切羽詰まるようなこともない優しい武器。
カエムの岬で何日か休息をとった五人は、歴代王の力を授かるべく出立することにした。
メディウムが最初に提案したのはダンジョンではなく、平地にある"慈王の盾"と"覇王の大剣"と呼ばれる二種類のファントムソード。
いきなりダンジョンに行くにしても簡単なところから回った方が良いという関係なのだが、簡単なところを順に回ると逆に遠回りになる。
各地に散らばる割に難易度にばらつきがあるのだ。
致し方なく、初級編ということで二種類入手して移動を開始。
現時点で殆どのファントムソードが入手できるが経験が足りないため、三種類ほど手に入れて、一度シドのおつかいであるミスリルを入手したい。
グラディオラスの要望で王の墓所巡りはどうしても同行したいとのこと。
そのため、致し方ないミスリル採取時に修練の道を踏破してくるという。
コルとの連絡はつけていて、あちらの依頼が片付き次第オールド・レスタ集合になっている。
ファントムソード集めは、コルの準備を待つのにうってつけとも言えた。
さらに修練の道はノクティスは知らなくていい場であり、補助が主体のイグニスやプロンプトには向かない場。
生存者が現在生きている中でコルしかいないとなれば三人は止めに入るかついて行くと言って聞かないだろう。
それとなく誤魔化すには、迅速に対応しなければならない別のものに気を取らせればいい。
時間は効率よく使うものだという帝国の文武問わずの実力至上主義は困ったものだがこういう時は役に立つ。
戦闘面での心配は特にしていない。
スチリフの社は刺激的だろうし、アラネアが管理しているためアーデン経由で話を付けて貰えば同行してくれる。
アラネアは実に察しがよく、彼女には帝国のディザストロとルシスのメディウムが同一人物であることがバレても交渉の余地があるのだ。
なにより、友として騙し続ける事への罪悪感が大きい。
ノクティス達との旅でメディウムも心情の変化があった証拠であり、本人も受け入れていこうと思っている。
閑話休題。
兎にも角にも、まずは慈王の盾を回収するためダスカ地方にある西の森へと向かった。
「グラディオ…そこはやめてくれ…いたぃ…。」
「わ、わり。服の上からじゃ分かんねぇ。」
「大丈夫?もう、グラディオがきつくするから。」
「俺が悪いのかよ。」
身じろぎするグラディオラスの動きに合わせて愚図るメディウムをプロンプトが慰める。
誤解される前に訂正しておくが、車内の後部座席での健全な出来事である。
レガリアで移動する際、問題になったのが"メディウムはどこに乗るか"問題。
一番面積をとるグラディオラスは助手席はきついらしく、かといって運転するのもノクティス達が信用ならないと。
ならば誰が運転するのかと聞けばイグニス一択。
グラディオラスが後部座席、イグニスが運転席で決まったところでプロンプトは写真が撮りたいから助手席がいいと申し訳なさそうに手を挙げた。
年下に甘いメディウムは断れるはずもなくノクティスは元々メディウムの隣一択。
結果的に運転席にイグニス、助手席にプロンプト。
運転席の後ろからノクティス、メディウム、グラディオラスの順番に座ることとなった。
そこで誰も予想しなかったことが起こった。
あまりの狭さに肩と肩がぶつかるのだが、後ろのバンパーに座るという発想がないメディウムとグラディオラス。
その方が広いのはわかるが隣に座りたいノクティスでレガリアに揺られること数分。
最初のうちは多少狭くても涼しい顔で談笑しながら乗っていたのだがメディウムが黙り始めたのだ。
数分経って話しかけてもふるふると首しか振らない姿に流石におかしいと過保護ノクティスが問い詰めると、青ざめているのか火照っているのか微妙な顔で事情を説明した。
「や、火傷跡に擦れて痛い…。」
盲点であった。
普段服に擦れまくっているが、いつもゆとりのあるものばかり買うので大して気にしていなかった。
わざわざ自分で何かに密着して擦り付けるようなこともしない。
しかし、現在進行形で密着した状態での移動を余儀なくされている。
グラディオラスとノクティスが揺れ動くたびに、巨神戦で新たにできた二の腕の火傷跡が擦れる。
避けようとするために背中を後ろにつけると車の揺れで一番ひどい背中が擦れる。
下手に叩かれるよりピリピリとした不快な痛みが断続的に続く方が辛いのだとメディウムは学習した。
理性的に考えれば後ろに二十歳組と最年長が座った方がスマートに収まるのだが、写真が撮りたいプロンプトの要望と狭いと嫌がるグラディオラスに強く出られなかったメディウムの敗因である。
あまり身じろぎしないように二人が気を使ってくれているが一度感じてしまうと痛いものは痛く、ケアルで治療してみても痛い気がする。
その状況そのものに痛みを感じているようだった。
プロンプトが席を変わると申し出てくれたがひとまず耐えてみるが次乗る時は変わってくれとメディウム自身が却下し、青白いのか熱があるのかわからない顔で息荒く座っているのである。
慈王の墓所までそれほど離れていないから耐えられると判断したのだ。
アーデンによって若干の被虐趣味があるメディウムは痛みによる興奮作用が無意識のうちに発動しているが、本人は全く悪気がない。
過保護ノクティスが心配そうに肩を抱いているため多少楽にはなったが、それでも息荒く車内で耐えることとなった。
「ほんとに大丈夫?」
「だい、じょうぶだ。墓所までさほど、遠くないひ…。」
「呂律回ってないぞ。そんなに痛いのか。」
「ノクトが介抱する上に心配するとか、成長したなぁ。」
「おい、現実逃避するな。」
過保護ノクティスがメディウムにバンパーに乗ることを提案。
それを先に言えと怒られ、雨の日は屋根を出すからできないとイグニスに咎められて絶望するメディウムがいたのは別の話である。
色々あってやっとの思いでついた慈王の墓所まえのパーキング"セクルム峠"でぐったりとするメディウムが回復するのを待って王の墓所へと向かう。
獣道のように最低限踏み固められた道を進めば案外あっさり見つかった。
探そうと思って探さなければ分からない場所だが、ダンジョン内部にあるよりはるかにマシである。
コルに渡された鍵で中へと入り、ノクティスが力を借りる側でメディウムの説明が入った。
「たしか、内政に力を入れて王都の民に愛された女王のファントムソード…いやシールドだったか。後にも先にも殺傷能力より防御を重視したのはこの女王一人だな。」
手をかざせば、ふわりと宙に浮きノクティスの内側へと入る。
拍子抜けするほど簡単だったがまた一つ、真の王に力が宿った。
手を握り込めば守るための力を実感する。
これからさらにその力が強大になるのだから身が引き締まる思いだ。
兄を超える力が全て借り物なのは納得いかないが、王としての務めを果たさねばならない。
「次は覇王だったか。」
「ああ。っとあれ。コルからだ。」
ノクティスがメディウムに覇王の大剣の場所を聞き出そうとした時、ピリピリと電話が鳴る。
コルからの着信だと一言断りを入れて、メディウムはスピーカーの状態で会話を始めた。
「どうしたんだ。連絡してくるなんて。」
「ーー覇王の墓所についてお耳に入れたいことが。」
モブハントを必要な分だけ終えたら連絡をくれと今朝方メールしたが、それにしては早すぎる。
何かこちらの事情に関わる情報だろうとあたりをつけたが案の定であった。
内容はかなり重要なもので覇王の大剣は"コースタルマークタワー"と呼ばれる古代遺跡に潜む、シガイに持ち去られていたらしい。
持ち去られたのはアーデンが複製した鍵で解錠した後の話で、見事に荒らされていたとのこと。
メルダシオ協会からの情報のため、嘘ではなさそうだ。
連絡をくれたコルは伝えることは伝えて電話を切ったため、忙しかったのだろう。
こちらはこちらで今後どうするかを話し合うことになった。
「じゃあ、その覇王の大剣はコースタルマークタワーってところにあるの?」
「そうなる。遺構の森に残された、旧時代の遺跡のような建物なんだが…あそこはちょっと…まだ早い。」
「そんなに危ない場所なのか?」
「ボスらしき生物がいるんだが、それがシガイではなく野獣なんだ。神話に名高いジャバウォック。その変異個体が住み着いている。今のノクティス達では勝てるかも怪しい。」
まるで遭遇したことがあるような口ぶりだが、腕試しのためにコースタルマークタワーに潜ったことがある。
最深部にこそ到達したが、あまりにも迷路な上に疲労がひどくでジャバウォックを目前に敵前逃亡した。
経験が少ないノクティス達ではまず勝てる見込みがない。
タワー自体に厄介なギミックが多くシガイも強い。
持ち去ったのがタワーのシガイでもジャバウォックに殺されて奪われている可能性もある。
神話にも度々登場するジャバウォックと戦うのははっきり言って無謀。
予定変更で別の王の墓所に回ることを推奨した。
自分たちにはまだ早いというならば他でも構わないかと全員が同意する。
いずれ行かなければならないが、他のダンジョンで経験を積むのも一つの策である。
「次の候補はどこだ。」
「クレイン地方の南西、メーダ川を越えたさらに先に広がる所…マルマレームの森だ。」
神凪と関わり深く、六神に礼拝した真の王に最も近かったはずの王。
"聖王の杖"を授かりに、マルマレームの森へと向かった。
車の席問題はメディウムが助手席で今後も決定した。
マルマレームの森は鬱蒼と生い茂る森林の中のさらに奥に存在する、光があまり届かない場所。
ジャバウォックほどではないが神話に登場するバンダースナッチが最奥に巣食っているとの噂を耳にした。
その最奥に王の墓所もあるため試練として乗り越えるしかない。
チョコボレンタル期間のため、ひとまず車が停められるマルマレーム森前のパーキングまで進んだ。
標の場所も確認できたところで日が傾いてきたため、本日はここでキャンプとなった。
不平不満を漏らすノクティスとプロンプトに川があるから釣りでもして食材提供しろと、標から追い出しグラディオラスのテント設営を手伝う。
イグニスは魚料理にする気なのか、炭火焼の準備を始めた。
四人の寝袋や椅子とは別にレスタルムで買い足したメディウムの椅子と寝袋もセットして準備完了。
あとは釣りから帰るのを待つだけなのだが、完全に陽が落ちても釣りバカ王子が帰って来なかった。
「あの釣り馬鹿帰ってこねぇな。」
「夕飯が遅くなってしまう。メディ。呼びに行ってくれないか。」
「了解。全く。あいつらは何をしているんだ。」
子を待つ母親のようなイグニスに若干の苦笑いを浮かべ時間も守れない弟に呆れながらも軽快に少し高所にある標から飛び降る。
既に陽は落ちているためシガイに注意しながら川辺を目指した。
道なりを行ったところに木造の橋があり、そのさらに向こう側に釣り用桟橋があるのだ。
ひょいひょいと軽くステップを踏みながら川辺にゴロゴロと転がる岩場を飛び抜けて向かうと、無心で釣りをする馬鹿王子とアプリゲームに熱中する一般人発見。
戦果なのか予め用意された入れ物に、ビチビチと何匹かの魚が跳ねていた。
これ以上釣られても食事に困るだけなので、携帯から目離さないプロンプトの頭を強めに叩き釣竿を握りしめるノクティスに蹴りを入れた。
魚はヒットしていなかったため、早急に糸を引き上げて不満げにこちらを見る。
「あと、あと一回…!」
「ダメに決まってんだろ。魚だって生きてんだから。食べる分だけ確保。」
頭を抑えてうずくまる一般人の首根っこと釣りバカ王子の耳たぶをつまんで標へと強制連行をする。
抵抗しようとするたびに首の皮や耳たぶを捻りあげるので、そのうち大人しく引き摺られていった。
王の力をまた一つ宿した人間とは思えない体たらくである。
やはりダンジョンにある方が手に取った時の気合も格段に違うのだろうか。
どちらにせよ力を証明するためにアーデンとデスマッチ入りまーす状態だったのでメディウムからすればどのファントムソードも過酷だった。
ひとまず時間を守れない悪ガキ供を母親イグニスに突きつけるべく、兄メディウムはゴツゴツした岩場の中を容赦なく引きずった。
鬼の所業ここに極まれり。