FFXV 泡沫の王   作:急須

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カエムの岬到着後の小話。
これといって話が進まないほのぼの回です。


戦闘講座

カエムで一泊した翌朝。

朝の基礎トレーニングを終え軽く走り込みをしたメディウムはハンドガンの手入れを行なっていた。

あらかじめ渡されたマガジンは全部で百五十発分。

滅多に発砲する気は無いが渡しすぎでは無いだろうか。

マガジンが武器扱いでよかったとつくづく思う。

ハンドガンの紐付けではなく、マガジン単体で召喚や収納が行えるのはありがたい。

この後は絵を描いてゆっくりしようとしたところで、不審な音が届く。

 

嫌な予感はするが無視はできまいと背後からの足音をさせる主に声をかけた。

皮の衣類が擦れる音と金属の音、それなりの身長と筋肉量からくる重さの足音に誰だか見当はついていた。

 

「おはよう、グラディオラス。真剣な頼み事ならコルの方が適切だぞ。」

「おはようございます。メディウム様。…なぜ頼みごとだと?」

 

振り返らずに名前を言い当てられ、一言も発さないうちに頼みごとに来たと見破られてしまった。

あだ名ではなく本名で呼ばれた条件反射で、従者の対応をしてしまったが今のメディウムには王者の風格がある。

普段は表に出さないその気品は、気が抜けていることによって前面に押し出されていた。

 

「二、三歩たじろぐような音が聞こえた。適切な人選なのかを迷ったか?」

「はい。答えは持っていてもはぐらかされるかもしれないと。」

「俺のことをよく知っているようで。しかし今回はきちんと教える。"修練の道"のことだろう。」

 

修練の道。

ダスカ地方とクレイン地方を分断する大峡谷'テルパの爪跡"内にある命がけの腕試しの場。

神々の戦いである魔大戦の時にできた跡だと伝わるテルパの爪跡はほとんどのものが立ち入らない神聖な地であった。

 

約三十年前、シガイの被害が広がらないようにとテルパの爪跡を調査したハンターにより"修練の道"という名がついた遺跡が発見された。

ルシス王国黎明期に作られたと思わしきその遺跡では、 かつての王に仕えた英霊たちが試練に挑む者を待っている。

文字通り生死をかけた修練の道に挑むものは非常に多かったが殆どの者が帰らぬ骸となった。

 

コルはかつて試練に生きて帰って来られた経歴があり、"不死将軍"の渾名はそこから来ている。

歴代の王に仕えた英霊に認められることは名誉なことだが命をかける試練に王の盾を送り込むのは憚られる。

グラディオラスはノクティスの近くにいて、その身を賭して盾となる。

生涯誰にも譲れないアミシティア家の役目。

それがわざわざ王から離れのたれ死ねばアミシティア家とはなんだったのかという話になる。

クレイラス・アミシティアも、王のそばを離れて何が王の盾かと修練の道には挑まなかった。

 

「あそこは文字通り命をかける。グラディオの場合、命をかけるべきところは他にもあるはずだと俺は思う。」

「この数日間で、俺は自分の未熟さを知りました。レイヴスに弾き飛ばされ、帝国の准将とまともに戦うことすらできなかった。」

「強くなりたいだけなら他にも方法があるだろう。なぜ修練の道にこだわる。」

 

修練の道は最悪で、挑戦者を待ち構える一人の英霊を思い出してメディウムは眉間にしわを作る。

二十歳を迎えた時に一度挑戦したいとアーデンに強請って挑んだことがあるが、王家の血筋の所為で門前払いを食らった。

並み居るシガイを打ち払って最奥まで到達したのに、片腕が掠れた英霊に"貴方に剣を振るうことはできない"と傅かれてしまったのだ。

あとでコルに聞けば、本来ならばその前に他の英霊による関門が存在し、自らを補う力を授けられると言う。

 

グラディオラスの実力を甘く見ているわけではないが、一人でシガイを倒しながら英霊と戦うのは不可能に思えた。

 

「修練の道は王の盾にとって重要なものなのは理解している。しかし、命を落として仕舞えば王の盾以前の問題だ。」

「分かっています。それでも俺は、挑みたいんです。」

 

聞く耳持たず。

決意が固すぎて付け入る隙がない。

お願いします、と頭を下げるグラディオラスを無下にする気にもなれず溜息をついた。

王族には甘い英霊達だが他の者には容赦ない。

せめてコルに満身創痍でも命だけは救い出せと秘密裏に命令して、先導を頼もう。

メディウムがついて行くことも考えたが、試練にならないような気がした。

 

「致し方ない。俺がついて行くよりコルの方がよく知っているだろう。相談してみる。」

「ありがとうございます!」

「コルも忙しくて今すぐにとはいかないが、準備はしておけ。」

「はい!」

 

嬉しそうにするグラディオラスに二度目の溜息をついて、どうしてもいいたかったことを今更ながら伝える。

 

「その敬語はやめてくれ。」

「おう。年上に頼みごとするときは敬語の方がいいと思ってよ。」

 

コロリと態度を変えたグラディオラスに脱力し、三つしか違わないだろうと頭を抱えた。

 

 

 

 

朝方から頭痛がしそうな話を聞いた日には大抵面倒ごとが絶えない一日となる。

アーデンを通して学んだ教訓を、まさかこんな旅の最中でも痛感することになるとは思いもよらなかった。

 

第二波は朝の弱いノクティスを起こし、モニカの朝食を食べた後。

旅の疲れを癒す為に自由の日となった途端に、グラディオラスの護衛をつけてノクティスは釣りへと出かけていった。

ルナフレーナとその護衛に任命されたニックスも付いていったが、機会を狙ったように一般人のチョコボ頭がとんでもないことを言い出した。

 

「俺に訓練してほしいだ?」

「うん。射撃能力ならメディが一番高いかもって。」

「なんで今日に限ってこうも…。」

「迷惑…かな…?」

「いいや、向上心があるのはいいことだ。しかし教えられることなんてあるかぁ?」

 

食後のコーヒーを口に含みながらリビングに残った二人を観察する。

昨夜感じた懐疑的な敵意は消え、信頼しようと言う努力が垣間見えた。

プロンプトの隣でコーヒーをすするイグニスも同様に敵意はないがまだ迷いはあるようだ。

 

まずまず仲間としてやっていけそうなのを把握してからプロンプトの戦闘能力を図る。

単純な能力値もガンナーとしては優秀。

観察する能力は非常に高い。

思考の柔軟性も申し分ないが、実戦経験不足が目立つか。

共闘したのも巨神戦の一度きりなので、まず現状を把握する必要がありそうだ。

 

メディウム自身の射撃能力は剣を好む性質ゆえに大したことはない。

よくもなければ悪くもなく、七十メートル先までならばヘッドショットを決められる代わりに動かれると全く当たらない。

スナイパーも遠距離が大の苦手なのか、ろくに扱えないと散々アーデンに馬鹿にされた記憶しかない。

おかげで射撃訓練など初級の構え方と撃ち方ぐらいしか受けたことがなかった。

 

ノクティスはさらに酷く、誤射しまくりになるのでそもそも持たせない。

ルシス王家は最新兵器と波長が合わないらしい。

 

「実弾演習するわけにもいかないし、こいつの出番かな。」

 

メディウムの手に現れたのはハンドガン。

但し、火薬を使用しない水鉄砲。

形状のみがハンドガンに近く、重さも帝国軍が使用するハンドガンの重さと全く同じである。

 

「これは?」

「対ノクティス悪戯用水鉄砲。重さや見た目にもこだわったがなによりも重視したのは静音性だな。サイレンサーなどなくても数メートル先なら音が聞こえないだろう。」

 

銃のバレル部分に、防音魔法が彫られている。

火薬を用いないため、もともと音はしないがこれは悪戯用の銃。

わざわざ実弾銃の音がなるように音を記録した魔法も反対側に彫り込んである。

防音魔法は単純に静音性を上げるだけでなく、メディウムが魔力を流し込めば音量を調節できる。

意図的に小さくしたり大きくしたりと悪戯の幅が広がることを考えてわざわざ魔法も改造した。

 

水鉄砲は押し出し式だが威力が減るため、当たると弾ける水の弾丸魔法まで作った。

クッションのようにふんわりするが当たればそれなりに仰け反る。

この銃をカスタマイズするためだけに銃に詳しいビッグスとウェッジを三日徹夜させたりもした。

職権濫用もいいところである。

 

「威力は落としてあるが当たればそれなりに痛い。まずはこれで俺に当たるかのテストをしてみよう。」

「外に出るんだね。」

「俺も付いて行こう。」

 

発砲音がするように魔法を起動し音量を通常に調節。

予備で全く同じものを用意しておいたため自分の銃も同じようにセット。

非戦闘員であるジャレットとタルコットには念のためモニカと一緒に行動するように頼んだ。

水がかかるだけだが子供のタルコットはきっと怖いと思うだろう。

防音魔法をかけて隠れ家にいてもらうことも考えたが、それでは外の世界で生きていけない。

野獣やシガイの脅威は待ってくれないのだ。

多少の戦闘音に怯えてもらっては困る。

 

後のことは台所にいるモニカに任せ、イグニスも来ると言うので水が当たらない程度に離れて見てもらう。

隠れ家から少し下った、広い平地で撃ち合うことにした。

 

「俺は人間の動きで回避する。魔法は使わない。一分以内に俺に当ててみろ。」

「どこに当ててもいいの?」

「訓練だからって遠慮はいらん。当てればいい。」

 

通常の拳銃と同じ発砲音がすることの注意喚起をし、一旦試し打ちをさせている間に説明と準備運動を済ませた。

射撃能力を見るだけなので予備の水鉄砲はしまってある。

多少広い平地で向かい合い、イグニスにタイマーを任せた。

 

「では、始め!」

 

開始と同時に構えられていた水鉄砲からまっすぐ飛んで来た。

素直な射線の狙い目は的が広い胴体だとあたりをつけて横に飛び退く。

数打ちゃ当たる銃だとさらに追撃が来るが、同じく胴体を狙っているためかわされた。

 

当たらないのを察して今度は頭を狙うがしゃがみで回避。

ならば足をと狙うと後ろに飛び退かれた。

雑に打てばリロードの隙ができることを知っているプロンプトは慎重に水の重さを図る。

水の弾丸魔法で圧縮されたとはいえそれなりに減った。

三分の一は使っている。

 

一体何を見てかわされているのかと視線を追うとまっすぐ手元を見ていた。

射線が見えても理解して飛び退くには頭の回転が追いつかない。

逆に早すぎると目で追われて撃たれてしまう。

射線を変えないギリギリのラインを予測されているのだ。

はっきり言って人間業ではない。

魔法が使えることを考慮しなくても人間やめているのがよくわかる。

 

メディウムのこの異常なまでの判断力は剣神バハムートによる加護が大きい。

呼び出せない代わりに与えられた加護は主に剣の扱い方に重点を置く。

その際に洞察力のような戦闘本能である第六感が強化されているのだ。

彼は危機管理の本能で水をかわしていた。

 

結局、一発も当たらないまま一分を告げるアラームがなった。

 

「俺もなかなか動けるものだなぁ。」

「絶対人間じゃない!」

「同感だ。」

 

歳をとって若い頃より衰えたと言う年寄りのような発言をするが明らかに人間離れしていた。

若い頃とは加護が強く出ていた幼少期時代なのだが、今より人間やめている子供など恐ろしくて知りたくない。

 

「酷い言い草。それはそれとして評価点は十点満点中五点。」

「ええ!?半分!?」

「ちなみに俺は六点、ノクトはゼロ点になる。」

「厳しすぎない?ノクト、ゼロなの?」

「あいつは狙う前に撃ちまくって論外だ。絶対持たせるなよ。」

 

いないところでボロクソ言われるノクティスはともかく、かなり厳しめな判定だった。

狙いは正確で当たらないならばと的を変える判断力は良かった。

途中でかわされている理由もきちんと考察していた。

しかし、先読みができていない。

動くことを想定して動く先に撃ち込めないのだ。

素直に的がある場所に打ち込んでしまっている。

それでは戦場で当たらない。

 

そう伝えるとプロンプトは何か思う節があるのか水鉄砲を見る。

野獣相手に痛感でもしたのだろう。

簡易的な訓練方法だが、隠れ家にあったので持ってきた空のエボニーコーヒーの缶を取り出す。

プロンプトとイグニスに見てもらう中、缶を上空に投げ落下していく途中に何発か水鉄砲を撃ち込んだ。

もちろん射撃能力が低すぎて一発しか当たらなかった。

見本にもならない。これはひどい。

 

「あー、俺には無理だがまずは三発当ててみろ。落下中に一回。打ち上がった時に一回。もう一度落下時に一回だ。」

「分かった。しばらくやって見る。」

「できるようになるまで続けて見てくれ。水を汲んで来る。」

 

当たらないのが恥ずかしくて誤魔化しつつ、水道に水を汲みにいくことにした。

 

イグニスも手伝うと言うのでバケツを一つ持ってもらい、隠れ家の水道をひねる。

口数が異様に少ないイグニスに、さらに嫌な予感がしたメディウムはどうでもいい話をすることでさらなる面倒な頼みごとを回避しようと試みた。

 

「今日はいい天気で、絶好の訓練日和だな。」

「ああ。是非とも俺にも稽古をつけてくれ。」

 

完全に話題ミスである。

プロンプトの話をしようと思ったのに流れるように第三の頼まれごとが出てきた。

ブリキの人形のようにぎこちない動きで後ろに立つイグニスを見るが、真剣そのもの。

部下達の向上心の高さに上司の涙はちょちょぎれそうだ。

ひっそり立てていた一日ゆっくり絵を描いて休もう計画が台無しである。

 

「イグニスは確かダガーだったか。対して訓練するものもないぞ。模擬戦がせいぜいだ。」

「では模擬戦を頼む。一般的に売られているダガーでな。」

 

ルールまで決められてしまった。

これはもう回避できないなと早々に諦めて、水がたっぷり入ったバケツ二つを運ぶ。

広い場所でやるならばプロンプトがいた場所が一番いい。

頭の中で持っていた武器を思い浮かべて、長らく使っていないダガーを選ぶ。

普段は片手剣"クラレント"を使うため他の武器を手に持つことが滅多にない。

ダガーもほとんど扱わないため片手剣と同じように使いそうだ。

 

平地に戻るとちょうど水がなくなったらしく缶を拾い上げて補給をする。

一旦休憩で場を開けてもらい、イグニスと向き合うことになった。

イグニスの戦闘方法はいわゆるエンチャント。

武器に三つの属性を纏わせる攻撃で、とてつもなくかっこいい。

それぞれの特性を生かしての攻撃は威力が低いがダガーの手数の多さでカバーしていた。

 

対するメディウムはダガーを持つことすら久しぶり。

模擬戦なら別の武器でも良いのではと提案したが、扱い方を参考にしたいと却下された。

今回ばかりは魔法がないと無理なので、ダガーを持つ以外のルールはない。

冷や汗ダラダラのメディウムはどうにでもなれと投げやりに武器を構えた。

 

なぜイグニスが模擬戦を申し込んだのかと言うと、彼なりの区切りをつけるためである。

信頼できないかもしれないがメディウムの知識と知略、戦闘能力が必要な状況下。

ならば自分はどれほど弱いのかを知り、尊敬する軍師を超えられるようになりたい。

同じ武器を使用された方がより納得できるだろうと言う考えだった。

 

お陰でメディウムは死んだ魚の目をする羽目になっている。

 

「遠慮はしない。構わないな。」

「疑問形ですらないよね?」

「いくぞ。」

「人の話聞いてくれないの…。」

 

完全に目が座っているメディウムに雷のエンチャントを施したダガーで突進する。

簡単に弾かれてしまったが炎のエンチャントに切り替えて張り付くように連撃を繰り出した。

片手剣よりもリーチが短い上に重さがないダガーでエンチャントによる重さが乗ったダガーで応戦するのは不利。

さらに言えば扱い方も全く思い出せない。

 

絵も描けない頼みごともわんさかダガーの扱いもわからないと、ないないだらけで大分ネガティブ思考になってきたメディウムの中にムクリと怒りが湧いて来る。

やりたいことができない八つ当たりなのだが大人の余裕が消え失せ、無表情になっていた。

戦闘が面倒くさくなる輩などどこぞの傭兵隊長しかいないと思っていたが、やりたいことを妨害されると温厚なメディウムも怒りが募る。

向上心があることも、訓練を重んじることも確かに重要だ。

しかし、十分な休養も大事ではないのか。

 

およそ休みなしで連日仕事をしていた仕事人間の主張とは思えないことを考え始めた。

絵を描くことが唯一の娯楽であるメディウムは描きたいタイミングで妨害されると、大いに不機嫌になるタイプだった。

 

「上の、空かっ!」

 

模擬戦とはいえ戦闘中に考えごとをする対戦相手に、イグニスはさらにエンチャントを強くする。

自分など取るに足らないと言われているようだ。

実際、全く関係ないことを考えながらダガーを捌ききっている。

 

イグニスの声に思考が戻ってきたが、怒りは消えない。

プロンプトの時はまだ良かった。

指導して後は放置してさっさと絵を描く算段だったのである。

しかしイグニスとの模擬戦は一度ならまだしもなんどもされる可能性があった。

王都に帰省した時のイグニスがそうだったからである。

模擬戦を申し込んでは時間の許す限り対戦した。

一度怒りが出ると治らないメディウムはふつふつと恨み言を頭の中で浮かべる。

 

みんな揃ってなぜ唯一の楽しみを妨害するのか。

ノクティスの釣りを妨害したり、キャンプを拒否したり、カメラを使用禁止にしたり、ノクティスの世話禁止にしたりするようなもんである。

趣味に没頭したい時間に仕事が入ってきたら多少なりともムカつくだろう。

この怒りは正当な怒りでこれはもうイグニスにぶつけても構わないのではないか。

模擬戦だし怪我しなきゃいいよね。

 

怒りが湧いてきたメディウムは短絡的かつ意味不明な結論に陥っていた。

しかし、咎められる強さを持つ人間はこの場にいない。

相手の許可を貰えば手加減はいらないと最終結論に至ったメディウムはイグニスに問うた。

 

「手加減、なしでいいよなぁ?」

 

なんだか真っ黒な笑みを浮かべているメディウムに嫌な予感がするが、そもそも手加減は望んでいない。

当たり前だと返答するイグニスは、すぐさま後悔することになった。

 

ダガーを思いっきり強く弾き飛ばし、体制が崩れたところに足払い。

メディウムは二本のダガーのうち片方を崩れた体制から持ち直そうとするイグニスの顔面横に突き刺した。

至近距離に刃物が飛んで来ると人はひるむもので、一瞬硬直したのを見逃さず服の後ろを引っ張られて地面に縫い付けられる。

その際両手を足で踏みつけられて固定。

馬乗りでマウントを取られ、残った片手剣を首筋に当てられた。

 

いつか見た狂戦士の片鱗のようなニタニタした笑顔を浮かべるメディウムに背筋が凍るが、それ以前に怒気をはらんでいることに気がついた。

原因など皆目見当もつかない。

 

「ゲームセット。でいいよな。」

 

反撃の余地がないためイグニスは黙って頷いた。

完敗である。

手も足も出ないとはまさにこのこと。

ここまで素直に負けると逆に清々しく、どこかスッキリした面持ちとなった。

 

人の楽しみを邪魔しておいて何清々しているんだとイラついたメディウムだが、かなり強めに地面に叩きつけたことで怒りは多少収まっている。

このまま絵を描こうとイグニスから退いて、念のため釘をさすためにまだ寝っ転がるイグニスの股下を踏みつけた。

急所近くの地面に勢いよく叩きつけられた足にびくりと起き上がるが、それ以前にメディウムの顔が怖い。

真っ黒な笑顔で目が笑っていない。

 

「俺はこれからデッサンする。」

「そ、そうか。」

「昼飯まで話しかけないでほしい。静かに描きたい。」

「わかった。わかったからその顔をやめてくれ。」

 

なぜか大いにイラついているメディウムは返事を確認次第、浮遊魔法で灯台の上まで一直線に飛んだ。

ここまで無駄な使い方をする魔法を見るのは初めてかもしれない。

ついでに憧れの軍師が怒る姿も初めて見た。

知らず知らずのうちに怒りに触れていたことを反省し、呆然とするプロンプトとどうやって機嫌を直してもらおうか考える羽目になった。

 

 

釣りから帰ってきたノクティスが、釣れた魚を持って、今度は一緒に行こうと誘うだけで上機嫌になるメディウムの姿が観られたのは夕飯時の話である。

 

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