FFXV 泡沫の王   作:急須

35 / 111
兄弟喧嘩

「本当に大丈夫なんだな。」

 

ベッドサイドに座るメディウムにこれでもかと顔を寄せて過保護弟が確認してくる。

一昨日倒れてから過保護がさらに増したノクティス的には必要とは言えスチリフの社探索への同行はさせたくない。

しかしグラディオラスがいない今、最大戦力のメディウムを連れて行かないと、こちらがやられるかもしれない。

盾としての役割より斥候としての役割が強いが、敵の察知ができるのはとてもありがたい。

 

逆に言えばメディウムが倒れたとしても面倒を見る余裕がない。

抱え上げるとしたらイグニスになるだろうし、それでは二人しか戦闘要員がいなくなる。

確実に踏破するまで立っていられる自信がメディウムにあるのかで、連れて行くか行かないか決めることになるのだ。

戦場でそんな曖昧な観点で出撃許可を出す指揮官はいないが、今は緊急事態。

隠れ家の護衛から人員を割くわけにもいかない。

ある意味状況を逆手に取られて、強制的について来ようとしているのは分かっているがダメとは言えない現状だった。

 

「大丈夫だって。そう心配するな。最悪の場合、筋肉増強剤とか反応速度向上剤とか魔導ブースト剤とか飲むし。」

「ドーピングじゃねぇか!やっぱダメだ!そんなやつ連れてけない!」

「でも、連れてかないと俺たちだけでの戦力じゃあ不安だよ。」

「プロンプトの言う通りだ。帝国のドーピング剤ではなく、ルシスの栄養ドリンクにしなさい。」

「マイナーすぎるよ、イグニス。何で持ってるんだ。」

「イグニスも兄貴もそういうことじゃねぇ!結局無理やり動かしてるし!」

 

タフネスVXなどというルシスのマイナー栄養ドリンクを差し出すイグニス。

言いたいのはそういうことではないと突っ込むノクティス。

これではいつまでたっても出立できないと、メディウムはさっさと立ち上がって部屋を出ようとする。

慌ててノクティスが片手を掴んで止めた。

 

「まだ話は終わってない!」

「ノクトの主張と現実を擦り合わせても堂々巡りだ。」

「いつ倒れるかわからないやつを連れてけない!」

「自分でなんとかする。イグニス、プロンプト。行くぞ。」

 

まだ少しだけ青い顔で扉に手をかけたメディウムをノクティスが思い切り引っ張る。

巨神の加護がついたノクティスの力は常人のそれではない。

後ろに引っ張られるがままに背を打ち付けた。

呆気にとられて上を見上げる前に、ノクティスが見たこともないような怒りの表情でメディウムのマウントをとろうとのしかかる。

咄嗟の判断が得意なメディウムはギリギリのところで床を滑り抜け、立膝で体制を立て直した。

まさかの強硬手段に全員の思考がついていかない。

 

「兄貴はいつもそうだ!大丈夫大丈夫って、蓋を開けてみりゃそんなボロボロで!!兄貴の大丈夫ほど信頼できないものはないんだよ!」

 

激情のままに怒鳴るノクティスにメディウムが一歩下がる。

怪我や体調を心配されても、もはや当たり前になっているメディウムは過保護だと思うだけ。

自らの傷がどれほど酷いものかを本人が理解していない。

それもこれも便利すぎるほどに才能がある魔法のせいなのだが、自重する気なし。

使えるものは使う精神でいつも前線に突っ込んでいく。

 

臆病なまでに家族を失う恐怖を覚えたノクティスには自らの体を大切にしないメディウムの行動一つ一つに苛立ちと悲しみを感じていた。

 

一度目は良かった。

現状を把握していなかったノクティスにも非があった。

旅をする上でメディウムという存在を理解し、兄として慕った。

だが、戦闘中に多く見られる自らを犠牲にする行動。

ノクティスを庇って敵に吹き飛ばされることもままあった。

それも短期間で何度も、何度も。

 

しかし、メディウムは自らを生ゴミだと称するほどに自己評価が低い。

謙虚を通り越して卑下するほどに自分に価値を見出せない。

そんな人間に自分を大切にしろと言っても無駄だ。

どれだけ倒れても傷つく戦い方を変えない。

二十年と言う歳月で身に染み付いてしまっている。

 

「知らん。俺は道具だ。傷つこうが倒れようが死のうが王様には関係ない。」

 

音もなく立ち上がり、無表情でノクティスを見据える。

人の喜びを捨てるのはもはや使命を背負う者の当たり前。

それがどうした、と首をかしげるメディウムにその場にいる三人が目を見開く。

飄々と楽しげに話をして、笑いながら冗談を言って、戦う時は頼りになる。

そんな彼が、仮面が剥がれ落ちたかのようにピクリとも表情を変えない。

いつかシドが見た、何もないメディウム。

 

唖然とした空気を物ともせずさらに主張を重ねる。

 

「歴代のルシス王に兄弟が少ないのは自殺か毒殺か他殺か流産か。どちらにしろ殺されている。王位継承権がないってのはルシス王家で言えばそう言うことだ。レギス王が甘いんだ。俺を生かしたりなんかするから。」

「本気で言ってるのか!?」

 

殺せばよかったと他人事のように淡々と告げる。

事実、メディウムは自殺をしようとした。

少々派手ではあったが王位継承権がそのうち剥奪されるであろう身の上では正しい判断であった。

誰も話題に出せなかったのは、メディウムの行いが決して悲しいものではなく王族としていた仕方ない歴史だったから。

剣神バハムートさえ現れなければ、事故死か自殺かどちらかで処理。

出生記録すら破棄されていたかもしれない。

 

ノクティスの問いにメディウムは答えなかった。

誰も望んで死にたくはない。

ただ、それが使命ならば成さなければならないだけだ。

 

「兄貴だって俺が傷つけば悲しいだろ!?死ねばいやだろ!?なんでそんなこと言うんだよ!?」

「…それが使命だからだ。」

 

ブツリッと何かが切れる音がした。

 

メディウムはルシス王家の命運と使命をよく理解していた。

それでいて家族を捨てなければならないことも良くわかっていた。

だからこそ気づけなかった。

ノクティスには、使命など関係ない。

ただ尊敬する兄を。最後の家族を守りたいだけなのだ。

 

それを一切受け付けないかのように"使命だから"とぶった切ってしまった。

 

人の心をよく理解するメディウムにあるまじき失態。

積み重なって元々沸点が低いノクティスは限界をとうに超えていた。

父親を、レギスを失ったトラウマは大きく深い。

周りには突然の出来事に見えるが確実に蓄積していたのだ。

 

ブチギレたノクティスは問答無用でファントムソードを纏う。

最初から本気で叩きのめさねばこの兄はわかってくれない。

 

「力尽くだ。絶対同行させねぇ。いや、もう戦闘にださねぇ。」

「ほう?俺を監禁する気か?」

 

室内で他の仲間もいると言うのに、手に召喚したエンジンブレードを振り上げた。

流石に止めに入ろうとしたイグニスとプロンプトはファントムソードで牽制して近づけさせない。

切っ先がメディウムの首に差し掛かる直前で、ノクティスは寒気を感じて飛びのく。

 

メディウムは笑っていた。

無表情のまま口角だけあげて不気味に笑っていた。

座った目で言葉を紡ぐ。

 

「図に乗るな。やり合いてぇなら外だ。」

 

すぐに無表情に戻ったとはいえ、獲物を狙う狩人の目線に背筋が凍る。

副作用のような幸いで思考が追いついていなかったイグニスとプロンプトが、衝撃のあまり我に返った。

止めねばならないと、間に割って入る。

 

「待て!何故戦うことになる!」

「そ、そうだよ!戦う必要なんて…!」

「従者共は黙ってろ。」

 

聞く耳を持たない二人。

メディウムの一喝により退けられ、二階から降り隠れ家を出る。

明らかに不穏な雰囲気に一階にいたルナフレーナやニックスが不審がる。

買い物にモニカとジャレット、タルコットが出て行っている日なのが不幸中の幸い。

殺伐とした王族など見せられない。

 

何があったのかと勇敢にもルナフレーナが無表情なメディウムに問う。

 

「どうされたのですか。」

「…ルナフレーナ。口出し無用だ。」

「理由ぐらい教えてください。私とてあなたと同じ使命を背負った者です。」

 

表情から使命のことだろうと察したルナフレーナは的確に言い当てる。

神凪の使命と比べてもしょうがないが、彼女も人の喜びを捨てよと言われた身。

蔑ろにする気はないがため息をついた。

 

「これだけは口を挟まないでくれ。頼む。」

 

無表情ではあるが真剣なメディウムに理由があるのだとあっさりルナフレーナは身を引いた。

その代わり見届けねばならないと、イグニス達と共に後ろを追いかける。

 

 

 

 

 

 

スタスタと進む兄弟はいつかプロンプトと訓練で使った平地で向かい合った。

 

「ぜってぇいかせねぇ。」

 

再びファントムソードを纏ったノクティスは合図もなしに七本全てをメディウムに向ける。

弱っているメディウムならば、本物のファントムソードを全てぶつければカタがつくと思ったからだ。

 

しかし、二十年もルシス王家出身であり魔法の天才の男の元で育った彼は弱くない。

 

爆撃のような音を立てて大地をえぐったファントムソードは見事にメディウムを囲むように撃墜されていた。

手に持つのはシドに預けたままのクラレントの代わりであろうどこにでも売っているブロードソード。

たったそれだけ、つまり剣技のみでファントムソードに勝ったことになる。

 

抉られた大地を見る限り、威力はほぼ最大。

一体どのように七本も同時に弾いたのかはわからない。

土埃の中で紫色に光る瞳を歪めていつかみた鬼は笑う。

 

「ガキが。キーキー吠えるんじゃねぇよ。」

 

優しく頼もしい兄の面影はなく、ただ戦うための兵器が垣間見える。

 

効かないならばとマジックボトルを駆使しながらシフト魔法で距離を取り、広範囲爆撃。

爆風圏内から退避したイグニス達とは違い、一歩もその場を動かない。

舐められているのか自信があるのか。

神に力をもらい、ファントムソードも多く集め、ダンジョンをいくつも踏破したにもかかわらず兄の背中がまだ遠い。

焦りと苛立ちでノクティスはさらにマジックボトルを追加する。

 

初弾に遅れて二発が起爆し、メディウムの姿を消した。

避けないのならば多少は食らうだろうと踏んだノクティスの期待はあっさり裏切られる。

 

「だから吠えるんじゃねぇって。うるせぇよ。」

 

キラキラと光る透明な氷が、メディウムの周りに突き刺さっていた。

周りに砕けているのならば全身を覆うように氷の造形魔法で囲ったのだろう。

砕けた物が刺さっていてもおかしくないのだが、炎の爆風を逆手に取られ蒸発していた。

蒸発しきらなかった外側が足元に刺さっているのだ。

 

ファントムソードの使い方を深く理解できていないノクティスには、これ以上の攻撃方法は思いつかない。

焦って何度もぶつけるがことごとく落とされた。

反撃をしないのも気になるが、それ以前に追いつけない背中が大きすぎる。

 

「馬鹿の一つ覚えか。もっと使い方あるだろ。王様。」

 

馬鹿にするように鼻で笑いながら飛んできた夜叉王の刀剣を弾き飛ばす。

無意識に使用していたバハムートの加護を意識的に使用するのは骨が折れるが、使っている間は弾丸も両断できる。

紫色の瞳は油断なくノクティスを捉えているが反撃する意思はない。

態度にさらに苛立ち、煽るような発言をする。

 

「兄貴こそ何にもしねぇでただ突っ立って。怖気付いたのか!?」

「ふん。だからお前はいつまでたってもガキなんだ。」

 

ブロードソードを地面に突き立て、他の武器を召喚することもしない。

その真意を測りかねたノクティスは何も言わない兄を睨みつける。

 

「お前はただの甘ったれたガキだ。しかも人の機微に疎い。最悪だな。」

 

突き立てたブロードソードの周りに氷が這いずり回り、炎が飛び交い、雷が帯電する。

一種の奇跡にも見える光景は明らかな殺意で満たされていた。

 

「王位継承権を破棄したのは、何の理由もなく俺が認められなかったからだ。ルシスのために働いたのはそれしか道がなかったからだ。」

 

逆に聞こう。

殺したいほどの怒りも持てず、ただ世界だの神だの運命だの使命だのに翻弄させられた兄王子。

ぬるま湯のように親に大事にされ、国民に愛され使命も世界のため。

婚約者まで得て幸せに笑う弟王子。

 

ここまで対比されてなぜ怒らないと言い切れる。

なぜ劣等感を持たないと決めつける。

 

 

ブワリと、三種の殺意が膨れ上がった。

 

 

メディウムを覆うように舞う三色の玉と三種のエンチャントがついたブロードソード。

魔法の天才と誰もを言わしめた鬼がその本領を発揮する。

 

「俺は昔っから!テメェが大っ嫌いだったんだよ!!」

 

ーー嘘だ。

確かに嫌いだった時もあった。

憎んでいた時もあった。

しかしそれ以上に、家族を愛している。

でも、今この言葉を言わなければならない。

突きつけなければならない。

 

お前がならなければならない王は兄の犠牲ごときで立ち止まれるものではない。

 

本心では泣きそうだった。

弟にこんなことを言いたくて剣を握っているのではない。

弟を傷つけたくて言葉を覚えたんじゃない。

けれど、それでノクティスが先に進めるならば。

 

口の中で血の味がする。

無理な加護の行使で意識が保てない。

しかし、わからせなければならない。

真の王とはこの程度で歩みを止めていい存在ではないのだと。

 

耐えられないほどの力を与えられたブロードソードは砕けながらも使用者の意思に従う。

振り抜かれた一閃。

ミサイルがそのまま突っ込んでくるような威力の攻撃をノクティスは避けない。

避けられない。

 

メディウムの言葉が想像以上にキていた。

もはやすぐには立ち上がれないほどに、武器を持てないほどに心に傷を負った。

何も語らない兄は自分を憎んでいたのか。

嘘ばかりを並べ立てて自分を欺いていたのか。

 

これが今の力の差だと言わんばかりに勝負は一瞬。

 

混乱のあまり何もできないままもろに食らった一閃で反対側の茂みに突っ込み、木に背中を打ち付ける。

少しずれていれば海に落っこちていた。

 

慌てて駆け寄る前にプロンプトとイグニスがメディウムの前で立ち止まった。

 

「本心…なの?」

 

恐る恐る聞いてくるプロンプトと強く睨みつけるイグニス。

ルナフレーナは間へと立った。

彼らはメディウムと反対側。

ノクティスの方へと付いている。

ルナフレーナは神凪として中間。

 

それが正しいあり方なのだと、一瞬だけ目を細めると黒くなった瞳で二人を捉えた。

 

「それでいい。」

 

答えでも無く、心の言葉でもない。

それだけを残して目線をそらした。

血を口の端から垂らしながらよろける足取りで灯台へと歩いて行く。

誰も追いかけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

灯台の地下にある隠れ港の桟橋。

修理中の船があるのとは反対側の暗い洞窟側でメディウムはぼーっと何かを見ていた。

おかしいとは思ったが様子を見てみようと、休憩していたシドが黙っていれば何もせずただ暗闇を眺めている。

立っているのが辛いのか、桟橋に腰をかけて素足になり海に足を突っ込んでいた。

 

それが数分ならばシドも何も言わないつもりでいたが三十分経っても一時間近く経っても動かない。

どうしたもんかと頭を抱えそうになるが、聞いても何も話さないだろう。

近くで鬱々とされると修理をする気も起きず鬱陶しいので適当に空のコーヒーの缶を掴んでメディウムに投げつけた。

いつもなら避けるか掴むか怒るかするが、スコーンと頭に当たってコーヒー缶と共にそのまま海に落っこちた。

 

ギョッとしたシドは急いで駆け寄る。

上がってくる気配がない。

まさか泳げないとは思ってない。

更にシドも良い年で泳いで引き上げてはやれない。

焦りに駆られるまま隠れ港から隠れ家へと助けを呼びに走った。

 

 

 

 

 

海の中のメディウムはこのまま死んでしまっても良いんじゃないかと、沈んでいた。

心にもないことを聴く方も辛いが言う方も辛い。

弟をとても大事に思っていたメディウムは自分で言っておいて深く傷ついていた。

これでノクティスに嫌われても文句は言えないし、寧ろそうするように誘導した。

自尊心の強い弟ならば一撃でやられたことにいたく落ち込み、嫌いだといった自分を敵視するようになるだろう。

 

協力すべき緊急事態に何をやっているんだとも思うが、犠牲というものを理解して欲しかった。

王はそう簡単になれるものではない。

地位は繰り上がりで手に入れられても人を導く良き王になるには何十年とかかる。

時には民を見捨て時には家族さえも処刑しなければならないだろう。

王が守るのは民であって家族ではないのだ。

 

ただ、レギス王は優しかった。

民も守って家族も守ろうとした。

事実それはできてきたし上手くいっていた。

メディウムという異端が生まれなければ何の問題もなく王を全うできた。

なぜ自分が生まれてきてしまったのか。

なぜノクティスだけではダメだったのか。

 

それはもうルシスの王家の宿命としか言えない。

大きな出来事の時はいつも兄弟で語られる。

そして必ず弟が優れているのだ。

アーデンが最たる例。

兄は星の病で弟は世界の英雄。

今回もそうだ。

兄は敵で弟は救世主。

血筋に刷り込まれた因果応報。

 

どうしようもないことなのだ。

 

息もできない海の中で光がだんだん遠ざかる。

このまま目を閉じればきっと溺死でもして呆気なく人生が終わるだろう。

でも、それは許されない。

生きなければならないのだ。

それがメディウム・ルシス・チェラムの使命だから。

 

諦めたように血の混じった息を吐いて上を目指す。

何度でも這い上がることだけはシガイの王に評価された。

 

立ち上がるのだけはうまい。

 

初めて誰かに褒められた、誇るべき長所なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

気絶したノクティスの様子を見て起きないので運んでいたイグニスとプロンプト、それを見守るルナフレーナの元にシドが息を切らして駆け寄ってきた。

何事かと聴くとメディウムが海に落ちて上がってこないという。

先ほどの衝撃発言から一時間と経たず入水自殺疑惑。

どうしたら良いかわからない男二人を置いてヒールのルナフレーナが灯台へと駆け出した。

 

シドと共にエレベーターを降りて桟橋に行くと、海面に血と思われる赤い液体が少しだけ漂っている。

まさかもう手遅れなのかとシドが軽い気持ちで空き缶を投げたことを後悔していると、ルナフレーナは躊躇いもなく海へと飛び込んだ。

 

呆然と待つこと数秒。

 

「ゲッホ!ゲッホ!ウエッ!ほんと、ルナフレーナはアクティブすぎだろ!」

 

噎せながらも二人が上がってきた。

血反吐を吐いてはいるが溺れて意識がないわけではない。

一安心したシドは二人を引き上げ、メディウムに説教をかます。

 

「何考えてんだお前さんは!鬱々と居座りやがって!挙げ句の果てに海に落ちるたぁ!生きてんならさっさと上がってこい!」

「落としたのはシドのじいさんだろ…。」

「やかましい!避けなかったのはお前さんだ!」

 

二十六歳になって三度目。

びしょ濡れのまま正座させられてルナフレーナにまで悲しそうな目で見られた。

一発殴られるぐらいは覚悟していたが病人をなぐりとばす外道ではないと、棚に置かれていたタオルを投げて寄越された。

ルナフレーナにも渡している。

 

「自殺でもする気だったのか。」

「…別に。死ねる立場じゃねぇよ。それこそ許されない。」

 

否定はしなかった。

シドは知らないが前科がある。

話を聞いていたルナフレーナはメディウムに近づき、濡れた両手を取る。この王子は、いつも辛い選択をする。彼が歩む道は常に一本。他の楽しく人と出会える道は弟のために残して行く。思えば思うほど辛いメディウムの生き方に、ルナフレーナはもう一度決意を言葉にした。

メディウムが顔を上げると、にこやかな表情で頷かれる。

 

「私はあなたも笑える世界にしてみせます。だから嘘をつかないでください。」

 

フォッシオ洞窟の外で聞いた、ルナフレーナの願い。

再度口にされてメディウムはため息をついた。

 

常に中立の立場である神凪には嘘だとわかっていた。

言った本人も聞いた人もとても傷つく嘘を必要に迫られて吐いた。

悪いと一方的に糾弾する資格はないが追い込まれるような選択は誰も望まない。

 

メディウムも疲れていたのだ。

他に方法があったのに心の何処かで早く王にしなければならないという焦りがあった。

結果的にあんなことになってしまったのだ。

 

「誰も悪くないんです。伝える言葉が悪かっただけなんです。」

「…言い直したりはしない。」

 

放った言葉は戻ってこない。

言葉の重さがわかるメディウムはそっぽを向いて桟橋の端に再び座る。

上に上がる気はないようだ。

本人が動きたがらないならそっとしておこうと、シドとルナフレーナが判断しその日は兄弟で仲違いをしたままどこにもいかずに終わった。

 

ノクティスは隠れ家で。

メディウムは隠れ港で。

 

結局本質は変わらない。

ノクティスは暖かい場所にいて、メディウムは少し寒く先に進む道にいる。

追いかけたいならば港に行けば良いのに弟は二の足を踏む。

帰りたいなら家に行けば良いのに兄は振り返らない。

 

変わらない兄弟は、翌朝も顔を合わせることはなかった。

 




王を知る兄。王を知らない弟。
物になる兄。人になる弟。
王になれない兄。王になる弟。

対比に対比を重ねた兄弟の喧嘩。
仲直りはいつになるのやら。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。