート。今も昔も俺はあいつの眷属のような扱いを受けている。」

 

正式な契りは行なっていないが、打倒星の病を掲げて日々活動するわけだ。

もちろん常に監視の目があるわけでも助言があるわけでもない。

ただ少しばかり神様の力をお借りした。

最たる例は移動。

王都を出る際に自力の徒歩ではハンマーヘッドに向かうだけで一日かかり。

使命を遂行するにあたってシガイの王に会わねばならないため、瞬間移動魔法を無理やり行使してもらった。

それ以外でも戦闘面や地理で何度かお世話になったが今はさっぱり声も聞こえない。

それでも繋がりが消えないのが不思議なところだ。

 

「バハムートとどうやって出会ったか。様々な出来事が重なりすぎているし、一から話そうと思う。」

 

非常につまらない上に虚しい話なのだと前置きを置く。

ただの話で信頼が得られるかは疑問だが"どうしてそうなったのか"がわかる内容。

さっぱりわからない五人は首を傾げた。

 

いつのまにか毛布から脱出したメディウムはベッドから立ち上がり、シャツを脱ぎ捨てる。

上半身裸で、履いていたジーパンの裾を限界まで引き上げた。

 

生傷というのも容易い、異様なまでの火傷の跡。

目を背けたくなる光景だが、誰も逸らさない。

彼が歩いてきた道を否定するような人間は一人もいないからだ。

 

「見たくないだろうが、この火傷は外に出てからできたものだけじゃない。」

「王家の力の代償だけじゃないのか?」

「それとは別に烙印がある。背中の真ん中部分に刺し傷と一番古い火傷があるはずだ。」

 

両足の火傷もすごいが、くるりと後ろを向いて背中を見せる。

もはや人肌と言えないほど変容し変色しているが、一切赤黒い場所に縫い付けるというより無理やり接合したような跡がある。

しかし、かなり広範囲にある代わりに端に行くにつれて色が薄まっている。

その上にさらに傷跡があるためわかりづらいがたしかに伸ばしたような跡があった。

 

「成長による変質…幼少期に受けた…?」

「この程度思い当たってくれないと困るが、その通りだイグニス。これはノクトが生まれる数ヶ月前につけられた…いや、つけた傷。両足と背中にあるんだ。」

 

ノクティスが生まれる前となるとイグニスやグラディオラスも幼く、記憶があやふや。

登城したことあるかも怪しい。

しかし、王子がそのような痕を残すような事件があればグラディオラスはともかくイグニスは知っているはず。

しかし、思い当たる節がない。

 

「魔法の暴発とかか?」

 

昔やらかしたことのあるノクティスは火傷になる前に保護されたが、第一子のメディウムがやらかした経験則から自分は助かったという可能性もある。

だがそれならわざわざ話したりはしない。

似たようなものではあるが、故意にやっている。

 

「魔法の暴走というべきか。俺は歴代ルシス王族の中でも魔法に秀でた部類でな。願ったことを実現する事故が幼い頃は多かった。」

 

家庭教師による勉強が嫌で、隠れたいと願えば透明人間になってしまったり、部屋から出たくないと喚けばレギス王でも解除できない施錠魔法をかけたり、雪が見たいと願って王城に降り積もるほど雪を降らせた。

ことごとく願いを叶えてきた魔法は、その時も願いを叶えようとしたのだ。

 

「何を、願ったんだ。」

 

あまり聞きたくはない願い事だが聞かねばならないとノクティスが顔をしかめて聞く。

火遊びがして見たいなどという子供の好奇心の願いでは決してないだろう。

メディウムは乾いた笑い声をこぼしながらなんでもないことのように答えた。

 

「自殺だ。」

 

誰かの息を飲む声が静かな部屋に響く。

第一王子の自殺未遂。

それも、ルシス王家が誇る魔法で。

信じたくはないが、真剣なメディウムは嘘をつかない。

 

 

 

 

当時のメディウムは自暴自棄だったとしか言いようがないほど荒れていた。

 

理由は二つ。

 

一つは歴代王に認められなかったこと。

二つは王子であることを周りに押し付けられていたこと。

 

五歳の誕生日にコルに連れられて訪れた賢王の墓所は何の反応も示さず、クリスタルに触れられても何も起こらず、光耀の指輪をはめて見てもただぶかぶかな指輪というだけ。

最初はその時ではないのだとレギスに宥められたが、クリスタルや指輪も拒絶するでもなく受け入れるでもなく無反応である事例がないため、混乱を招いた。

 

メディウムの身を案じたレギスは緘口令を敷いたが人の口に戸は立てられない。

王として民を守れないのではないかと不安に思った国の政治家の一人がメディウムは王族として重大な欠陥があると部下に喋ってしまったのだ。

レギスの周りに控える者たちによる"メディウム王子はルシス王家の出来損ない"という噂話があっという間に広がった。

 

王に守られて生きていた民は守る力がないかもしれないメディウムを期待外れだと見るようになった。

それでも王子として努力すればきっとみんな認めてくれると夢を見たメディウムは血を吐くような思いで努力した。

しかし、一度期待はずれだとレッテルを貼られて仕舞えば全て紙くずのように捨てられる。

 

記憶力が良く、勉学ができると励んで見ても王子ならば当然だと跳ね除けられた。

魔法の才があり、子供では不可能なはずの造形魔法や不思議な魔法を使用してみせても比べる対象がレギスしかいないため児戯のために魔法を使うなと叱りつけられた。

優しかった母親は必死に努力していい子に努めようとするメディウムの貼り付けたような笑顔に怯えて、顔を合わせることすらなくなった。

城からあまり出られないレギスはメディウムの"毎日が楽しい"という嘘に騙され続けた。

 

メディウムは一年、罵りに耐えた。

日に日に増していく身勝手な声を聞いても笑顔でいた。

王子だから仕方ない。

自分はそういう風になるしかないのだと。

心がすり減って、愛情に飢えて、泣くことを忘れた子供はいつか誰か認めてくれると信じていた。

 

ーー声に出さない子供の渇望というものはあっけなく裏切られる。

 

弟ができた。

母親が男の子を身ごもった。

それはまさに奇跡のようなもので、ルシス王国中の花が季節関係なく咲き誇り美しい自然現象がいくつも現れた。

まるでその男の子を世界が祝福するかのような現象の数々に、国民は期待を寄せた。

メディウムの努力など忘れ去って、王にふさわしい子供が生まれるのだと国中が湧いた。

 

母親は弟が生まれることを一年ろくに顔を合わせなかったメディウムに報告し、世界に愛されている子供が生まれると嬉しげに話した。

メディウムのことを愛していた母親は弟を大事にしてあげて、と優しく抱きしめた。

一年間も考えがわからないからと避けてしまっていたが、きちんと愛していると全身で伝えたかった。

 

愛情を渇望したはずが、受け取ることも忘れた子供にはただの死刑宣告にしか聞こえなかった。

子供を温める母の声は呪いになり、弟を祝福する世界が地獄の成り果て、あなたは大事な子供だと愛を伝える声が刃物に変容する。

 

ズタボロの心がかけらすらも残さず壊された子供は引きつりそうになる顔をいつもの顔に化けさせる。

とにかく笑わなければならない。

これ以上失望させてはならない。

震える唇を痛いほど引き上げてメディウムは笑った。

弟はとても愛らしく、素敵な子に生まれることでしょうと母とともに笑った。

世界に祝福された素晴らしい王になることでしょうと隣で微笑む父親に朗らかに伝えた。

 

ーー兄はとても醜く、欠陥品なのでしょう。

世界に見放されたごみに成り果てることでしょう。

 

どんなに頭のいい子供でも思考回路は単純で極端な発想しかない。

一度対比を始めて仕舞えば卑屈なまでに自らを貶す。

自分の言葉が自分を傷つける刃物になって帰ってくる。

もはや何がしたくてこんな顔を作っているのかすらもわからなくなっていた。

それでも取り繕うことはやめない。

もう笑顔でいることしか、残っていなかった。

 

上機嫌の両親の邪魔にならないように、メディウムはひっそりと生きることにした。

今まで通りだが、誇張をやめて必要最低限しか喋らない。

しかし、両親は後継という憂いが晴れ王位を無理に継がなくても良くなったメディウムに望む人生を与えてあげられると手放しに褒めた。

今まで与えられなかった愛情を懸命に与えようとしたのだ。

遅すぎる上に多すぎる愛情に蝕まれたメディウムは日に日に具合が悪くなり、ついには吐き気と頭痛で気を失うこともあるほどになってしまった。

 

お互いに会話が少なすぎるために、自由に生きてもいいという優しい思いが全く届いていなかった。

弟が生まれた時の練習台で本心から言われていないと思いこんでいた。

捨てられたくない一心で魔法で無理やり吐き気と頭痛を治療し、その反動を誰もいなくなった自室で声にならない悲鳴をあげながら耐え続けた。

 

心身ともに磨耗し無駄に知識のある子供が短絡的な自殺を考え始めるのもそう遠くない未来となった。

 

そして、いつかうたた寝の時に見た夢へとつながる。

メディウムの魔法は"本人の意思に関係なく考えただけで発動する"ことが稀にある。

強く望めば望むほど大きく形に現れるが、疲れたメディウムは真夜中の城の中庭にある庭園の真ん中で"誰の迷惑にもならないなら、灰になってしまいたい"と考えてしまった。

 

魔法は本人の希望を出来うる限り叶え始めてしまった。

 

火の粉が飛ばないように分厚い氷の壁による球体が造形された。

庭園を覆い尽くすほどの氷に稲妻が走り、大地を焦がしたかと思うと植物に次々と火がついていく。

煽るように炎が舞い、瞬く間に異様な明るさとなった中庭。

魔法を止める気にもならない。

しかしこのまま灰になるならば楽に灰になりたいなと、虚ろな目で氷の椅子を作りあげて足が徐々に火傷を負っていく様をぼんやりと見続ける。

痛覚も麻痺したメディウムは他人事のように"痛いな"と思うだけだった。

 

パチパチと燃え盛る炎と何かが氷を叩く音以外は何の音もしない世界で頭の中が空っぽになったメディウムはいもしないと思っていた神に初めて話しかけた。

 

「もうこの命はいらないから、つぎは誰かに必要とされる人生がいいな。」

 

ーーでは、その命を貰い受ける。ーー

 

 

 

「そうやって俺の命を拾ったのがバハムート。背中の接合部分はバハムートとの契約の証。あの日から俺は所有物なんだとよ。」

 

沈黙が支配する室内で服を元に戻し話を切り上げた。

移動の車内で見た夢はバハムートに出会うほんの数秒前。

構ってもらえなくて拗ねた子供が起こした、騒がしい事件だと本人は思っている。

 

この話が信頼する引き金になるかはわからないが、帝国に寝返った訳ではないことが証明できるだろう。

バハムートは武器召喚を授け、ルシス王国を見守る主神。

本神(ほんにん)が拾い上げた命で所有物の烙印である時点で裏切りの可能性はゼロに等しい。

バハムート自身がルシス王家に見切りをつけていれば別だが、クリスタルに引きこもっているあの神様が今更考えを変えるとは思えない。

 

「…兄貴。」

「どうした。くだらない話という感想は受け付けないぜ?」

「くだらない話なんかじゃねぇよ!何で今まで誰も教えてくれなかったんだ!親父も!兄貴も!」

 

かの親子には溝があるとイグニスが教えてくれたが本人も理由を知らない様子だった。

実際に、イグニスは言葉を失っている。

 

「教えるわけないだろう。俺が自殺を考えたきっかけはノクトを身籠ったことだ。だがノクトは何も悪くない。意思すらない赤子のせいで兄が拗ねた話などされても意味わからんだろう。」

 

そう言われると反論できない。

ノクティスは何も悪くないが兄を自殺に追い込んだきっかけが自分だと言われると罪悪感を覚えてしまう。

メディウムもレギスも本意ではないため、誰も口にしてはならない話となった。

 

「言っておくが、俺はノクティスが大好きだ。それはもう可愛い弟だからな。強請られたらなんでも与えてしまう自信がある。だから恨んでないし気にもしてない。そういうことがあった。ただそれだけだ。」

 

改めてイグニスとプロンプトに目線を向けた。

同情によって敵意をそらすつもりはなかったがプロンプトは感情のままにメディウムを見ていた。

ただ悲しいと伝えて来る。

 

イグニスは悩んでいた。

的確にバハムートとルシス王家のつながりを考慮し、絶対に外れない契りなのは理解できる。

帝国への裏切りなど考えられない。

だがやはり、メディウムという人間がつかめない。

何故そうなったのかの理由があっても、そのあとがさっぱり空白なのだ。

 

「信頼ってのは難しい。俺はとっかかりを提示することしかできない。さて、他に話をしたいことがあるだろう。俺の話ばかりでつまらないし、言いたいこといい合おうぜ。答えはじっくり考えればいいしさ。」

 

この話はおしまいだと、話題を変えて事後報告や話したかった事などを次々にあげていく。

真剣に悩む時間というよりいったん間を空けるために矢継ぎ早に話題を変えていくのは正直ありがたいとイグニスは思った。

考えるより、直感で下したい決断も時にはあるのだ。

 

 

 

 

 

 

話がいったん御開きとなった時間。

ルナフレーナが女性陣の部屋へと帰り、メディウムが散歩に行くと隠れ家を出て言ったところでイグニスはジャレットを呼んだ。

当時、王子の自殺となれば宰相であるクレイラスも急ぎ駆けつけたはずだ。

なにか話を知っているかもしれないと、概要を伝える。

紅茶を淹れながらそうですか、とどこか寂しげに一言頷くジャレットはとても悲しそうだ。

 

「あの日はたまたま、クレイラス様がレギス陛下と昔話に花を咲かせていました。その際、自宅にあるワインをお届けするために私も登城しておりました。」

 

ジャレットが目にした美しいスノードームのような魔法はメディウムの心を表すかのように強固で冷たかった。

クレイラスに本音を吐露したレギスの心情をジャレットは聞いたまま伝えた。

 

 

 

中庭のほとんどが燃えている上に反射するように氷が光を通すため、たまたま巡回していた王の剣に発見された。

魔法がわかる上にとても目がいい王の剣だったため、第一王子であるメディウムの姿も視認。

明らかにまずい状況で盛大に焦った王の剣はすぐさまレギスに報告しに行った。

騒ぎはすぐに王のもとへと届けられ、身籠っていた母親はもしもの時のために伝えられずに待機となった。

 

報告が上がり、完全武装したレギスが中庭にたどり着いた時にはメディウムが視認できないほど炎が舞う。

外殻の氷を砕き割ろうと自身の剣を叩きつけるが、子供が造形したとは思えないほど強固な氷にヒビを入れることさえできない。

レギスは日々のメディウムの努力を一度きちんと測るべきであった。

彼はもはや、レギスを凌ぐ魔法使いになってしまっていたのだ。

 

いくら剣を叩きつけても割れない氷に焦ったレギスは、メディウムの名を呼びながら王の剣までも纏って破壊せんと力を振るう。

歴代王の力には届かないメディウムの氷は徐々に砕け始めたが、それでもまだ厚い。

せめて声が届けばと何度も何度も名前を呼ぶが、全く反応がない。

息子を救う力もない王は自らの今までの行いを恥じた。

 

口先ではメディウムのせいではないとなんども慰めていたが、本心では非常に落胆していた。

人をよく観察するメディウムの前でもこの子ならわかってくれると何度もため息をついてしまっていた。

褒めてくれと子供らしく笑う彼を、できて当然だと跳ね除けてしまった。

弟ができたとわかった時、明らかにメディウムに対する扱いと真逆の反応を示してしまった。

 

たった一年。されど一年。

 

自らが息子に与えてしまった傷が心を守ることを知らない子供には大きすぎることをようやく理解した。

なぜ一年も気づいてあげられなかったのか。

今このまま何もできずにメディウムが燃え尽きれば、一人の子供すら守れない無能な王が出来上がる。

子供を自殺に追い込んだ、残忍な王になってしまう。

なにより、レギス自身がその罪に耐えられない。

 

自らの剣では役に立たないと、ファントムソードを解放して氷に打ち込み続ける。

王の尊厳をかなぐり捨ててただ傷ついた子供をもう一度この手に抱きしめようと。

さらにファントムソードを打ち込まんと氷を見据えていたレギスは目を疑う光景を見ることになる。

 

剣神バハムートが氷を静かに見つめていたのだ。

 

一体なぜそこに神がいるのか全く理解できなかったレギスは目を見張ったが決して攻撃の手は緩めない。

そんなレギスを一瞥しながらバハムートは一言二言、氷に向かって何かを告げる。

なにを言っているのかまでレギスには理解できない、否、理解させてもらえなかったが数秒後には夜空から静かに氷を見つめるバハムートがなんのためらいもなく、己の剣を氷に突き立てた。

神に抗えるはずもない魔法はあっけなく砕け散り、神威の所為か一瞬にして炎も吹き飛ばされた。

 

その剣の先端は真っ直ぐメディウムの心臓に突き刺さり、背中にまで貫通している。

神に殺されるなどあんまりな光景に全く頭の理解が追いつかなくなったレギスに、さらに人智の範疇を超えた出来事が映る。

バハムートが剣を引き抜いたところにはなんの傷もなく、両足にひどい火傷を負ったメディウムが背中に烙印のような火傷と無理やり接合したような怪我をして氷に横たわっていた。

 

バハムートはすでに姿を消し、黒焦げになった中庭と輝く氷の上に眠るメディウムだけが神々しく映える。

 

重傷を負ったメディウムは三日三晩眠り続け、起き上がってもろくに歩けなかった。

コミュニケーションを図ろうとした両親に対して、まるでいい子のような返事しか返さずもう本心を語り合うには手遅れなのだと現実を突きつけ続けた。

 

かくして、バハムートのいいなりとなり謎の使命をもつ子供が誕生した。

 

 

 

 

「虚しいものですね。聡明ゆえに、愛情を知らないのです。」

 

ジャレットが語ったレギスの心情は父親としての葛藤と王としての葛藤が大きく語られた。

しかし、詳細が少し増えただけで本題である信頼できるかできないかの話には繋がらない。

 

どうしてもその答えが見出せないイグニスは歳を重ねたジャレットに思い切って聞いてみる。

隠さずにわからないと正直に教えをこうイグニスに、ジャレットはあくまで個人的な意見だと前置きを置いた。

 

「メディウム様は、決して他人に弱みを見せません。今の話はメディウム様からすればとても大きな弱みです。それをわざわざお二人に握らせる意味を、わかって欲しかったのではないでしょうか。」

 

彼の方は用心深く一切自らの情報を開示しないのです、と四人の紅茶を淹れ終えたジャレットがビスケットを添える。

一枚だけ端の欠けたビスケットを見つけたイグニスはそれを手に取ろうとするが、ジャレットに阻まれそっとワゴンの上に戻された。

 

王族の欠陥品という言葉と欠けたビスケットが重なった。

 

そこでようやく、イグニスは合点が行く。

彼が提示したきっかけは己のリスクを顧みず王に献身する意思。

王子である彼が欠陥品で、帝国とつながっている可能性を提示すれば秘密裏に処理されるかもしれない。

しかし、自らの命よりも王のそばに支えるために信頼を勝ち取ることを優先したのだ。

 

それだけで全面的に信頼する気にはならないが、これから彼を見てみようとイグニスは結論付けた。

プロンプトはそこまで考えは及ばなかったが、一先ず彼を信じることにした。

きっと、彼なりの考えがあって過去を明かしてくれたのだろうと。

過去に暗さがあるという共通点にプロンプトは考えを改め始めていた。

 

若者の空気が変わるのを感じて少しだけ微笑むとジャレットは部屋から下がる。

一枚の毛布をそっと腕に持って、メディウムがいるであろう場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

冷たい風が吹き抜ける灯台の下でメディウムは風に当たっていた。

半袖で出てきてしまったが、今はそれが心地いい。

心まで冷え切って仕舞えばいいと自傷気味笑った。

あまり思い出したくない記憶を掘り起こして、感傷気味になっていた。

 

機材が積まれた木箱の上に座るメディウムは隠れ家側から足音が近づいてきていることに気がついていたが声をかけなかった。

ゆったりとした足取りに成人男性にしては軽い音。

老人というより卓越した執事のジャレット特有の足音だった。

クレイラスを通して幾度となく顔を合わせていたジャレットは気を許せる。

 

「お体が冷えてしまいますよ。」

「ああ。あいも変わらず気が利くな。」

 

ふわりと肩にかけられた少し暖かい毛布。

見向きもせず海を見つめるメディウムの隣にジャレットが立った。

昔から何かあると一人で外に出る癖があるが今夜は特に嫌な思い出を掘り起こして不安定だったのを察したのだ。

 

点々と輝く星々とさざ波が揺れる海は月の光に照らされてキラキラとしていた。

 

「初めてかもな。あの話を当事者以外とするのは。」

「左様でございますか。」

「いつか話さなきゃならないかもしれないと思っていたが、まさかこんな形になるとは思わなかった。」

 

墓場まで持って行くのは不可能な内容だった。

ルシス王家はいつも会話が足りないとつくづく思う。

些細な会話もしないから、こんなにもお互いをわからないのだ。

だからと言って話すとはどうやるのだと、考えてしまって結局堂々巡り。

不器用な家系だ。

 

「もっとスマートにできりゃいいのに。人付き合いって難しいな。」

 

塩辛いような海風が、メディウムの言葉を飲み込んだ。

 

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