FFXV 泡沫の王   作:急須

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マルマレーヌの森 前編

「おはよう。イグニス。」

「おはようございます。メディウム様。」

「敬語が出ているぞ。」

「おはよう…メディ。」

 

まだ朝日が眩しい早朝。

川が近い為か霧が濃い。

朝食のために早起きする人の気配で目が覚めたメディウムは挨拶をする。

朝の気が抜けている時間だからか、昔からの癖である丁寧な口調を取られてしまった。

苦笑いで訂正を促すと律儀に言い直すのだから微笑ましくなる。

自分の代わりにノクティスの兄を務めてくれていたイグニスは第二の弟のような気分だった。

どちらかというと小うるさい母親の方が近い気もするが。

 

「手伝うよ。何を作っているんだ?」

「野菜たっぷりシチューだ。昨晩はノクトが野菜を残したからな。」

「あー、相変わらずイグニスに食べて貰ってるよな…。」

 

トントンと野菜を細かく切る音を聞きながら、クリームソースを混ぜる。

チビチビと味見しながら、塩胡椒とコンソメを足していく。

頼んでおきながらもメディウムの手慣れた様子にイグニスは感心した。

王子同士でできることの格差が半端ではない。

 

「料理はしたことが?」

「王都を出てからずっと。最初はノクトみたいに野菜嫌いだった。」

 

昨日のバタードバラマンディに添えられた野菜をひょいひょい口に放り込んでいたので、まさか嫌いだったとは思いもよらない。

揚げられたバラマンディの切り身とポテトを退けて優先的に食べていたが、嫌いなものは先に食べるタイプだと笑って付け足した。

喋りながらも手を緩めない上に片手でエピオルニスの卵を割って目玉焼きを作り始めた。

器用に手のひらの上にあらかじめ油を引いたフライパンを乗せてファイアで焼いている。

曲芸でも見ている気分だ。

 

「便利だろ?コンロいらず。これこそ魔法の平和的使い方。」

「いや、まあ確かに平和的だが…。」

 

いいのか、それで。

地味に火加減もしやすいらしく半熟目玉焼きを五つ作り上げている。

ホワイトソースも出来上がったのか、イグニスが切り終えた野菜を煮込み始めた。

これではどちらが手伝っているのかわからない。

軍師だけではなく料理の手際でも勝てないのかと軽く落ち込みそうになったが、見かねたメディウムが皿だしをするから代わってくれと押し付けた。

両手がふさがる為フライパンのそこには氷の造形魔法の上にファイアが敷かれ、焦がさない冷めない温度に保たれている。

氷の造形魔法は机を焦がさないためのものだろう。

どうなっているんだあれ。

 

「その、ずっと気になっていたのだが聞いてもいいか。」

「答えられるかは別で。聞いても構わない。」

「どんな生活を送っていた?」

 

ピタリと一瞬だけメディウムの動きが止まる。

その反応で言いたくないことなのは察せた。

しかし、どうしても気になる内容。

かの王子は外の世界のどこでどんな風に育ったのか。

 

「どことは言えないが普通な生活だ。学校で学んで、高校を出たら顎で使われる社畜。安月給で残業代なし。休日出勤当たり前。とんでもないブラック企業で数年働いた。」

 

王子としては異常だが、一般人ならば当たり前の生活だろう。

単純に学校があるような都市にいたことになる。

レスタルムのような集合地帯や他国のテネブラエ、水都アコルドという可能性もある。

場合によっては帝国も。

安月給で残業代なしなのはどうかと思うが、その合間に帝国の情報を見聞きしてくるならば恐ろしい精神力と忍耐力である。

 

その仕事場に情報がゴロゴロ転がっていることなどイグニスは知らない。

 

「世話をしてくれる人はいたが小さい頃だけだ。それも割と適当。文句言ったら食うもんなくなるから野菜嫌いも荒治療。そのうち料理もするようになったな。」

 

出来上がった野菜たっぷりシチューを皿に盛り付け、焼きあがっていた目玉焼きを残っていたバラマンディの切り身焼きの横に添えた。

いつのまにバラマンディを焼いたのかわからないがクリームソースに浸されてとても美味しそうだ。

小さい頃は温かい食事が恋しかったな、とシチューを五つ並べる。

 

王子だろうがシガイだろうが扱いが変わらない例の赤毛のおじさんは小さい頃こそ適当にカップラーメンやら惣菜やらを置いていった。

しかしだんだん大きくなるにつれて食材を冷蔵庫に投げ込んでおくだけというとんでも行動に出始め、最終的にメディウムが腐らせないように調理することになってしまった。

死なない程度に食べられる料理が食卓に並ぶようになったら突然出張に行き始めた。

今思えば生かして置ける程度に教育する気はあったということだろう。

 

料理本をこれ見よがしに机に置くとか、タブレット端末にレシピサイトのアプリケーションを入れるとか、食材を一週間分冷蔵庫に意味もなくぶち込むとか遠回しに作れと促していた。

 

「お、早起きじゃねぇか。」

「二人共早いね。」

「おはよう。グラディオ。プロンプト。」

「朝食はできている。ノクトを起こしてくれ。」

 

話が途切れたタイミングでテントから出てきた。

グラディオラスの肩をすぼめる仕草を見るに、会話を聞きつつタイミングを計っていたようだ。

聞かれても問題ないと片手を軽く振り、腕時計を確認する。

朝の六時きっかり。

朝食をとるにはちょうどいい時間だろう。

 

「王様を起こしますかね。」

 

フライパン保温用に設置していた氷とファイアを融合させ、水に変換。

ぬるめのお湯が出来上がったところで、のんきに眠る王様の顔面にぶちまけるべくテントをくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モーニングコールと同時に洗顔が施されてスッキリしてしまったノクティスは、言われるがままされるがまま朝食を取り、身だしなみを整えチョコボにまたがっていた。

メディウムとイグニスの見事な連携により、目覚めがスッキリしている。

しかし、不機嫌にぶすくれているのが現状だった。

 

「何が気に食わなかったんだろうな?」

「顔面に水かけられて、野菜だらけの朝飯食わされれば不機嫌にもなるわ!」

「俺の素晴らしい一発芸が役に立っただろう。ファイアと吹雪によるドライヤー魔法など世界中探しても俺しかできないぞ。」

「そんなくだらない魔法を考えるのは世界中探しても兄貴しかいねぇよ!」

「褒めるなよ。」

「褒めてねぇよ!!」

 

兄弟によるコントが開催されているが、内容が激しくどうでもいい。

ドライヤー魔法に関しては、地味にプロンプトが強請って使っていたがそれぐらいである。

確かに便利かもしれないがルシス王家にしか使えない魔法でやるのはどうかと思う。

朝から兄のボケに付き合わされ、謎の疲労感がノクティスを襲う。

 

そろそろ真面目に働こうと、メディウムはマルマレームの森へ向かうべく黄色のチョコボに跨った。

 

「昨日の釣り堀手前の橋を渡って道なりに行けば王の墓所だ。お前らなら苦労しないと思うが…気は引き締めてけよ。」

「兄貴が言うと説得力ない。」

「一番緩そうだよね…。」

「俺は踏破済みだからな。そのかわりボスは撃破していない。後から来るであろう弟の試練のために半殺しで見逃してやったのさ。」

「いらねぇ気遣い!」

 

何年前に踏破したのかは定かではないが、道を知る者がいるのは心強い。

ダンジョンで最も困るのは迷うことである。

標があるマルマレーヌの森はまだいいが、何もないただの暗い洞窟などはシガイを警戒しながら出口を目指すか目的を達成するかを選ばなければならない。

満身創痍の状態でボス級のシガイに遭遇したら目も当てられない。

 

今回は野獣ばかりが出る難易度の低いダンジョンであることはメディウムが把握済みなので、そこまで警戒することもない。

怪我をしないように、はぐれないように進むだけで十分だろう。

 

「ダンジョンに入る前に野獣にも遭遇すると思う。回避を推奨するが、どうする?」

「ダンジョンに潜ってポーションが足りないってのはまずい。できれば避けたい。」

「ではチョコボで駆け抜ける。ちゃんとついてこいよ。」

 

チョコボの首筋を撫でて、走るように手綱を握るメディウムを四人が追いかける。

宣言通り、チョコボを全力疾走させている。

 

置いてかれてたまるかと四人もチョコボを走らせるが、先を行くメディウムは扱いが難しい全力疾走で全く詰まらずにメーダ川の橋を駆け抜けている。

どんな運転技術を持っていれば木々が立ち並ぶ、うねうねとした道しかない森林の道を外れることなく操れるのか。

若干詰まりながらも追いかける四人は川を越え、上りのカーブをドリフトで曲がるメディウムに呆気にとられた。

 

流石に真似できない。

動作をするチョコボもどんな気持ちなんだ。

車じゃないんだぞ。

 

それぞれの心中が疑問符でいっぱいになる頃には、マルマレームの森ダンジョン入り口まで辿り着いてしまった。

所要時間、わずか数分。

チョコボってそんなに早く走れるんだと遠い目をした四人は、無意識にそれぞれのチョコボを撫でる。

ついていけただけで自分たちのチョコボを褒め称えたい気分だった。

 

爽やかな笑顔を浮かべるメディウムは、見事に荒い運転に答えてみせたチョコボを撫で回しそっと降りる。

アーデンに車の同乗時運転禁止を命じられる理由の片鱗がうかがえた。

本人は無自覚で、なぜかプルプルと震えるチョコボの首を撫で回し近寄ってきた四人にチョコボから降りるように指示を出す。

ダンジョンなどはチョコボ自身が危機感を感じて、嫌がるのだ。

無理に連れて行く必要もないため、ダンジョン外で待機してもらうか一旦チョコボポスト・ウイズに帰ってもらった方がいい。

今回は帰りもお願いするため、野獣が寄ってこない限り待機してもらうことにした。

 

「てな訳でダンジョンだ。どんどん行くぞ。」

 

ピクニック気分のメディウムはスタスタと森の中を歩いて行く。

置いてかれまいと、四人も小走りに追いかけるが入ってすぐに野獣らしき存在が出迎えた。

歩く植物のようなモンスター、マンドレイク。

シガイとは違い、野獣に分類される。

 

雄たけびで周囲に混乱を与える攻撃には注意が必要だが、こちらにまだ気づいていない。

メディウムはイグニスに指示を仰いだ。

知識量を測る意味合いもあるためどんな敵なのかは教えない。

混乱状態になると、見境なく攻撃してしまうがマンドレイクの声は一定の音量がなければ意味がない。

範囲がきちんとある。

混乱防止装備や万能薬、気付け薬もあれば簡単に対処できる敵だ。

 

「イグニス。作戦任せた。」

「…マンドレイクか。少し後退し始めたら雄叫びで混乱の状態異常を仕掛けてくる。大袈裟なぐらい下がれ。」

「こっちには気づいてないみたいだね。銃は効く?」

「よく効く。火や斬りつけられる片手剣が有効だ。いつも通り仕掛けてくれ。」

 

十分王都で勉強してきたらしいイグニスにひとまず及第点、と心の中でつぶやいて愛剣"クラレント"を召喚する。

ノクティスがマンドレイクにシフトブレイクすると同時に、メディウムは上空にシフトし、マンドレイクの上空から剣先を突き立てた。

よろめいたマンドレイクにすかさずプロンプトの弾丸がめり込む。

風穴が空いたマンドレイクにグラディオラスが大剣を叩き込めば、あっけなく地に伏した。

 

楽勝だった事に四人がホッとする中、メディウムはマンドレイクから何かをむしり取る。

パタリと倒れたマンドレイクの頭部には花が咲き誇っていたのである。

割とえげつないことをするメディウムにノクティスが引き気味にその行動を問う。

 

「それは?」

「マンドレイクの花だな。観賞用でそれなりの高値で売れる。」

 

花を選別するかのように眺めるメディウムはちらりとイグニスを見て、答えなかった。

察したイグニスは代わりに答えを出す。

メルダシオ協会のハンターなどから仕入れるマンドレイクの花はとても美しいため、持ち込めば宿代ぐらいにはなる。

メディウムは全く別の目的で採取したようだが。

 

「これはマジックボトルで魔法を精製するときに使える素材。混ぜれば五回連続で魔法を発動させられる。」

「この花が?」

「かなり強力だ。あとで試してみるか?」

 

興味はあるが遠慮した。

メディウムが精製するマジックボトルは才能の所為か、ノクティスが精製するより遥かに強力になる。

それが五連続で飛んできたら最悪こちらにも被害が来る。

狭いマルマレーヌの森に爆薬を持ち込む気にはなれなかった。

 

立ち上がったメディウムを先頭にソロソロと前に進むと、また別の敵を発見する。

今度は全員が目視したが、敵側も気づいたようだ。

 

「ソルジャーワスプ、混乱するガスを放ってくる。毒針も持っているはずだ。安易に近づくなよ!」

「おススメは槍とダガー。氷が効くが狭いからエンチャントで我慢してくれ!」

「軍師が二人もいると心強いわ!」

 

主な注意事項と作戦をイグニスが、補足と補助をメディウムが受け持つことでうまく立ち回れる。

槍に持ち替えたノクティスに氷のエンチャント、弾丸や大剣にも施して、最後に自らも槍を取り出す。

"アイススピア"と呼ばれる氷属性があらかじめ付与された槍。

さらに重ねがけのエンチャントをかけ、シフト魔法で空中へと舞い上がる。

イグニスもエレメントダガーを取り出し、氷のエンチャントをまとった。

 

手前に二体と奥に一体。

さらに奥に三体。

メディウムの記憶が正しければ、この先に川があり標がある。

手前の二体は四人に任せるとして、奥の一体を片付け次第残りの三体をひっぱってくる事にした。

 

素早く奥のソルジャーワスプにシフトブレイクし、頭部を粉々に砕く。

生き絶えたのを確認次第、後ろを見ると四人が二体を瀕死に追い込んでいる。

そのまま奥に突っ込んでも問題ないと判断。

さらに奥にたむろするソルジャーワスプの一体に空中戦を仕掛けた。

 

棘だらけの鎌を振るソルジャーワスプを避け、ジリジリと後退。

四人が駆け寄ってきたのを足音で把握し再び上空に槍を投げる。

続いてノクティスが飛び上がり、プロンプトが距離をとり、イグニスがいったん離れた瞬間。

 

ソルジャーワスプの一体の注意を引こうと駆け寄ったグラディオラスが盛大に混乱のガスを被ってしまった。

 

「グラディオ!!」

「マジか!派手に行ったな!」

「感心している場合か!」

 

空中にいるメディウムとノクティスはともかく、地上にいるしかないイグニスとプロンプトが危ない。

混乱中は敵味方問わず攻撃してしまうだろう。

大剣を振り回すグラディオラスに気付け薬を投げつけるか迷うが、それよりも敵を残滅して時間経過を待つ方が良さそうだ。

 

胴体を真っ二つにしたソルジャーワスプから離れて、残り二体を手分けして倒す。

生き絶えて地上に落下したソルジャーワスプ三体を尻目にグラディオラスに駆け寄る。

大剣は既にしまっているが、混乱は解けていないようだ。

 

「グラディオ、大丈夫か?」

 

佇むグラディオラスの腹筋をペチペチと叩くと思わぬ声が聞こえた。

 

「チヤァァ!」

 

「…は?」

「え?」

「ん?」

「あ?」

 

上から順にメディウム、イグニス、プロンプト、ノクティスである。

いかつい声のグラディオラスが裏声のように高い声で謎の奇声をあげた。

理解が追いつかないが、とりあえずなんとかしてくれそうなメディウムに視線が集まる。

 

「混乱、しているな。気付け薬あるか?」

 

一旦。スルーの方向で行くらしい。

ついでに見苦しいので惜しげも無く気付け薬を口に突っ込んだ。

瓶の中に詰まる液体のため無理やり流し込んだが、こればかりは仕方ない。

 

しばらく様子を見ると、パチクリと何度か瞬きをして正気に戻ったグラディオラスができあがった。

 

「あー、すまねぇ。混乱してたな。」

「記憶はあるよな?よし、選択肢は二つ。爆笑されるのとスルーなのとどっちがいい。」

「…スルーでお願いします。」

 

鬼か、と思うような選択肢が一つあったがもちろん選ばれなかった。

色々と疲れた一行は標にて休息をとることにした。

ついでにグラディオラスの名誉のために色々なかったことにしておいた。

 




主人公のアビリティ"魔法精製"はノクティスが精製する時より効果を二倍にして精製できます。
ゲームシステム的にAP99必要。

マルマレーヌの森で割と苦戦した混乱の状態異常は、載せるか迷ったのですが素晴らしい奇声のために一人犠牲になりました。
ドンマイ。
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