"聖王の杖"を入手し、メディウムはグラディオラスに背負われたままマルマレーヌの森を脱出した。
その間に魔力は回復したが叩きつけられた衝撃の傷が完治しておらず、再びケアルをかけ続けることとなった。
野獣がいる森で治療するよりも移動しながら治療した方が時間を有効活用できるというメディウムの発言により、チョコボに乗ってキャンプ地を目指す。
賢いチョコボは先を行くノクティス達について行くように指示をすればメディウムが操縦しなくても森を抜けられた。
寧ろ操縦されると困ると言わんばかりに、チョコボが早足についていった。
キャンプ地のテルギーの標は既にテントは片付けられているが一旦そこで情報交換をすることになった。
ケアルをかけ続けるメディウムはノクティスに支えられながら腰を下ろす。
「聞きたいことがあるだろう。答えられる範囲で答える。」
やはり全ては語ろうとしないがこればかりは頑なな為全員が了承し、ウズウズしていたイグニスが質問をした。
「先ほどのバンダースナッチに取り付いていた蔦、あれはシガイなのか。」
「そうだ。だがバンダースナッチとは別個体。」
栄養が足りないシガイは別のシガイから寄生虫を奪ったり、融合したりすることがある。
どうしてそんなことになるのかは解明されていないが変異個体などは、シガイが野獣から栄養を奪おうとする過程で生まれる。
意図的にけしかけられたにしても、変異個体と変わらない。
あのシガイは理性のある特殊な才能を持っていたがバンダースナッチの嫌光性を抑える才能と拮抗して理性が若干飛んでいた。
声が聞こえていたのはメディウムだけだがイグニスにありのまま説明した。
イグニスはしばし考え込んでから、考えるのをやめた結論を思い出す。
フォッシオ洞窟で撃退したナーガ。
言葉を話すシガイだったが、メディウムの説明通りであればなんらかの才能を有していた可能性がある。
しかし、その才能があったとしても言葉を話す過程には至らないはずだ。
つまりそれは。
「メディウム、一つ聞きたい。ーー人の言葉を話すシガイは?」
「どこかで出会ったか。」
「フォッシオ洞窟のナーガだ。体長も通常の一回りほど大きかった。あれは、元は人だったのではないか。」
ケアルをかけ終えた手で今度は氷のエレメントを渦巻かせる。
悲しそうな表情を見るにあまり聞いていて気持ちのいい話ではないようだ。
イグニスの予想が真実であると表情が伝えている。
徐々に造形されたのは一人の少女。
表情こそない人形だが、髪の長い少女は檻のような場所で本を読んでいた。
「イグニスの予想は正解だ。しかし、人がシガイになるにはかなりの寄生虫に侵されなければならない。それこそ、全身を覆うほどに。」
少女の全身に霜がかかる。
蠢くような霜はやがて少女を包み込み、その姿を隠す。
「その前に神凪の巡礼で浄化してもらえればいいのだが、間に合わなかった場合。」
ぱっきりと凍った霜は、徐々に姿を変える。
先ほど見た蔦のシガイが檻の中に出来上がった。
「こうして、人ではなくなる。」
メディウムはあの蔦も人であったと、伝えていた。
出来上がった蔦は半透明で、中の少女が透けて見えた。
氷の本は砕け散り少女の造形もどこかおぼつかない。
溶けたような両腕と砕けたような両足。
表情がない故に言い得ない悲しみを表現していた。
「こうなって仕舞えば救いようがない。人の言葉を喋っても、何か強烈な思い出による発言が多い。理性などもう、残ってはいないんだ。」
檻の氷にヒビが入り、ぱっきりと割れる。
自由を得た蔦は徐々に姿を変え、最後にはバンダースナッチと共に現れた。
そして最後には砕かれ、跡形もなくなった。
蔦の少女は理性を保てる才能だった。
アーデンと同じようにシガイをためらいなく受け入れられる体だったのだろう。
試験管ベビーであることを考えれば、アーデンの遺伝子を持っていたのかもしれない。
「才能はどうやってわかる?」
「わかる奴には分かる、とだけ。才能を持つものは同じ才能を持つものを好ましいと思うそうだ。運命的な出会いをする人間もいるだろう?それと同じような感覚。」
メディウムは知らないが彼も才能を有している。
そして例に漏れず、誰かと運命的な出会いをしているのだ。
相手側も気づけないほど開花していない才能のため未だに実態がわからないが。
人がシガイになるという事実に驚愕するが寄生虫であるならば納得がいく。
不可能な話ではないからだ。
虫がもたらす病もある。
シガイとは星を侵食する"星の病"なのだと、漸く理解した。
今でこそ光を持って夜をなんとか安全に過ごしているが、いつまで続くか分からない。
真の王の使命はそれだけ壮大なのだ。
「他に聞きたいことは?」
「今後についてだ。これからどうする。」
やらねばならないことが多いと再確認した四人は、一旦話を現在に切り替える。
本来の目的であったファントムソードの回収は、三つのうちすでに二つ終え一つは先に見送った。
できれば後もう一つ回収しておきたいメディウムは、ここからほど近い火山を提案する。
「ラバティオ火山って知ってるか?あそこの山頂付近に"鬼王の枉駕"と言うファントムソードがある。」
「今度は鬼ときたか。」
「なんか火山っぽい!」
今から向かえば、火山前の観光地で一泊できる。
キャンプだらけだとノクティスやプロンプトのモチベーションが下がるだろうと言う配慮だった。
しかし、ホテルはないためモービル・キャビンとなる。
メディウムは非常に嫌だが弟のためであればトラウマなど…多分、大丈夫。
いらぬ覚悟を決めている間にレガリアで早速移動することが決まった。
何事も早いほうがいいのだ。
オープンカーであるレガリアから道を眺めること数分。
火山がよく見える登山道でメディウムは説明を始めた。
「あれがラバティオ火山。自然では形成されないような奇妙な形で、山の麓には間欠泉が吹き出している。山頂には巨鳥ズーの巣があるとか。その付近にファントムソードがある。」
角のような奇妙な形は炎神イフリートの角などという逸話もあるが真相は定かではない。
いつかみたイフリートの角に確かに似ているな、とメディウムは火山を見る。
説明を聞いた四人は思い思いの感想を口にした。
「なんでそんなところに作ったんだか。」
「試練の為とはいえ、作ってる時点でハードだよねー。」
「材料運んで行ったり来たりだろ?」
「人件費が馬鹿にならないな。」
「だいぶ先のことだが、いずれノクトの墓もああいった場所につくることになるんだぞ?」
自らの墓など想像できないノクティスは首をかしげる。
しきたりに則り愛用の武器を石像に握らせるのだろうが、その時はエンジンブレードを握らせそうだ。
カエムの岬でシドに二度ほど強化してもらったが、父親に初めてもらった武器は手放せない。
武器をもらったときを思い出し、ふと不思議に思ったことをメディウムに聞いた。
「兄貴も親父に武器をもらったことがあるのか?」
「六歳の頃は短剣をもらった。十五歳の時にこの"クラレント"をもらったかな。」
車内で上着のホルスターから短剣を取り出し、次に片手剣のクラレントを召喚する。
煌びやかな装飾はなく、レギスが愛用していた片手剣の反対色のような真っ白な片手剣。
持ち手の部分にはめられたクリスタルのような青い石が輝いている。
「このクラレントは特殊でな。バハムートがルシス王家に武器召喚の力を託した時に贈られたと言われているんだ。」
最初に持ったのはアーデンという片手剣で、代々兄王子という立場の者が一人前になった時に贈られる。
何故そのような風習になったのは定かではないが歴代王族で手にしたのは歴史から消えたアーデンを排してメディウム一人のみ。
宝物庫に眠っていた剣だが、見せた時にアーデンは懐かしそうにクラレントを握っていた。
なんでも、初代王の夜叉王に処刑される時はこの剣で首を落とされたと。
愛剣に殺されるなどなんとも皮肉な話だが夜叉王に反逆した時もこの剣を用いたらしい。
ずっと握っていたため、アーデンに譲ろうかと冗談交じりに言ってみたがいらないと突き返された。
後で報告ついでにレギスにクラレントについて聞くと、王家に残された日記というものを見せてくれた。
夜叉王はマメな人で毎日日記をつけていた。
日記の前半部分は夜叉王本人が破いて燃やしたそうで、日記にアーデンは登場しない。
兄たるアーデンを処刑した時のことは"罪人をこの手で討ち果たした"と綴られているのみであった。
しかし、その後の日記には度々このクラレントが登場する。
まるでクラレントが共にあることで安心するかのような文面に夜叉王の気持ちが察せられる。
クラレントは夜叉王が後生大事に持ち歩いていた。
例え病に侵され神々に見放された兄といえど、処刑しなければならなくなっても、兄を慕っていた証。
アーデンなりに懐かしむという人間らしい気持ちもあった。
処刑されて憎しみが最も強いのは夜叉王かもしれないがそれと同時に憎しみきれない家族の情があるのかもしれない。
クラレントを撫ぜる手は優しさに満ちていた。
そんな小話を思い出している間に、目的のラバティオ火山手前に作られたベリナーズマートラバティオ店のパーキングに到着する。
メディウムの説明で聞いた間欠泉を見たいというプロンプトの要望で買い出しに行くイグニスとグラディオラス、間欠泉を見たいノクティスとプロンプト、解説にメディウムが付属するという形になった。
最初は護衛が離れるわけにはいかないとグラディオラスがついて来ようとしたがすぐ近くである上に観光客が多いから大丈夫だとストップをかけた。
イグニス一人に買い物をさせるより荷物持ちがいた方が素早く終わる。
しかし、王族二人に一般市民一人など無防備にもほどがないかと抗議。
論争の末にメディウムが上司命令を敢行した。
職権乱用ともいう。
もちろんそれで納得できなかったが目の届く範囲にいるという条件で三人行動を余儀なくされた。
店の窓から見える間欠泉までだが、ノクティスとプロンプトはそれで構わないと頷いた。
解説をイグニスと交代する案もあったが発案時にメディウムが少しだけしょんぼりしてしまったので過保護ノクティスに却下された。
見たことないほど哀愁ただよう姿に全員が頷くしかなかった。
保護者である年上二人から解放された二十歳二人と二十六だが精神年齢子供一人が間欠泉を観るべく歩く。
観光客の賑わいで場所はすぐわかった。
「なんか湯気が出てる!」
「こういうのは"温泉"というんだ。ラバティオ火山では無理だが、テネブラエの方にある火山なんかには人が浸かれるほどの温泉なんかもあるらしいぞ。海とは違うリゾートだな。」
「テネブラエかぁ。人が浸かれるってお風呂みたいなもんなのかな。」
「まさしく風呂だが自然にできた湯のため色々なものが混じって、様々な効能があるらしいぞ。」
メディウム自身は行ったことがないがテネブラエのガイドブックをアラネアが見せに来たことがあった。
こんなところで休暇を過ごしたいとうきうき気分で眺める彼女に追加の仕事を投げつけて殺し合いになったのは記憶に新しい。
あの時のアラネアほど本気で殺しにかかってきたことはなかった。
「うわっ!あれが間欠泉?」
「噴水みてー。」
余計なことを思い出していると、すぐ隣の場所から湯が噴き出した。
観光客の歓声で我に返り役目を果たすために解説を始める。
「水蒸気や熱湯を噴出するのが間欠泉だ。様々な説があるが…雨水などが空洞に溜まり、火山のマグマなどに熱せられて吹き出すって覚えておくといい。」
「お湯沸騰させると吹き出すのと同じ感じか?」
「そうそう。そんな感じ。」
ぬるめの湯に手を入れて遊ぶプロンプトとノクティスに手ですくったお湯をかける。
頭からかけられた二人は笑いながらメディウムにやり返した。
大きな子供が三人。
保護者二人の迎えが来るまでにヒートアップするのは当然の帰結と言えた。
「で。言い訳はあるか。」
「兄貴が最初にやりました。」
「てめーノクトこの野郎後で覚えとけよ。」
「やり返したのはノクトです。」
「プロンプトあとでモービル・キャビン裏な。」
「なんでなすり付け合いが始まるんだよ…。」
ぐっしょり濡れた大人が三人。
まだ子供らしい二十歳二人は置いておいて、最年長のいい大人がびしょ濡れ。
カエムでやらかしていることを考えれば初犯ではなく再犯である。
罪は重い。
「その服を誰が乾かすと思っているんだ。」
「「「ごめんなさい…。」」」
「全く。今日の夕飯は王様シチューにしようとしたがやめだ。野菜シチューにする。」
メディウムが伝えたメルダシオ教会の肉たっぷりのシチューからノクティスが大嫌いな野菜だらけのシチュー変更されてしまった。
ノクティスには絶大な、プロンプトには少しばかりの罰になるがメディウムにはなんの罰でもない。
そのため優しさでキャンプ地に移動しようと考えていたイグニスはモービル・キャビンに強制宿泊。
青ざめてガタガタ震え虚勢をはるメディウムができあがった。
あまりにも震えているため過保護ノクティスが発動し、兄弟で同じ寝台に寝ることになるのであった。
似たような顔がニつすやすや眠る姿に、保護者イグニスはこっそり写真を撮ったという。
解説役と化す主人公。
RPGでよくいる、なんでも教えてくれる解説役ポジション。
王子の威厳はどこにもない。